はい、こちらストーム1 ~IS編~   作:えるらるら

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滝汗が流れる日が近づいてきたので投稿です。


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「もう一度頼む。これは……なんだ?」

 

「はい! 先日、自分の未熟によりご迷惑をお掛けした為、謝罪及び感謝を込めた品をご用意させていただきました!」

 

「俺は何もしていない」

 

「教官からの指示により取り調べの際は証言しませんでしたが、ハッキリとではありませんが事件当時は薄っすらと意識がありました。未確認の狙撃は、ストーム用務員のモノであると判断しております」

 

「……何故その判断をした」

 

「嫁や篠ノ之箒、シャルル・デュノアもといシャルロット・デュノアは当然の事、紛い物とは言え仮にも教官の技に指をかけたあの一太刀を即時対処可能であったのは、あの場には居ません。教官とストーム用務員を除いては。しかしニ度も行われたとなれば、ストーム用務員があの場におり、何らかを用いて行ったと判断しました。後は勘です!!」

 

 相変わらず織斑先生への信頼が厚いな。だが前ほど盲信もしていない……その調子で俺への謎の信頼も改めてくれればよかったんだが、織斑先生が口止めをした事で織斑先生自身が行った可能性が消え、俺がしたと確信している。といった所か。

 まぁ、姿が見られていた様子もないし、大した問題ではないからそれはいい。それはいいが――

 

「その勘は大事にするといい。俺は特に何もしていないが、これで君の気が済むのであれば受け取ろう……とも思うが、ドイツではこういう時、結婚情報誌を用意するものなのか?」

 

 ――何故ラウラ・ボーデヴィッヒは、結婚情報誌と菓子折りという組み合わせを選んだのかが分からん。

 

「日本の文化が分からず部下に助言を求めた所、今ならばこれが良いと言われたのですが……何か違いましたか?」

 

「受け取りはするが、こういう雑誌を詫びの品として渡す文化を俺は知らない。今後似たような事を俺にする時は何も用意しなくていい。気持ちだけで十分だ」

 

 この世界ではそういう文化があるのかもしれんが、流石に反応に困る。もう表紙からして輝いて眩しい気すらしてくる。何より置き場にも困る。

 置いてあるだけで反応しそうな人物がポンポンと浮かんできてしまう。

 

「ご配慮ありがとうございます!」

 

 なんというか、ピリピリしている事もなく随分と雰囲気が柔らかくなったな。明るくもなった。これはアレか、織斑一夏に懐柔されたということか?

 ……ん? 流してしまったがおかしな発言があったな。

 

「すまないが確認したい事が二つある。一つ、嫁とは誰だ? あの場には織斑一夏君、篠ノ之箒さん、シャルル・デュノア君しか戦闘行為はしていなかったと聞いている。そして二つ、シャルロット・デュノアとはどういう事だ?」

 

「一つ、この国では惚れた相手を"嫁"と呼ぶと部下から聞いております! 故に織斑一夏を嫁にすると決定致しました! 二つ、シャルル・デュノアは昨日付けでシャルロット・デュノアとして再編入し、現在は男装を止めております!」

 

「そうか……そうか……」

 

 シャルロット・デュノアに関しては、ここまで早いとは思っていなかったが、まぁいいだろう。再編入したという事は学園側で話は終わっているのだろう。

 しかし織斑一夏が嫁か……これは、どれだ? ボケてツッコミ待ちなのか本気なのか。仮に部下の入れ知恵を本気で受け止めていたとして、部下がふざけているのか本気なのか。

 

 分からん。なまじ日本語が流暢な分、判断ができん。結婚情報誌を詫びの品としてアドバイスする部下は流石に居なかったしな。

 こういう時は、そうだな……そろそろ出ないと束さんとの待ち合わせに遅れるな。この問題は当事者達に任せよう。

 

「答えてくれてありがとう。これから出かける用事がある。品はありがたく受け取らせてもらおう」

 

「ハッ! お時間を割いていただきありがとうございました! 私はこれにて失礼いたします!」

 

「あぁ、気を付けて戻るように」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは大事そうにもう一つの紙袋を持って出ていったが、あの中にも……深く考えるのは止めておこう。俺も準備して出ないとな。

 あぁ、俺の買い物にも少し付き合って貰えるか聞いてみるか。昨日の昼に山田先生から泣きそうになりながら教室の扉の修復を頼まれていたが、小物が少し足りなかったから許可がもらえたらついでに買っておきたいところだ。

