ようこそ橋本正義の教室へ 作:ふわふわプリン
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
今回の話は、無人島試験1日目のお話になります。
数分後、突然放送により特別試験が始まった。
私達はジャージに着替えて必要最低限の荷物を持って船から降りる。
薬とタオル、最低限の着替えと日焼け止めを持って船を降りる。
荷物検査に引っかかる事無くAクラスの列へと並ぶ。
数分後全クラスの生徒が浜辺に集合した。
担任の真嶋が試験の説明を始める。
どうやら今回行われる特別試験は、無人島で約一週間生活するというものだ。
一週間を過ごす中で、試験ポイントを使って生活用品を買い、余ったポイントはクラスポイントとして試験終了後に配布されるそうだ。
そこまで難しい試験では無いが、この試験にはどんな目的があるんだろうか。
「とりあえず、場所を移動しない?リーダーについてはベースキャンプを決めてから話そうよ。」
無言の葛城、面倒臭そうな顔をする橋本、彼等を囲む両派閥の生徒、訝しげな顔をする坂柳派の生徒に呼びかければ、炎天下にずっといる訳にもいかないからか、私の提案を受け入れてくれた。
船から見えた洞窟を目ざして私達は歩き出す。
洞窟に着くと、そこはスポットだったようで私達は直ぐにリーダーを決める事になった。
「誰がリーダーを務める?」
「やっぱり橋本君じゃない?」
「いいや、葛城さんにこそ相応しい。」
「いやいや、橋本の方が優秀だろ?実績もあるしな。」
「いいや、葛城さんこそリーダーにふさわしい!」
橋本派VS葛城派の争いを他所に私はせっせと持参したノートに名前を書いていく。
39人もの名前を書くなんて面倒だが時間が押しているので急がなければいけない。
「ちょっと、橋本派と葛城派の生徒がリーダーをやらなきゃいけないなんてルール無いわ!ウチの派閥の鬼頭君だって負けてないわよ!」
おおっと、まさかの鬼頭参戦か。
まあ誰がリーダーをやろうがどうでも良いが、鬼頭は嫌がっているだろう。
坂柳派の女子生徒は頭が弱いのか、見ていて見苦しい。
「よし、出来た!」
「は、何が?」
橋本が私に問いかける。
私は手に持ったものを全員に見えるように掲げ、説明を始める。
「このまま言い争っていても、他のスポットを他クラスに占領されちゃうじゃない?って事でリーダーはあみだくじで決めよう。それなら平等だよ。」
「あみだって…なるほどそんな案があったとはな。少し見直したぜ、福智院。」
上から目線の戸塚にイラッとしたが怒りを抑え、あみだくじを選ぶよう全員に指示を出した。
そして私が余り物に名前を書き、各派閥の代表者が線を入れていき、あみだスタートだ。
「…では結果を発表しまーす!リーダーに選ばれたのは…え、私?まあいいや。この福智院光ちゃんです。」
「福智院、引きが強いな。」
「まあ、私がリーダーに選ばれたからには、各クラスのリーダーなんて百発百中で当てられるので御安心下さい。策はあります。」
まあそんなの無いけど、私の天運に任せれば何も問題ない。
この試験、重要なのはいくらポイントを残せるか、だ。
そしてスポット占有も頑張りたいところだな。
「まあ、リーダー当てについてはまだ今は動かなくても良いんじゃないかな。じゃあ、橋本君、今回の作戦を発表してください。」
私がリーダーだからといって、私は指示を受ける下っ端に過ぎない。
そろそろリーダーの地位を橋本に譲らなければ、信頼を失ってしまうかもしれない。
そう思って私はすぐ彼に指揮権を譲った。
「えー、なんで俺が。葛城がやれば良いんじゃねぇか?」
「…施しはいらん。福智院がリーダーに選ばれた事も全て橋本の運の良さが起因しているのだろう。お前がリーダーをやれば良いさ。」
葛城の発言に橋本は深刻そうな顔をしているが、恐らく葛城に気を遣っているのだろう。
橋本は本当に優しい生徒だ。
そんな彼の派閥に入る事が出来て心から良かった。
「…なら、鬼頭はそれで良いのか?坂柳派は満足してないんじゃねーか?」
なんと今度は坂柳派の意見まで求めてきた。
やはり彼ほどリーダーに相応しい人間はいない。
私の目に狂いはなかった。
「…いや、俺は今回リーダーをするつもりは無い。橋本がリーダーを務めてくれるのであれば安心だな。」
鬼頭は橋本を認めているというよりは、リーダーをしたくないだけのようだが、どちらにしろこの状況は都合が良い。
ここで更なる実績を積んでしまえば、橋本派が天下を取る日も近いだろう。
