前世記憶が蘇ったリトル・ツィイーはルビコン3から逃げたい 作:とうや
ビーハイブの一件が済んだ後アーシルは即座に解放戦線の司令部に報告を行っていた。
ヘリに揺られて解散地点の壁まではそこそこ時間が掛かる上に、そこから今度は拠点まで移動というのはだるい。
私はもう帰りたい、家に帰ってベッドにダイブしたいという欲求に駆られていた。緊張の糸が緩み、連続した拠点強襲ミッションで疲労が溜まってたのがようやく実感できた。
アーシルに一方的に連絡を行う。
「アーシル、流石に疲れたからしばらく寝るわ。到着したら起こして」
SIDE アーシル
『アーシル、流石に疲れたからしばらく寝るわ。到着したら起こして』
「あ、おい!……もう寝てるのか」
向こうが切り忘れた通信から聞こえる寝息にため息をつく。
「寝かせといてやんな、本部からは壁への帰還指示も出てたし」
操縦手のリッチモンドさんが言う。
「今回は腕が悪い相手とは言え、ビーハイブ以前も六文銭が居たとは言えMT引き連れたACの集団を複数相手して、その後にMT集団潰しつつグリッド攻略した上にオチがアレだ。神経が参っちまうよ普通なら。
まぁリトル・ツィイーなら疲れたの一言で済ませちまうんだろうな。それだけに、出ていかれたの本当に痛いよな」
出ていかれた、その理由を知る身としては素直に頷けない。
「ダナムさんも言ってたんですが反抗期みたいなもんじゃないですか?」
本人から聞かされたけど、無理できないアセン*1にさせようって師父と師叔が共謀して二脚機体だと攻撃時に足が止まる、同時撃ちできない、打つ時はパルスシールドも併用できないという機動性が重要なACで機動性が死ぬアセンとかは運用上ダメだろう、オマケにバックウェポンハンガーなしとか、これなら非武装のほうがマシ、殺す気かってガチギレしてたもんな。
師父と師叔の親心もツィイーの気持ちも分かってたけど、アセンのデメリット聞くと流石にダメだろうって思ったね。
「そう言えば、他所の状況はどうなってる?コッチはツィイーがダウンしたんじゃこれ以上の作戦行動は損害覚悟になるが」
「それなんですが、今、メールでとんでもない情報来ましたよ」
封鎖機構が把握していなかった『規模の大きい井戸』の発見。
発見者は独立傭兵レイヴン。
この報告は誰が漏らしたのか即座に解放戦線中に駆け巡り、同時に外部にも漏れた。
封鎖機構が慌てて井戸の制圧及び周辺の『不埒者』を制圧する事態となり、ルビコン3内の動乱は多くの余燼を残したまま鎮圧された。
俺自身の胸の内にもまた燃え残り燻ぶる余燼があるように。
SIDE OUT
動乱の日から3日、やるべき仕事も依頼もあるのに私は解放戦線拠点の医務室のベッド上で拘束されていた。
「ひまー、すごい暇!タブレットぐらい寄越せー」
私は帰還後に師父と師叔の指示で受診させられた医者の診断により、先日の肉体疲労や内蔵ダメージ、骨への影響が成長期の肉体に悪影響が出かねないダメージが云々ということもあって5日は絶対安静。10日ぐらいは負担になるAC搭乗も含めた労働禁止処分となった。
点滴は貴重な医療物資の筈だが惜しげもなく使われ、私は『うら若き戦乙女が我が身を削って〜』と戦意高揚の材料にでもされているのだろう。
そう言えば、途中から見込みのある新人さんの報告は来てなかったな、コーラル発見者の独立傭兵レイヴンの話で全部持っていかれたのかな?
