彼方に継ぐ道化師   作:転生したらアメリカザリガニだった

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第六話 暗躍跋扈(トラブルメーカー)

 星ひとつ顔を見せない、曇天の夜空。そんな真っ暗闇を照らすように魔石灯が一つ、また一つと煌々に輝いて通りを照らしている。灯されていく光を目で追いながらヘスティアはふらふらとおぼつかない足取りで本拠(ホーム)である廃れた教会を目指していた。

 

 飾り気のない紐の髪留めでまとめられた漆黒のツインテールを揺らして、魔石灯の灯りのようにヘスティアはユラユラしている。見れば薄っすらと蒸気した相貌に、時折「……ひっく」と、可愛らしいしゃっくりを出している。所謂、酩酊状態というものだ。少女と幼女の境界線で揺れ動くヘスティアの外見からしたら補導されてもおかしくない姿である。だが道すがらにすれ違う人々はヘスティアの酔っ払い姿を見ても気にも留めない。それは相手が超越存在(デウスデア)――――神だと知っているからだ。

 

 とはいえ、不用心に極まりない。見ての通り、今のヘスティアにお供となる眷族はいない。

 

 通常、殆どの下界の住人――――子供達は畏れ多くて害そうとはしないが、中には不敬上等、罰当たりなにそれといった感じで襲って来る輩も存在する。そして、それ以上に多いのが同じ神だ。オラリオというステージに上がり、スポットライトを浴びる為に足を引っ張ってステージから突き落とす。取り締まろうと強く出ようにも相手が神である以上、子供達は及び腰になるのは無理もない話である。だからこそ、自らの名を冠した集まりを強固にしなければならない。悲しいかな弱肉強食の理がここにもあるのだ。

 

 そして、ヘスティアの隣にいる筈の眷族であるベルが今回の酔っ払いヘスティアの原因。

 

 いや、元を正して正確にすれば原因はヘスティア自神に辿り着く。あの一件、ベルがヘスティアの眷族となったあの日。バイト中にて目撃してしまった知らないエルフの女性と仲睦まじい様子(主神目線)に行方知れずに帰ってきた深夜零時。あれから、数日……一週間ちょうどになる。酩酊しているがきっちりと覚えていたヘスティア。

 

 真綿で首を締めるような気持ちでうなされては意固地になってしまった。罪悪感が日々、加算されては息苦しい。本音をありのまま打ち明けることができたら楽になれるのにと分かっていながらも素直になれる一歩が踏み出せない、そんな気持ち。

 

 天界にいた頃には思いもしなかった。自分がこんなにも嫉妬深くて独占欲があったなんて、と。ヘスティアは胸中に抱く。

 

 初めての眷族。それだけでも特別なものだ。あの何処にでもあるような路地裏でのベルとの出会い。ぶつかって、こけて、倒れて……差し伸べられた、少年の手。柔らかいようで、しっかりと男の子した力強い感触を今も覚えている。着の身着のまま天界から降りて、知名度なんて欠片もないのに自分から進んで眷族になりたいといった少年の言葉はずっと忘れないだろう。

 

 だからなのだろうか、あんな些細な出来事ひとつで、こうもかき乱される自分に戸惑いを覚えるのは。

 

 気づけばヘスティアは中央広場(セントラル・パーク)の中ほどで立ち止まっていた。見上げれば見事にライトアップされている白亜の巨塔――――バベル。あの地下深くにあるこの世で一番危険な魔窟、ダンジョンにベルは毎日、潜っているのだ。

 

「――――よし、ちゃんと謝ろうっ!」

 

 摩天楼(バベル)を見上げて意気込むヘスティア。突然の独り言にすれ違う冒険者達がビクッと身をすくませるがヘスティアは気にしない。これも全部、お酒のせいでありアルコールの勢いだと思うことした。そして、項垂れて萎れていたのを見かねて今日、飲み会に誘ってくれたタケミカヅチとミアハに改めて心の中で礼を言う。

 

