ガールズバンドが家の合鍵を持っていました※認知してません 作:アライグマ318号
長くなりそうなので、前編後編に分けますね
沢山のお気に入り評価ありがとうございます!!
そして、ましろ……と黒幕登場!!
「うぅ……け、結局ここまで来ちゃった……」
とあるマンションの一室の前にて、少女……
「さ、沙介さん、いきなり押しかけたら迷惑だよね……で、でも最近疲れたって言ってたし……」
数日前の目の前の家の家主の様子に思いを馳せながら、ましろは意を決して鍵を強く握り締めた。
「う、うん……少しでも沙介さんの助けになるなら……っ!」
鍵口に合鍵を差し込み、そのまま勢いに任せてカチャリと音を立て、ドアノブを握る。
「お、おじゃまします……っ!!」
少し上擦った声をしながらも、ましろは正々堂々(なお、認知されていない合鍵使用)と扉を開け、その部屋に踏み込むのだった。
数時間前。
「うぼぁ……」
とあるファストフード店の窓際の席にて。子扉沙介は大きなため息を吐くと同時に机に突っ伏していた。
「ぽてと……おいひい……」
机に突っ伏した状態で、ポテトを口に咥え込み、もぐもぐと手を使わずに口の中へと運んで咀嚼する。
ほんのりうすく効いたポテトのうま味を嚙みしめながらも、どこか作業のようにポテトを食す。
「うわぁ……」
「やっぱりあれ、某緑高校の生徒よね……?」
「離れましょう……!」
ふと、耳に入った暴言。そちらに視線を向けると、見覚えのある制服を着た生徒たち数名が沙介を見ていた。
(あれは……月ノ森の生徒か。随分とまぁ、嫌われたもんだな)
確かにお行儀が悪い今の沙介の食べ方は、誰が見ても不快に感じること間違いなしだろう。
だが、それでも彼女たちがここまで嫌悪感を露わにするのには理由がある。
それは、沙介の着ている灰色の学ラン制服が特徴的な高校……某緑男子高等学校と月ノ森の仲の悪さに由来する。
月ノ森とは、中高一貫の女子校であり、名門のお嬢様学校でもある。
創立100年の由緒ある名門校でもあり、通う生徒はお金持ちのお嬢様やコンクールで賞を取るような超一流。上流階級を現代に表したかのような高校となっている。
対して、沙介の通う某緑高校は創立40年と若く、歴史に至っては月ノ森と比べるまでもない底辺高なのだが……
なぜかこの高校に通う男子生徒たちは、皆頭のオカシイ連中ばかりなのである。
天才。鬼才。奇才。異才。英才。
通う生徒のほとんどが庶民の出ながら、集まるのはそういった生徒ばかり。
実際、社会に出て大きく貢献した卒業生も多くいるとは聞くが……
それ以上に、高校そのものの治安が非常に悪く、窓ガラスは頻繁に割れ、校内の運動場にはクレーターができる始末。
問題行動を起こす生徒など数知れず、警察沙汰になりかけた事も一度ではない。しまいには、高校のすぐ前に交番が設置されるにまで至った。
……もうお分かりだろう。
過程と作法。歴史と文化。そういったものを重要視し、優雅に華麗に結果を勝ち取る女子生徒たち。
結果こそ全て。そこに至るまでの過程など気にしない。本能と才の赴くままに結果を求め、突き進む男と書いて蛮族と読む男子生徒たち。
つまるところ、両校の相性が水と油レベルに悪く、非常に仲が悪いのである。
それは教師同士も同じであり、その険悪な雰囲気が生徒たちにも伝わり、その仲の悪さは今代にまで受け継がれているのである。
(そういえば、北川のやつが月ノ森の生徒をナンパしたら半殺しにされかけたって言ってたっけ)
ふと、沙介はクラスメイトとのある日の雑談内容を振り返る。
ナンパしたら半殺し……は言い過ぎだろうが、それでも両校の仲の悪さを知りながらも月ノ森の生徒をナンパした友人に、沙介は内心で敬意を表さずにはいられない。
「ま、俺には関係ないんだけどね……はぁ……」
ここ2週間の思い出を振り返りながら、ポテトを口に含……もうとするが、今度は机から起き上がり、椅子に腰掛けながらポテトをつまみ、口へ運ぶ。
(今のところ、家に来たのはリサさん、楽奈、愛音、日菜さん、千聖さん。千聖さん以外は鍵の破壊に成功した……でも……)
思い出すのは、前日の氷川日菜との出来事。
手足の自由を奪われ、あと一歩で取り返しのつかない状況になっていたあの恐怖。
「俺、女性恐怖症になりそう……」
