中学3年生の結依が過ごす日常を描いてみました。


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小坂井 結依(こざかいゆい)
桜本 端樹(さくらもとみずき)
荒金 澪生(あらがねみお)
鵜澤 春夏(うざわはるか)
春崎 友海(はるさきともみ)
橿渕 千広(かしぶちちひろ)

全員中3
書き慣れてないから文下手で同じことを繰り返してます


日常を愛でる。

 恋愛は世界で一番多くの人が参加している競技だ、って聞いたことがある。

 その言葉にはよく納得させられたもので。恋愛だって人と競ったりもするし、時

には人を蹴落としたりするかもしれないのか...とか思ったりもした。

 きっと成功者もどの競技よりも多くて、でもうまくいかない人もどの競技よりも

多い。チャンスも誰しもにどの競技よりも平等にあるのかなー...いや、生まれ

つきの何かとか、ひょっとしたらこの世の理のせいで、全てが平等にチャンスは与

えられてはいないんだろうが。

 そう考えると、恋愛も簡単なものじゃないんだろうな。周りが恋愛のことを囁く

ごとに、その面白さを知りたくなる。

 

 けど...

 

 けど、私にはきっと。

 

 

 その気持ちを理解できる日は来ないー。                   

 

 

 ...きっと。

 

 

 

 ー1ー                                  

 

 

 

 当然だけど、この世界は基本的に高度が高いほど寒くなるようになっている。こ

の間の理科の授業で習った。

 二階建ての我が家の窓からは、冬の澄み渡った朝なんかは遥か海まで見える。

 それほどの高地に我が家はあるということで...やはりこの時期の朝は凍てつく

ように寒い。ベッドの上に布団を二重にしてかけて、毛布にくるまってみれば、朝

なんて起きれるもんじゃない。さながら布団に憑りつかれたかのようになる。そん

な布団を振り払い、朝の紅い陽射しをたっぷりと身に染み込ませて、それからもう

凍ってしまいそうな水道水を顔に浴びせる。これが私の朝のルーティーンだ。寒さ

と争い、何とか学校のジャージに身を包んだ私は、カレンダーを見てーわかりきっ

ていたことだがー驚愕する。

 そう...もうこの地球は、一般論では春ど真ん中と言われる、4月に突入している

のだ。4月のくせして寒すぎる。...こんなことをするのも、今年は7回目だ。つま

り今日は4月7日。そして私の学校の始業式。

 去年の今は、1年ぶりに後輩を持つという事実に多々の感情が入り交じり、おと  

としの今は、中学という見知らぬ存在に正直恐れていて。あの頃の初々しさ、とい

うものだろうか。思い出すだけで懐かしくなる。

 「...いただきます」

 マグカップに注がれたばかりのコーンスープの温かさを掌で感じながら、少しだ

け口元に運ぶ。...うん、おいしい。心の中が満たされていくような感じがする。

 テレビをつけてみると、誰かもわからないお天気お姉さんが県内の今日の天気を

解説していた。どうやら今日は例年よりもすこぶる寒いらしい。いわゆる「2月上

旬並みの寒さ」というところだろうか。

 今年の2月上旬か...と考えを巡らせてみる。確かあの頃は、中旬にあった定期

テストの対策に追われていたっけ。2年最後のテストは、まあいつもと変わらない

くらいの点数だった。思いの外順位は高かったが。自分の学年の人数は57人。今

年からは全学年で最多になるらしい。その中の19番目だったのだから、意外と自

信になっている。...正直周りの友達の頭が良すぎて(その時は学年2位を友達が

取っていた)また自信なんてどこかに吹き飛んでいってしまいそうだけど。そん

な思考に耽っていたら、テレビに映し出されている番組が変わっていた。7時に

なったからだろう、最近はあまり冴えない芸人や、世間からの知名度が絶妙なとこ 

ろで留まっているアイドルのメンバーが出ている、これぞ朝の地上波情報番組って

いう感じの番組になっていた。

 ...学校で話題になってるテレビって、こういう感じの番組なのだろうか。たま

にはこういう番組でもいいかも。納豆を混ぜながら、ちょっと耳を傾けてみる。

 

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 朝のテレビは、正直新鮮味もなにも無かった。というかいつも見てる番組と内容

はほぼ同じで、やはり芸人やらがよくわかんない、全く的外れなコメントをする。

これだから冴えないんだろうなぁ...

 自分で言ってて悲しくなってきた。冴えない人間、というなら私もである。きっ

と自分では気づいてないような、自分の嫌なところなんてたくさんあるんだろう。

そうしてまた私は自信を無くしていく。私には何もできない...

 「いってきまーす」

 そんな思考を断ち切るために、はたまた新年度への期待を込めて、声を出してみ

た。そんな考えじゃだめだ。もっと自分に自信を持たないと、到底いいことなんて 

起こらない。私は靴ひもをぎゅっと縛り付けた。すべてがリセットされるような感

触。

 よし、頑張ろう。新年の決意にしては薄っぺらいかもしれないけど、私にとって

はこれで充分。

 玄関を開けると外の冷たく、しかし春を含んだ風が頬を伝ってきた。風は無機質

だ。いつだって感情もなく、私を同じ様に受け入れる。山から風が持ってきた春は、

暖かみもなく、私の頬を撫でていった。

 鍵を自転車の鍵穴に挿す。捻ると、ガチャッ、という機械の音が響き、自転車を

漕げるようになった。道路に出て、サドルに跨る。いかにも山の上という感じの、

うねった道路だ。ここから6kmほど坂道を下り続けたら(小さい山を一つ越えるけど)

