改変童話■■■『狂演蔓延兎穴 ロスト・ワンダーランド』 作:リック・デッカード
「それで、これからどうするの?」
ノーデの話が終わってから。
俺とルイスは今、聖森の出口に向かって歩いている。
ルイスは俺の質問に苦い顔をしながら答えた。
「取り敢えず……色々調べなくては。僕としてはあまり戦争に介入したくないんだけど……」
聖杯戦争……その危険性は重々承知している。
現状、俺には戦う方法がない。
ルイスに守ってもらうことしかできないから、こっちとしても戦闘だけはなるべく避けたい。
「それに本棚を埋めるって……まぁ、毎回の話か。グリムは二度もやったようだし」
俺たちは聖杯戦争とは別に、あることをノーデから任せられている。
それが本棚を埋める……童話の蒐集だ。
ただしノーデが見せてきたような、ただの本ではない。
本が、童話が、伝話が、様々な要因によって変異したものを集めなくてはならない。
ルイスの反応を見るに、こっちもかなりの危険性があるらしい。
「一応世界地図みたいなのはもらったけど……うーん、かなり広いね」
「ああ、僕の知っている世界のは違うから、案内はできそうにないな」
ノーデからもらった、この世界の地図を広げて二人で覗き込む。
世界地図には色々とメモが刻まれており、どこに何がある分かりやすく書かれていた。
彼女には感謝しなくてはならないだろう。
「上の方にあるのは……街?」
「緋色の王国……プリケットじゃないよな……」
「プリケット?」
「……知り合いの女王……いや、アイドルか? ……僕の趣味ではないけど」
聞いたことはないな。
ルイス・キャロルに女王の友人がいたなんて逸話は。
アイドルの友人がいたなんて逸話も。
「ロリーナ……いや、あの子は心臓か」
「ルイスさんの知り合い、多そうだね」
「僕の、と言うよりは、
「彼……?」
聞こうとしたが、ルイスはその彼について答えることはなかった。
俺もあまり追求する気にはなれなかった。
その申し訳なさそうな顔を見たら。
「……ともかく。緋色の王国に行こうか、マスター。道中の道には何がある?」
「どうやら監獄塔ってやつを通らないと、崖の上にある緋色の王国に行けないらしい」
「監獄塔……スラムとかなんか色々あるな……少し遠回していくルートもあるが……まぁ、監獄島が一番早いだろうね」
「じゃあ監獄塔ルートから……」
と言ったところで目の前に突然、一人の男が立ちはだかった。
少しボロついたコートに、腰のホルスターには拳銃を収めている。
「よぉ、お前さんら。もしかしてこの先のスラムに行くつもりかい」
「ああ、それがどうかしたか?」
「止した方がいい。猟銃を持った女の子が発狂しながら暴れてる。それに街にはアンドロイドが潜んでいやがる」
「猟銃……もしかしてアーチャーか……? 忠告感謝する。だが僕たちは急いでいてね。どうしても行かなくちゃならないんだ」
「そうか。それなら止めやしねぇ。だが気をつけるこったな」
男はそう言うと近くの木にもたれかかる。
もたれかかってからは、近くの椅子に置いてあった新聞を開いて、それを身始めた。
表面にはデカデカと『モンテ・クリスト伯、女王と謁見』と書かれていた。
ルイスはそんな男の行動を無視して、先程言っていたことを聞いた。
「すまないがアンドロイドが潜んでいる、というのは?」
「人間のフリをした奴らのことさ。なに考えてるかは知らねぇが、俺は奴らを殺さなくちゃならねぇ。じゃなけりゃ今週いっぱいで飢え死ぬからな」
「飢え死ぬ?」
「……懸賞金が出てんのさ。一体狩りゃ、結構な金が手に入る。殺るだけでいい、単純だろ?」
人に紛れ込んだアンドロイドを狩る、ということだろうか。