ただでさえ、上京する前から女運が壊滅的に悪い沙介。日を追うごとにその悪さは悪化しているかのような錯覚さえ覚え、深く落ち込み、再び机に倒れる。
「はぁ……誰か癒してくれるような人いないかな……」
大きなため息を吐いて癒しを求める沙介。
(あぁそうだ、猫カフェに行こう。確かRINGのある池袋には、猫カフェがあったはず)
「あ、あの……沙介さん?」
ふと、一人の少女が沙介の前に現れる。
(猫の好きな餌を全身にくっつけて、それで猫の海に埋もれてやるんだ……)
「沙介さん……ですよね?」
少女が沙介を呼ぶが、沙介に気が付いた様子はない。
(もふもふふわふわ、ちいさくてかわいい猫に埋れればきっと幸せに違いな……)
「沙介さん!!」
「はっ!?」
自身の名前を呼ぶ声に、猫に埋もれるという幸せな妄想から、沙介は一気に現実に引き戻される。
「ましろ……?」
「あ、良かった……やっぱり沙介さんだ……」
沙介を現実へと引き出した青銀色の美しい髪をした声の主……
学校帰りに今この場所に到着したのか、ましろは制服のままバーガーやポテトの載ったトレイを持って立っていた。
「あ、あの……座ってもいいですか? 他に空いてる席がなくて……」
「そりゃあ良いけど……いいのか? 俺、某緑の生徒だぞ」
ましろが沙介……某緑の生徒と関わっていることがバレては、なにか不都合な噂が流されるのではないかと心配する沙介だが……
「あ、大丈夫です。私が某緑の人と関わっても、誰も気にしないと思いますし……それに、沙介さんなら良いっていうか……」
相変わらず逃げ腰な様子のましろに、沙介は机から顔を離して姿勢を正した。
「そ、そういえば沙介さん、元気ないみたいですけど……何かあったんですか?」
沙介を純粋に心配するましろ。沙介にとっては、その心遣いが何よりも嬉しかった。
「実はさ……俺、この前ヤベー女に襲われかけたんだよ」
沙介の脳内で日菜がるんっ♪ とまるで自分の存在を誇示しているが……そっこく、沙介は自身の脳内から日菜を強制退去させる。
「お、襲われた……さ、沙介さんが……襲われた? 沙介さんが?」
目をぐるぐるとして同じことをブツブツと喋り続けるましろ。
「いや、未遂な? 俺襲われてないぞ? まだ潔白だからな?」
「え? あ、よ、良かったぁ……」
胸に手を当て、心の底から安堵した様子のましろ。
その動作一つ一つに優しさを感じた沙介。
(某緑と月ノ森もこんな風に仲良くしてくれれば良いんだけどなぁ)
思わずそんな事を考える沙介だが……それは難しいだろうと直ぐに諦める。
「まぁ、その人は出禁にしたから大丈夫として……まぁ、俺の事を狙ってる女が多いせいで、碌な目に遇わないんだよ……」
今の発言だけを切り取るならば、沙介は痛いやつか同級生に刺されそうなものだが……これが事実であるため、沙介はため息を吐くほかなかった。
「しまいには家にまで不法侵入してくる始末だし……慣れないハプニングばっかりで疲れちゃってェ……もう動けなくってェ……」
心からの疲れが声に出たせいか、再び机にばったりと倒れる沙介。某葉っぱの妖精っぽい構文が出てしまったのは、仕方がないというものだろう。
「あ、あの……戸締りとかはどうしてるんですか?」
「してるよ……でも、開けられるんだよ……鍵を……」
その事実に沙介は、再びお行儀悪くポテトを口に含む。
「あ、あのー、鍵を開けられるって……?」
「……作った覚えのない合鍵が流出してるんだよ」
「あ、合鍵が……!?」
驚いた声をあげるましろ。
しかし、そのタイミングで沙介はいつかの日のリサの言葉を思い出していた。
『あ、ちなみにアタシの知り合いのガールズバンドは大体の子が持ってるよ? ポピパにアフターグロウ、パスパレもハロハピもモニカにRAS……多分、まだ他にも持ってる子達はいるんじゃないかな?』
モニカ……
「なぁ、ましろ……お前、俺の家の合鍵持ってたりする?」
「も、持ってないですよ!」
「そっか。なら良いんだ」
首を振るましろの様子は、嘘を吐いているようには見えなかった。よほどの演技のプロや天才ならともかく、人の嘘を見抜く自信が沙介にはあるのだ。
沙介は、ましろが鍵を持っていないことを確信し、安心してましろに事情を話す。
「なんか、どこの誰かは分からないけど、俺の合鍵を高額でガールズバンドに売り付けてるらしいんだよ……そのせいで、こうやって合鍵を破壊してる始末」