、そこはもう学校。山の上から相棒と駆け出す、ちょっぴり久しぶりの感触。風を

切り、曲がり道を自転車を少し傾けて曲がり、高速道路の高架のそのさらに上を通

る。平坦な道もなければ、車通りなんてもっと少なくて。まるで地球の表側を全て

独占したみたいな、それくらいの人気のなさだ。山を一つ越えて辺りに畑が増えて

くると、やっと学校に近づいてきた感じがする。坂の上から景色を一望できるとい

うわけではないが、心なしか(というか多分気のせいだが)酸素も濃くなってきた 

気がした。久々の曲がり角を曲がり、横断歩道を渡れば、ようやく校門を目にでき

る。二つの車輪が、校門のちょっとした段差をカタン、カタンと音を出して乗り越

え、その頃には手で自転車を押していた(校内では自転車に乗ってはいけないか

ら)。クラス別の駐輪場に自転車を止める。キイィ、と音を軋ませながら自転車の

スタンドを立てて、ヘルメットを取り、前カゴからサブバックを取り出して昇降口

へ向かう足取りは、案外軽かった。上靴を取り出して履き、教室へ向かう。今日で

もう3年目の中学校だと思うと、時の流れって本当に早いものだと改めて感銘を受

けた。教室のドアを開ける。3年目どこじゃなくて、何十年とここに立ち続けてい

るドアは、前より一層重くなっていた気がした。どこか安心する感触を伝えてきた

ドアから手を放して、まずは自分の机にサブバックを掛け、机の上には家からずっ

と私の背中にくっついてきていた鞄を置いた。一仕事をやっと終えた、そんな気分

だ。教室には窓側の席に一人いるくらいで、それ以外の人影は見当たらなかった。

いや、どうやら何人かはもうすでに用意を終えて始業式の準備に行ってしまったよ

うだが。生徒会長も大変なんだな...私は隣の席に目をやりながらそう思った。

 私たちの生徒会長、桜本端樹。端樹の友好範囲というか、コミュ力の高さはほん

とにずば抜けていて、周りをいろいろと巻き込んでいく主人公タイプの人間だ。そ 

んな端樹の魅力に一度触れてしまえば、誰でも端樹から離れたくなくなるほどには

惹かれてしまう。おまけに成績優秀で手先も器用とくるのだから、非の打ちどころ

のないという言葉は端樹のためにあるんじゃないのか、と思うくらいには素晴らし

い人間だ。

 ...新学期一発目だから、きっと生徒会長の言葉、みたいなのをやるんだろう。

きっと端樹のことだから、これも淡々とミスなく終わらせる。それくらいの信頼感

はある。それより自分の仕事を終わらせなくては...私、小坂井結依は、机と向か

い合った。

 

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 私の学校、松城山中学校の体育館は、天井が地元の木材で造られていることで少