六文銭も結構な活躍したそうだし、話し盛られているんだろうなぁ。
おじさん達はそういうの好きだからどれだけ尾ひれ背びれがつくことか。
特にダナムおじさんはそういう煽動得意だよな〜って。
どれだけ話が盛られるか戦々恐々していると、訪問者を告げるブザーが鳴った。
枕元のスイッチを押してスイッチ横のマイクに話しかける。
「はいは~い、どちら様?」
聞き慣れた暑苦しい声がスピーカーとドア向こうから聴こえてきた。
『俺だ、ダナムだ。期待のルーキーの案内をしていてな。よかったら顔合わせをせんか?』
「ちょい待って、準備したら鍵開けるから」
私は脇の少し曇り気味の古ぼけた鏡で服がはだけていないかと寝癖をチェックして、多少跳ねてる寝癖はもうどうしようもないと諦めて鍵を開けて入室を促す。
「こんにちはダナムおじさん。そっちの期待のルーキーさんははじめましてだね。よろしく」
「おう、過労で寝込んだと聞いたから案じていたが元気そうだな!コイツは期待のルーキーでラスティだ。実力だけなら解放戦線で上位間違いなし、お前とも良い勝負ができるんじゃないかと思うぞ。ラスティ、名前は知っているだろうがリトル・ツィイーだ。フラットウェルの愛娘でドルマヤン師父にとっても孫娘みたいなもんだから手を出すなら覚悟しておけよ。もっとも、こんなちっこいなりでレイダー達を〆て周る様なお転婆だからそっちを気をつけたほうが良いかもな」
「紹介に預かったラスティだ。勇名はかねがね聞いているよ守護者殿。共にこの星の人々の為に戦える事を光栄に思う」
初老の入った筋骨逞しいおじさんであるインデックス・ダナムと多分二十歳前後のイケメン・ラスティ。
雰囲気からして「俺がやらねば誰がやる」という気概を感じる。
「ありがと。機会があったらシミュレーターで対戦でもしようか……ダナムも当然参加だから覚悟するようにね?」
「願っても無い事だ。ぜひ頼む」
「よかったな……って俺もか!?」
悦び感謝しているラスティに頷き。
ダナムは驚いたが当然だろうと言いたい。
「AC乗ってるのに指揮優先で乗りこなせてないじゃん?AC乗り続けるなら、指揮取りながらでもせめてもうちょい動けないと……そうじゃないならジャガーノートに乗って指揮取ってくれた方が安心できるんだけど」
「むぅ……だが、しかしなぁ」
ACは分かりやすい力の象徴ではあるが、その魅力は機動戦力であることだ。
ダナムは部下を指揮する前線指揮官であり、多数のMTや戦闘車両、戦闘ヘリを引き連れるのが前提だ。
解放戦線では戦略担当のミドル・フラットウェル、戦術担当のインデックス・ダナムと認識されており、解放戦線の礎を築いたサム・ドルマヤンは尊敬こそされるが扱いは実はそう高くない。
故にダナムの生存が解放戦線にとって影響がかなり大きいのだ。
という事を語って聞かせると訓練参加の覚悟を決めた様だ。
「わかった。ラスティ、覚悟しておけよ……このお姫様は赤ん坊の時からAC乗ってた生粋で、師叔フラットウェルに拾われて養育され、師父ドルマヤンの手ずからAC乗りとして教育されたのさ。腕前だけならとんでもないが、リトル・ツィイーはまだまだ身体も成長しきっちゃいないからな、それだけが唯一の弱点だ」
「アソコで休む選択肢なんて選べなかったし仕方ないじゃん。ビーハイブみたいなカルトを装ったレイダー集団放置できないでしょ?」
「そうだな。ルビコンの独立の為にも、その様な宗教組織は排除しないと我々解放戦線がなんとか維持しているルビコンの情勢すらも完全に危うくなる」
サム・ドルマヤンの警句が宗教っぽく聞こえるので偶に宗教系組織と間違えられるのだがルビコン解放戦線はカルトでも宗教でも無く対封鎖機構組織であり、ルビコン3で唯一の政治情勢を担う組織でもある。
BAWSやエルカノはどうなのかと言うと、実の所経済活動優先だったりする。
むろん、裏ではずっぶずぶに繋がって経済にも政治にも影響大であるが、それをそう見せない為の解放戦線である。*2
何でそんな風にしているかと言えば封鎖機構への対策だが細かい話は昔にフラットウェルおじさんに聞いたんだけど、正直良く判らなかった!
