「それで来週の月曜に決闘か。参考にしたいぐらいの先見の明だ」
「ああいうプライドだけ高い小娘のやる事など容易に分かる」
「しかし弟くんはISなんて保護中の検査と入試試験ぐらいでしか動かせなかったのでは? セシリア・オルコットの事は名ぐらいしか知らんが、国家代表候補生ともなればそれなりに訓練はしているだろう」
「だからこそ経験を積める機会は用意してやらねばならん。アイツの立場上、自衛手段や経験は積める時に積んでおくのがいいだろう。私がいつでも手を出せるとはかぎらんからな」
「過保護なんだかスパルタなんだか分からんな」
朝に轡木さんへ扉の事を連絡すると、何故か予備はあるとの事。それを持っていく許可を得て、織斑先生に連絡を入れてから生徒寮に行けば、寮の入り口で受け渡した扉をどこかに置いてきた織斑先生と共に仕事場に戻ってきた。
そしてまだだった朝食を取ろうとすれば、後ろから「私も朝食はまだなんだよな」と呟きが聞こえ、無視する事もできずに二人分。
黙々と食事をしながら今日の分の仕事を確認していると、昨日のアリーナの予約の確認から、流れ流れてセシリア・オルコットと織斑一夏の決闘の話へと至ったわけだが……この人、授業はいいのか?
「そういえば織斑先生、そろそろいい時間だが授業はいいのか?」
「基本的にIS基礎の授業は山田先生に任せている。私が居ると浮足立つ馬鹿者が多いからな、多少遅れるぐらいが丁度いい」
「とやかく言える立場ではないが……それでも職員室に居るほうがいいのでは?」
「知っているか? ブリュンヒルデというのは、なにも生徒共だけの憧れではないんだぞ」
「……まぁ、問題がないなら好きにすればいい」
「察しが良くて助かる。遠慮なくそうさせてもらうさ。なに心配するな、勤務時間にしか居座ったりはせん」
「それはそれでどうなんだ」
用意していたポットから新しくコーヒーを入れ始めたところをみると、もうしばらくは居るつもりなんだろう。
まぁ今日は業者からの連絡待ちだけで出歩く用事もないが、一応山田先生にメールだけでも送っておくか。授業中ですぐには見れないだろうが、あの人も何かと大変そうだしな。
織斑先生は職員室ではなくこちらでサボっているとメールを送れば、すぐににこにことした顔文字だけの返信が来た。
なるほど、どうやら山田先生も大体の予想はついていたようだ。
「さて……」
どうするかな。待機状態を解除してパワードスーツの手入れをするわけにも行かないし、ここから離れるわけにもいかない。軽く屋内ランニングでもするかな。
「暇そうだな。セシリア・オルコットの戦闘映像でも見てみるか?」
「俺の学内アカウントにはそこまでの閲覧権限はない」
「私が居るだろう。一般公開しているものではなく、入試試験のを見せてやる」
そこまで興味があるわけではないんだが、せっかくの機会だし見てみるのもいいな。ここはお言葉に甘えるとしよう。
軽く体をほぐすのをやめ、既に俺の仕事用パソコンで準備を済ませている織斑先生の隣に座れば、セシリア・オルコットの簡単なプロフィールと入試試験時のデータを元にしたグラフ。そして自己提出用の動画の下には入試試験の様子を録画したモノが並んでいる。
「では始めるぞ」
織斑先生の言葉の後に入試試験の様子が全画面で流れ始めた。
金髪に青い機体? あー、なるほど。記憶に薄っすらとあったヒロインメンバーの一人が少し鮮明になった気がする。
まぁそれだけで他はさっぱりだ。
セシリア・オルコット。専用機は"ブルー・ティアーズ"という三世代型のIS。主力武器は狙撃型のレーザーライフル。それとBT兵器と呼ばれる六機のビットに、さっき見た資料ではインターセプターというショートブレードが一本。
動きから察するに、ビットで誘導して狙撃で抜くのがタイマンの基本戦闘スタイルと言ったところだろうが、ただセシリア・オルコットにとって試験場が狭いか。
いつもの訓練ではもう少し広い空間で行っていたんだろうな……試験官がビットに慣れていないから成り立っているだけで上手く距離が取れていない。
それにビットが攻撃をする時にセシリア・オルコットが止まるのは、そういう仕様か? であれば、セシリア・オルコットはもう少し立ち位置に気をつけるべきだな。あまりにも意識が前のめりすぎる。
「終わりか」
最後はビットから発射したミサイルの爆発で試験官の視界を塞ぎ、レーザーライフルの攻撃を囮にしてビットで削り切る形で試験は終わった。
先日の飲みで山田先生がポカったと落ち込んでいた織斑一夏の試験を抜けば、セシリア・オルコットは唯一試験官を倒した生徒と聞いたが……なるほど。ザ・お嬢様みたいな口調と高飛車な態度とは裏腹に努力家だな。