し明るい雰囲気が感じられる以外には、これといった特徴もない体育館だ。全校生

徒116人が集まってみれば意外と多いもので。私にはこの量の人の前ではまともに

喋れないだろう。

 そんなことを考えていたら、教頭先生が起立の号令をした。とうとう始業式が始

まる。いよいよ始まる3年目の中学校生活。期待と不安の大きさを天秤にかけてみ  

れば、不安の方が圧倒的に重い。それでもわずかに見える希望を求めて、私は1年

を走り抜けるのだ。結局ここには、新しい出会いを求める自分がいた。今まで何度

勝手に期待して勝手に失望しただろうか?...今はそんなこと考えるのはやめにし

よう。そうこうしていたら、生徒会長の言葉の順番が回ってきた。いつもはまとも

に始業式の話なんて聞いていないけど、生徒会長が変わってからはこれだけはしっ

かり聞くようにしている。制服に身を包んだ彼女は、いつもの数倍輝いて見える。

「春が訪れ、この中学校も...」から始まった言葉は、ひとたびも止まることなく

最後まで続いた。一礼して壇上を去る端樹に、拍手が浴びせられる。表情は見えな

かったし、どちらにしろ表情には何も出していなかったと思うけど、きっと彼女な

りに満足して、また反省点を見つけ出しているのだろう。それもまた端樹らしい。

 その後はとんとんと進み、やはり長い校長の話を適当に聞き流しながら、気付い

たら始業式が終わっていた。体育館での集会の後って、体のそこらじゅうが痛くな

るからそんなに好きじゃない。よし...さっさと教室に戻ろうかな。とりあえず一

緒に帰るために、体育館横のピロティーで友達を探してみる。

 いつも私が一緒にいる友達といえば...あ、いたいた。とりあえず近寄ってみる。

 「あ、結依ちゃん!」                           

 この子は友ちゃん。春崎友海。とも、とかでも呼ばれてたりする。友海も端樹と

似てすごくフレンドリーで、人見知りとかもないタイプの人間だ。普段からあんま

り喋るタイプではない、さながら正反対の私にもよく話しかけてきてくれる。

 「ねえね、校長先生が言ってたあの言葉の意味分かった?」

 ...この子は頭がそんなによくない、というかむしろちょっと微妙だ。そして私

はといえば...そう、全く校長の話を聞いていなかったのだ。まずいぞ、答えられ

ない。

 「結依ちゃんもわかんないかぁ」

 残念そうな表情を浮かべる友ちゃん。表情豊かというか、よく顔に出るタイプと

いうか。そんな横顔を、歩きながらじっと見つめる。なんだか退屈そうだ。友ちゃ

んも始業式で疲れたのかな?聞いてみよ。

 「なんか友ちゃん退屈そうじゃない?」

あーそうなんですよ、と言わんばかりに私のほうを向く。

 「聞いてよ!今日この後雨降るんだよ?」

 そうだった。友ちゃん、天気によってテンションがとても変わる。天気痛?偏頭

痛?みたいなのがあるって言ってた。雨の日の友ちゃん、心の中にも、目の光にも

雲がかかってるみたいになる。その分晴れの日はめちゃくちゃテンション高いけど。

まるで太陽みたいだ。みんなを明るく照らす太陽が、雨の日は曇って光が届かなく

なる。

 「そっか、友ちゃん天気で調子悪くなるもんね」

 はああ、と大きな溜息を漏らす友ちゃん。既に雲が...

 「まあいいや」

 とたん、取り直したかのようにテンションが高くなる友ちゃん。私に話を振って

きてくれる。やっぱり友ちゃんといると、私をどんどん引っ張っていってくれる。

楽しい、と心から思える。気付いたら教室に辿り着いていた。

 

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 ふうう。緊張した。

 ステージの横にはけた私ーー桜本端樹は、大きく溜息をついた。

 今日は始業式。生徒会長としての仕事を全うした後は、いっつもほっとする。見

ていた人たちからはどう映っていたかな?変な感じになってなかったかな?ってい

う不安な感情にも見舞われるけど。

 その後は何ら起こることもなく、始業式は進んでいった。各学年の代表の(1年生

はまだいないから2,3年だけなんだけど)今年の決意をとか聞いたり、校長先生のお

話をよく身に染み込ませたり。ステージのそでにはいい感じの座れるところがあっ

て、そこに腰掛けながら話に耳を傾けていた。地面に座って腰を痛めることもない

から、これもちょっとした特権なのかもしれない。そうこうしているうちに、始業

式が終わった。みんなが退場した後は、私を含めた一部のメンバーは体育館の片付

けが待っている。ステージのそでにある、2階、というか上のほうにあるベランダ

みたいなところに登れる階段を上り、大きな窓の戸締りをする。そしてそこから体

育館を見渡してみて思った。

 この学校ともあと1年でお別れか...後悔はしたくないな。

 

 やっと教室に戻ってきた。さっき始業式の終了間際に、この後の予定が生徒主任

の先生から伝えられた。この後は...緊張のクラス替えだ。誰と一緒になるかな?

それもちょっと心配だけど。今はこのクラスで迎える最後の休み時間を楽しみたい。

いつものグループのところへ向かった。

 「あ、端樹ちゃんおかえり!」

 真っ先に気づいてくれたのは友ちゃん。これこそ野生の勘。         

 「ただいまー」

 「端樹ちゃんあれよかったよ!」

 あれ、というのは多分生徒会長の言葉を指しているんだろう。少なくとも友ちゃ

んの中ではよかったらしい。ほっとした。

 「ありがと」と、多少の微笑とともに返しておく。

 いつものみんなは、いつも通り友ちゃんの席の周りを囲んでいた。今いるのは...

ええと、友ちゃんと澪生と結依ちゃんとかな。みんな小学校からの仲で、たわいも

ないことをおかしく笑いあえる仲だ。このメンバーでの休み時間は最後かもしれな

いけど、結局するのはたわいない話。それもまたいいのかもしれない。

 今回ちょっと盛り上がった話は、やはり季節柄もあるだろうか、春休みの話だっ

た。各々色んな過ごし方をしたようで、中でも友ちゃん家は家族で突発的に旅行に

出て、なんとなく行きたい場所に弾丸旅行をするという、行動力の塊みたいなこと

をしたらしい。友ちゃん的にはあんま楽しくなかったらしいが。やっぱ春崎家は一

家が自由奔放な感じで、そんな一家だから、友ちゃんという常に斜め上を行く人間

が産まれてきたのだろう。さすがの血筋だ。

 その他にも、今日の話とか雑談をしていたら、もう休み時間の終わりが迫ってい

た。幸せな時間はすぐに過ぎてしまうもので、これもあっという間だった。来年は

もう学校の休み時間にこのメンバーで集まることはできなくなるかもしれない。で

も一生このメンバーで集まれなくなるわけでもないし、きっと新しいクラスなら新

しい出会いもある。不安と比べたら大きい期待に胸を膨らませながら、私は席に着

いた。さて、クラスはどうなるのかなー...

 

 クラス別に名前が綴られた紙が配られると、クラスは阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

そして私には何よりも大切なことがある。澪生と...澪生と同じクラスになれてる

かな?自分のものよりも先に、澪生の名前を私は探し始める。

 荒金澪生...私の大親友だ。彼女は運動万能だけど、成績は微妙というか下に振

り切れてる感じの子。私とは幼いころからの友達で、いつも一緒に成長してきた、

私にとって特別な存在だ。澪生は常に私の隣にいてくれて、いつしか私には欠かせ

ない存在になっていた。常に私の心の支えなのだ。そんな彼女と離れたくない、と

思うのは自然の摂理だろう。紙を握る手にはいつしか力が入っていた。神様何卒お

願いします...祈るように紙を見つめていた私は、「荒金澪生」の名前を見つけた。

頼む...頼むぞ...私は自分の名前を探し始める。

 