簡単に言うと【封鎖機構の最高判断者はAIであるから】らしい。
本来は柔軟な判断も可能なAIだが、一部抜け穴的な本当に僅かな抜け道の判断条件があり、幸か不幸かルビコン3はそれが適用できる最悪の不幸中の幸いだと言って〆ていた。
まぁ、師匠も含めて触りは分かっても全員全部は把握できなかったから問題ないというか、フラットウェルおじさんがマジパないっていう話だ。
兎に角そのお陰で封鎖機構が敵視するのはあくまで解放戦線に限定されるように誘導できているという訳だ。
私は何度聞いても訳が分からない理由だし、メモ書きや口にするのも禁止って言われて何処にも情報を残さない約束だから口も閉ざすけど。
そのお陰でギリギリ凌ぎつつも力を溜めれてるのだからマジなんだろうなぁ……これに一番げんなりしたのはドルマヤン師匠だったなそう言えば。*3
ちなみに基本的にドーザーはコーラルで頭がハジケてる系のアレであっても組織として纏まっている方のマフィア扱いだし、レイダーはマフィアですらないザ・犯罪者、ガチのサイコパスとかいるしカニバリズムもOKなヤベー奴等だ。*4
数日後
シミュレータで先日約束した通りにラスティとダナムの二人と対戦を行った。
ダナムはまぁお察しだけど以前よりは動きがマシになったかな?
ラスティは私の想像以上にデキるタイプだった。
「ラスティもなかなかやるね。機体特性的には射撃寄りだけど、きちんと狙える所で殴ってくるのは良い感じだと思うよ。まさかニュービーに
「聞きしに勝る、だな……経験の差とは言え、APを4割も削れないとは思わなかった」
「きちっと基礎は出来てるみたいだし、後はどうにかOSチップを入手してACのシステム周りを拡張するのが必要かな」
ACのOSチップは基本的に非売品なのだけど、入手方法は幾つかある。
一つは引退する傭兵から穏便に譲り受けるのが一番穏当だが、傭兵やってて引退まで生きているのは非常にまれだ。
もう一つ撃破したACから奪うと言う物だが、大体の場合は撃破時にコアの損傷や爆発で消し飛んでる事が多い。
最後にオールマインドの主催するVRシミュレーター対戦アリーナで再現ACと戦い勝利する事。
なお、アリーナは傭兵ランクを上げてオールマインドに招待されて初めてアクセスできる機能だからまずはランカーとして名を上げる必要がある。
ランク外も閲覧だけ出来るが対戦は…というのは処理能力の都合らしい。
といったことをラスティに語るとうぅむと悩み始めた。
「一応、情報の閲覧制限の依頼はできるよ。例えば私のユエユーのアセンとか」
「あのお飾りアセンか。武装どころか必要ならフレームも変更できるお前相手じゃ余り参考にならんなぁ」
ダナムはそう言うが、あのアセンでもやれないわけじゃない。
片方捨ててぶん殴りになるけど。
それにたまに聞くけどフレーム交換の違和感ってそんなあるだろうか?
「同感だ。傍から見てばかりでは気付けなかったが、フレーム変更はたとえ同じパーツで新品でも違和感がでるというのによくやる*5」
ラスティも違和感が強い方らしい。
所詮機械操作だって言うのに何でここまで?フレームの特徴さえ見て覚えれば可動域や歩行感覚だって直ぐにつかめるし、そういうもんだって思えばそれなりに動けると思うんだけどな。*6
「そう言えば、今回の事件で独立傭兵のレイヴンってのが活躍したんでしょ、どんなんだったの?」
私の言葉に二人は難しい顔をする。
「解放戦線寄り……だとは思うんだが随分と無口だったな。まぁ任務中は口数が極端に減るやつも増えるやつもどっちもよくいる。オペレーターの姉ちゃんは口が回るが一種独特だ」
「あのオペレーター、随分な曲者に思える。恐らく井戸の件が漏れたのはあのオペレーターからだ。師叔が調べた限りでは既に星外にまで伝わってしまったようだ」
ダナム、ラスティの言葉に私は思わず天井を見上げ、一息ついてから口を開く。
「大問題じゃない」
この日を境にルビコン3の未来を決める戦いが始まった。
ルビコンは再び火に焼かれるか、封鎖から解放されるか、或いは誰も予想がつかない未来に辿り着くか。
私は最後までこのルビコンで戦い続けるのか、それともどこかで見切りをつけてイチかバチかで星から脱出するのか、或いは志半ばで散るのか。
せめて、後悔しない選択をしたいと私は強く思った。
ここまでがAC6本編前頃の前日譚です。
レイブンのオペレーターには泥を被って貰いましたが、大体のシリーズ主人公は政治的なアレコレは周囲がやってて自分は依頼を選んで熟すんよーって感じなので、コチラのレイブンも大体そんな感じです。
状況を良くしたいという思いはあるのでオペ子を信じて動くのですが、流石に井戸の件が星外に響き渡ったのは拙いんじゃないかと思っています。