 天界から下界に降り、オラリオを訪れて知り合った二人。互いに似たような問題を抱える【ファミリア】の事情からか、良好な関係を築いていた。

 

 そして、今回。奢りという言葉に見事釣られて、酒の勢いに任せて愚痴を吐いては幾分かマシになったとヘスティアは思った。とはいえ、宴も終わり迎えにやって来たタケミカヅチとミアハの眷族達の光景に嫉妬してしまったが、と思い出して苦笑する。タケとミアハから「送ろうかヘスティア?」と言われるも強がって「ボクにも迎えがあるから大丈夫っ!」などと返したのはあまりに痛恨の極み。

 

 黒髪を角髪(みずら)にした偉丈夫を越えた偉丈夫感漂う男――――武神、タケミカヅチが教訓でも述べるようにして別れ際に言ったアドバイス。

 

「俺がいた極東には今日の一針明日の十針という(ことわざ)がある」

 

 なんでも意味は、ほころびを今日縫えば一針で済むところを先延ばしをした為に明日は十針縫わねばならなくなるとかなんとか。今一、ピンとこないとヘスティアは首を傾げる。タケミカヅチの言葉に続くように温和な笑みを浮かべるミアハが補足するようにして口を開く。

 

「いらぬ苦労をせぬものを遅らせた為に余計な負担を負うということだヘスティア」

 

 今になって納得である。

 

 未だ頭は酩酊のままだが、決意を新たにして思い返す友神たちの言葉にヘスティアは妙な胸騒ぎを覚えた。これもまたタケミカヅチがいた極東の言葉で虫の知らせというやつだ。第六感ともいう類でのやつで、簡単にいってしまえば勘だ。だが、中々どうして神の直感というやつだけは馬鹿にはできない。なにか、兆しがあるような気すら芽生える。

 

 見据える方角はベルと二人で過ごす本拠(ホーム)。最後通牒とばかりに居候していた友神のヘファイストスから住処だけは用意してあげると言われて貰った古い教会。

 

「ベル君はもう家に着いたかな……今度はボクが門限を破りそうだよ」

 

 雲に覆われた星でも探すように何処か遠くを見ようとするヘスティア。その瞳に白い影が通り過ぎては思わず大きく目を見開く。見間違いようもない白い髪の少年の後ろ姿。確信、間違いなくヘスティアの眷族、ベル・クラネルだった。背中に背負う両刃で直身(すぐみ)長剣(ロングソード)と戦闘時の機動力と持久力を確保するために必要最低限に急所のみを守る軽装鎧(ライトアーマー)。朝、ダンジョンに向かった時と変わらないベルの姿。ダンジョンから戻って来てはギルドに寄って『魔石』などを換金してきたのだろう姿に思わずヘスティアの小さな腕が大きく振りかぶる。

 

「おーい、ベル君――――んんッツ!?」

 

 そのままお酒の勢いを借りるようにしてテテテテと、駆け足で声をかける。ベルの背後を襲わんばかりに、その距離は縮まっていく。もう数十歩――――飛び出て抱きつき射程圏内に入るや否や、ベルとヘスティアの間を割って入るようにして現れた人物にヘスティアは阻まれた。

 

「――――ごめん、ベル君待たせちゃって……どうしたの?」

「あ、いえ、エイナさん……今、神様の声がきこえたような気がして」

 

 バツの悪そうな顔しては、しきりに首を回して辺りを見るベル。日も沈んで、遅い時間に主神の声を聞いてギョッとした面持ちを見せていたが今いるギルド本部、そして声のした中央広場(セントラル・パーク)にヘスティアの姿はない。幻聴、気のせいだと思い流してほっと一安心した。

 

「おや~? ベル君、よそ事を考えていていいのかな~」

「ごめんなさいっ! エイナさん、大丈夫です。しっかりと僕が守りますから」

「よし、任せた。じゃあ、帰り道にお店に寄っていこうか」

「はい、お願いします!」

 

