ハーメルンの機能を色々と試してみたい気持ちがすごいチラ見してきます。
「お前、何者?」
「あー……EDF所属の隊員だ。コールサインはストーム1。民間人に危害を加えるつもりはない」
警戒心剥き出しで睨んできている女性の問いかけに答えてはみたものの、今の俺はフェンサーのパワードスーツを着ている。
しかも片手にはブラストホール・スピアMS。もう片方の肩からはYH7散弾迫撃砲。
軽く見渡した感じ巨大生物の姿はないし、そもそも船の上に二人だけ。どういう経緯でこの女性がここに居るかは知らないが、これで警戒するなは無理よな。
さて、どうしたもんかなぁ。レーダーにも敵影は無し、無線もノイズが返ってくるだけで反応なし。出撃画面は開けるけどメニューは武装内容のみでステージ選択が無くなっていると……。
武装が消えていたりアーマー値がリセットされていたりが無いのには驚いたけど、それはそれで怖いな。どういう世界なんだここ。
「EDF? ストームワン? 嘘の反応はない。私が知らない組織? この束さんが?」
なんかブツブツと呟きながら思案顔を浮かべている女性の警戒は心なしか少し下がったみたいだ。
俺が言うのもなんだが、明らかに武器持っててエイリアンの返り血で染まってるこんな不審者を前に無用心というかなんというか……大丈夫か?
「今からヘルメットだけ外すが、敵対行動ではない。いいか?」
「……いいよ。その代わり変な事をしたら消すから」
「分かった」
随分と物騒な許可を貰った気はするが、とりあえず今はさっさとメットを外そう。ちゃんと暑いんだコレ。
武装は邪魔ではあるが置き場所もなさそうだし直に置かせてもらうか。
「……」
あぁ~涼しい。落ち着いて潮の匂いを感じたのも久々だ。すごい、なんだろう、平和。なんかテンション上がってくるわ。
このままパワードスーツ外して海にダイブしたい。だけどこの中、腰巻きにしたつなぎとタンクトップなんだよな。しかも蒸れ蒸れの。
どうするかな……もうすぐ消えるであろう返り血まみれのパワードスーツとどっちがいいか分からん。
「ソレ、触っても良い?」
「ブラホを? 別に構わないが、汚れてるぞ」
目の前の女性は、例に漏れず返り血塗れのブラストホール・スピアが気になるご様子。
別に触る程度で誤作動はしないだろうし、そもそも見た目通りの重量をしているから持ち上がりすらしないだろう。
「ありがと」
警戒心はどこへやら。一言礼を言った女性は、真剣な表情で手につく血を気にする様子もなく、むしろその血にすら興味を示している様にブラストホール・スピアを見ていき持ち上げた……持ち上げた!?
「《
うわぁ……ブラストホール・スピアを生身で持ち上げてるのにも驚きだが、独り言すごいな。俺の存在忘れてるまでありそうだ。
まぁ、変にこじれるよりいいか。いつもより少し遅かった気もするが返り血も消え始めたし、彼女が満足するまで待つとしよう。
それにしても聞こえてきたISって単語どっかで聞いた気がする。どこで聞いたんだ?
「アイ、エス、作戦名? いや、なんかの略称か? アイ、イ、ス、スー……だめだな。全然思い出せん」
「インフィニット・ストラトス。通称IS。宇宙空間での活動を想定して私が作ったマルチフォーム・スーツ。本来の目的はまだしも、ISを知らないなんてどこのクソ田舎で生きてきたのか束さんは気になるね。ただの凡人が何をどうしてどういう生活をしてたら、そんな百二十年近く二十代で戦い続けた体になるのか」
あー、はいはい。インフィニット・ストラトスね。内容はそんなに思い出せないが、転生する前の元の世界でアニメを見た記憶はある。目の前の女性の事も薄っすらとだが記憶が掘り出されてきた。
確か天才? いや、頭のいいバカ? とりあえず主要キャラの一人だった事には間違いない……はず。どうであれ印象は悪くないほうがいいだろう。
「独り言が漏れていたか。説明感謝する。随分と具体的な数字を出されて困惑気味だが答えるのは構わない。構わないのだが……さて、どう説明したものかな」
エイリアンしばいたらこの世界に来ちゃいました。は流石にだな。
俺自身、まさか地球防衛軍の世界ですらないとは思わなかったし、何故ISの世界なのかなんて追加で聞かれても答えられない。もしかしてフォーリナー*1なりプライマー*2なりが来るんだろうか。
「無駄に考えなくていいよ。嘘さえなければこっちで処理するからさ」
「そうか? なら判断は君に任せるとしよう。突拍子もない話と笑い飛ばしてくれても構わない。実は――」
――
―
「話は理解したよ。確かに普通に考えれば嘘くさい話だけど、束さんからすればあり得る話だね。だから聞きたいことができた。そんな世界を渡り歩いた君に」
「俺で答えられる事なら答えるが」
「この世界をどう思う?」
俺の中でゲームだったりアニメだったりの世界という事は伏せつつ、死んで地球防衛軍4の世界に転生してからの事を大分コンパクトにまとめて話した結果、途中で篠ノ之束と名乗ってくれた彼女はそんな質問をしてきた。
しかし困ったな。こっちに来てから二時間も経ってない。ついでに周りは海で、交流は篠ノ之束のみ。正直に言ってどうも思えんよ。
アニメではどんな世界だったかなぁ……。女尊男卑がどうのこうので主人公君が唯一のIS男性操縦者で、海行ってたり、金髪、眼帯、幼馴染が二人に男装女子が確かメインで、主人公君の姉が教師だったか?