 

「人の買い物に付き合うのに、タンクトップにツナギ……は流石にまずいか」

 

 以前と同じスーツでいいか。クリーニングに出しておいて正解だったな。

 

 

 

 

 

 

 

「ァ゜――う”ん。やほやほスーくん!!」

 

 相変わらず束さんはどこから出てるか分からない声をたまに出すな。

 段々興味が出てきた。いつか学んでみるのも面白いかもしれん。

 

「待たせた」

 

「んふふ、今回はすごーく待ったかな!」

 

 今回も前回同様にメカうさ耳は無く、違いがあるとすればズボンではあるが変わらずオシャレだな。

 俺自身センスは無いに等しいが、オシャレなのを見るとオシャレだなと感じる感覚は不思議なものだ。

 

「お詫びというわけではないが、今日は存分に振り回してくれ」

 

「そうこなくっちゃ! 遠慮はしないよ!」

 

 後で聞くよりは今の方がいいか。

 どうせ最初に向かう先は前回と同じショッピングモールだし、忘れる前に聞いておこう。

 

「問題ない。ただ先に俺の用事を済ませていいだろうか」

 

「もちろんいいけど何か買うの?」

 

「スライド式ドア用の衝撃吸収コーティング材」

 

「なんで?」

 

「お淑やかさを補うのに必要でな」

 

 理解が出来ないと言わんばかりに首を傾げている束さんに、山田先生からの電話の流れを説明したり、今日の朝にあったラウラ・ボーデヴィッヒとの一件を話したりと、自分の話題の引き出しが少ない事に申し訳無さを感じつつ用事を済ませ、今日の本題である束さんの買い物へと移ったのだが……。

 

「とりあえず外で待っておこう」

 

「いやいやスーくん、それは違うよ。束さんはスーくんの意見を必要としています!」

 

「しかし……いや、最善を尽くそう」

 

 入口から既にカラフルな色合いと、様々な特徴を持つ女性用水着の列。

 マネキンに飾られているのもあったりと色々あるが、ここからどれがいいと言われてもイメージすら湧かん。強いて言えば、壁に飾ってある黒い水着は織斑先生とセットで見覚えがあるなぐらいだ。

 記憶を探ってもコレと言って参考になりそうなものがないが、良し悪しぐらいは分かるだろう。何より存分に振り回せと言った手前、うだうだ言うのもな。

 

「いいねいいね! それじゃ、第一回スーくんの好みをしっちゃおコーナー! デデン♪ ワンピとビキニどっちがスーくんの好み?」

 

「どちらが良いというのは無いな」

 

「色は? やっぱり黒?」

 

「自分が着るなら基本は黒を選ぶだろうが、見る分に好みはない」

 

「ふむふむ。なら、束さんには何色が似合うと思う?」

 

「何色でも似合うとは思う」

 

「えへへ照れるね! 次は~……こっちとこっちならどっちがいいかな?」

 

 片方は花柄で埋め尽くされた水着。もう片方はシンプルな白い水着。同じタイプの水着か? 色合いや柄は当然だが、細部が違うだけで結構印象が変わるものだな。

 どちらでも似合いそうなものだが……そういう答えを求めては無いんだろうな。

 

「作りは花柄の方が見ていて飽きそうに無いが、白の方が見ていて疲れなさそうだ。つまりはなんだ、どちらでも似合いはするだろう」

 

「ふーむ……ちなみにスーくん、束さんがアレ着けてきたらどう思う?」

 

 そういって束さんが指した先には、貝殻の水着を着けたマネキンがポーズを決めている。

 見えては居たが、よく見れば値札もあるな。売り物なのかこの水着。そしてこれを束さんが着けてきたらか……。

 

「実際に着用している所を目にしたら、唖然としたあとに笑いが先にでるかもしれん。少なくとも芸術性は俺は感じないだろう」

 

「スーくんが笑うのか……ありだね」

 

「やめてくれ」

 

「んふふ、冗談だよ。それとスーくん、ヴィーナスの誕生は貝の上に立っているだけで、貝殻の水着は着けてないからね」

 

「……そうか」

 

