はい、こちらストーム1 ~IS編~   作:えるらるら

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久々に虹を見た気がしたので投稿です。




 侵入者が来てからもうすぐ一週間。カレンダーを見れば、もう四月も終わりか。

 この学園に来てから四ヶ月経つのも近い……実に穏やかな日々だ。多少の騒がしさが恋しいと思えるようになったのは良いことなのか、それとも俺がバトルジャンキーになってしまっているのか。

 ただまぁ、気持ち的に落ち着けているのは確かだ。

 ここ二日ぐらい監視されているとしても、放置できるほどには。

 

「一時間程したら今日の最後の仕事がある。その間、少し時間があるのだが……隠れるのはやめて時間潰しに付き合ってはくれないか?」

 

 開けていた窓に向けて声をかけてみれば、音もなく軽やかな身のこなしで一人の生徒が入ってきた。

 黄色いネクタイは確かニ年生だったか。見覚えは……あるな。

 あれは轡木さんが見せてくれた新年度の大まかな予定表とかをまとめた資料で、えーっと、あぁ、そうだ。今年度の生徒会長。代表候補生ではなく、ロシアの代表で名前は確か……。

 

「更識楯無生徒会長だったかな?」

 

「ご存知頂けているとは思いませんでした。てっきり生徒には興味ないものかとばかり」

 

「去年の成績優秀な生徒であり現生徒会長ともなれば、それなりに名前と顔ぐらいは覚えるものだ。用務員と言えど学園に関わっている身だからな」

 

 まぁ、興味がないのはあながち間違いではない。生徒だからといって特別に思う所もなければ、名前も知らず見覚えすら無い生徒の方がほとんどだ。

 

「なるほど。自己紹介は不要かもしれませんが改めて――IS学園ニ年、生徒会長を務めている更識楯無です。どうぞ以後お見知りおきを……ストーム・ワンさん」

 

「ご丁寧にどうも。用務員として雇ってもらっているストーム1だ。あまり関わることはないだろうが、困りごとがあれば遠慮なく声をかけてくれ」

 

 さて、ここからどうしたものか。

 自己紹介は済ませたものの、敵対……いや、これは警戒に近いか。ここ二日の監視は更識楯無で間違いは無さそうだな。

 ほぼ一日中監視されているせいでパワードスーツの手入れもできないから、そろそろやめて欲しいのだがどう言えば警戒を解いてもらえるものか分からん。

 

「ところでほとんどの生徒は寮に戻っている時間だが、注意は必要か?」

 

「いいえ不要です。生徒会長権限でその辺はどうとでもなるので」

 

「そうか。デパートに売っていた水に入れるだけのやつだが、茶でも飲むか?」

 

「結構です」

 

 参ったな。警戒心が強すぎて取り付く島もない。

 ここまで警戒心を抱かれるような事を何かしただろうか……見当もつかんな。

 

「いつから私が監視していると気がついていたか、お答えいただけますか?」

 

「昨日今日の二日程度だ。相手が生徒会長だとは気が付いていなかったがな」

 

「つまりは最初からと。先日、学園のセキュリティに不正アクセスがあり一時的に警報が切られていた事に心当たりは?」

 

「ある。それに関する報告は始末書と共に学園側に既に提出済みだ。記載した以外の事で語れる事はない」

 

 来客の相手をしている時に襲撃されたと束さんの事は一応濁したが、織斑先生には呆れられ、轡木さんには苦笑いされたからな。

 実際、あの侵入者が何者なのか俺も把握していない。束さんはストーカーと言っていたが、随分と訓練されたストーカーだなと気になっている所ではある。

 

「生徒会長権限で貴方のことは調べさせてもらいました。ストーム・ワン――日本生まれ。年齢二十六、両親は他界、配偶者及び親戚もおらず親密な友人関係も無し。以前は地方のライン工場勤務。特筆すべき目立った経歴も無し。学園長にも裏取りは出来ています」

 

「IS学園の生徒会長というのはすごいな。個人情報を調べ上げる事もできるのか」

 

 この学園で俺が記憶喪失であると認識しているのは轡木さん、その奥さんである学園長、織斑先生や山田先生を含めた俺が仕事上で関わり合いそうな数名の教師陣のみ。

 常識の違いが出た時の為を考えて多くもなく少なくもなく知られてはいるが、生徒はそんなとこを知らない。

 今、更識楯無が言った設定も記憶喪失後の不都合を隠すために用意した体のカバーストーリーでしかないが、本来であれば生徒が知る事もない……はずなんだがな。

 