「分かってるねぇ、鬼頭君。って事で橋本リーダー、指示をお願いします。」
全員が橋本の発言に注目する。
「…なんでこんな事に…とりあえず、運運動部に所属している男女と、 福智院さんはスポットを探して、俺と鬼頭、葛城は一応残って置いた方が良いだろう。他の女子は周辺の探索を頼む。その他の男子生徒は食料調達を頼むぜ。必要な買い物については、俺と葛城、鬼頭、女子代表の福智院さんの意見を参考に行っていくべきなんじゃないか?」
「ふむ、その提案を飲もう。」
「…ああ、その意見は良いと思うぞ。」
葛城と鬼頭が橋本の意見を肯定し、彼らを中心に試験は行われていく事になった。
現状、何も決まっていない状態にしては橋本の意見は完璧だ。
最低限、やるべき事を明確にし、それぞれに役割を与えていく。
そして反感を買わない為にも、鬼頭や葛城、女子代表に私を選んで試験ポイントの買い物については話し合うという提案もリーダーとして相応しいものだ。
クラスメイトを気遣いながらもヘイト管理を行っており、派閥間の士気低下を防ごうという気概が感じられる。
やはり彼こそリーダーに相応しい男だ。
私は運動部に所属している生徒達と一緒にスポットを探す事になった。
メンバーの中に仲の良い生徒は少ないが、司城と神室がいる為心強い。
ちなみには神室は美術部だが、身体能力が高い為スポット捜索班に配属されたという経緯がある。
今回、リーダーを務めるのは橋本なので、自派閥の人間についても優遇が効くという訳だ。
職権乱用とまではいかないが、やはり身内がリーダーだと何事もやりやすい。
「うーん、スポットらしいものは無いね。」
「そうだな。」
司城が周囲を見渡しながら呟く。
「どうする?もう少し奥を探してみる?」
「……いや、向こう側に行こう。」
彼がそう言い指指した方は川だった。
「……川にスポットがあるかも、ってこと?」
私が司城にそう問い掛けると、彼は首を横に振り、上流の方へ視線を向け口を開いた。
「川の上流に向かって歩けば、滝がある可能性が高い。洞窟がスポットだった事からも、いかにもスポットって感じがしそうじゃないか?」
「なるほど、確かにね。」
彼の言う事は一理ある。
洞窟がスポットだった事を考えると、生活に必要な場所や生活しやすい場所がスポットに選ばれている可能性はかなり高いはずだ。
司城大河君、良い推理じゃないか。
本当にスポットがあったら、後で橋本君に報告しておいてあげようっと♪
「なら、行ってみましょう。アンタの考えが正しければ、スポット探しは今よりずっと楽になるでしょうしね。」
神室も乗り気だ。
司城と神室がいれば問題無く進めるだろう。
他の生徒達も私達の意見に賛成し、滝を目指して歩き始めた。
それから10分ほど歩いた頃だろうか。
強く打ち付けられるような水の音が聞こえてきた。
「近そうね。」
「ああ、そうだな。まあ、例えスポットじゃなかったとしても、貴重な水源として利用出来るから、無駄にはならないはずだ。」
神室と司城がそう会話する。
更に歩くこと数分、滝が見えてきた。
そしてそれと同時に奥にある小さな小屋も目に入った。
「あそこだな。」
私達は一目散にその洞窟に向かって走り出し、滝から流れる水に手を入れた。
「きゃーっ!冷たい!最高よ!」
「あー、冷てぇな。」
「涼しい!生き返るわ!」
全員が夏の暑さを忘れるように、滝の冷たい水で手を冷やしている。
男子生徒の中には、靴を脱いでジャージのズボンをあげて足を入れている生徒もいる。
「あー、気持ちいい。」
「だなー。」
そんな男子の姿を見て神室は呆れたように溜息をついていたが、彼女も滝を流れる水に手を入れたので、私もそれに続いて滝に触れた。
そして司城も私の後に続き、3人で滝に手をつけることになった。
「……なんか青春って感じするね。」
私がそう呟くと、2人は私を見て笑った。
「何よ?」
「いや?別に?」
司城はそう言うと視線を逸らした為、私は彼の視線の先を追う。
するとそこにはスポットがあった。
「わあっ!スポットだ!司城君の言う通りだったね。君の考察の通り、スポットは卑怯より、生活に役立つような場所にあるのかもね。」
私が司城にそう告げると、彼は視線を逸らしたまま答えた。
どうやら照れているようだ。
それから私は、水遊びをする生徒達を他所に、滝の奥にある小屋に向かった。小屋には鍵が掛かっていない為、中に入る事が出来た。
中にはバケツやスコップ、鍬、ジョウロ、台車等の農作業に使われる道具が置かれていた。
肥料もあるし、この近くに畑でもあるのかな?