 俺が勘違いしていた事がよくわかったな。

 しかしそうか、前の世界で半分以上焼け落ちたモノをたまたま見た記憶しか無かったが、あれは貝の上に立っているだけなのか。

 グリムリーパー隊の副隊長*1とスプリガン隊の副隊長*2の賭けは、少なくともグリムリーパー隊副隊長の勝ちは無くなったな。

 

「じゃあじゃあ、こっちとこっちなら「ストームさん?」――……ん? あれ? いっくんじゃん!」

 

 俺の名前が呼ばれ、束さんが睨みつける様に握っていた水着を戻してから体を傾けて俺の後ろに視線を向ければ、表情は驚きに変わる。

 発言から察するにどうやら俺の後ろには織斑一夏が居るらしい。

 

「織斑一夏君と……シャルル・デュノア君か」

 

「こんにちはストームさん。あと、今はもうシャルロット・デュノアで大丈夫です」

 

「そうか」

 

 どうやら織斑一夏だけではなくシャルロット・デュノアと一緒か。

 結局シャルル・デュノアで入学してきた意味が分からんままだが、これはただの興味でしかない。当事者達で話は済んでいるようだし、暇つぶしの考察題材ぐらいでしかないな。

 

「うぉぉ~!! いっくんおひさ~! 大きくなったね!」

 

「え、あ、え? 束さんがなんで?」

 

「スーくんとお買い物中~」

 

「スーくん? えっ? 束さん、ストームさんと知り合い? 千冬姉ぇや箒は知ってるんすか!?」

 

 向こうは向こうで話している様だが……そうだったな、よくよく考えるとショッピングモールに束さんが居るというのは、人によっては大事(おおごと)になってしまうか。

 織斑一夏の発言を聞いて、色々と予想ができてしまったシャルロット・デュノアも驚きで言葉が止まってしまっている。

 どうにも俺はこの辺の認識が甘いな。

 

「ちーちゃんは知ってるよ~。箒ちゃんは知らないね」

 

「ねぇ一夏、もしかしてこの人……」

 

「あ、あぁ、シャルは初めて会うよな。箒のお姉さんで篠ノ之束さんだ」

 

「ハロハロ~。天才束さんだよ~」

 

「は、初めまして! シャルロット・デュノアです! えっと、篠ノ之さんとは仲良くさせてもらってます」

 

「あぁいいよそういうの。箒ちゃんと仲良くしてあげてね」

 

 どうやら束さんは、シャルロット・デュノアには興味が湧かないみたいだな。織斑一夏と篠ノ之箒の知り合いだから渋々といった雰囲気が露骨だ。

 いや、織斑先生や本人の話を参考にするのであれば、無視をしなかっただけマシになっているのかもしれんな。

 

「ところで買い物をしに来たのだろうが、奥の三人は何故隠れているんだ?」

 

 織斑一夏より奥。自動販売機の影。セシリア・オルコット、凰 鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒの三人が隠れながらこちらを見ているが、ラウラ・ボーデヴィッヒに関しては俺と目が合った瞬間に堂々と敬礼をした所を二人に引きずられていた。

 あれで隠れているつもりなのだろうか。

 

「あー……俺等を尾行してるみたいなんです」

 

「それは……なんだ、随分と愉快な状況だな」

 

 一応隠れているつもりだったのか。

 まぁいい、事件性がないのであれば問題ないだろう。それにあの三人が混ざらずとも、もう少し賑やかになるのは変わりなさそうだ。

 

「珍しい組み合わせだな」

 

「こんにちは。デュノアさんと織斑君もお買い物ですか? それにストームさんと……あぇ? 篠ノ之博士?」

 

 別方向から聞こえた足音と気配で察していた通り、声の方を確認すれば織斑先生と……もう一人は山田先生だったか。

 

「ちーちゃ――イダダダ!? はやい! はやいよ!」

 

「騒がしい、公衆の面前だぞ。店の迷惑にもなる」

 

「正論の暴力ッ!」

 

「正論だと判断できる感性が備わったようで何よりだ」

 

「おぉぉぅ……言葉の暴力ぅ」

 

 相変わらず二人は仲が良いな。

 

 あれから織斑先生達が合流した後、尾行をしていた三人も混ざり、織斑一夏が水着を選ばせられる光景を店前のベンチから眺めること早一時間。

 隣では同じくベンチに座りながら束さんがジュースを飲んでいる。

 