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 クラス替えの高揚感を味わうのは、これで2回目だ。

 小学校の頃は1クラスしかなかったし、そのせいで中学に進学するときは、どち

らかといえばクラスをごちゃまぜにされた感じだった。

 私は、自分の名前を見つけた。出席番号は早いほうなので(苗字が「こ」から

始まるから)意外と早く見つけられる。この学年の合計人数は62人で、2クラスに

この学年は分けられているから、誰かと同じクラスになる確率は1/2。特別誰か

と一緒になりたいとかいう訳ではないんだけど...やっぱり、端樹たちとは一緒に

なりたいな。そんな思いを馳せて、私は3年1組の名簿に名を連ねたメンバーに目

を通してみる。...あ、やった!私はちょっとはにかんだ。

 私の名前のちょっと下に、「桜本端樹」の名前を見つけた。少しだけ私に希望

の光が見えた気がする。自分でも理由は分かんなかったけど、なんだか久しぶり

に高揚感という温かさに包まれた。私はふと、端樹の方を向いてみる。隣だから

近い。表情までは読み取れなかったけど、彼女が何を願っているかは私にも分か

る。とその時、端樹が突然振り返った。彼女からはなんというか、嬉しいオーラ

みたいなのが漂っていた。分かりきっていたが、彼女の目線は、確実に澪生を捉

えていた。様子を見るに、2人はどうやら同じクラスらしい。今年も同じになれ

たね、今年もよろしくね、もう私を変なことに巻き込まないでよ、はいはい分かっ

てるよ、まあ多分今年も何かに私は巻き込まれるんだろうけどね、もううるさいな

ぁ、とかいう内容を、口を開かずに見つめあうだけで交換し合ったのだろう。ちょ

っと、そんな仲が羨ましかった。

 なんだかそれを見て不思議と満足した私は、視線を自分の紙に戻そうとして...

ふと目が合った。友ちゃんだった。...彼女の心内は、その130%が顔に出るから、

彼女が何を思っているかはかなり簡単に読み取れる。今回はやけに嫌そうな表情を

しているから、きっとみんなと違うクラスになっちゃった、とかそんなとこだろう。

紙に目を落としてみる。上の方から、荒金澪生、小坂井結依、桜本端樹...ほんと

だ、春崎友海の名前は同じ列に記されていなかった。もう一回友ちゃんの方を向い

てみる。ね、でしょ!?私だけひどくない!?...言いたいことはそんなことだろうか、

まあとにかく悲しそうな表情。とりあえずふふっ、と笑っておく。はあぁ、と落胆

して顔を下に向けた友ちゃんは、また紙に目を戻して、穴が開きそうになるくらい

紙を見つめていた。まあ友ちゃんなら、別クラスでも全然何とかなるはずだ。それ

より自分のクラスだ。他には誰がいるかなーっと...仲がいい人が多いに越したこ

とはない。探してみたら、1人だけ仲がいい人を見つけた。

 鵜澤春夏。山奥のド田舎と言っても差し支えないところにある私の家の1,2kmほ

ど離れたところに住んでて、それでも同級生の中では一番のご近所さんだ。家同士

が近いわけじゃなかったから家族ぐるみの付き合いとかはないけど、小学校の頃の

送迎バス(学校と家があまりにも遠すぎたから使っていた)ではいつも最後まで残る

2人組だったから、自然と距離は縮まっていった。だから、私とは一番仲のいい子

だと思う。春夏ちゃんは、これまた成績もよく運動もいけるという、まさしく両刀、

万能型の子。結構足元を見るタイプというか、石橋を金槌で叩いて渡る感じの慎重

さが取り柄だ。いつも端樹の暴走を止めてる。

 しかしまあこうして見てみると、ほんとに錚々たるメンツだ。端樹、澪生、友ち

ゃん、春夏。小学校時代から続いてるこの5人の縁は深いもので、どこの誰よりも

仲のいい自信がある。いつも先頭に立ってリードしてくれる端樹とそのそばで歩き

続ける澪生。そんな2人の頭を冷やす春夏、文字通りのムードメーカーな友ちゃん。

小学校時代からこの構図は変わることなく続いてきた。そんなこの関係が、ちょっ

と誇らしくて、そしてとても愛おしかった。毎年誰かは別のクラスになるけど。

 さあ、もうすぐ本格的にクラスが変わる。わずかな不安は、ほとんどがすでに期

待へと裏返っていた。机を2階の教室にこの手で運んだら、全てが終わりまた始ま

る。今年こそ...私は変わるんだ!そう心の中で意気込んだ。

 