 白大理石で作られた荘厳な万神殿(パンテオン)、ギルド本部の正面玄関――――ではなく、裏口。まるでひそひそ話でもするかのような、いかにも親密な関係のような、今からちょっと夜の出会いみたいなソレが繰り広げられるのをジッと食い入るように見るヘスティア。何が万神殿(パンテオン)か、もう伏魔殿(パンデモニウム)の間違いじゃないだろうか? と、胸中にツッコミを入れるヘスティア。

 

 白亜の支柱にすっぽりと隠れては彼らの会話を一つとして聞き逃すことない。ヘスティア・イヤーは地獄耳だ。

 

 ギルド本部の裏口から出ていき、向かって行くのはメインストリート。服装は違うが、ベルの隣にいる女性に見覚えがある。確か名前はエイナ・チュール。ベルの冒険者活動を支援するエルフ、いやハーフエルフのアドバイザー。ある日、ベルが青い顔で持ち帰った重要書類。その内容はギルドから査定された我がファミリアの等級(ランク)

 

 実力に応じて下級冒険者や上級冒険者と細かく分けられる冒険者と同じように【ファミリア】にもそういった格付けが存在する。等級(ランク)と呼ばれ、ギルドからIからSまで十段階評価。この等級(ランク)が高ければ高いほど、様々な特典といった見返りがあるらしい……。その代わり、ギルドに毎月納めなければならない徴税の金額も跳ね上がる。

 

 自他共に認める設立ほやほやの零細ファミリア。そんなヘスティア・ファミリアにギルドが下したファミリアの評価はD等級(ランク)。ファミリアの申請を申し出て一週間そこらでの、この評価。通達書と同封されていた徴税金額の桁に思わず送還しそうになった数日前が妙に懐かしい。いっそあの日まで戻れたらならばどれだけ気が楽なの事かと思うヘスティア。

 

 可愛い眷族に羽交い締めされるのを振り解いて直談判。その時に対応したのが彼女である。

 

「ん゛ん゛ッまたしても妖精(エロフ)。ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 眦を決して、二人の後を追うヘスティア。思えば、ファミリアの等級(ランク)が決まってからのベルはどこかソワソワしているような浮ついているような雰囲気があった。

 

 出会って間もないにもかかわらず、早々に眷族との関係も組織の地盤も躓いたスタート。トドメとばかりにギルドからは多額の徴税金に目が回る。そうして、夜空に向こうに溶け込む彼らを追いすがるようにして、時には隠れるようにしてあとを追うのであった。

 

 ベル、エイナ、そして更に後ろでヘスティア。歩く通り道は、商店が並ぶ表参道。各々の商業系ファミリアの看板を掲げて建ち並ぶ市街地(ストリート)、その一区画。遠目でも分かる和気あいあいとした二人が立ち止まる。そして、入店。すかさず、どんなお店なのかと小走りで確認するヘスティア。

 

 その商店は冒険者が立ち寄るような武具の専門店。他を見れば建ち並ぶ商店はどれも武具を扱う店ばかり。そして、二人が来店した店は他とは違い、ある特色があった。それは女性向けの商店。通りを歩く冒険者の目を引く陳列窓(ショーウィンドウ)には素人目でも分かるように数体の観賞用人形(ビスク・ドール)が綺麗に並んでいる。どれもがきめ細かな意匠こらす装飾品たち。首飾り(アミュレット)腕輪(ブレスレット)等々……。お店の外には従業員なのだろう、商品を身につけて可愛らしく客引きをしている。

 

 女性の冒険者じゃなくても、欲しくなるようなデザインである。気づけば陳列窓(ショーウィンドウ)の硝子越しにある一体の真っ白な観賞用人形(ビスク・ドール)に目が留まる。綺麗な髪留めであった、蒼いリボンに小さな銀の鐘が一対となっている。そして、ベル達を確認すべく、お店の中を覗き込むが、従業員達に不審がられてそっぽを向く。

 

「アドバイザー君への贈り物でも選んでいるのかな、ベル君……」

 

