はい、こちらストーム1 ~IS編~   作:えるらるら

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腰をやらかし、やっと座れるぐらいになったので投稿です。


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「これとこれもポイッ! こっちもポイでこいつもポイッ! えーとえと、それからそれから――」

 

 わたわたと散乱していた機械や残骸、ネジやらを含めた小物などを手に持っている袋に詰めていく作業を始めて早三時間。

 明らかに許容量を超えているであろうその袋は膨らむ様子もなく、篠ノ之束は部屋にスペースを作っていく。

 

「なぁ、スコール。あの兎……まさかアレを片付けなんて言うんじゃねぇーだろうな」

 

「あの袋がゴミ袋ならまだしも、片付けに関しては篠ノ之博士はマドカと同類ね」

 

「開けたら雪崩が起きるような状態をオレは片付けとは認めねぇ」

 

「雪崩が起きそうにない分、篠ノ之博士の方がマシかしら」

 

「袋かクローゼットの違いしかねぇだろ。同じだ同じ」

 

 至って真面目に袋詰め作業という名の片付けをしている篠ノ之束の様子を見ているのは、ゴミ袋持ってて! と呼び出され、現在はそのちょっとだけ中身のあるゴミ袋を片手に寛いでいる二人――スコール・ミューゼルとオータム。

 

 片手にとは言うが、ソファの手すりに引っ掛けて落ちないように押さえているだけであり、二人の前にはクロエが用意した紅茶が温かな湯気を上げている。

 

「つーか、なんで兎は片付けなんてしてんだよ。クソくだらねぇ事にオレ等を呼び出してまで」

 

「あの彼が今日の夜に来るらしいわ」

 

「ハッ、さっきの状態でもあのイカれ野郎は気にしねぇだろ」

 

「貴女だって私が来る時に掃除しているでしょう? いつも綺麗にしているのに。私は少しぐらい散らかっていても気にしないわよ?」

 

 スコールの言葉にオータムは返事をせず、篠ノ之束に向けていた視線を更に逸らして部屋の扉へと向ける。

 それが照れ隠しだと分かっているスコールも人の気配を察し、少し遅れて扉へと視線を向ければ、入ってきたのは明らかにしょぼくれているエム――改め、マドカと呼ばれている少女と、クッキーが盛り付けられた皿を持つクロエ。

 

「その様子だとまたダメだったみてぇだなぁ」

 

「うるさい」

 

「どうせ虫共の処理に手こずってディロイ*1の弾幕に押しつぶされたって所だろ」

 

「……」

 

 目の前に置かれたクッキーをつまむオータムの言葉に苛立ち、それが図星でもあったことでマドカは殺意すら込めた視線を送るが、当人は気にした様子もなく空になったカップに紅茶を注いでいる。

 

「新しいオモチャ貰ってイキってるテメェじゃあ、あのイカれ野郎どころかソコの兎の巾着……いや、オレの記録すら超えられねぇよ。あぁ~あ、宝の持ち腐れだ。兎、オレにも新しい専用機くれよ」

 

「やだ~」

 

「チッ……いつか殺す」

 

「負け犬の遠吠えほどみっともねぇものはねぇなぁ」

 

 オータムに向け、更に殺意を込めた視線を送ったマドカは部屋から出ていき、その足音は荒々しくもシミュレーションルームの方へと消えていく。

 そして数分ほど篠ノ之束の気の抜ける様な掛け声とクッキーを食べる音が響く中、自分を見つめていたスコールが笑みを浮かべている事にオータムは気付いた。

 

「んだよ。食べカスでもついてたか?」

 

「いいえ、ただマドカもだけど、それ以上に貴女は丸くなったと思っただけよ」

 

「酔ってんのか? いつの間に酒なんて飲んだんだよ」

 

「酔っていないわ。以前までの貴女達ならすぐにIS展開までしてたじゃない。口喧嘩で終わるなんてね。それに遠回しにでも自分を超えられるなんて言い方、少し前の貴女からは考えられないわ」

 

