ガールズバンドが家の合鍵を持っていました※認知してません 作:アライグマ318号
数千年ぶりの新作小説です。色々レベルアップしたつもりなので、楽しんでいただければ幸いです。
最後に、主人公のプロフィール載せておきます。
「一人暮らしがしたい!」
それは恐らく、子供なら誰しもが思う道だろう。いや、案外そうでもないかもしれないが、少なくとも彼……
そして幸いにも、彼には育ての親からその憧れを叶えて貰えるだけの信頼と財力、そして余裕があった。
「そうだねぇ。若いうちに一人暮らしは経験するべきだし……良いよ、進学したら一人暮らししてみよっか」
「え、良いの!?」
その言葉に、沙介は目を輝かせる。この時期になると思春期故に親に反発しそうなものだが、幸いにも沙介の両親との仲は非常に良好であり、険悪とは程遠い物であった。
「あ、でも毎晩女の子を連れ込むようなケダモノになっても困るわねぇ……」
「いや、俺を何だったと思ってるのさ母さん……」
「だって沙介、女癖悪いじゃないか」
「言い方! 俺に女性経験ないの知ってるでしょ父さん!?」
両親の言い分はもっともである。
沙介は昔から女癖……否、正確には女性に対する運がなかった。だからこその両親の言葉である。決して、沙介自身が性欲魔人だったりするわけではないのだ。まぁ、人なりの性欲はある訳だが。
「まぁ冗談よ。でもアナタ、この前同級生の女の子にストーキングされてたでしょ? ……沙介、進学するなら男子校にしなさい」
「いや、言われなくてもそうするよ……」
呆れた顔をしながらも沙介は、母の言葉を了承した。
それから時は経ち、沙介は男子高校に無事入学し、念願の一人暮らしを果たした。
親の厚意によって借りることのできた、一人暮らしをするには広すぎるほどマンションの
沙介の高校生活は、満たされていた…………はずだった。
ピンポーン、と静寂という言葉に真正面から喧嘩を売るあの音が、心地よい眠りに入っていた俺の睡眠を強制的に現実世界へと引き戻す。
「ん……誰だ、こんな時間から……」
こんな時間、と言いつつも現在時刻は朝10時27分。真面目な人間ならあと3・4時間は前に起きているであろう時間だ。
「まだ眠いのに……」
瞳を擦り、パジャマのままベッドから落ちるように起き上がる。
そのまま寝室の扉を開け、おぼつかない足取りで玄関先の様子を確認するカメラへと視線を向ける。
「あい……子扉、です」
『やっほ~後輩クン、起きてるかな☆ 先輩が遊びにきたよ!』
インターホン越しに聞こえる陽気な声に、俺はピっと無言で電源を切り、トボトボとリビングのソファに身を投げる。
「朝からギャルパイセンの声が聞こえた気がする……酷い夢だ。早く寝よう」
朝から酷い夢を見たと自身に言い聞かせ、意識を再び夢世界へと誘う……
カチャリ
(…………ん?)
小さく、されどしっかりと耳に届いた
「いやぁ、やっぱりいつ来ても広いね~」
「いやなんでナチュラルにアンタ部屋に入ってきてんだよ!!」
嫌な予感は完全に的中した。
俺はソファから起き上がり我が家へと不法侵入してきた女性へと、一気に覚醒した視線を向ける。
ショートパンツから健康的な太ももを晒しつつ、肩を露出するタイプの長袖を着た茶髪の女性。
今時の女子とでも言うべきか、軽い化粧をしてしっかりとオシャレをしており、少しだけ大人びた印象もある。
そして、彼女自身と同じくらい目立つのは、その背に背負われたベースのケース。
彼女の名は今井リサ。今年から大学生となった、俺の一個上の先輩である。
しかし、先輩と言いつつも別に同じ学校出身という訳ではない。俺は男子校だし、リサさんは女子高出身である。
「え~いいじゃん。どうせ朝ごはん食べてないでしょ? アタシが作ってあげるから着替えてきなって」
「あ、ども……って、そうじゃない!」
ごく自然な様子で、ごく自然な足取りで、ごく自然な手際で台所へと向かうリサさん。というか、よく見るとリサさんは片手にはずっしりとしたビニール袋がぶら下がっている。
中身を見るに、中には野菜やお肉、ジュースなどが入っているらしい。
「なんでこの家の合鍵を持ってるんですか? なんでここにいるんですか? なんで普通に俺の家で朝食作ってるんですか!?」
「朝食はとりあえず、豆腐ハンバーグとサラダとかでいい?」
「あ……もうそれでいいっす……」
ツッコミをするのに疲れたのか、沙介はすべてを諦め、自室に戻るのであった。
「……ごちそうさまです」
「うんうん、ちゃんと完食してくれて良かったよ!」
空になった皿を見て、リサさんは笑顔を浮かべる。
「そりゃあ、作ってもらったからには残さず食べますけど……それより、なんで俺の家にいるんです?」
「あ、お皿洗っとくね」
「あ、ありがとうございます」