「あまりにも杜撰な設定ですね」

 

「そう言われてもな。学園長に裏取りもしたのだろう?」

 

「こう見えても情報収集能力には自信があるんです。なのに掴めたのは"地方のライン工場勤務"という曖昧な情報のみ。両親の名前は不明、過去に在籍していた学校の記録も不明、血縁関係や友人関係も不明、貴方の出生届すら紛失扱い。あまりにも貴方は存在しなさすぎる。それを良しとして学園が雇うとも思えない」

 

 ほぉ……調べたというのがどこまで事実かは分からないが、確かに言い分は一理ある。

 IS学園は普通の高校と比べればかなり特殊だろう。そこに俺のような人間は知れば知るほど浮いて見えてくるものだ。

 それに今は織斑一夏という世界的にも注目の存在もいる。警戒して然るべきと言われれば確かにそうだが……まさか生徒にそこを突っ込まれるとはな。この生徒は成績以上に優秀なのだろう。

 

「単刀直入に伺います。貴方、何者ですか」

 

「敵ではない。と言っても納得は難しいか」

 

「できませんね」

 

 そりゃそうだ。逆の立場なら俺でも無理だろう。

 しかしそうなると、困ったな。本当に敵対の意思はないが、証明ができん。妙な行動をすれば今にも襲いかかってきそうな雰囲気を出しているし、下手に記憶喪失の件を言っても今の俺に信用はないだろう。

 仕方ないが織斑先生を頼るのが手っ取り早いか。

 

「生徒会長の警戒心は尤もだ。だが何を言っても俺の言葉では信用に足らんだろう。そこで織斑先生を間に挟もうと思うが、電話の許可を貰えるかな?」

 

「織斑先生ですか……分かりました……私が掛けてもいいですか?」

 

「それは問題ないが、大丈夫か? 顔色があまり良くないように見えるが」

 

 大丈夫です。と答えて渋い顔のまま電話を掛け始めたが……もしかして織斑先生は苦手だったか?

 そもそも学園長に確認をしているのなら、織斑先生にしていてもおかしくはないか。どちらにせよ悪い提案をしてしまったかもな。

 

「あ、織斑先生ですか? 更識です。はい、二年の方の――」

 

 もう少し時間も掛かりそうなことだ、とりあえずお茶でも用意するか。

 

「少しお聞きしたいことが。いえ、妹の事ではなく――」

 

 ほぉ、生徒会長には妹がいるのか。織斑先生から話題が振られるということは一年か? ん、あぁ、そういえば一年の日本代表候補生が確か更識という名字だったか。

 姉妹揃って将来が楽しみだな。

 

「いえ、織斑くんの事でもなくてですね。用務員のストーム・ワンさんについて――」

 

 間を見て少し顔色の良くなった生徒会長にお茶を差し出せば、軽く頭を下げて受け取ってくれたな。

 顔色が悪かったのは緊張でもしていたのだろう。この様子だと後は織斑先生に任せて大丈夫か。電話ももう少し掛かりそうだし俺は……晩飯用の味噌汁の準備でもするかな。

 

「え? あの篠ノ之博士の紹介? 何かの悪い冗談ですか? いえ、織斑先生を疑うというよりは……あの篠ノ之博士ですよね?――」

 

 生徒会長の中の束さんのイメージが気になるぐらい驚いているな。

 そんな珍獣を見るような目を向けられても、俺は大した反応はできんぞ。

 

「はい、まぁそれは、はい。分かりました。織斑先生がそこまで仰るなら――」

 

 完全に納得したわけではなさそうだが、とりあえずは一段落――「ストーム・ワンさんと手合わせをしてみます」

 

「待て、何故そうなる」

 

 

◇◆

 

 

 学園長から渡された資料でその用務員の存在は元々知っていた。だが最初は意識もせず、ただそういう職員も居る程度の認識で終わっていた。

 しかしそれは間違いだったと更識楯無は認識を改める。

 

「気が進まんのだが、本当にやるのか? 他にも何かありそうなものだが」

 

「結局織斑先生は明確な情報は口にしませんでした。正直に言って篠ノ之博士の紹介というのも何かを隠すための方便という可能性すら考えています」

 

