「スーくん的にさ、こいつぁやべぇぜ!ってなった人とかいるの?」
「唐突だな」
「束さんはもっとスーくんの事を知りたいのです。資料見ながらでいいから教えてほしいな―なんて」
「問題ない。しかし、そうだな……」
ペプ◯マン襲撃から数時間。
皿うどんを織斑先生と束さんを含めた三人で食べ終え、二人が持ってきた資料に目を通してたが、どうやら束さんは暇の限界が来たようだ。
いつの間にか抱えているビーズクッションを締め上げるのにも飽きたか。
「考えればまだ出てくるだろうが、ふと浮かんだのが一人いる」
「おぉ、スーくんでもそういう人は居るんだぁ」
さて、頭は資料に向けるとしよう。
――なるほど、ラウラ・ボーデヴィッヒと織斑一夏に目立った外傷はなく、俺の目撃情報も無し。
今回の件は対外的には全てVTシステムの暴走で処理と。
VTシステム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステムとはなんとも。さっき見た資料では、搭乗者の危険性やらでアラスカ条約では全面禁止及び研究は完全凍結状態だったな。
あの黒い状態が織斑先生の動きをトレースしようとしたのは分かったが、やはりヤツが出てきた理由が分からん。あれは真似やパチモンではなかった。周りに被害が出なかった事は喜ばしいが、弱すぎたのは引っかかる。
「どんな人だったの?」
「エルギヌスに恋愛的意味で惚れ込んだ隊員が居た」
「は?」「へ? エルギヌスってあれだよね? スーくんの記憶を元に束さんがモデル作ったりした怪獣の……」
ん? 向かい側で報告書を書いていたり、別の仕事をしていたりでかなり集中していたと思ったが、織斑先生も話を聞いていたのか。それにその反応が出るということは、シミュレーションで見たことがあるみたいだな。束さんと設定した難易度順に進んでいるのであれば、結構進んでいるようだ。
何にせよ二人の反応は分かる。俺も恋愛相談と称してそれを伝えられた時は、反応に困ったものだ。
「そのエルギヌスで合っている。最初は個体というよりはエルギヌスという種が対象だったようだが、最終的にはエリザと名付けた個体と共に居たな」
「共に居たって裏切ったの?」
「いや、大きな戦い*1でエルギヌスが十二体ぐらい出てきたことがあった。その時に瀕死にしたエルギヌスを抱擁をして、何がどうなったかは知らんが大人しくなったエルギヌスを抱きかかえて持ち帰っていた。その後は色々とありはしたが、最終的には監視ありき、暴走した場合は処理、採血や皮膚採取の協力を条件に後方に下げられていた」
整備不良で右足が時折動かない中で、あの隊員は本当によくやったものだ。
まぁ、その後にループでかなり前に戻ってしまったから、最後まで見届けることはなかったな……ループ前に送られてきた写真では幸せそうではあったのは確かか。
その一回しかそういう隊員に会わなかったから、予想も難しいところだ……ただ今更ながら思うが、彼がもし4.1の世界に行くような事があり、赤エルギヌスに会ったとしたらどういう反応をしたのだろうか。
「ほぇ~。スーくんの世界には変人多そう」
「相手も束には言われたくないだろうな」
「なにをっ! ちーちゃんはどっちかっていうと束さん側だぞっ!!」
思っていたより記憶がするすると出てきたもので資料を読む手が止まってしまっていた。束さんが織斑先生とじゃれ合っている今のうちに読み上げてしまうか。
……。
…………なるほど。
一定以上のエネルギー消失、又は損傷。搭乗者の精神状態と意思による同意でVTシステムが発動するようにされていたと。そしておそらくは数日前に点検に出した時に当人には伝えられず秘密裏に搭載されていたか。
更にVTシステムを制作、管理していたであろう施設は、既に束さんとスコール達の手によって処理済み。
破壊前後の施設の写真もあるが、プライマーが関わっていたような痕跡はない。
何らかの理由でVTシステムが俺に影響されペプ◯マンを象った……と考えたほうが可能性的にはありそうだが、アレは本物だと直感が言っている。
「スーくん、すっごい険しい顔してるけど、どこか分からない所があった?」
「いや、どちらの資料もまとまっていて分かりやすい。ただ事件詳細とVTシステムについては分かったが……ペ――銀の人については分からないままだなと」
「あー、あの銀テカかぁ。アリーナの監視カメラとか、観戦席に居た連中の記録媒体とかも確認はしたけど、束さんのスモークが完璧すぎて本体の記録は何も残ってなかったんだよね~。でも、途中でアリーナのシールドまで飛んだりしてきてた液体は、束さんから見ても初めてスーくんと会ったときにパワードスーツに付着してたものと同じ……もしくは限りなく近いモノだとは思うよ」