 それだけの理由もあったと思い出す。エイナは底辺極まるヘスティア・ファミリアの処遇改善に尽力しているとベルが語っていた。等級(ランク)も当初の話ではBかCで上層部は考えていたらしい。そこをなんとかと強く主張しては反対してDに収まったという。そして、徴税金も納付猶予を申請してお目こぼしもされた。ただその代わり、上層部から早々に言い渡された強制任務(ミッション)

 

 ある一定の等級(ランク)に辿り着いた探索系のファミリアはある一定の周期でギルドから有無もなく指令が下される。大抵はダンジョンの最高到達階層の更新を主とした『遠征』だ。だが、眷族が一人しかいないヘスティア・ファミリアを考慮してか今回は別の強制任務(ミッション)にベルは勤しんでいる。その陰にエイナというアドバイザーの助力があったのを思えば、このくらいの礼はあっても文句は言えない。

 

 何故か、不思議と腑に落ちた。がっくりとうなだれ、ヘスティアはうつむいたまま石のように動かなくなった。そして、気付けば名残惜しそうに眺めていた蒼い髪留めを身につけた観賞用人形(ビスク・ドール)が姿を消している。

 

「売れちゃったか……」

 

 傍目から見ても流石、大通り――――『冒険者通り』と呼ばれる場所にある商店だけあって賑わっている。そのまま引く波のようにしてその場から離れていっては不意にヘスティアの意識はある店の看板に向いていた。

 

 真っ赤な色で染められた立派な商店。通りを歩く冒険者の目を引く陳列窓(ショーウィンドウ)にはこれまた素人目でも分かる、立派な武具や装飾品が飾られている。

 

「って、ここは……ヘファイストスのお店か」

 

 【 Hφαιστοs】という文字列(ロゴタイプ)の看板。それは鍛冶の頂点に君臨する一級派閥【ヘファイストス・ファミリア】が全世界に示すブランド名である。ほんの少し前までお世話になっていた神友の名を冠した立派な武具店。ふと、陳列窓(ショーウィンドウ)の硝子越しに並ぶ武器の値札を見て目が飛び出そうになった。

 

「うわぁ……短剣だけでも八〇〇万ヴァリスもするよ……流石、ヘファイストス」

 

 とはいえと、内心で誇れるものでもないが来月に納める徴税金はこれの更に上を行くのだと鼻を鳴らして誤魔化すヘスティア。そして、耳に届く鐘の音。振り向けば先程、ベル達が入っていていったお店のドアが開いた音だった。退店するベルとエイナ。ベルの手には大事そうに懐にしまおうとする丁寧に包装された小箱。

 

 瞬間、その光景を見てヘスティアは居ても立っても居られない心境の淵に立ってしまった。酔いの勢いなど冷めて消し飛び、後ろ髪を引かれる想いで声を出しかけようとした。だが、店と店との隙間。その陰から伸びる太い腕に口を塞がれて、そのまま建ち並ぶ商店街の陰の奥に引っ張られていった。

 

「――――なにをするんだっ!?」

 

 一歩、一歩、遠ざかっていく大通り。ヘスティアは地団駄踏むようにして抵抗するが虚しく空振りに終わる。そして、うす暗い路地裏の端。拘束を解かれて、キッと踵を返して見上げるヘスティア。

 

「――――なっ……」

 

 こんな大胆不敵な行動におおよその見当はついてはいたが、少々面を食らった。前に並び立つ二つの影。纏う気配を一変させて、露になるのはニヤニヤと笑う二柱の男神達。どちらも同じく土色の髪と瞳して体躯は偉丈夫そのもの。そして、その相貌は当然ながら例に漏れず均一に作られたかのように整っている顔立ちだ。だが、しかし端正な顔立ちから繰り出される下卑た笑みのせいで全てが台無しになっている。

 

「ヘスティア~久しぶりだなぁ~」

「と、いっても俺たちと交友はなかったけどな~」

 

 間延びした口調でヘスティアの名を呼ぶ、彼等、モージとマグニ。そんな彼らの名前を項垂れるようにして、思い出しては呆れ顔をしながらヘスティアは棘のある態度を崩さず、何度目かの溜息を路地裏に吐き落とした。

 