「あぁ、まぁ、そりゃアレだ。どれだけブチギレててもマジもん見たら冷静になる時ってあるだろ? それと似たようなもん。心境の変化っつーか、冷めたっつーか……今更悔い改めるなんざ微塵も思わねぇけど、こうしてスコールとゆっくりすんのも悪くねぇなとは思えてる」

 

「それも彼の影響かしら」

 

「否定はしねぇ。平和ボケしたクソ野郎だと思ってたのに、蓋を開けてみれば正気でイカれてるだけとくりゃあな」

 

 スコール、オータム、マドカの三名が亡国機業を抜け、篠ノ之束に協力するにあたって提示した条件は三つ。

 まずは亡国機業からの追手があった場合は手を貸すこと。次に最低限の衣食住に関する保証。

 そして最後は、ストーム1に関する情報を提供。

 

 その条件に数秒悩む素振りを見せた篠ノ之束は、全てを教える気はない事を事前に告げてから三人に一つのデータの閲覧許可を与えた。

 "耐久検証(中止)"と書かれたデータは、ストーム1がIS学園に行くまでの間に篠ノ之束の希望により何度か行われたデータ収集の一つ――ストーム1の限界連続戦闘時間の検証。

 

 際限なく湧き続ける様々な巨大生物等との戦闘は約七十六時間分もあり、最後は篠ノ之束が中止するという形で終わりを告げた。

 淡々と処理をし続けたストーム1の評価は様々ではあったが、オータムが"イカれてる"と評価したのはデータの最後。篠ノ之束がシミュレーションを停止し、駆け寄ると同時に交わされた会話。

 

 ――スーくん、データは十分に取れたからもういいよ。とりあえず、はい、お水。ご飯はくーちゃんが今用意してるから待ってね。

 ――フゥー……そうか。食事の前に風呂を済ませていいだろうか。流石に汗がな。

 

 あまりにも普通なやり取り。

 だが、篠ノ之束には僅かに焦りが見えていた。その理由はスコールにも、オータムにも理解はできていた。

 パワードスーツの展開を解除したストーム1は、確かに疲労している様子はあるがそれ以外はいつもと変わらない。おそらくこのまま戦い続けて死ぬその瞬間まで……そう思えてしまう程には。

 

 スコールもオータムも善人ではない。自身に益があるならば恨まれるような事を平然とやってのける人種であり、それに伴い様々な人間を見てきている。

 それでも理解ができない。鑢で磨き続けた果てに何も残っていない様な……どれだけ精神が摩耗すればソコに至るのか。

 しかしそれでも様々な人間を見てきたからこそ理解できてしまうこともある。アレは篠ノ之束の様な突然変異でもなく、織斑千冬の様な人工物でもなく、垣間見える人間臭さがアレは遥か高みにあるだけで理外の怪物ではないと思えてしまうのだからたちが悪い。

 

 故にソコに到達してしまっているストーム1をオータムはイカれ野郎と呼び、スコールも否定はしない。

 

「そういや兎、今更だけどよ、あのイカれ野郎はどこで見つけたんだ?」

 

「ん~? 私が見つけたわけじゃなくて、スーくんが突然目の前に現れた感じ。運命的な出会いだったと言っても過言ではないね!」

 

「どうせ詳しく話す気がねぇのは分かってたけど、随分とロマンチックな言い方するじゃねぇか」

 

「私はどちらかと言えばロマンチストだよ。それをスーくんはちゃんと理解してくれる所もトキメキを覚えちゃうね! よし! 後はこの子に任せて、次はお風呂掃除だぁ~。クーちゃん行くぞー」

 

 粗方の物を袋に入れ終えた篠ノ之束は、クロエを引き連れて忙しなく部屋を出ていく。部屋にはオータムとスコール……そして篠ノ之束のスカートから這い出てきた両手にモップとバケツを持っている小さな兎型のロボット。

 

「オレ等は放置かよ」

 

「どういう技術か埃が舞っていたりもしないのだし、指示があるまでゆっくりしていればいいのよ。それとも私とゆっくりするのは嫌かしら?」

 

「その、分かってるみたいな表情で聞くんじゃねぇよ」

 