「俺に影響されたVTシステムが再現したという可能性は」
「無いね。あんなお粗末なモノで銀テカの再現は小数点以下もなく可能性はゼロ。人工生物を生み出そうとして偶然そうなったっていう方がまだ可能性があるかな」
なるほど。そういう事ならば、仮に直感が外れていて人工的に生み出された結果だとしても、手は打っておくべきか。
「束さんは、大気圏の向こう側の状況を把握できたりは可能だろうか。ついでに地表の写真や可能ならば最低地下二十メートルほどまでのスキャンなどが」
「最新のってことだよね? んー、スーくんを満足させられる物を用意するとしたら、一ヶ月ぐらいあればいつでもどこでもリアルタイムで地表はいける。宇宙圏は範囲的にもう少し時間がかかるかなぁ。機材関係で一番地下が時間掛かる。一部ぐらいならすぐだけど、星一つってなると一から束さんが作ったほうが早い!」
「驚いたな……できると言われるだけでも驚いただろうに、そんなに早いとは」
「んふふ~。実は少し前から色々準備を始めてたんだよ!」
この付近の地上写真ならすぐに用意できるよ~。と言った束さんは、ISの武装の様に手元にタブレットを呼び出して何枚かの写真を見せてくれた。
すごいな。表示されている撮影時刻も本当に今だ。
「ありがたい。引き続き頼んでもいいだろうか」
「もちろん! もうじゃんじゃん頼んじゃって!!」
「心強い」
さて、用意してくれた写真にも気になる所はないな。
束さんのおかげでどこまでも後手に回るなんて事にはならなそうだが、初速で潰せるにこしたことはない。となれば、奴等が潜んでいる居場所の予想ぐらいは立てたいものだが……空間転送技術がある以上、居場所を考えるよりは目的から考えたほうがいいな。
やはり真っ先に浮かぶのは侵略。
しかしラジオやニュースを見る限りでは、他の場所で何かが起こっている様子は今のところはない。まだコソコソと準備をしているとするなら、ペプ◯マンが出てきた理由が分からん。それもあんな弱体化をしたままで。
いや、俺との会敵が予想外の可能性もある。途中でシュヴァルツェア・レーゲンの武装を模倣していたという事も考えれば、情報収集をして使えそうなら取り入れようとしていたとも考えられるか。
「スーくん、スーくん。束さんは何となくスーくんの考えている事が分かった上で言うけど、多分銀テカの狙いはスーくんだよ」
「ほぉ……織斑先生はどう考える」
「私か? 私は束ほどストームの事情には詳しくないが、知っている範囲で判断するなら束と同意見だ」
「……興味深いな。二人は何故そう考える」
「スーくんさえ倒せばどうとでもなるから」「何か作戦を立てた時、私ならそうするからだ」
同時に告げられた答えに、自分の眉間に力が入るのを感じた。
俺がプライマー共の脅威となっている事ぐらいは理解はしていたつもりだが、まさか単独撃破を狙う程とは……可能性としてはありえるのか。となると、まさか俺が別の世界に来たのは偶然ではない?
「その顔、考えてる事は分かるよ。実際、束さんも不思議だったんだ。スーくんが世界を渡った理由が。でもスーくんから話を聞いて色々考えたら、合理的かは別として幾つか想定はできたんだよね」
「参考までに聞かせてもらえるか?」
「もちろん! スーくんが教えてくれた敵の情報ってさ、前の世界も前々の世界もだけど科学面での技術が高いんだよ。私が今から解消しようとしてる問題も解決してる可能性すらあるほどに。そうなってくると、思考の癖とか種族的な性質までは分からないけど、束さんはあると思います――作戦立案とか戦局を予想するのに特化したAIとか」
「なるほど……続けてくれ」
「うん。スーくんって、AIにとっても目立ちすぎるんだよね。勝ち続けるスーくんしか歴史に残らないように、相手からの視点でみると、スーくんに負け続けてる記録しか残らない。AIからすれば、もうただのバグだよ! だって限りなくゼロにするんじゃなくて、ゼロのはずの敗北すらしているだろうから。奇跡を生むなんてAIにとって天敵も天敵だぁ……ってなると、調べてあげるはず。銀テカの様な知性のある生命体がAIを使っているなら尚の事」
「……まさかとは思うが、プライマーは俺のループに気付いたのか」
「確証は持ってないだろうけど、隕石降らしたりエネルギー弾使ってくるファンタジー個体の例を知る方からすれば、その可能性を弾き出した時点で否定する材料も足りないってものさ!」