そう思いながら私は小屋の裏手に回る。
裏手にはナスやトマト、スイカの実が成っていた。
「え、これ畑だよね?」
私は野菜をに近づいて実の大きさを確認していく。
ちょうど食べ頃の美味しそうな野菜を見ていると、涎が出そうになってしまう。
そして、1番奥まで確認すると、なんとそこにはスポットがあった。
「……ラッキー♪」
やっぱり、私って最高に幸運だよね!私はすぐに滝に戻り、この事を捜索班のメンバーに報告した。
「は、畑?!それにスポットもあったの?」
「うん!そうなんだ!ちょっと、みんな来て!野菜持ってけるだけ持っていこう!」
私がそう叫ぶと、神室や司城を始めとして、クラスメイト達がぞろぞろと集まってくる。
そしてスポットがある事を確認した彼らは全員驚いた様子だったが、嬉しそうな顔で野菜をリュックに詰め始めた。
「トマトは潰さないように慎重にね!」
「やべぇ、スイカは大きすぎてリュックに入らねぇぞ。」
「何か、他に入れ物があれば良いんだけどなぁ。」
スイカのサイズはギリギリリュックに入らないようで、手で持っていくしかないが、かなり重い。
いくら運動部の男子と言えど、一人1個持っていくのが限界だ。
どうすべきかと考えていると、ふと小屋の中にあった台車の存在を思い出した。
農作業用の道具を運ぶ為の物だから、かなり大きかった記憶がある。
「あそこの小屋に台車があったから、スイカはそれに乗せていこうか!」
「おお!流石は福智院!ナイスアイデアだぜ!」
男子達がスイカを台車に乗せていく。
そして、他の生徒達も畑から野菜を収穫していき、全員が持てるだけの野菜を持って洞窟に帰る。
「よし!じゃあ帰ろうか!」
私がそう叫ぶとクラスメイト達は元気よく返事をし、来た道を戻り始めた。
私もそれに続いて歩き始めるが、その時司城が声を掛けてきた。
「福智院さん、ちょっと良いかな?」
「え?何?」
私は足を止めて振り返る。
すると彼は小声で、私の後ろを指さした。
私は振り返ると、近くの茂みからガサッという音がした。
「……誰かに跡をつけられているみたいだ。この事は橋本にも伝えた方が良いだろう。」
「わ、分かった。」
私は前を向き、何事も無かったかのように歩き始める。
そして、洞窟に戻るとスポットや小屋、その裏手にあった畑についての報告を行い、生徒のほとんどが近くの川や森の探索を始めた頃、私は橋本に話があると言って洞窟の奥に呼び出した。
「突然呼び出してごめんね。どうやら尾行されているみたいだ。」
「いや、いいけど。それで話ってなんなんだ?」
「……実は、さっきスポットを2つ見つけて帰ろうとした時、背後に誰かいたみたいなんだ。私が振り返ったら、茂みからガサッて音が聞こえたの。もしかしたら、他クラスがリーダーを探る為にスパイを送ったのかもしれないよ。」
私は橋本にそう告げる。
すると彼は顎に手を当て、考え始めた。
「確かにその可能性はあるな……分かった。ありがとう福智院さん、報告してくれて助かったぜ。」
「ううん!リーダーに報告するのは当然だよ!だから、しっかりクラス勝利へと導いてね?橋本リーダー!」
私がそう問いかけると、橋本は苦笑しながら頷いた。
その日の夜、洞窟を出てクラスメイト達に尾行者がいた事を伝え、警戒するように呼び掛けた。
そして、各クラスのベースキャンプに見張りを置く事も決定した。
尾行者も気になるが、それよりも今は他のクラスのリーダーを探す事が先決だと考えたからだ。
「……じゃあ、私達はまたスポットを巡回してくるよ。」
「ああ、気を付けてな。そうだ、俺も少し散歩「待ってくれ!福智院!」」