やばいな。ふわっとキャラが浮かぶだけでまともな情報が思い出せん。
もう色々ととんでもない事は話してるし、素直に言うか。
「あー、流石にまだどうにも思えん。強いて言えば平和そうだなぐらいだ」
「最初は否定した凡人共がこぞってISで覇権を取ろうとして、それよりも前に実は裏では公にできないような人体実験していて、挙句の果てには小娘一人を血眼になってストーカーするような世界だったら?」
「そりゃなんとも。随分とくそったれな世界だな」
えぇ……インフィニット・ストラトスってそんな話だったのか。もうちょっとなんかハートフルな感じかと思ってた。
「そう思うよね。楽しくなさそうな世界でしょ? 成功するまでループし続けて、成功しか見られない君も前の世界で思ったことがあるんじゃない? なんてくだらない世界なんだろうって。罵倒や否定をしても、いざという時には手のひら返して縋ってくる人類はなんて愚かなんだろうって」
「世界云々に思うことはない。人類に関しても、ただ結果がそうなるしか無かっただけで……いや違うな。他愛もない事だ。俺はただ、あの世界の平和な空を知人を見上げたくて戦い続けた。助けた相手に罵倒されたこともあるし、確かにくだらないと思ったこともあった。だが、結局俺はこうして別の世界に来てしまったから後がどうなったかは分からないが、人類の為にと戦ったことを後悔はしていない」
篠ノ之束には言わなかったが、そもそも俺は最終的に自分の意志でループしたからな。本来死ぬはずだった命を救って、結果的に俺の知らない所で救われたはずの命が失われてた事だってあるだろう。俺は俺の我儘で諸々ひっくるめてここまできた。そんな俺が後悔する訳にはいかないだろ。
しかしあれだな。改めてこう考えてみると――「愚かな人類というのであれば、おそらくは俺が一番愚かだな」
「流石の束さんでも、凡人といえど世界を三度救った凡人を愚かの一言で済ませはしないよ」
「また独り言が出ていたか。すまない」
戦場のヒリつく感じがないせいか、大分俺も気が緩んでるみたいだ。
こりゃいつか余計なことを言いそうで怖いな。
「じゃあさっきの質問の答えはもういいから、謝罪のついでに別の質問に答えてよ」
「ちゃんと回答できるか分からないがそれでもよければ」
「もしこの星にも侵略者が来たらどうする?」
「戦うさ」
「即答だね。そうするしかないから?」
「EARTH DEFENSE FORCE 略してEDF。それが俺の仕事で、染み付いている所がある。それに多少なりとも俺は篠ノ之博士を知った。だから篠ノ之博士と地球ぐらいは守るさ」
「束さんより弱い君が束さんを守る? 面白いことを言うね」
「なに、篠ノ之博士、君はその力で君の守りたいものを守ればいい。そうする君を俺が守るだけだ。安心してくれていい、確かに篠ノ之博士よりは弱いかもしれないが、生憎エイリアンには負ける気はしないんだ」
アーマー値と装備は引き継ぎしてますからね。
強気も強気。なんでもこいよ。
あ、でも、パワードスーツ無しでブラホ持ち上げるとかは普通にできないから、ガッツリパワードスーツ有りで戦います。
◇◆
「ふ~む……別世界にループ体質、それに宇宙からの侵略者かぁ。嘘は言ってなかったけど、全部は話してないって感じだったなぁ」
夜も更け、移動式ラボの一室に戻った篠ノ之束は一人呟きながら、部屋の隅で椅子に座り腕を組みすっかり寝息を立て始めた男を観察する。
「至って凡人。戦い続けたからこその肉体だけど、それでも私どころかちーちゃんにも及ばないのは事実。外見も普通。いっくんの方がカッコイイのは喋る石ころ共の評価基準でも同じはず。うん、どこまでも凡人だ」
いつまでも見ていても仕方ないと思考を切り替えた篠ノ之束は、男から視線を外して部屋の一角で存在感を放ち続けているソレの考察に移った。
「兵科分類フェンサーのパワードスーツ。そしてブラストホール・スピアと散弾迫撃砲」