「否定はできず、それでも邪魔だから取った行動が俺を別世界へ飛ばす事か」
「うんうん。世界的に起こってるループ、もしくは単体により別時間軸移動。世界のルールで起こっているのか、個体の性質で起こっているのか……とかはまぁ、もっと長くなっちゃうから省くけど、スーくんのループを封じて確実に殺す為の一つとしてまずは別の世界に送った。というのが束さんが今考える中で、一番それらしいモノかな」
なるほどな。俺ではその考えは生まれなかっただろう。
しかしあれだな、今更創作物の世界とかは気にしないが、仮にペプ◯マンが群れを揃えても対抗できる手段がある世界に飛んだのは……アイツ、運が悪いな。
「束さんの考えが当たっていたとして、銀の人がやたら弱体化していた理由は」
「銀テカにとっても世界を超えるのはエネルギーをかなり使ったんじゃない? それかこの世界が銀テカに合わなくて回復に時間が掛かり過ぎてるか。んー、どっちもかな? 死にかけ直後で世界を超えたみたいだし」
「時間が掛かるなら好都合だが、できるだけ早く見つけたい所だな。どうあれ殺しはするとしても、被害を考えるなら早々に仕留めておきたい」
「今回の襲撃方法がイマイチ見えてこないけど、シュヴァルツェア・レーゲンに何かをしていたとすると~……少なくとも軍事組織関連のどこからか辿れるとは思うんだけどねぇ」
束さんと二人でアレでもないコレでもないと意見のやり取りをしていると、仕事が一段落ついた様子の織斑先生がお茶のおかわりを用意しながら会話に混ざってくる。
「証拠と言われると私の感覚としか言えないが、探さずともすぐにアレは来ると思うぞ」
「学園にか?」
「いや、ストームを殺しにだ。実物を見れてはいないが、アリーナでストームと戦闘している時の空気は感じている。アレは参謀というよりは戦士の気配だ。今回もストームを殺せると考え来たのだろうと私は思った」
あー……否定がしきれん。
俺も人類であり、プライマー共は人類を舐めている節がある。特にペプ◯マンはそれが強く、自分が絶対強者と未だに思っているだろうな。
「私が感じたほどだ。ストームにも思い当たる節があるだろう? 全力が出せずともシールドやらレーゲンの武装で問題ないと考えたんじゃないか?」
「ありえなくはないな。AICに関しては、事前に見ていなければ俺も多少苦戦したのは確かだ」
「アレは生まれながらにして強者の部類だろう。ストームさえ倒せれば敗北を無かったことにできると考えるタイプだ。私が本能のみに従うなら最初はストームを殺さねば何も始まらんとすら思う」
「それはEDFを、人類を舐め過ぎだ」
「人類をというのには同感だが、EDFというのは私はストームしか知らん。だから束以外も使え、EDFの誇りというものを教えてくれ」
そう言い織斑先生がスーツのポケットから取り出したドッグタグの表記形式は俺のと同じであり、国籍は日本、所属にEDF、名前に織斑先生の名前が刻んである。
血液型やらアメリカのEDFとかは宗教まで記載していたが、これは束さんが俺のドッグタグを真似て作ったやつか。どうせと思って最低限の三項目だけにしたんだったな。
ん? 織斑先生がこれを持っているということは……。
「えへへ」
照れ笑いしながら束さんが自分の首に下げていたチェーンを引っ張ると、その先にも似たようなドッグタグが下がっている。
「ちなみに、スーくん含めてちーちゃんで七人目」
「……クロエとスコール達か。一応言っておくが、オススメはしない。福利厚生は最悪だし、新人研修はコーヒーを用意している間に終わる。ジョージはすぐに食われるし、本部の報告は取り返しがつかなくなるまで全戦全勝の百戦錬磨で、しまいには全人類の強制入隊すら行う始末。晩飯中は素晴らしい緊急ニュースをクラシックの代わりにする日が来るかもしれん」
「それでもストームの誇りなんだろう?」
「あぁ。それでも俺の誇りだ」
「ジョージが誰だかしらないけど、この世界での本部はスーくんだからもーまんたい」
「最前線に出る本部か。碌なことにならなそうだが、そうか。まずはそうだな……これ以上は首に下げるモノを増やす気はない。応えられそうか?」
二人とも返事こそしなかったが、ニヤッと笑いながら首に掛けたタグを服の下に隠した事が答えなんだろう。
まぁ、入隊試験なんて無くなり希望者全員合格とかになっている組織だ。俺がとやかく言えることはないが、幾度となく聞き、言った台詞を二人にも送るとしよう。
「EDFへ――*2ようこそ」
――
―
時は進み、ストーム1が風呂に入るということで解散となり、篠ノ之束と織斑千冬は提案するわけでもなく自然と織斑千冬の部屋へと移動したのだが……。