距離や立ち位置に思う所はあったが、おそらくビットの攻撃タイミングで自分が止まる事に気がついて、幾つかそれに対する改善策や対応は用意している。敵を寄せない攻撃の仕方も研究をしている感じもした。
ショートブレードをどれだけ振り回せるのかは見れなかったが、今の戦い方からするに、あるということは懐に入られた時用と考えてもいいだろう。
「どうだった」
「将来有望そうだな」
「今はどうだ」
織斑先生の言葉で少し考えを変える。
もし本気でセシリア・オルコットと戦闘するとしたら……多分負けはしないな。正直に言ってしまえば、束さんの所で最初のシミュレーションで相手にした特殊機の方が強いだろう。多分セシリア・オルコットはあの急加速への対応が遅れる。
それを踏まえて答えるとすれば……。
「IS同士の戦闘には詳しくない事を念頭に置いて聞いて欲しい。今見た限りでは接近戦、それも緩急を付ける相手にもなると、対処が無いのであれば初見殺し以外で勝利は難しいだろうな」
「ハイパーセンサーの事は?」
「束さんの授業で学んでいる。全方位視覚と遠距離への視覚補正、射撃補佐と視覚情報の処理向上。物体の補足追跡機能と空間情報の数値化にバイタルチェック。羨ましいぐらいに素晴らしい機能ではあると思うが、所詮使い手次第だ。自分だけならまだしも、相手も同じ状況であるならハイパーセンサーでのマージンなど無いと考えた方がいい」
「なるほど。踏まえた上でか」
「あぁ。確かにこの遠隔武器とハイパーセンサーは相性もいいし脅威ではあるが、見ている限りでは移動と攻撃のメリハリがありすぎる。試験場の様な狭い空間では持ち味も活かしきれないだろう。ビットで誘導してレーザーライフルで置き撃ちするのもいいが、現に最後の方では試験官は対応して攻撃に合わせた緩急を付け始めている。同じ試験官がもう一度やった場合は、試験官が勝つだろうな」
「うちの愚弟は勝てそうか?」
「勝機がないわけではないが、かなり難しいだろう。というのが個人的見解だ。評論家気取りで色々言いはしたが、全方位から攻められるというのは単純に強力で脅威だからな」
後日に来る織斑一夏の専用機のスペックで埋まる差もあるかもしれないが、それでもかなり厳しい戦いになるだろう。だがまぁ、うん、決闘への流れを聞いた感じ、プライドの高さが仇にならなければいいが。
下手をすれば今見た試験内容の半分も実力が出ずにセシリア・オルコットが負けたりしそうな……。いや、そもそも俺は織斑一夏をあんまり覚えていないから何とも言えんな。原作の記憶でふわぁ~と姿は思い出せるが、実際に会ったこともない。
「織斑先生的には? 弟君はセシリア・オルコットに勝てそうか?」
「贔屓目に見てもオルコットの方に分がある。だが一夏の観察眼や機転は褒めてやれる所だから三割と言いたいが、アイツはアイツですぐに調子に乗る。ニ割あれば良いほうだな」
「素直にアイツは勝つさと言わない辺りが織斑先生らしいな」
「早いところ言わせて欲しいものだ。はぁ……ん?」
大きなため息をした織斑先生の携帯が鳴り、見せてきた画面に目を向けると、山田先生からぷんぷん!とした顔文字が送られてきている。
授業中じゃ……。いや、そう言ってしまうと織斑先生もか。
「向かったほうが良さそうだな」
「そのようだ。では私はそろそろ行く……あぁ、そうだ。近い内に束が顔を出すと連絡が来ていたぞ」
「束さんが? 別にそれは構わないんだが、それなら色々と世話になった礼をしたい。何かいいアイデアがあれば教えてくれないか」
「無理に機嫌を取ろうとせず構ってやれ。要求があれば向こうから勝手にしてくる」
「それはそれで怖いな」
「アイツに興味を持たれたのが運の尽きだな」
一体何を要求されるのかこっちは怖いというのに、随分と楽しそうに笑いながら織斑先生は出ていった。
さて、どうするか。屋内でランニングをしてもいいが、織斑先生が居ないなら外でもいいな。いや、さっきチラッと見えた空は良い空だった。こんな日は屋根の上で日向ぼっこも悪くないな。
「……決まらん。軽く屋内でランニングして、連絡来なかったら屋根の上で昼飯でも考えながら日向ぼっこしつつ連絡待ちするか」
補足:ストーム1のパワードスーツにはハイパーセンサーはありません。
でもパワードスーツ装着時にはゲーム同様のレーダーが右上にちょろっと表示されるので、ハイパーセンサーを羨ましく思ってはいますが別に困ってもいないのがストーム1です。
でもあのレーダーも中々に高性能ですよね。
誤字報告、感想等々ありがとうございます。