沙介は制服のポケットから
「これが合鍵……ですか?」
「あぁ。質が悪いのか金槌で叩くだけで割れる」
これが一体、いくつ複製されているのかは分からない。だが、これらを破壊しない限り沙介の周囲に平穏は訪れないのだ。
「あのー……それって、シリンダーを交換すれば解決なんじゃないですか?」
「え?」
ましろの言葉に、沙介の思考が止まる。
「だ、だってシリンダーさえ交換しちゃえば全部の合鍵が使えなくなりますよね? 交換だけならそこまで費用はかからないらしいですし……」
「ましろ……お前……っ!」
「わっ!? さ、沙介さん!?」
思わず席から立ち上がり、ましろの肩を掴む沙介。ましろが顔を赤くして慌てているが、沙介は心からましろに言葉を伝える。
「天っ才じゃねぇか!!」
「へ?」
突然の沙介の賞賛に、目を点にするましろ。
「そうだよ、散らばった鍵があるならその大元の錠を壊せばいいんだ! わざわざ全部を破壊する必要なんてない、千聖さんの合鍵だって、しらばっくれることができる!!」
ましろの言葉を受け、沙介は立ち上がった。
(こうしちゃいられない……今直ぐシリンダーを変えられる業者を探して、即相談だ!!)
「ありがとうましろ、おかげで問題が解決できそうだ!!」
「え? い、いえ……どういたしまして?」
困惑したままの状態のましろに一方的に感謝を伝え、沙介は荷物を持ち、食べ終わったゴミを全て回収する。
「それじゃあ、ましろ!! 本っ当にありがとう!」
それだけ告げると、沙介はその場から足早に去っていった。
「えっと……役に立てたのかな?」
ましろは、沙介がいなくなった席をジッと見つめる。
「いなくなっちゃったなぁ……」
心細そうに、小さく言葉を零す。ましろは、周囲の喧騒から自分だけが切り取られたかのような不思議な孤独感を感じながら、ポテトを口に含んだ。
「ふぃ~、ようやく消えてくれたよ」
「え?」
ぼーっと、ましろが沙介のいなくなった席を見つめていると、聞き覚えのない声が彼女の耳に入った。
その声の主は、ドサッと豪快に沙介のいた席に座り、自然とましろと向かい合う形になった。
「初めましてだね、倉田ましろさん」
「えっと……あの、誰ですか?」
突然、目の前に現れた人物に、ましろは恐怖を孕んだ、不安そうな目を向ける。
誰だって、突然話しかけられたらそうなるだろう。人一倍警戒心の強いましろならば、なおさらであった。
……もっとも、目の前の人物は黒いキャット帽を被り、黒いサングラスをしているため素顔など分からない怪しさと胡散臭さ1000%の男であり、分かるのは性別のみ。だれであろうと、警戒するのは当然であった。
「んー。名前名乗ると不都合が多いし……あ、気軽に〝商人〟って呼んでよ」
「は、はぁ……」
新手のナンパにしては胡散臭さがえげつない。ましろは、関わってはいけないと本能的に感じ取りつつ、トレイを持って席を立とうとするが……
「実はましろちゃんが喉から手が出るほど欲しがるもの、ボク持ってるんだよねぇ」
「……欲しい物、ですか?」
ふと、その言葉にましろはトレイを運ぼうとする動きを止めた。
「子扉沙介の家の鍵……って言ったらどーする?」
「え?」
その言葉に、ましろはトレイを机に置き、席に座った。
「キミ、アイツのこと好きだろ?」
「す、すっ!? そ、そんなこと、な、にゃ、な……」
「あー、うん。ごめんごめん、なんも言わなくていいよ。ここまで分かりやすいと一周回って可哀そうだ」
顔を真っ赤にして定番のように慌てるましろに、彼……商人は、煽るのをやめた。
「いやぁ、でも恋心って良いよねぇ。人は恋をするからこそこうして繁栄するし……儲け話まで作ってくれる」
まるで舞台のセリフでも読むかのように仰々しく説明を続ける商人は、一度落ち着いて怪しむような目を再び向けてくるましろを見て……本題を切り出す。
「ここに、まもなく期限切れの合鍵があります」
そう言ってましろの前に出されたのは、一本の合鍵だった。
「やっぱり……アナタが、沙介さんの家の合鍵を売ってたんですね?」
目の前の人物こそが、沙介の悩みの種であると判断し……向ける視線に、敵意を込める。
「まぁね~」
送られた敵意を凪風のように受け流しながら、商人は説明を続けた。