男に聞いた説明と独自の解析結果から一つ一つの答えを瞬時に導き出し、そのパワードスーツと武装についてを脳内でまとめていく。
自分とは違う方向性が散りばめられている技術は、新しいおもちゃの情報を見ている様でいい暇つぶしになった。
無駄な部分やまだまだ改良点がある所を見つければ、そこから多少の優越感を得られるぐらいにはパワードスーツと武装の烏合とはいえ製作者達を認めてやれないこともない。
それでもただ一つ。篠ノ之束にとって気に食わない事があった。
「半分IS化しているというのは、束さんはとても気に食わない」
男が見せた武装変換に量子格納技術に近いモノが使われている事は、敵からの応用技術にしろなんにしろ良い着眼点だと評価できた篠ノ之束だが、パワードスーツが半分ほどIS化している事だけは気に食わなかった。
基礎理論の考案から実証、その作成すら自分一人で形にした彼女にとって、ISの大本となるコアは自分だけしか作れないものであり、娘と称する事すらあるそのコアの数は467個。
だが目の前に468個目になりうる自分の知らない半端なコアが存在している。
「近いとかじゃない。これは間違いなくISコア。それも違法でもなんでもない」
コア同士のネットワーク上にも存在しないソレは、篠ノ之束からしても異質なもの。
男の存在自体が異質と言われればそうなのだが、本人は理解している。
自分の知らないコアがある程度であれば、凡人共の探究心と熱意を見誤った結果だと納得してやらんこともない。そう、気に食わないのはそのコアが半端である事。
そしてもう一つ。
「んぐぐぐぐ! なんで、なんでこの子は拒否するのさ!」
その半端なコアが篠ノ之束からの様々なアプローチを全て拒絶する事。
「渋々、本当に億歩譲って認めてあげてるのに! この束さんがデータ領域の閲覧すら出来ないなんてッッ!!」
異質であり、自分の興味を惹いたコアに少しぐらい自分が手を貸してやろう。最初はそんな気持ちだったはずなのに、いつの間にか熱くなり様々な機材をその場で作り上げてアプローチをしてみたりと部屋は狭くなっていき、少しクールダウンがてらに男の寝顔に目をやったり。
そんな篠ノ之束の様子を物音で起きた男は少しだけ眺めて、本人に気付かれない様に少しだけ笑い、体勢を調整してもう一度眠りに落ちる。
「いい子だから、ね。いい子だからぁん~~~ぐぬぬ」
篠ノ之束は気付かない。
その男が自分を守ると言った時、否定ではなく面白いと表現して悪い気分ではなかったことに。
「よしよし、そっちがその気なら束さんにだって幾らでも考えがあるから」
篠ノ之束は気付かない。
その男が持ち込んだ未知の類。謎の血液やパワードスーツや武装を抜きにしても、自身が男個人を認識して評価している事実に。
「これもダメと。いいよ、いいよ、徹底的にやろう」
篠ノ之束は気付かない。
自分を民間人と称し、素性を知っても尚、変わらぬ態度で凡人共と同じ人類扱いする男と今、こうして同じ空間に居る事が嫌ではないことに。
「なっ!? まさか束さんを煽ってるつもり?!」
篠ノ之束は気付かない。
今自分が久しく感じていなかった楽しいを僅かにでも感じていることに。
「ねぇ! スーく……ッ~~~ッんん。ふぅ~……あまり束さんを舐めない方がいいよ」
篠ノ之束は気付かない。
自分が見ていた最終的な果ての結末が変わっていく兆しが見えたことに。
そう、天才で天災と呼ばれた篠ノ之束は気付いていても気付かないフリをする。
「朝までには完全に落としてみせるッ!」
今それを気付いて認めるのは、少しばかり自分がちょろすぎる気がして悔しいから。
脳裏でぐぬぬとしていたんです……そして思ったんです。
意固地になる束さんって可愛いなって。
ちなみに徹底的にやると決めた束さんのアプローチに対してパワースーツは フェニックスWX と ハイタイル多弾ミサイルWX から文字情報だけを切り取って
「クサw」と一度だけ返答しました。
多分次ぐらいにはヌルッと学園に行く予定。