束さんと織斑先生と食事をした日から二日。この二日間、学園はやたら賑やかだ。
俺はあまり関わりのないことだが、目の前で疲労を隠しきれていない更識楯無生徒会長を見ると、賑やかさの裏側も色々と大変そうだな。
そして賑やかな理由は――。
「シャルル・デュノアか……轡木さんから事前に話は聞いている。もし関わる様な事があれば男として扱えばいいということだな?」
「はい。そして外部には二人目の男性ISパイロットの事が漏れないようにもお願いします」
「それも気をつけておこう」
「詳細を聞いてきたりはしないんですね」
「……正直に言ってしまえば興味がない。轡木さんからも扱いを聞いただけで、詳しい事は聞いていない」
昨日編入してきたシャルル・デュノア――もといシャルロット・デュノア。
デュノア社の娘らしいが、男として編入してきたらしい。
学園でもデュノア社のラファール・リヴァイヴを使用している事から、元々それなりにデュノア社と学園での付き合いはあるのだろう。轡木さんは濁していたが、今回の件を受け入れる代わりにそれなりの金銭の動きもあったような口ぶりだった。
何にせよ大した興味はない。
昨日は二人目の男子生徒ということで騒がしかったぐらいで、俺としては同日編入してきたラウラ・ボーデヴィッヒの話題の方がまだ興味がある。
織斑一夏が出会い頭に平手打ちを受けたらしいが……何があればそうなるのだろうか。
二人の顔写真を見た感じ、記憶違いでなければシャルロット・デュノアもラウラ・ボーデヴィッヒも原作におけるメイン人物だった気はするが、それらしい経緯が全然思い出せんな。
まぁ、無理に思い出す必要もないか。
「参考までにストームさん、デュノア君の男装は長続きすると思いますか?」
「ん? あぁ……遠目で見た限りにはなるが、あの様子では難しいだろうな」
わざわざシャルル・デュノアの事を教えに来てくれたのに、変に考え込むのは生徒会長に失礼だったな。
「やっぱりですよねぇ。本人頑張ってはいるんでしょうけど、節々から雌の香りが抜けないというか……アレならまだハニートラップ仕掛けに来たって言われたほうが納得しますよ。本当」
「……どことなく言い方に棘がある様に感じるが」
「この学園の生徒会長はそれなりの権力がある分、相応の厄介事も回ってくるんです。プライベートの用事もありますし、妹とは仲直りできないし……ハッキリ言うと、よくも仕事を増やしてくれたなと」
「そういう事であれば俺の件も厄介事だっただろう」
「否定はしません。しませんが、その、なんと言いますか、私がストームさんにボコボコにされた話のおかげで久々に妹と話せた事実もありましてどちらかと言えばプラス……?」
でも姉としての威厳が~――とテーブルに顔を伏せ、唸り声を上げる生徒会長は随分と隙だらけというか、以前会った時とは違い警戒心が皆無に近い。
ここまで変わられると何かあるのかと勘ぐってしまうが……疲労が見て取れるのも演技ではないのだろう。
「コーヒーのおかわりがいるか?」
「お願いします」
アイスコーヒーの残りが少ないな。立ったついでにストックの追加を作るか。
「そういえばストームさん、最近は織斑君達に稽古をつけ始めたようで」
「体力作りの指示と模擬戦の様なものをしているだけだ。俺ができる程度の指摘はするが、稽古と言うには少し粗さが目立つだろう」
「私もお願いしようかなぁ~」
「時間が合えば相手をするのは構わん。だが、教えられる事はそこまで多くないようにも思えるが……君の専門は対人とISだろう? どちらも俺の専門外だ」
「元工場勤務ですもんね」
「ふっ。あぁ、ライン作業は得意だ」
思わず鼻で笑ってしまった。
どこまで探って、どれだけ織斑先生が話したかは知らんが、ある程度知った人間からそう言われるとは。
「まぁ、集団訓練と個別指導とでストームさんも忙しいでしょうから……どうしても体を動かしたくなったらお願いすることにします」
「ただできれば織斑先生を通して連絡をしてくれ。織斑一夏君達も個別の申請はそうしている。と言ってもまだ篠ノ之箒さんぐらいしか個別ではしていないがな」
確か明日の夕刻頃に凰鈴音から申請があったな。次は織斑一夏辺りかと思っていたが、シャルル・デュノアの一軒で今は忙しいか。
「う”っ……"私が相手をしてやろう。"とか言いかねないんですが、生徒会長権限でなんとかなりません?」
「できればというだけだ。織斑先生に連絡をするのが嫌なら直接でも構わん」
「それ後からバレたら、"次からは私が相手をしてやろう。"コースですよ」
「……君の中で織斑先生のイメージがどうなっているか気になるな」
そして地味に真似が上手いな。生徒会長にもなると、モノマネの一つも必要になったりするのだろうか。
もしかして宴会用の一発芸とかもあるのだろうか。それなら一つぐらい見てみたいものだ。
「さてと、シャルル・デュノア君のことに関してはお伝えできたので、私はそろそろお暇します。コーヒーごちそうさまでした」
「俺も改めて確認ができた。感謝する」
「いえいえ、多分今の状況だと織斑君がストームさんに頼る可能性も高いので、先に労いをと気を利かせただけですから」
「頼られても何もできんと思うがな」
そんな会話を最後に生徒会長を見送り、俺は俺で日課であるパワードスーツの手入れの準備を始める。
最近は汚れることもなく、待機状態になればある程度は綺麗になると束さんから聞いてはいるが、この時間が一番落ち着くせいか死ぬまでやるだろうなと予感している。
何よりまだパワードスーツには世話になる。これも予感でしかないが、どうにも外れる気がしない。
「今日はジャックハンマー系列の手入れをするか」
……長年使ってきても尚思う。やはりこれを槍と言うには無理がないか?