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 私がそうして意気込むのには、当然理由があった。

 元々私、小坂井結依という人間は内気な人間だった(今でも変わらないけど)。

小2の時、当時小学6年生で4つ上の兄が学校でうまくやってるのを見て、同じ血筋

の私もあんな感じにわいわい楽しくできるのかな、と子供並みに思っていた。

 実際は、違った。

 私のことを待ち受けていたのは、想像していたより遥かに厳しい現実だった。2

年生頃まではなんとなくでどうにかなっていた友達関係も、3年生くらいになって

クラス内が何人かのグループに分かれ始めたころには、私は孤立していた。生憎自

分の学年は少人数で1クラスしかなかったもんだから、クラス替えによる変化、な

んてものは到底望めなかった。次第に学校に行かない日も増えて、学校よりも落ち

着いて勉強できる家での勉強を選ぶようになった。別に学校が嫌いって訳じゃない

し、実際兄の学校の話を聞くのは大好きだった。けど、自分の無力さ、ちっぽけさ

をそうして知っていくうちに、自分の心が自己嫌悪に包まれていった。その気持ち

はどこにぶつけたらいい?そのうち、私の心には、ぶ厚い雲が二重、三重とかかっ

た。無慈悲にも、家の窓から畑越しに見える海だけはいつも蒼かった。

 これだけはよく覚えている。5年生の2学期の始めから、転入生が入ってきた。転

入生はちょうど1年前くらいにたくさん一斉に入ってきたから(理由はまたいつか

話すことになると思う)転入生に特別さは感じなかった。始業式で自己紹介をして

たんだけど、その第一印象は...なんかやけに明るい子だなーって感じだった。そ

の後、教室に帰るときにさっそくネタ化されてたのを私は見逃していない。

 次に学校に行ったのは...その1か月後くらいだったはず。たまに学校に行って

、今勉強してるところを確認しないといけない。それ以外は別に何も望んでいなか

った。いつも通り、休み時間は本でも読んでやりすごそうー

 「おはよ!」

 ...とは行かなかった。誰だろう...めんどくさいな。そうは思いつつも、声のし

た方を振り返ってみた。

 「あっ、初めましてか!」

 はっとした表情をしていた。えーと、正直見覚えがない。女子で、中肉中背で、

眼鏡かけてて...こんな子いたっけ?...あ、今初めましてって言ってたか。そりゃ

見覚えないわけだ。

 「えと、私、桜本端樹って言います!これからよろしくね!」

 そう言うと、彼女は誰か別の人に呼ばれて、「それじゃまた後で」と残して去っ

ていった。多分あの子が最近転入してきた子なのかな?もう友達出来たのか。そう

考えると、あ...よろしく...とかいう情けない返事しかできなかった自分が猛烈に

悔しくなってきた。

 帰りのバスの中で考えた。結局あれから話しかけられなかったし、端樹はすっご

く楽しそうに生活してたし。それが、ちょっと羨ましく思えた。普段から兄が羨ま

しいとは思ってたけど、より間近で似たようなものを見てしまったから、もっと強

くそう思うようになった。その後も端樹を見るたび、その気持ちが昂っていった。

でも、自分はそうはなれない、ということも分かっていた。いくら夢を見ても、そ

れは夢。現実になんてなりゃしない。そう思っていたし、そうして自分のほとんど

を分かっていたからこそ、現実の自分となりたい自分の乖離が大きすぎて、それに

絶望も覚えていた。だから、兄や端樹みたいになりたいとは思ったけど、そうなろ

う、とは思いもしなかった。

 

 11月の初めごろ。我が家に、思いもよらない来客が訪れた。

 その日は休日だったんだけど、母は買い物、父は仕事の関係でいなくて、兄は高

校受験の勉強してくるって言って外出してたから、家には私しかいなかった。私は

特にあてもなく自分の部屋で漫画を読んでて、そんなタイミングの来客だった。

「誰か来たら適当に追っ払っといて」という親の適当そのものな指示を受けてたか

ら、まあこんな山奥まで来るんならセールスとかではないだろうな、とか思いなが

ら玄関を開けた。

 「っあ、こんにちは」

扉の先には、私と同じくらいの身長の女子が立っていた。...どこかで聞いたこと

がある声のような、違うような...誰だっけ?

 「桜本端樹です、覚えてる?」

 あー、と何の感情にも属さないような声を出した私は、どうすればいいか分から

ず内心めちゃ焦っていた。

 「とりあえず...家、上がります?」

 いつからだろう、私は同年代の人にも敬語を使うようになったのは。

 我が家の居間に上がった私たち-端樹と私と、端樹のお母さんもいた-は、はっき

り言って気まずい雰囲気になるーそう思っていた。蓋を開けてみれば、全くそんな

こともなかった。そういえば端樹のコミュ力に気づかされたのもこの時だった。話

を聞いてみると、この間「また後で」って言ったのに話しかけられなかったのが彼

女にとって心残りだったらしく、なかなか学校に来なかった私の元に端樹自ら赴い

た、ということで来たらしい。話していくうちに、私達はだんだん打ち解けていっ

た(10割端樹のおかげ)。それは言葉では言い表しにくい感覚だったんだけど、表す

なら端樹には、並々ならぬ包容力があった。話を出せない私に、間が空きそうにな

ったらすぐ機転を利かせて話を振ってくれるし、その振られる話も絶妙で、まだ彼

女にとってよくわかんなかったであろう私にも盛り上がる話を振ってくれて。結構

考えてやってるのかなー、って思ったんだけど、彼女は何も考えずに、天性の才能

に促されるまま話してるようにも見えて、この子は格が違うな、って思ったりもし

た。なんやかんや話してるうちに、私は端樹の魅力にしっかり沈められていた。こ

の子なら私を光に導いてくれるかもしれない、って思った私は、端樹にこんなこと

を問うた。

 「どうすれば、端樹みたいになれるかな...?」

 こんなことを、私が、ましてや本人に聞くことなんて、中3になった今現在でも

この1回しかなかった。それでも、端樹にならいいんじゃないか、きっと受け入れ

てくれる、と感じさせるものがあった。そんな私の言葉に、最初は首を傾げていた

端樹だったが、どうやら私の聞きたいことを理解したらしく、「あー」と唸った。

正直一言で意図が伝わるとは思いもしていなかったから、その時は若干引いた...