なんだか何処かで聞いたことのある話だ。
「あの、名前の方聞いても?」
「ん? ああ、俺はリックだ。よろしく頼む」
名前を聞いてみたが、やはり思い出せない。
……さっきから記憶がどうにも不安定だ。
アリスを探さなくてはならないのに、これでは不安しかない。
「どうだ。お前さんらも狩らないか? どうせ数はいるんだ」
「急いでいるから止しておこう。それに僕はあまり、そういう荒っぽいことは苦手でね」
「そうかい。じゃあまたな、どっかで会うかもしれねぇが」
と言うと、引き続き新聞を読み進めた。
俺とルイスはそんなリックの横を通って、森の先へと進んでいったのだった。
「あーあ。なんであたしがこんなことしなきゃいけないのかしら。なぁッ!!?」
愛しき少女は凶器を振るう。
黒と赤の影が凶器を持つ少女に前に舞い降りる。
片方はナイフを、もう片方は斧を手に。
「邪魔しないでよ。今度こそ本当に、なにもかもっ! 私たちの物になるんだからっ」
「グリムは……渡さない……」
「聖杯は使わせない」
「あんたは使っといて!? ……笑わせないでよ。死ねよ、てめぇら」
愛しき少女が剣を片手に走り出す。
その呼応するように、対峙する二人も走り出す。
斧が振られ、ナイフが飛び、剣が突き刺さる。
聖杯戦争の一幕にして裏側。
それは、既に動き出している。
「毒……あぁっ!! 毒、毒、毒、毒ッ!!! 毒をッ!! 私はッ!! 全てッ!! 患者ッ! はァッ!!! どこにッ!!!」
その手に握られた銃剣が、患者の腹を切り裂く。
放たれた弾丸が愚者の脳髄を曝け出す。
その狂気は、爛れていた。
「そうだ、ア……俺は、ク、黒髭……黒髭、エッ、エドワード・ティーチ……俺の、海は、宝は……どこッ、だッ……!!」
黒く逞しい髭を携え、男は大地に立つ。
かつての船すら失った男は、ただ執拗に面影を追い求めて。
その男は、夢を見ていた。
「帰りましょう、帰りましょう。カイちゃん。邪魔をするものはいらないわ」
小さな雪だるまが彼女の側に。
されど、その悲しき顔に気づくことはない。
その手の猟銃からは、煙が吹いていた。
「どこに……どこにッ、いらっしゃるの、ですか。フローレンス様ァ、アッ……! ハイドォ……!! 出てこいィッ……!」
男は二面性を抱えていた。
狂気を、平常を、騙し騙しで感情をひた隠していた。
その顔には、仮面だけがあった。
「魔女……何故っ、何故この私が……ふざけるなッ……神よッ、何故私をッ!!」
握られた剣から血が滴る。
後ろ指差し魔女だと叫んだ人間たちは、もういない。
その旗には、怨讐だけが集っていた。
「わからない……私がこうして殺しているのに。何故増えるのか……娼婦どもがッ……!!」
牙を曝け出し、爪を立て、ナイフを手に女を切り捨てる。
しかして、一向に数が減ることはない。
その罪には、正義が宿っていた。
「ほほほっ……満たされますわ。血がっ、魂がっ! わたくしを満たすッ……!!」
歪な針が、血が、魂を黒く汚す。
故に女王には黒が迫っていた。
その魂の、罪を清算する時が。
英霊七騎、既に揃った。
だが黄金に輝く杯は一つではない。
既に一つ、
既に二つ、
故に三つ、
三つ目の聖杯、それを手にするのは
今、歪みきった聖杯戦争が、特異点修復が、始まる。
ノーデ
クラス:キャスター
出展:BLACKSOULSⅡ
不死人こと主人公の手助けをする、ウサギの耳が生えた女性。
主人公を導き、レベルを上げてくれ、時に助言を、時に水着を着てくれたりする。
色々と秘密があるようだが、それらが明かされるのは主人公が秘密にたどり着いた時のみ。
なお今回は巻き込まれた側であり、グリムの行方を追っている。