皿を回収し、台所で皿洗いを始めるリサさん。いつの間にか赤いエプロンも纏っており、非常に様になっている。その姿はまるで新婚のお嫁さんのようであり……いや、ちょっと待て。
「リサさん、そのエプロン俺のですよね? なんで着てるんですか?」
「いやぁ、目に付いてうっかり? それに、赤は私のイメージカラーと同じだし……運命感じちゃった☆」
軽くウィンクをして腰に手を当て、目元でピースをするリサさん。フツーにカワイイと感じるが、そんな事で流されてはいけない。
「運命感じちゃった☆ じゃねぇよ。なんで俺の家に適応してるの?」
「あ、もしかして裸エプロンの方が良かった? う、う~ん、いくら沙介と私の仲でも、それに至るにはまだ早いって……っ!」
「やめてください叫びますよ」
分かりやすく顔を赤くして身を守るような動作をしながらモジモジするリサさんに、腹の底から出た本音を口にする。
「あ、お茶用意したけど飲む?」
「飲みます」
皿洗いを終え、リサさんに出されたお茶を飲む。うん、緑茶おいしい。
「で、なんでいるんですか?」
「あ、見て見て沙介! このシチュー、超おいしそうじゃない? 沙介シチュー好きでしょ? 今日の夕飯にどうかな?」
「いや話逸らさないで貰えます?」
スマホを見せて料理アプリに掲載されたシチューを見せてくるが、もう誤魔化しは効かない。
「リサさん、どうして俺の家に当たり前のようにいるんです?」
気まずそうに視線を斜め右上に逸らしながら、リサさんさ何か別の話題を探しているようだった。
「き、今日はいい天気じゃ……」
「今外雨降ってますよ?」
耳をすませば、ポタポタと雨が窓にぶつかる音がする。ベランダを挟んで雨水が窓に直撃していることからも、かなり強い雨ということがわかる。
「あ、そうそう! 実はこの近くを歩いてたら雨が降ってきちゃってさ!」
何かを思い出したかのように説明を開始するリサさん。さて、どんな言い訳をすることやら……
「雨も強くなってきたし、どうせなら沙介の家に寄ってこうかな〜って思って来たの! ほら、雨宿り的な?」
「なるほど……」
一応、リサさんの言い訳は筋が通っている。この辺りを歩いていたら雨が降ってきて、たまたま近くに俺の家があったから雨宿りがてら寄った。
スマホで天気を調べると、確かに少し前に雨が降り始めている。
「あ、ほら! 雨は明日の朝まで降るっぽいし、できたら今日は泊めて欲しいなぁって……ダメ?」
あざとくも上目遣いで頼んでくるリサさん。
動作、声音、シチュエーション。その全てを駆使して全力で可愛行く頼み込むその様子は、世の男子の心を容易に射止めるだろう。贔屓なしに、今の彼女にはそれだけの魅力があった。
まぁもっとも、その話は真っ赤な
「ところでリサさん」
「ん、なになに?」
笑顔で質問をする俺に何を期待したのか、身を乗り出して瞳を輝かせながら質問に応える準備をするリサさん。
「そろそろ車の運転には慣れましたか?」
「っ!!??」
はい、この反応は絶対に
「ちょっ、なんでわかったの!?」
「雨が強く降った割にはアンタまったく濡れてねぇし、なんならアンタの持ってた鞄から車のキーが見えたんだよマヌケ!!」
おそらくリサさんは雨が降ることを知った上でこのマンションまでやって来たのだろう。車を使ったのもおそらく、手荷物が多くなった事で運ぶのが大変になり、雨を凌げて荷物を運べるからだろう。
「うぅぅ……せっかく親に『今日は彼氏の家に泊まってくるね』って言って車借りたのに……」
「勝手に彼氏にすんな。俺とリサさん付き合ってないだろ」
わざとらしく落ち込む様子を見せるリサさん。よし、この際もっと言ってやろう。
「アタシ、このままじゃ寝る場所も確保できないんだけどなぁ……」
「大学生って便利ですよね。ネカフェで普通に一泊できるんですから」
「でも夜のネットカフェって治安悪いらしいし、このままだとアタシ、帰れな……」
「車中泊って知ってます? 便利ですよね」
何を言っても全てバッサリと切られると理解したのか、今度は本気で落ち込むリサさん。
………………まぁ、この人も分別ある大人だ。多分、恐らく、きっと“間違い”を起こすようなことはしないだろう。めっちゃ不安だけど。
「……まぁ、泊まりたいなら泊まっていいですよ」
「え、いいの!?」
「ただし、条件があります!!」
立ち上がる勢いで喜ぶリサさんに対し、その声を遮るように釘を刺す。
「まず一。俺の部屋に入らないこと」
「えー」
「そのニ。俺の服を盗まないこと」
「えー」
「その三。俺の入浴中に風呂に入らないこと」
「えー」
「その四。俺が寝てる時にベッドに潜り込まないこと」
「えー」
「えーしか言わねぇじゃねぇか!!!!」
むしろ今言ったこと全部実行するつもりだったのか!?