「だからといって手合わせに行き着くのは、織斑先生も君も些か血の気が多すぎるのでは?」

 

「実は二日間の観察と今の織斑先生とのやりとりで貴方への警戒はそこまで必要ないと判断はしています。でも……あのブリュンヒルデのお墨付きで、あの篠ノ之博士が認めている可能性がある貴方の実力、純粋に気になるところでもあるので、ここは生徒の我儘を聞くと思って」

 

「はぁ……あまり期待はしてくれるな。人間相手は加減が難しくて苦手なんだ」

 

 加減という一言に更識楯無はまた一段階闘志が沸き立つ。

 自身の隠密を見破った実力。織斑千冬が評価した実力。篠ノ之束が見つけ出したというその実力。実際の所、更識楯無は既に疑ってはいない。

 眉間にシワを寄せ、嫌々ながらも向かい合ってくれたその瞬間から、その男の実力は垣間見えている。

 血生臭さいことも叩き込まれ、代表の座につけるほどの積み重ねをしてきたからこそ、目の前の男が歴戦の猛者であり、本気でいっても一筋縄ではいかないと理解してしまっている。

 

 だがそれはそれとして――男が武器として、これでいいかと一言呟き選んだのが"鍋蓋"というのは気に入らない。

 

「本当にそれでいいんですか?」

 

「問題ない」

 

 舐められていると一瞬思った更識楯無だが、人差し指と中指で取手を挟み持ち構えるその姿が妙に様になっているように見えてしまう。

 だが鍋蓋であることには変わりはなく、冷静さを保とうとする反面、更識楯無の闘志は燃え上がっていく。

 

「一応確認だが、この後に用事も控えているから長引いても二十分で切り上げる。そしてこれを受ければ監視は終了してもらえるという認識でいいんだな?」

 

「結果に限らず。追加で謝罪でも何でも必要であれば」

 

「必要ない。別に君が間違ったことをしたとも思っていない。だから気は進まないが……遠慮なくかかってくると良い」

 

「ではお言葉に甘えて。ただ最後に一つだけ……IS学園での生徒会長という肩書は、学園最強という意味もあるんですッッ!!」

 

 狙うは喉元。

 自然体のままゆらっと前に倒れ込み、そこから一瞬にして加速する最高速の一歩。

 握る得物こそ扇子ではあるが、前傾姿勢はそのままに速度も乗せた自身最速の突き。

 

 これで終わるとは思ってはいない。追撃のイメージもできている。耐えられた時の追い打ちも問題ない。避けられる可能性も当然ある。仮に鍋蓋で防がれたとしても――と思考をしていた更識楯無の突きは、ステンレス製の鍋蓋の軽い音と共に、抵抗の暇もなく正面から腕ごと弾き返される。

 

「いい突きだ」

 

 男が何か言っているが、その言葉は更識楯無の脳まで届かない。

 完全に見切られ、タイミングを完璧に合わされ、その上で男を一歩も動かすこともできずに弾き返された。

 当たった瞬間、ただの鍋蓋が鋼鉄の盾かと幻視すらしてしまった。

 

 ――硬い。だったら。

 

 今の一瞬で力では押し負けると察した更識楯無は、体勢を即座に立て直し、流れる様に逆手持ちに変えた扇子をわざと鍋蓋の面にぶつけ、男が反応した瞬間に手放し、落ちてくる扇子を握り直して鍋蓋への内側へと滑り込ませて顎を狙う。

 しかし、扇子が男の顎を捉えるよりも前に、逆手で扇子を握っていた拳に妙な冷たさが広がり、次の瞬間には浮遊感に包まれた。

 

「思ったよりも力が入ってしまった。怪我はないか?」

 

 反射的に体勢を整えて着地してやっと更識楯無は状況を理解する。

 

 ――カウンターで飛ばされた。

 

 あの状況で、あのタイミングで男は避けるわけでも防ぐわけでもなく、そのまま鍋蓋を更識楯無の拳に押し当て、そのまま本人ごと振り払うように吹き飛ばしてみせた。

 自分の中で燃え上がっていくモノを感じながら、深く深くと呼吸を整え、むしろ舐めていたのは自分の方だったと反省もそこそこに扇子の先を今一度認識を改めたその男へと向ける。

 

「大丈夫です。本気で行きます」

 

「……なるほど、いらぬ心配だったか」

 