探索班がスポット巡回に向かおうとした時、葛城が突然橋本の発言に割り込んできた。
「スポットの探索なんだが、俺も連れて行ってくれないか?小屋も回るのだろう?なら、そこにある道具も使えそうな物は洞窟に運んでおきたい。力のある男子生徒にも来て欲しい。鬼頭を始めとする身体能力に優れた生徒は他クラスの見張りに行った為、他の生徒でもし俺に協力してくれる者がいるなら、着いてきて欲しい。」
「葛城、本気で言ってるのか?それだと、俺だけが残る事になるんだが……」
橋本がそう問いかけると、彼は静かに頷いた。
確かに小屋にある道具はどれも重宝しそうなものばかりだ。
特に肥料やスコップなどはかなり役に立ちそうだ。
「分かりました!葛城さん!俺が着いて行きます!」
「俺も協力するよ、葛城。」
戸塚を始めとする数人の葛城派の生徒達が彼に賛同を示し、彼らも一緒にスポットを巡回する事になった。
「……いや、それだと俺1人になるんだけど。」
哀れな橋本正義。
福智院にリーダーを押し付けられ、散歩と偽って龍園と落ち合う予定が崩れ、洞窟から出られなくなってしまった。
折角、龍園に恩を売っておく予定が、想定外の葛城の発言により全てが台無しだ。
「……だから、なんで毎回毎回俺の希望は通らねぇんだよ!」
小さくはあるが、強い口調の叫びは誰に聞こえる事もなく、夜の闇に溶けて消えた。
「……本当に、ツイてねぇなぁ。はあ、何でこんな事になっちまったんだよ。」
全ては福智院のあみだくじから始まった悪夢なのだ。
福智院光は、橋本にとって最悪な邪魔者である。
「じゃあ、橋本リーダー!しっかりお留守番宜しくね!春ちゃん!もし問題が起きたら、ちゃんとリーダーをサポートしてあげてね!」
「任せて!光ちゃん!必ず、橋本君の力になってみせるよ!」
橋本はそんな2人の会話を聞きながら溜息をつく。
「はぁ……もう勝手にしてくれ……」
そして、橋本は1人洞窟を出て行く生徒達を見送った後、テントの中で横になった。
そんな彼が深い眠りにつく頃、スポットの探索に向かったはずの葛城達が帰ってきた。
「……ん?おい、お前ら!何で戻ってきたんだよ!」
「いや、ちょっとな……」
葛城がそう答えると他の生徒も気まずそうに視線を横にズラすと、そこには口角を上げニタリと笑う不気味な男……龍園翔が立っていた。
「よう?邪魔するぜぇ?橋本。お前に話がある。良いから、俺に着いてこい。」
(や、やべぇ、終わった。)
橋本は龍園と約束をしていた訳ではないが、ポイントに関するイベントが起きた際には、早めに情報の取引をすると暴力事件の前の取り引きで話していた。
そして、今回橋本は試験初日に龍園と関わっておらず、龍園はずっと橋本の来訪を待っていたらしい。
「龍園君って、橋本君のお友達だよね?なら、早く話してきなよ!橋本君!」
「あ、ああ。」
(何て事を言いやがる!福智院さん!……元はと言えば、全部お前のせいだろうが!)
橋本は葛城達に留守を任せると龍園の後について行く。
そして、洞窟から離れた森の中で2人は対峙すると、龍園が早速口を開いた。
「クク、随分と面白い事になってるみたいじゃねえか?なあ?」
「ハ、ハハハ……か、監視がちょっと厳しくて抜け出せなかったんだ。悪かったな、龍園。」
橋本は苦笑いしながら頭を掻く。
そんな彼の仕草を見て龍園は鼻で笑った後、本題を切り出した。
「それで?俺に嘘をついたんだ、キッチリ落とし前はつけてもらわねぇとな?」
橋本は震えそうな体を隠すように、余裕そうな笑みを返し、話し始める。
しかし、彼の脳内の八割は恐怖に染められており、早くこの時間が流れる事だけをひたすら祈るばかりだ。