 冷めてしまったと語ったオータムは、以前に比べて激しい感情の起伏やその獰猛さは鳴りを潜めている。

 しかし、眉間に寄った皺を指先で解されるのを払う事無く受け入れるオータムの様子に、ふふっと笑うスコールもわざわざ口にする事はないが、オータムと同じく今も存外悪くないと思えているのは確かだった。

 

 

――

 

 

「で、張り切りすぎて潰れてちゃ世話ねぇな。つーか、兎も寝るんだな」

 

「疲れていたのだろう。急に予定を立ててもらったからな。気を使わせてしまったようだ。クロエ、使って悪いが掛けられる物を頼んでいいか? 今動くと起きてしまいそうで忍びない」

 

「お気になさらず。束様もそちらの方が喜ぶでしょうから。では取ってまいります」

 

 柔らかい笑みを浮かべて部屋を出ていくクロエを礼の言葉と共に見送るストーム1の膝には、いつものメカうさ耳を外されても尚、起きる様子も見せずへにゃっと緩んだ頬で寝る篠ノ之束の頭がある。

 この状況はストーム1が望んだというわけではなく、本当に寝てしまう事以外は咄嗟にこの状況への流れを組み立てた篠ノ之束の予想通り。

 

 ストーム1、篠ノ之束にクロエ。そしてスコール、オータム、マドカの六人で鍋を囲んでたのだが、ストーム1の横を陣取った篠ノ之束は程なくして船を漕ぎ始め、そのままテーブルに頭をぶつけそうになった所をストーム1が支えた。

 そして一瞬覚醒したものの、これは!と一つの結果を導き出し、その為に寝たフリをしようとした篠ノ之束。加えて寝たフリと思惑に気付いたスコールが軽く口を出してクロエ達を動かし、ソファに横になるついでにストーム1に膝枕をさせたまではいいが……篠ノ之束は照れと喜びを噛みしめる様に目を瞑ると本人が気付く間も無く本当に寝てしまった。

 

「化物兎もイカれ野郎の前ではただの雌か。それで? テメェ的にはどうなんだ?」

 

「思い上がりでなければ、ある程度は察している。その事を束さんも気付いているだろう。そんな現状に今は甘えていると言ったところだ」

 

「答えになってねぇよボケが」

 

「そうか……好意の有無であれば有る。情もあるが、こういう感覚を長らく忘れていたせいか、それがどういう分類かは正直分かりかねている。自らソレに答えを出すつもりではいるが、今そうするつもりがない。これで答えにはなるだろうか」

 

「堂々と言うことかよ……呆れて茶化す気も起きねぇ」

 

「ふふっ、いっそ清々しさすらあるわね」

 

 恥ずかしがる様子もなく、負い目を感じている雰囲気もなく、至って変わらず答えるストーム1の様子に問いかけたオータムに加えて静かに二人のやり取りを聞いていたスコールも思わず笑ってしまう。

 そんな二人の様子をみつつ、ストーム1は戻ってきたクロエからブランケットを受け取り篠ノ之束に被せていると、黙々と頬を大きく膨らましながら最後まで鍋を食べていたマドカが徐ろにストーム1へ声をかける。

 

「おい、くだらん話が終わったならこれを見ろ」

 

「これは……戦闘記録か」

 

 マドカが差し出してきたタブレットを受け取り目を通すストーム1は、各名前のついたファイルとその中にはシミュレーションの録画映像とそれぞれのISのスペックが記されていることから、すぐに何を求められているかを察し、マドカのファイルにある直近のデータに目を通していく。

 

 フェンリル・ブロウと名付けられたスタビライザーの役目と蛇腹剣の様なギミックを持つ大剣に、ランサービットと記載されているビーム兵器の面も持つ二本の槍。腕部には口径7.62mmのマシンガン。そして黒い蝶の羽の様なスラスターを持つIS。

 その武装の性質まで記されたカタログスペックでは対ISならば無類の強さを誇りそうなものの、ストーム1が倍速で見ている映像では、段階を踏むように目に見えて劣勢に追い込まれていっている。

 

 ついでにと別のマドカの記録を再生しつつ、スコールとオータムの記録も同時に再生して目を通していく。

 