 初動は同じ。

 倒れ込み、加速し、最速の突きを放つ。そして男の鍋蓋に扇子の先が触れた瞬間、横に振り払い、ステンレスが削れる音を耳にしながら体を男の内側へと捻り込み、全ての力の流れを乗せた回し蹴りを男の蟀谷目掛けて振り抜いた。

 

 次の瞬間には破裂音のような乾いた音。

 

 三回目の攻撃にして初めて男は、今まで動かさなかった鍋蓋を持っていない方の腕で回し蹴りを受け止めた。

 だがそこで視線を交差させる暇などはない。

 更識楯無は、地につけた方の足で地面を蹴り飛び上がり、回し蹴りを受け止めた腕を軸に足を引っ掛け体を持ち上げ、引っ掛けた足と入れ替わりで手でしっかりと掴むと逆上がりにも似た動きで男の下顎目掛けて膝蹴りを放とうとするが――体は大きく外へと引っ張られる。

 

「んっ!?」

 

 急に外側へと体が引っ張られ驚きに声を上げるも、流れる視界と感じる浮遊感の質が変わったことで慌てて手を離して着地した更識楯無が見たものは、振り下ろされて地面ギリギリで寸止めされている拳。

 少し変わった足の位置と、床に付いた跡から察するに一回転した後にその拳は振り下ろされたのだろうと分かる。あのまま無理して掴まっていたら確実に地面に叩きつけられていただろうとも。

 

「こういう搦め手は新鮮だ。あぁ、これは返そう」

 

「ありがとうございます」

 

 落とした扇子を受け取り、礼を口にする更識楯無の頬はひきつっていた。

 防がれるとは思っていたものの、焦りの一つも見せずに回し蹴りを対処され、完全に虚を突いたと思った攻撃も予測されたように対応された。

 つまりまだ一撃もまともに攻撃が通っていないという事実に、更識楯無の脳裏にはISの単語が浮かんでしまう。

 

「まだ続けるか?」

 

「……お願いします!」

 

 その声でハッとして浮かんだ単語を追い払い、せめて一撃――その一つを目標に、更識楯無は扇子を構えた。

 

 

 ――そして手合わせは、アラーム音で終了を告げる。

 

「すまないが時間だ」

 

「はぁ……はぁ……はい。ありがとうございました……」

 

「少し休憩してから戻るといい。飲み物が必要であれば、あるものは勝手に飲んでくれて構わない。まだ納得がいかないようであれば、また後日訪ねてきてくれ」

 

「いえ、ふぅー……大丈夫です。約束は守ります。むしろ当初の目的も忘れて熱を上げてしまってごめんなさい」

 

「いや、それに関しては礼を言う。いい運動になった」

 

 そう言い残して男は用務員室から出ていった。

 残された更識楯無は、呼吸を整えながらゆっくりとした足取りで畳のある場所へと移動し、テーブルに置いていた携帯を手にとって耳に当てる。

 すると、ずっと繋ぎっぱなしにしていた向こう側から、缶を開けると同時に抜ける炭酸の音の後に声が聞こえてきた。

 

『気は済んだか?』

 

「正直、自信が無くなりそうです。息切れ一つさせられませんでした……本当に何者なんですか」

 

『詳しい事は私も知らん。聞きに行ったつもりがそれより面白い話があったせいでストームの記録を見損なった。だがさっきも言ったように害はないと保証はする』

 

「それは何となく分かります。手合わせ中も怪我をしないように気を使ってくれていたみたいだし、自信無くなりそうだけど清々しい気分……あぁぁぁ、お姉さんがこんな少年漫画みたいな気分になるなんて」

 

『相手が欲しければ私に声をかけるといい。暇なら相手をしてやる』

 

「またたんこぶ作りたくないので遠慮します」

 





織斑先生や他の先生方とのやり取りの時の生徒会長がどんなのだったか思い出せないので、この世界ではこんな感じで。

ネタバレに該当するかは分かりませんが、ストーム1のハーレム予定は今のところありません。
期待していた方には申し訳ありません。私の中でイメージがあまり湧かないというのと、多分今以上に私がガバるので……。


今回の装備
装備1左手:なし
装備1右手:ステンレス製の鍋蓋(新品)
装備2左手:なし
装備2右手:なし
補助装備:なし
補助装備:なし


パッと見、イオンミラーシールドって鍋蓋感ありますよね。
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