「そういえば、知られてもよかったのか? 山田先生やシャルロット・デュノア達にも篠ノ之束である事を隠したりもしなかったようだが」

 

「んー? もう少ししたら大々的に動こうと思ってるからのーぷろぶれむ。それに箒ちゃんの誕生日も近いから、どっちにしろ顔は出そうと思ってたしね」

 

「妹さんの誕生日か」

 

 知ったからにはプレゼントでも用意すべきか? いやしかし、そこまで仲が良いとも言い難いし、篠ノ之箒は俺と束さんの関係性もまだ知らんだろう。職員から個人的にいきなりプレゼントされても向こうが困るか。

 女子高生へのプレゼントなんて分からんというのもあるしな。

 

「ちなみに束さんの誕生日はいつ頃だ? 世話になっている礼もある。何かしらプレゼントを用意させて欲しい」

 

「私の誕生日はね~……秘密かな! その日になったらスーくんに教えてあげる! プレゼントはスーくん一日独占権とかで!!」

 

「予め知っておかなければ仕事が被って叶えられん気もするが……まぁ、それでもいいなら構わん」

 

 秘密ということ自体には思うところもない。

 束さんには話しているから知っているが、俺は自分の誕生日も覚えていない。忘れたのがいつ頃だったかも思い出せん。ある意味では俺も誕生日を秘密にしているのと変わらんからな。

 

「時に、水着の種類は分からんが、腰に薄い布を巻いている束さんを見てみたいとは思った」

 

「ふぇ? パレオの事? いきなりどうしたのさ、スーくん」

 

「最善を尽くすと言ったものの、結局まだ束さんの買い物を終えられていないと思ってな」

 

 織斑姉弟以外と会話すらする気がないのか、この一時間、俺と一緒に眺めていた束さんも元々は水着を買いに来ていた事を思い出した。

 だからといって無理に混ざってこいなどとは言う気もない。だがこのままではとも考え、セシリア・オルコットが手に取っていたモノを参考にしてみたが、アレはパレオというのか。

 

「……見たいって、一緒に海に行ってくれるの?」

 

「海か」

 

 こうして冷たかった飲み物がゆっくりとぬるくなっていく過程を感じる時間は心地良い。

 ペプ◯マンという問題があるにはあるが、それでも随分と平和だと思えるこの時間は嘘ではないのだろう。

 だからと言うわけではないが、誰かと海に行くという約束も、今度は叶えられそうだと前向きに考えられる。ありがたいものだな。

 

「束さんが良ければ」

 

「ダメな理由がないよ! むしろお願いしたいぐらい!」

 

「であれば俺も水着を買うとしよう」

 

「スーくんの水着……うぇへへ」

 

 緩んだ表情でブツブツと言い始めた束さんを連れ、賑やかな中へと向かえば、織斑先生が何かを思いついた様にニヤリと笑みを向けてきている。

 今でもアワアワとしながら水着選びをしている織斑一夏を見ていたせいか、何を言われるか何となく予想ができてしまった。

 

「ストーム、私の水着を選べ」

 

「あの黒のやつが良いだろう」

 

「ん、そうか。うむ、そう言うのであればそうしよう」

 

 予想通りだ。壁に飾ってある水着を勧めておこう。

 珍しく戸惑いを見せる織斑先生は、織斑一夏の様に悩む姿を見たかったのかもしれんが、それに関してだけは参考資料が既にある。期待通りの反応をしてやれずすまないな。

 

「スーくん、ちーちゃんの水着は即答だったね」

 

「アレ以外に似合いそうなのを知らんだけだ」

 

「……なんだろう。なんか釈然としない」

 

 今にも頬が膨らみそうな束さん。

 何故かキラキラとした目を向けてくる織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒに山田先生。

 驚いた表情を向けてくるセシリア・オルコット、凰 鈴音、シャルロット・デュノア。

 

 即答に束さんが反応するのは予想していたが……他の面々がそんなに反応するとは予想外だったな。

*1
貝殻の水着主張

*2
全裸主張






ラウラ・ボーデヴィッヒはちゃんと織斑先生にも結婚雑誌を渡し、なんとも言えない表情をされています。


私はミロのヴィーナスとヴィーナスの誕生が混ざる時があります。


束さんが選んだストーム1の水着がどんなものかは、皆様の想像にお任せします。
男性用も女性用もあまり詳しくないので……。


誤字報告、感想等々ありがとうございます。
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