――
―
生徒会長からシャルル・デュノアの事を聞いて五日。
予定通り凰鈴音の個別指導を行い、学園は学園で織斑一夏がシャルル・デュノアと仲を深めているという話題で賑やかであり、何故か新聞部の生徒が新聞に使うからと俺の写真を取りに来たり。
嫌な予感が強くなる中ではあるが、特に目立った事もなく過ごしていると、集団訓練の予定よりも少し早い時間に織斑一夏が訪ねてきた。
気配は二人分。入ってきたのは織斑一夏のみ……単純に誰かと早めに来たというわけではなさそうだな。
「篠ノ之箒さん達が一緒ではないのは珍しいな」
「実はストームさんに相談があって……もう一人いるんですけど、入れていいですか?」
「あぁ」
そう返して二人分のコップを用意していると、織斑一夏が外で待たせていたもう一人を連れてきたはいいが……シャルル・デュノアか。
何も知らないていで進めた方がいいんだったな。
「君は確か編入生のシャルル・デュノア君だったか。用務員のストーム1だ。とりあえず二人とも座るといい」
「あ、はい、フランスから来ましたシャルル・デュノアです。よろしくお願いします」
「それで俺に相談とは?」
別に急かすことでもないのだが、二人で訪ねてきたのには理由があるのだろう。
訓練に参加させたいとかであれば、わざわざ篠ノ之箒達と時間をずらして訪ねてくる必要もない。そう考えるとこの組み合わせ……いや、まさかな。
「ストームさん、驚かないで聞いて欲しい」
「一夏!? えっ? 言っちゃうの!?」
「ストームさんなら大丈夫だ。実はシャルは――女なんだ」
「そうか」
あぁ……まさかとは思ったがもうバレたのか。
流石に早すぎるな。篠ノ之箒達には伏せ、未だ俺の前では男子生徒で進めようとしていたとなると、確信をもってバレたのは織斑一夏だけか。
俺なら大丈夫だと信頼は有り難いが、些か用心が足りないな。
「あの……それだけですか? 僕、一応男子生徒として編入してきたんですけど……」
「色々と驚いてはいるが、そこまで俺にとって重要ではない。それよりも相談があるのだろう? 彼女達がくるまであまり時間はないぞ」
シャルル・デュノアは何やら複雑そうな表情をしているが、俺にとって彼であろうが彼女であろうが特に問題はない。
だから相談というのも役に立てる気はしないのだが、話を聞いて本人たちが整理する相手ぐらいにはなれるだろう。
「シャル、俺がどこまで話していいか分からないから頼めるか?」
「うん。僕の問題だし、僕が話すよ」
そこから相槌を打ちながら話を聞くと、大体のことは分かった。
愛人の娘。学園に来た目的は織斑一夏のISのデータを盗むこと。実行理由はデュノア社の経営難。そしてそれらを知った織斑一夏は、特記事項の第二十一項を盾に保護を考えている……と。
さて、第二十一項とはどんな内容だったか。確か轡木さんから貰った書類はこの辺に……あぁなるほど。
本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする――か。
「とりあえず現状を考えて男子生徒として扱う。シャルル・デュノア君は、織斑先生と山田先生のクラスだったな」
「はい」
全教師まで通達しているかは知らんが、学園は既に男装の件は把握している。轡木さんはまだしも、少なくとも生徒会長は把握済み。
山田先生とはあまり関わりがないからどうかは分からんが、仮に通達がなかったとしても織斑先生がこの程度の男装に気付かないとも思えん。
しないというだけで既にどこかに帰属している場合や、代表候補生やら国家代表の扱いに関する特例もありそうなものだが、シャルル・デュノアと轡木さんからの話を聞く限りこれは……バレても問題ない様に感じるな。
「二つ聞きたい事がある。答えられなければ無理して答える必要はない。一つ、データの受け渡しはどうする予定だったか。二つ、男としての行動は生まれてからか叩き込まれたものか?」