「一体なんのつもりだい? 生憎とボクは忙しいんだ。ちょっかいなら余所で頼むよ……」

 

 退屈しのぎの嫌がらせもほどほどにと、モージとマグニを暗に批判してヘスティアは引きずられた跡の残る道を戻ろうとする。なら、自分達もついていくと食い下がった。「ヘスティア~」と、間延びした口調のまま浮かべる軽薄な笑み。

 

「いい加減にしないとボクだって怒るんだぜ?」

 

 今一、迫力に欠けると内心、思いながらも本音を飛ばす。呆れ顔を通り越して、しかめっ面になるヘスティア。それでもモージとマグニはフヒヒ、と。軽薄な笑みを隠そうとも改めようともせずに口を開く。

 

「ちょうど、いいところなんだ~ヘスティア~」

「頼むよヘスティア~ここ一週間近く大事に重ねてきた退屈しのぎ(イベント)なんだぁ~」

「なぁ……ボクには関係ない話だろ、それ?」

 

 足を止めて訝しむヘスティアの言葉に、モージとマグニはフヒヒ、と返す。

 

 仮にこの場にタケミカヅチがいたならば「暖簾(のれん)の腕押しだな」と、いっただろう状況。ヘスティアの気持ちに応える気もないのに、悪意は向けられているという心底、傍迷惑な同胞達。なるほど、往々にしてオラリオでは日常茶飯事ともなっている神々の悪戯。確かに無遠慮に「へーい、そこの君ーボクの眷族にならないかーい?」と、いっては警戒されるのも無理もない話だ反省しよう。

 

「うーん、どうだろうなヘスティア。お前、まだ来たばかりだろ? なら眷族なんていないんじゃないかぁ~」

「余計なお世話だ! ボクにはベル君っていう可愛い眷族がいるんだっ!」

「もしかして……それって、白い髪をして瞳が真っ赤な少年だったりする?」

「うっ……そうだけど、それがなんだい」

 

 その瞬間、まるで悪戯を発見されて咎められる兄弟のようにモージとマグニは同時に顔を手で覆った。嘆息して、僅かに覗かせる土色の瞳に石ころ分の謝意が見え隠れするのヘスティアは感じて、嫌な予感――――神の直感がヘスティアを襲う、背中が粟立(あわだ)っていく。

 

「モージ、7:3……いや、8:2で手を打とう、負けた方が持つということで、ごめんヘスティア!」

「そうだなーマグニ、悪いヘスティア! 俺たちの子供がやり過ぎても死ぬとこまでいかないと思うわ」

 

 マグニの言葉を引き継いで告げるモージの言葉にヘスティアの直感は的中した。顔面が蒼白になる。喉の奥から嗚咽のような悲鳴が出そうになって――――。

 

「――――!?」

 

 爆音が聞こえたのは、その瞬間だった。星一つ顔を見せない曇天の夜空、夜の静寂を破る不吉な報せを届ける響きがヘスティアたちの耳に届いた。

 

「今の音は……ベル君っ!」

 

 そして、再び爆音が聞こえる。今度は地上から迸るように昇っていく雷が見えた。先程、とは比べる間でもない音の響きが地響きを伴って伝わる。モージとマグニは顔を見合わせて、声を掛け合う間もなく、笑みを浮かべたまま音のする方に飛び出していった。ヘスティアも慌てて後を追う。

 

「頼む、ベル君」

 

 ヘスティアは祈るように手で口を覆い、悲鳴を上げた。ひと気のない路地裏の曲がり角。モージとマグニの悪い冗談を続け様に見せられているような光景。誰かが、この場で戦った跡がそこら中に散りばめられていた。見えた雷の残骸が狼煙のように燻っている。火の粉を巻いて燃え落ちる破片の数々、花火の光に照らされているように、瞬く光を浴びながら。戦場の真ん中に人影が一つ――――いや、二つ。迫ってきた破壊を庇うようにして盾のように立っていたのだろう。彼を境界線に置いて前後ではまるで景色が違っていた。

 

「――――ベル君!!」

 

 

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