いや、洞察力に感心した、としておこう。

 「そうだねえ、もっと学校とかで友達との関わりを持ちたい、とかそんな感じ?」

 私は首を縦に頷かせた。

 「そうか、それならね...」

 さっきまでほぼ見せなかった小学生の私達らしい表情、それも屈託ない笑顔を浮

かべながら端樹が告げた言葉は、私の心に何よりも鋭利に突き刺さった。

 「     」

 そうか。私はーーー私が。

  

 変わらないといけないんだーー。

 

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 とにかく私はその時に、変わらなければいけない、ということをよーく思い知っ

た。その努力の結果(きっとその頃の話もする日がくる)、端樹を始めとして、澪生、

春夏、友海という気の置けない友達と共になれた訳だ。...けど、私の中には、まだ

1つ、心残りがあった。そう、私はこのみんなと違って、やはり人見知りがすぎるの

だ。やはり小学生時代の経験の違いなのだろうか。そのせいで、中学校で新しく同

じ中学校になった人たちともみんな仲良くなる中で、私だけ1人取り残されることに

なった。このままだとまた同じじゃないか、確かに昔よりは良化したんだろうけど...

そんな時に昔の端樹の言葉が蘇ってきて、私は、今年さらに進化してみせる、と決

意をして。そうして今に至っている。私は机と椅子をがっちりと持ち上げ、1年間

使い古した教室を後にした。春は出会いと別れの季節。この教室との別れが最後の

別れになるのかな?それなら後は出会うだけだ。やっぱり不安だけど、強い意志が

私を新たな出会いへ突き動かそうとしている。...頑張ろう。

 

 

 

 2 

 

 

 

 月曜日の授業は、長い。

 何も実際の時間が長いわけじゃなくて、体感的な時間の長さの話だけど。週末明

けなんて何のやる気も出ないのはあるあるじゃないだろうか、って考えたりしてみ

る。きっとそうだ。そうに違いない。

 5月8日。月曜日。いつも通りの何気ない日常が通り過ぎている。いつものように

先生の授業が教室内に響き、チョークが黒板を叩く音が耳を刺激する。何か起こる

訳でも、何かが変わる訳でもない日常。

 でも、全く刺激のないわけじゃない。その証拠に、今日はクラス全体が浮足立っ

ている。

 それはなぜか?そう、なんと明日は修学旅行である。中学2年間、待ちに待った

修学旅行である。だから今日は午前で下校だ。嬉しい。

 と、そんな感じの思考に耽っている間に、クラスは休み時間を迎えた。今からク

ラスで起きる会話の半分は修学旅行関連だろう。私も次の授業の準備したら、みん

なのとこに行こうっと。

 みんなのところに行くと、いつものメンツがいた。端樹、澪生、春夏。あともう

1人、最近よくこの輪に加わっている人がいる。男子である。

 彼の名前は橿渕千広。なんやかんやで私以外の3人とはそれなりに仲が良い。私

以外とは。ここでも私のコミュ力のなさが露呈していく...

 それはそうとして、彼もまた春夏だったりと同じ、頭脳に振り切れたタイプの人

間である。唯一違うところがあるとすれば、彼、頭のネジが何本か欠品している。

こいつなんでテストでいい点取れるんだ...?って思うくらいには狂人ムーブをす

るらしい。普通のモラルは持ち合わせているらしいけど。以下端樹談。

 それはそうと、彼は澪生と同じ部活らしい。彼女によれば、部内ではまだマシな

人間らしい。...それは周りがひどすぎるだけでは?野球部に対する疑問がより一

層深まっていく...あ、澪生が野球部なの、言ってなかった気がする。正直意外だ。

 と、彼についての話もその辺にしておこう。この5人で話すことは一体何だろう

?まあきっと修学旅行関連だろうけど。

 「そういやさ」最初に口を開いたのは端樹。「明日ってさ、飲み物水筒で持って

く?」

 「や、ペットボトルで持ってく」と千広。続いて、「私もかなー」と春夏。

 あー、と感嘆だかなんだかの声を上げた端樹は、「もう買った?」とさらに質問。

 「もう水3本買ったよ」と春夏、「私麦茶にしたー」と澪生、「そういやまだ買

ってないわ」と千広。きっとこの後買いに行くんだろう。と、

 「かしは水なしでもいいでしょ?」と端樹。「いやよくないわ!」と千広もつか

さず反撃する。そういえば、彼はこういうキャラだった。彼が輪に加わって以来、

いじられ役を一手に担っている。打ち解けたことの表れだろうか。

 「え、じゃあさ、一緒に買いに行こうよ?」端樹が澪生に誘いかけた。なにがじ

ゃあなのかは理解に苦しむが、まあ楽しそうだしいいだろう。「春っちと結依も一

緒にさ?」端樹が私たちにも誘いかけた。「ねえーその呼び方やめてよー」と春夏

が笑って返した。私も「行こ行こ」と同調しておく。

 「よーし、決まりで!」端樹が楽しそうに言った。...なんか1人忘れてない?