 スコールが操る"ゴールデン・ドーン"と呼ばれるIS。一度対峙した事のあるオータムの"アラクネ"。そしてマドカの"黒騎士"の名を持つIS。

 それぞれの戦闘を見終えたストーム1は、タブレットから目を離してマドカへと視線を向ける。

 

「何が聞きたい」

 

「どうすれば勝てる」

 

「先程の戦闘内容に関して言えば、多対一の効率と一対一の効率の違い。その理解を深めたほうがいいだろう」

 

「?」

 

「効率的に動こうとし過ぎて非効率になっている。眼前の敵を確殺する考えは悪くないが囚われすぎていて周囲への意識が疎かになっては話にならん。端的に言えばセンスはいいが視野が狭い。君がディロイの様な射程を持つ相手に手こずる理由はソコだ」

 

「どうすればいい」

 

「君の思考とすり合わせながら考えたほうがいい。まずはここだが――」

 

 椅子を移動してストームの隣に移動し、真剣にストーム1の話を聞くマドカにスコールは苦笑いを浮かべ、オータムは鼻で笑う。

 

「見ろよ、スコール。オレ等の言葉なんて聞かねぇクソガキが野郎に甘えてやがる」

 

「あら、私の言う事はそれなりに聞いてくれるわよ。まぁでも、あの子も少し気持ちに余裕ができたのかもしれないわね」

 

「愛嬌の振りまき方もイカれ野郎に教えてもらったほうがいいんじゃねぇか?」

 

「……それは彼には無理じゃないかしら」

 

「……釣れても兎だけか」

 

 そんな事を言いつつも、いつの間にかクロエも交えて話し合っている三人を眺める二人の脳内では、片やホストの様な雰囲気を醸し出しつつ無愛想なボディガードの様なストーム1が。

 片や男の愛嬌が上手く想像できず、長いフリジンが付いたスーツを遊ばせながら胸元でハートを作っているストーム1が――「オータム、内容は分からないけど確信はしているから先に言うわね。それは違うわ」

 

「オレもそう思う」

 

 なんてやり取りが行われつつ時間は過ぎ、ストーム1のアドバイスを受けて色々と考えが広がったマドカとクロエは、今すぐにでもシミュレーションで実践形式で教えて欲しいという提案をしていた。

 しかし途中から腕をがっしりと篠ノ之束に抱え込まれているストーム1の「束さんが起きるか、もう少し休ませてからだ」という言葉に、クロエは確かにと了承し、マドカは渋々といった様子で大人しくしている。

 

 移動するまでもう少し時間が掛かるとなり、会話をしたりタブレットで映像を見返していたり、静かにお茶を飲んでいたりと各々がゆったりとした時間を過ごしていると、ふと気になっていた事を思い出したスコールが口を開く。

 

「そういえばストームワン、貴方、篠ノ之博士に何か頼み事があったそうだけど、何を頼むつもりなのか聞いてもいいのかしら」

 

「問題ない。最優先の目的は、スモークグレネードの都合が付くかだ。既存の物以上に多少の風や屋外で使用しても晴れづらく、視界妨害性能を高めつつ、尚且つ持ち運びに不自然ではない大きさと形状のモノを作れるかの相談をしにきた。可能であれば、どれぐらいで製作可能か、その量や費用なども含めて話し合おうと思っている」

 

「誰か暗殺でもする気?」

 

「そういう訳では無い。自分の存在が厄介なのは理解しているが、それでも敵が出てくるならば俺はそちらを優先する。人の目があってもだ……その時用の保険にな。使う機会が来ないのであれば、それでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし後日、ストーム1の願いは虚しく、予感は正しく。

 

「お前のしぶとさは知っていたが……随分と小ぶりになったな。ペプ◯マン」

 

 再びソレは現れた。

*1
地球防衛軍5仕様





オータムが想像したのは、皆様の中のストーム1にエルビスな感じのヒラヒラ付けて萌え萌えキュンしたら大体ソレです。

私の中では、スコールとオータムってなんだかんだ落ち着いた場所ではほのぼのイチャイチャしていそうなイメージです。


そろそろパワードスーツを動かしたい気分。


誤字脱字報告、感想等々ありがとうございます。
それと、腰を痛めてしまい、いつも以上に間が空いてしまいました。申し訳ないです。
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