守部桜と幻想   作:KRYP

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なんだかなあもっとうまく設定開示できなかったものか。


同窓会② 完

 桜と保穂の二人だけの同窓会は、その名がイメージさせるような会場ではなく、こじんまりとした居酒屋の個室で始まった。よく二人やエリカと交えて旅行に行ったりもしていた彼女達だったが、どことなくぎこちなさが桜にはあった。けれどそれはひとえに保穂の見た目に起因しており、会わなかった期間の長さは関係なかった。

 簡単な料理と日本酒が運ばれてくる。それを受け取ると、桜はなんだか初めて保穂と食事に行ったときの記憶が蘇ってきた。

 小さく乾杯と言って盃を持ち上げ、一息に煽る。ふうと息を吐き、桜はさっそく保穂に聞くことにした。

「で、保穂はなんでそんなに若いのよ」

 確かめなければならないのはまずそのことだった。世の中にも確かに年齢に寄らず若々しい見た目を保っているような人はいるが、保穂のそれはそういうようなレベルではなかった。今から大学一年生だと言っても通じるような、単なる世に溢れているような健康法では達成できないようなその若さを手に入れるには、それなりの危険を冒さねばならないことを桜は知っていた。法に触れるなどのことは当然として、それこそ生命を嘲弄するかのような忌まわしいことまでをもしなければならない。それはちょうど、今の桜がそうして成ったように。

 そしてそうであるならば、事と次第によっては直接的に桜が保穂に手を下さねばならぬことだった。その事実に桜が珍しく緊張する。けれど保穂はそんな桜の様子に比べてまったく緊張していなかった。むしろそんな様子にフフッと笑って言った。

「桜と似たようなものよ。私も仙人になったの」

「えっ!?」

 驚きからがたりと音を立てて腰を浮かせる桜。そうなることは予想していたようで、変わらずに保穂は笑い続けていた。

「私は華光を飲み込んで仙人になったけど、たぶん桜は尸解してから仙人になったのよね」

 保穂の追撃ともいえるそんな発言に桜の驚きが加速しすぎて一周してしまって、逆に桜は落ち着いた。華光などという死んだ仙人の頭からしか採れない、桜でも一度しか見たことがないようなものを飲み込むなどということをしでかした目の前にいる友人が、もともとそんなものを持っており、かつ私が尸解仙だと推論できたことは、なかなかな半生を送ってきた桜を強烈に驚かせるには十分だった。

「まあ私はそうだけど……」

 辛うじてパニックにならずに済んだ桜はそう話題を一つ片づけると、とっくりに口を付けて逆さにした。脳をアルコールに浸さねばやってられなかった。

「まあ華光を飲み込んだことは置いておくとして、そもそもなんであなたがそんなものを持っていたのよ。まさか大学の研究中に仙人殺しをしたわけじゃないでしょうに」

 桜は大学卒業後、保穂がどんな人生を送ってきたかを正確に把握していなかった。保穂が大学院にいたときに一度会ったりしたし、ときおり私を利用していた森中教授から話を聞いて、どうやら大学教授をやっているとは知っていた。けれど研究内容までは知らなかったから、もしかしたらその一環で華光を採取したのではないかと疑った。

「たしかこの華光は桜がくれたのよ。お守りにって」

「はあ?」

「何年生の時かは忘れたけど小学生の頃に遠足で山登りをしていて、そのとき一緒だった他校の子にね。今思い返してもあれは桜なんじゃないかって思うけれど」

 言われて桜は記憶の糸を過去に伸ばしてみた。小学校の記憶は曖昧だったから華光の方で考えてみる。しばらく、そう料理が運ばれてきて仙人になったからか酒豪になった保穂が何度か日本酒を注文するくらいの間、記憶を辿ってみるとようやく思い当たった。あれは確かにそうだった、山で死んだ者達が変貌して成った悪霊に絡まれていた子を守って悪霊を消滅させたときに、そんな厄介ごとに絡まれやすそうな運命にある彼女を見て持っていた華光を渡したのだった。

「えっ……もしかしてあれが保穂だったっていうの」

「たぶんそうでしょう。こんなことが他にあったとも考えにくいし」

 保穂の言い分もわかるし、いま思えばあのときの子が保穂だったような気もする。私はあちゃーと頭を抱えるしかなかった。これでは私の責任だし、そもそもそんな大事なことをどうして保穂に出会ったときに思いださなかったのか。そういえば保穂は昔から霊を見ていたなんて言っていたし、そのときにもしかしたらなんて思ったはずだ。もっと突っ込んでおけばと後悔する。

「まあそんな顔しないでよ。おかげで色々と助かったこともあるんだから」

「……ならよかったのかな」

 考えてもみれば保穂は同じ大学にいた4年間でも何度か怪異に巻き込まれていた。しかもわざわざ海外にいるエリカに来てもらわなければいけないような財団絡みのものだ。学生のころからそんななのだから、教授になった今ではもっと大変なのだろう。なるほど確かに仙人にならなければいけなかったようにも思う。

 もしかしたら、財団も私たちも把握していないような怪異も保穂が解決していることもあったかもしれない。そうであったならば財団や私たちも保穂を生かしておいてもいいと判断するだろう。

「じゃあさ、大学を卒業して別れてからどんなことがあったのか話してよ」

「いいわよ。じゃあ何から話そうかしら」

 それは酒のいいつまみになるだろう。そんなことを思いながら保穂の注文した酒を少々拝借すると、保穂がつらつら話し始めた。

 桜はそれを聞きながら、ときおり先ほどよりも驚きつつ笑いつつ、店が閉まるまで二人で話していた。

 

 

 二人が店を後にしても、まだまだ夜は深くそれでも多くの人が通りを行きかっていた。日付が変わるまであと少しというだが、土曜と日曜の境にある今晩は人に会わせて街もまだまだ活動を続けるらしい。

 そこからまた別のバーなどで酒を飲み交わすことも出来ただろうが、桜も保穂も十分に話したとここで別れる事にした。

「じゃあね保穂」

「それじゃあね、まあ生きていればこれからも会うことがあるでしょう」

 手を振りながら二人とも小さく笑った。どうせこれからも人の世で人に倣わず生きていく二人のことだから、それこそ何度でも会うことになるだろうと分かって笑ったのだった。

 そうして二人は人の波にもまれてすぐに姿が見えなくなってしまった。それは影がより大きな影に消え入るのと似ていた。

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