「受け渡し方法はまだ……。定期連絡で白式のデータが取れたら追って伝えるということでした。男としては一夏のニュースの後なので、二ヶ月無いぐらいです」
「そうか」
何がしたいのか分からんな。
親族への連絡は止められていないが、学園側でも履歴ぐらいは管理しているだろう。物の受け渡しもそこまでザルだとは思えん。
それに男装作戦もあまりに急ごしらえすぎる。
「追加で質問するが、作戦期間の目安は伝えられているのか?」
「いえ、ただ白式のデータを盗めと」
「……なるほど」
んー……やはりデュノア社側の意図が分からん。盗めたら儲けものぐらいで送り込んだのか? だとするとますます分からんな。
捨て駒にするぐらいの適正者なら分かるが、IS適正が高くテストパイロットとしても優秀であろうシャルル・デュノアをスパイとして半端な教育のまま使う理由が。それに専用機まで与えて。
幾ら考えても分からんな。生徒会長からの忠告といい、ラジオのニュースで噂すら聞かない事といい、情報の出回り方からして二人目の男適性者の事は内輪の事。
それに国ではなくデュノア社とのやり取り……まぁ、学園が黙認していることに変わりはないか。
「仮に問題が取り上げられたとして、相手がどういう揚げ足取りと主張をしてくるかは分からんが……そうだな、少なくとも記載されている"本人の同意"は徹底して回避しないと話にならんだろう。最悪離縁もしくは勘当もありえるだろうな」
「覚悟はしてます。大丈夫です、僕には一夏も居てくれるから」
「……そうか」
シャルル・デュノアの言葉に真剣な表情で頷く織斑一夏の様子にも嘘は見当たらない。
なんというか、織斑一夏は凄いな。経緯はどうあれスパイに来た相手から僅か五日でここまでの信頼を得るとは……。
「意志が固いのであれば特に言うことはない。方向性も悪くはない……だがもう一つ二つは案を練っておいたほうがいいだろう。ダメと言われているからできませんを盾にすると、言われてないから良いだろうで突いてくる者も居る」
まぁ、シャルル・デュノアが学園に編入できている時点で不要だとも思うが、この問題に気付いた第三者が介入してこないとも限らん。言論を武器にしている人種は、そういう嗅覚も優れていたりする。
懐かしいな……あれは4.1の頃だったか。
エアレイダーの一人が悪い顔をして上層部が渋っていた開発許可書を持ってきたのは。そういえば"なんでそれを知っているんだ……"と青い顔をしていたお偉いさんはしぶとく最後まで生きていたな。
「探しても居ないと思ったが、先に来ていたのか一夏。それと……デュノアも一緒か」
「あ、箒。わりぃ、少しストームさんに相談があってさ」
少し昔を懐かしんでいると、どうやら時間が来ていたようだ。
訓練は全員参加するようだな。
「今日はペアで訓練をする。日課の記録はテーブルの上に置いて、最初は誰がどう組むか決めながら少し待っていてくれ……シャルル・デュノア君は見学でいいか?」
「あ、いいんですか? 僕が見学しても」
「俺は構わん。その辺も準備をする間に話し合って決めるといい」
さて、俺も軽く準備をする――ん? 職員用の携帯が鳴っている。これは、業務連絡通知?
片付けていた武器の準備をしながら連絡内容に目を通すと、月末にある学年別トーナメントがタッグマッチ方式へと変更する内容が書かれていた。
これは……今日のペア訓練はやめたほうがいいか?
どうせ組み合わせは途中で変えるから問題ないか。と結局ペア訓練をしました。
次こそはラウラですかね。
別兵科の構想がタップダンスしていたり、アンケート機能を使ってみたい気持ちがムクッとしていますが、アンケート内容が思い浮かばないので気持ちだけムクムクさせています。
誤字脱字報告、感想等々ありがとうございます。