「ちーちゃん、たまには片付けぐらいしなよ」
踏み均された獣道の様なモノが出来ている部屋に、思わず素のトーンで篠ノ之束は呟いてしまう。
「……一夏が週イチぐらいでしてくれている。それにお前には言われたくない」
「してますー! 束さんはちゃんと自分で片付けしますー!」
「ほぉ、では今度クロエに聞いてみるとしよう」
「お、おうよ、聞いてみるがいいさぁ! ……えっ? いっくんが週イチでしてくれててコレ?」
そんなやり取りをしつつ二人分の座れる場所を確保すると、織斑千冬は冷蔵庫からビールとオレンジジュースを取り出してジュースの方を篠ノ之束へと投げ渡し、炭酸の抜ける音を響かせながら上着を脱ぎ捨てていく。
「ふぃ~。今日はありがとね、ちーちゃん。まだ何も解決は出来てないけど、様子見って選択が生まれるぐらいにはスーくん的に余裕が出てきたみたいでよかったよ」
「EDFの件か。一人でも戦い続けられるのは事実なんだろうが、ストームにはお前の手綱を握ってて貰わねばならんからな。まぁ、あんなに簡単に認められるとは思っていなかったから拍子抜けしたぐらいだ」
「スーくんの中で基準はあるんだと思う。たぶん、今のいっくん達が同じ事を言ってもダメだろうね」
「あの子……マドカについては何も言わなかったようだが?」
「ちーちゃんは最近会ってないからしらなかったね。実はあの子含めて引き込んだ三人はスーくんと結構仲いいんだよね。この前シミュレーションでチームプレイしてる時も、ブラックジョーク言い合ったり突っ込んだりするぐらいには仲良し。それにスーくんから手解き受けて、かなりいい感じみたいだよ」
その様子を知らない織斑千冬が少し驚いた様子でビールの喉越しを堪能していると、テーブルの上に置いていた篠ノ之束の携帯が鳴る。
『"素敵な女性だと思っている"』
「んお、スーくんからメールだ」
突然のストーム1の声に携帯へ視線を向ければ、着信画面にはいつぞやのストーム1のスーツ姿。
それを見て、そういえば以前に先程の台詞を引き出した記憶のある織斑千冬は、言い表しづらい表情を浮かべて篠ノ之束の様子を見ていると――ある事が脳裏をよぎる。
「束」
「ちーちゃん見てみて! 今回のスモークのお礼でスーくんが買い物付き合ってくれるって!」
「あぁうん。それは良かったが、一つ聞いていいか?」
「いいよー」
「私の着信音は何だ」
――沈黙。
織斑千冬の言葉に、笑顔だった篠ノ之束はそのままピタリと停止し、代わりにとメカうさ耳がスーッと目元を隠していく。
「おい」
「かっこよかったよ」
「……」
『"束以外も使え、EDFの誇りというものを教えてくれ"』
「ま、まだ加工前だから……」
「変えろ」
「はいッ!」
襲いかかる圧に言い訳もせずに素早く設定をした篠ノ之束は、大仕事を終えた様に「ふぃ~」と声を漏らし額を拭う。
「まったくもう。どうせちーちゃんは私にメールなんて送って来ない癖にわがま『デーンデーンデーン デデデデデデ デーンデーンデーン』――なんで頭に手を置くのかな? ちーちゃん? 撫でるならもっと優しく! ミシミシしてきてる!」
「選曲理由は?」
「ぴったりかなってイダダダダッッ!!!」
というわけで、六名がEDFへ……とうこそ。しました。
ちゃんと続けるならIS世界でもEDFを設立したいなと思ってたので、少々強引な所はありますが書けて良かったです。
他のストーム1を書く時があれば、たぶんそこでもEDFを設立すると思います。
エルギヌスガチ恋勢とペプシマンを銀テカと呼ぶのは、私の友人を参考にさせてもらいました。
ちなみにですが、エルギヌスは擬人化ではダメだそうです。
転移直前の世界ではジョージと最初の能天気チュートリアルお兄さんは生存ルート入ってます。
変更した着信音は貧乏旗本の三男坊の処刑用BGMですね。
書いている時に思いましたが、最近は着メロを個々で設定したりはあまりしないのですかね?
私は常時マナー人間なので意識はしていませんでしたが、最近設定変えている人見ないなぁと思いました。
さて、急遽延期という事態が無ければ、Steam版の発売日が7月25日に決定しましたね!
以前どこかのあとがきでお伝えしたかもしれませんが、当初の予定通り福音事件で完結となると思います。防衛6までには完結できそうです。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
又、次回は水着買いに行きたいなと考えております。
誤字報告、感想等々ありがとうございます。