「コイツのおかげでだいぶ儲けさせてもらったよ。中には俺の言い値以上で買ってくれる
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、商人はスマホを取り出し、ポチポチとタップをし始める。ましろがチラリと視線を向ければ、電卓アプリを起動しているようだった。
「いやぁ、アイツのモテ具合は知ってたけど、ここまで凄いと最早尊敬できるよ」
ペラペラと、誰も聞いていないのに説明を続ける商人。
「まぁ、キミのおかげでこの鍵もあと数時間の寿命なんだけどね?」
「っ!」
その言葉に、ましろは肩をビクッと震わせる。
「言わなければまだ気が付かなかっただろうに、本っ当に余計なことをしてくれたね」
先ほどのシリンダー交換の提案。
今度は逆に返された敵意の瞳に、ましろはギュっと唇を噛み、恐怖に身を震わせた。
「……と、言いたいところだけど」
「え?」
突然なりを潜めた商人の敵意にましろは困惑に近い声を漏らす。
「実はこう見えて感謝してるんだ」
沙介の家の合鍵をクルクルと手元でいじりながら、商人はましろに笑みを向ける。
「だってそうだろ? 今まで売った鍵が全部使えなくなったって事は、またボクから鍵を買おうと色んな女の子がやって来る」
クックック、とお手本のようなあくどい笑みを浮かべる商人に、ましろは尋ねる。
「そ、そんな事して……危ない人に鍵が渡ったらどうするんですか……?」
「ん? あーそのあたりは大丈夫。そんな事で友達が死んじゃったら儲けられないだろ? そのあたり、ボクは徹底してるのサ」
ポ○カの転売対策と同じだよと説明する商人。
「まぁ、本来なら一本4~6万円で売る所だけど……新たな儲けの種を作ってくれたましろちゃんに感謝して、この鍵を1000円で売ってあげよう」
「せ、1000円!?」
数万円が1000円に。その誘惑は、ましろの良心を強く揺るがせる。
「まぁぶっちゃけ、財布家に忘れてこの店で飯食えないから奢って欲しいんだけどね?」
ドヤ顔をしながら、非常に悲しい現実を説明をする商人。
ましろは、怪しいのに情けないと思い、口に出しそうになるが……ギリギリで抑え込む。
「それで、どうする? 沙介がシリンダー交換をすればその鍵は文字通りの鉄くずになるけど……それでも買うかい?」
「わ、私は……」
ましろは、葛藤を続ける。
鍵を買えば、ましろは沙介に迷惑をかけてしまう。
だが、好きな人の家が気になるのも事実であり……
「…………」
商人は、ましろの考えを読み取り……ニヤリと笑みを浮かべる。
「そっかぁ。なら、ボクはこの鍵をほかの娘にでも譲ろうかな?」
「……え?」
鍵を回収し、商人はその鍵をゆっくりとポケットに入れるようにする。ましろの視線が、エサに釣られた動物のように鍵に釘付けになっているのを、彼は見逃さなかった。
「あ、そう言えばあの今井リサや氷川日菜とかの有名どころが鍵壊されたらしいね」
「…………」
どちらも、ましろにとっては雲の上のような存在にさえ思える有名人たちである。
「他にも最近人気が出てきたバンド……MyGO!!!!! だっけ? そのバンドの子も壊されたらしいし、そっちに売り込むのも良い……」
「か、買います!」
並べられるのは決して無視できない人の名前ばかり。
ましろにも、沙介に迷惑を掛けたくないという良心は確かにある。
だが、それ以上に好きな人の事を知りたい。好きな人の家に行ってみたいという思いが、強く在った。
ましろは、誘惑に負け、財布から1000円を取り出した。
「か、買います……私、この合鍵買います!」
「毎度~♪」
商人はその言葉を聞くや否や、ポケットに入れる寸前だった鍵を取り出し、ましろの1000円を受け取った。そしてまだ食べかけのポテトの乗ったトレイに鍵を置く。それと同時に、白いメモ用紙の切れ端を置く。
「この紙はおまけ。沙介の家の住所が書いてあるよ。それじゃ、ボクはこれで失礼するよ。ファストフードの飯はテイクアウト派なんでね」
そう言うと、商人はお札を手に取り、その場を後にするのだった。
「鍵……これが沙介さんの家の……合鍵」
目の前に置かれた合鍵を大事そうに手で持つ。
「これで、沙介さんの所に……」
ましろは、腹に入らなかった数本のポテトを残したまま、席を立つのだった。
あ、商人くんは未登場の新キャラですよ