 

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 そんなこんなで、修学旅行当日を迎えた。

 ただいま朝6:35。体育館に、3年生57人のうちの3分の1くらいは集まっていた。

私は三日間の物資が詰め込まれた重いキャリーケースを自分が並んでいる位置の横

に置き、床に座り込んだ。うーーん、親しい人がまだ誰もいない。暇だ。...正確

には千広がいるが、まだそこまで仲良くないしそこに話しかける勇気もない。暇だ。

 どうしようかな...とか思ってると、

 「結依さん?」

 と声をかけられた。この声は...先生だ。3年2組の優しいおじさん先生だ。

 はい?と返答すると、先生は

 「ちょっと、上の窓開けてきてくれない?」

 と上の方を指さして言った。特に断る理由もないし、行ってこよう。わかりまし

た、と告げてから私は舞台袖へ向かった。舞台袖の空間の端にある階段を登り、上

へ向かった。窓を開ける用のコックに手をかけて回すという行為を繰り返し、東側

3つの窓を開けたところで帰ることにした。上の空間と階段の間にある扉を引き...

っと!?ばったり人と出会った。誰だ?

 ...あ、千広だ。うーん、あっちもこっちも気まずい。どうしたもんか。

 「びっくりしたぁ」

 と、あっちが先に口を開いた。えっと、えっと...

 「橿渕さんだったっけ?」

 ちなみに読みは「かしぶち」。初見じゃ読めない。と、ふっと千広が笑った。

 「そんな堅苦しくなくてもいいのに」

 そ、そうだよね。一応同級生だ。普通にいこう。なるべく。

 「どう?修学旅行は」

 それは旅行中に聞くことではないか?まあ楽しみかどうか聞いてくれてるんだろ

うけど。どうやら話を振るのが苦手なタイプらしい。ちょっと親近感。

 「うーん、楽しみ、かな?」

 と答えると、千広がうんうん、と相槌を打った。

 と、会話がそこで止まる。彼もまた会話が苦手な人間らしい。こうなると気まず

い。どうしたもんか...と、先に行動を起こしたのはまたもや彼だった。

 「あっ、そういやすぐ帰ってきてって言われてるんだった」

 彼はそう言い、はっとした顔をしてその場を足早に去ろうとしてーーふっとこち

らを振り向いた。ちょっと恥ずかしそうに目線を向けて、呟きともとれるくらいの

声量でこう言った。

 「もっと...距離、縮めたいな」

 私も完全に同意だ。私もだよ、という意思を伝えるために頷いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 体育館には設備されていない空調が、私たちに強く吹きつける。バスに乗り込ん

だ私たちは既に発車を待つだけで、これからの三日間の期待に胸を膨らませていた。

 目下には、松城山地区の平地が広がる。農地が広がり、その奥に家がいくつか建

っている。そのさらに奥には切り立つ山々。田舎と住宅街の狭間に位置している。

そんな松城山には、しばらく帰ってくることもない。2泊3日。京都への旅行だ。

 バスがガコンと揺れ、後ろに引っ張られるような感触がした後、31名と先生たち

を乗せたバスは動き出した。私たちが今から味わう非日常に。

 とはいったものの、やっぱり一抹の不安は残る。なんだろう、起きることがわか

らないってのは、なんとなく嫌なもんだ。

 「松城山中学校のみなさん、こんにちは~」

 そんな私の思考は、バスガイドさんによって遮られた。そんなことは今はいい。

私にはこの修学旅行を楽しむ義務があるのだ。気にしたら負けだろう。青く澄み渡

った空に、一筋の飛行機雲がまっすぐに描かれていた。

 

 そんなこんなで、3時間半の時間が流れた。京都府は宇治市、最初の目的地であ

る平等院鳳凰堂に到着した。あーー、長かった...いくら途中に休憩を2度挟んだ

とはいえ、身体は完全に凝り固まって節々が痛くなっていた。バスから京都の地に

降り立ち、体をほぐすように伸びをする。

 「いや~着いたね~」

 春夏もんんっと伸びながら私に話しかけてきた。

 「長かったね」

 「ね~」

 冷静さが取り柄の春夏も、今日ばかりはテンションが高い。言葉の至る所に感情

を感じる。

 バス乗り場から横断歩道を渡ったところに位置していた平等院鳳凰堂。とはいえ、

入口からはまだ全容は見えなかった。鳥居をくぐり、段々状になっている石段を下

れば、少しずつ全容が見えてくる。青とも緑とも言い難いような池の中央に、赤い

それはそびえ立っていた。壮観だ。

 池の周囲を回り、いい感じの場所で集合写真を撮った後、資料館?みたいなとこ

ろに入った。

 「おー...なんかすごいねぇ...」

 というふわっとした感想しかでてこない春夏もまた彼女らしい。

 「なんかさ」

 昔の遺跡?や武器の再現したものが展示されてるエリアに入ったところで、春夏

が口を開いた。昔から、2人の時に先に話しかけるのは春夏の方だ。

 「家族とじゃなくて友達と行くのって楽しいよね」

 「あ、それわかる」

 まあ今は2人じゃないけど。今、口を開いたのが千広だ。他はといえば...友ちゃ

んは別クラスなのでいない、瑞樹と澪は後ろで2人で回ってるのでいない。そうい

うわけだ。まあ千広がここにいる理由はなんとなく察しがつくんだけど...