「そんなのお泊まりじゃない!」
「むしろお泊まりをなんだと思ってやがる!」
抗議に対し、怒りを持って対応する。
「いまあげたことの一つでもしたら、速攻で追い出すからな!?」
「う〜ん……はぁ、仕方がないし、それで良っか」
「なんでアンタが許可したみたいになってるんだよ……っ!」
湧き上がる怒りを抑え、呼吸を落ち着かせる。
落ち着け、落ち着くのだ……ここでリサさんを逃せば、本当に聞きたいことが聞けなくなる……!
「ところでリサさん、これはちょっとした本題なんですけど……」
「?」
リサさんに出された我が家の茶を一度口に含み、机に置き改めて問う。
「俺の合鍵、どこで入手したんですか?」
そう。俺は確かに昨日の夜、玄関に鍵をかけた。寝ぼけてもいないし、そういった類の戸締りはしっかりとしているつもりだ。
なんなら、入った時にちゃっかりと合鍵らしき物を持っていたのも視認している。
「いやぁ、ちょっとしたツテで手に入ってさ〜。ちょっと高かったんだよ? だから友希那と紗夜と燐子とあこ……まぁ、Roseliaのみんなでお金出し合ってこの一本を買って……あっ、ちょっ! 取らないでぇ!!」
リサさんが合鍵を自慢でもするかのように出した瞬間、俺はひょいっと鍵を横から奪い取った。リサさんが縋り付くかのように鍵を回収しようとしてくるが、知ったことか。
「えっと、確かここに……」
リサさんが俺の腰に抱き付き、鍵を奪い取ろうとしてくるが、俺はそのまま立ち上がり、リビングの端に設置されたタンスへと、リサさんをズルズルと引き摺りながら歩いて向かう。
「おっ、あったあった」
「ちょっ、さ、沙介くん? ……何をするつもりなの!? そんな物騒なものなんて取り出して……」
俺がタンスから取り出した“ソレ”を見て何をするのか薄々勘付いたのか、青い顔をするリサさん。
「え〜、見て分からないんですかぁ? 今からこの合鍵をぉ、この金槌でぇ、叩き割るんですよぉ」
タンスから取り出した凶器……その名も金槌。
金槌は便利だ。物を作る時に使えるだけでなく、一体いつ入手したのかも分からない合鍵を破壊するのにも使える。
俺は泣きながら「やめて! 壊さないで! アタシの宝物なの!」と懇願するリサさんの言葉を無視して金槌を構え……
「せいやっ!!」
「いやあああああああああああああ!!!!」
全力で金槌を合鍵に向けて振り下ろした。その結果、合鍵はバキっと音を立てて折れた。
リサさんは壊れた合鍵を見て、膝をついて落ち込んでいる。
よし、これでRoseliaが家に無断で来ることはない。完封できたはずだ。
「よし。あ、リサさん俺今日シチュー食べたいっす」
「うぅ……こんなのってない……あんまりだよ沙介……」
泣き崩れるリサさんに今晩の夕飯メニューを提案しながら、俺は金槌をタンスにしまう。
「うぅ……こうなったら友希那に鍵を借りてまた合鍵を作らなきゃ……」
「…………は? ちょっと待てリサさん、アンタ今なんて言った?」
友希那に借りて? それってつまり、友希那さんも俺の家の鍵持ってるってことか……?
「え? あー、アタシのは壊されちゃったけど、Roseliaのみんなは持ってるよ?」
「………………」
なぜ、この人は当然のようにこんなことを言うのだろう。
「元になった合鍵はRoseliaで買ったけど、それ以降の合鍵はみんな個人でお金を出して合鍵を作ったんだよ?」
「…………うっそぉ……」
もう頭が痛い。つまり、今のリサさんを止めてもまた第二第三のリサさんが現れるわけであって……
「あ、ちなみにアタシの知り合いのガールズバンドは大体の子が持ってるよ? ポピパにアフターグロウ、パスパレもハロハピもモニカにRAS……多分、まだ他にも持ってる子達はいるんじゃないかな?」
「クッッッソがああああああああ!!」
俺は全力の怒りを込めた雄叫びを上げる。
「つまり全員持ってると仮定した場合は最低でもあと34本……いや、下手したらもっとあるか?」
知らされた現実に、今度は俺が膝をつく。
あぁ、これからもきっと、無断で俺の家にやってくる奴らがたくさん現れるのだろう。
俺の知らない合鍵を全て破壊する。
そして、俺の合鍵を売っている元凶を始末する。
この二つは、今後の俺の最優先目標となるだろう。
俺は、密かに平和な日常を取り戻すために決意を固めるのであった。
以下、主人公のプロフィールです
【名前】
【性別】男
【学校】
【身長】176cm
【体重】69kg
【記載】バイク免許あり。女難の相あり。
【性格】
基本的に落ち着いた常識人を気取っているが、その本性はかなり容赦のないツッコミをすることができる非常な男。
たとえ懇願されても、躊躇なく相手の大切な物(合鍵)を破壊できる。
しかし、血も涙もないと言うわけではなく、初対面の相手や仲が良く気の許した友人には義理人情に厚く接する。
自身の予想を上回る事態にはかなり弱く、予想外のハプニングが連続して続くと、ポンコツになる。