 「そういう機会滅多にないからさ」

 彼がぼそっとつぶやいた。彼、早口すぎる。

 

 そうこうしている間に日は傾き、5時にもなれば奈良県は春日大社に全員が集結

していた。ガイドさんの案内に沿って石段を上がり、鳥居をくぐって、赤い建物の

前で一行の足は止まった。

 「ここは、この建物の前でお祈りすると願いが叶うと言われていて、特に音楽に

関することが叶うと言われています」

 というガイドさんの説明が終わるなり、このころには一緒に回っていた瑞樹がお

祈りしだした。彼女は吹部である。彼女にとっての部活人生を懸けた大会も間近だ。

部長ということもあり、彼女だけ周りと一線を画した必死の様相でそれに向けてお

祈りしていた。あの一生懸命さがまた彼女の魅力であるのだろう。

 

 一日が終わる頃には空は暗くなることは周知の事実であり、生暖かかった風は少

しだけ爽やかになっていた。修学旅行一日目...私が求めていたような非日常では

ないような、しかしまあ今までとは確実に違う充実した一日を過ごせたんだとは思

う。これ以上を求めるのは間違ってるのかな?でも、期待するだけなら...いいよ

ね。あと二日も、それなりに楽しめたらいいな...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 朝五時半。早い。普段なら絶対こんな時間には起きないだろう。私たちの部屋に

朝五時半を知らせてくれた時計のアラームを、春夏が止める。うーん...と伸びを

しながら、

 「おはよぉ...」

 と眠そうに春夏が言った。

 「おはよぅ..」

 と、私も重い瞼をこすりながら返す。ほわぁぁ...と、二人の欠伸がシンクロし

た。それに私たちは同時に気づき、同時に顔を見合わせて笑った。何気ない日常が、

今日もまた交差している。平和に、変わることもなく、そしてすこし愛おしく。

 

 二日目は、班ごとに事前に決めた場所を巡る班別研修の日だ。私は春夏と同じ班。

他には2人いたけど...私より春夏との方が仲が良いようだった。いや...私のコミュ

力が低いだけ?でも喋りかけてくれたし、まあなんでもいいか。

 

 そんなこんなで、二日目が終わった。二日目...特に特筆すべきことはなかったけ

ど、春夏と一緒にいる時間はやっぱ楽しいな、とは思う。この絆は永遠でありたい..

そう思う。非日常なような、ある意味の日常なような、そんな感じの二日間だ。と

にかく、ひたすら大切なものであるということ。この調子なら三日目もこの調子で

終わるんだろうな...惜しい。

 

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 うーん...何時だろ...?ふと目覚めた。

 枕の近くにあるミニテーブルの上に置かれたデジタル時計の液晶を触る。すると

時刻といくつかのメニューが浮き出てくる。

 4:50。そう、4:50である。はっ、早ぁ...

 というか...昨日の記憶がない。えっと...昨日は、お風呂入って、歯も磨いて、

春夏が部屋長会から帰ってくるまでテレビでも見てようと思って...え、寝た?

 わー、まじかぁ...昨日そんな疲れてたかな?外は、青白いような、とりあえず

日頃から見かけるような色ではなかった。ひとまず、シャワーでも浴びようかな。

 

 私が上がった頃には、春夏もすでに目を覚ましていたなんてことはなかった。

5:28。そうだ、いいこと考えた。普段の私ならこんなことしないけど...ね。

 寝ている春夏の横に近づくと、ぐぐっと顔を上から覗き込むように近づけた。起

きたらどんな反応するかなー?

 時計から音が発された。起きるかな?と、少しずつ春夏の重そうな瞼が持ち上げ

られていく。そして...

 「うわっ!?」

 瞬間、彼女の瞼は一瞬にしてかっ開いた。普段からおとなしい性格の彼女がそう

そう出すことのないであろう、裏返った高い声。

 「えっ...えっ?」

 彼女らしくない困惑した様子。まだこの状況を理解していないのだろう、頬がこ

れでもかと紅潮している。

 私がにぃっと微笑むと、ようやく彼女は我に返ったのか、

 「結依ちゃん~~!もぉ~びっくりした~~」

 と、私の肩を普段より大袈裟にゆすった。二人してずっと笑いが止まらない。昨

日の焼き増しかもしれないけど...これがいいんだ。私にとって。

 

 「あ!渡月橋!」春夏がおもしろそうに声を上げた。

 私も「お~」と感嘆符を上げてみる。

 「あれが渡月橋かぁ~、私、漫画でしか見たことなかったからさ~」

 春夏の声が弾んでいる。実物を見ることのできた感動というのは、私にもよく分

かる。

 「ね、期待を裏切らない感じ」

 千広が声を上げる。なんで彼がここにいるのか...

 そもそも、今の時間はクラス別研修だ。まず嵐山に着いた私たちは、レストラン

らしき所でブレスレット作りをした。数珠とかをゴム糸に通して...って感じ。数

珠には一つ一つ意味があって、数珠は二つだけ選んで...みたいな。雰囲気はそん

な感じ。それで、その後約二時間の自由行動タイム。今ここである。私と春夏と、

春夏が「千広も一緒に回る?」って誘ったから千広も。この三人で、嵐山を回って

いる。青と透明なピースで構成されたブレスレットを身に着けた春夏、黄色と橙の

ピースで作られたブレスレットを腕に通した千広、そして透明な黄緑と透明なピー

スで作ったブレスレットの私。いずれも左腕にそれを通している。

 まあそういう訳で、千広がここにいるってこと。

 「千広も何かで渡月橋見たことあるの?」

 「あー、私も漫画で」

 「漫画!へぇ~、貸してって言ったら貸してくれる?」

 「あ、7,8巻なら」

 「え、1巻からじゃないんだ?」

 「1巻から6巻までは荒金さんから貸してもらったんだよね~」

 「へぇ~」

 なんて他愛無い話をしている2人。千広にとっちゃ特別なことなんであろうけど。

 「じゃーあっち行く?」

 春夏の問いに、私は静かに頷いた。

 


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