異世界の転生ものですが、異世界転生ものではありません。
ちょっとばかり胸糞注意。1話完結です。


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勇者パーティー全員おれ〜転生ループの終着点は

 

 わたし、アイリア・セカンダリには前世の記憶がある。

 それも、過去の記憶ではない。

 

 今のわたしは、勇者とともに旅する一員となっている。

 勇者を筆頭に、剣聖と、賢者。そしてわたしは、聖女などと呼ばれている。

 正直、身に余る。未来を知っているがゆえに、その悲惨な未来を何とかしようと努力を重ねてきた結果、分不相応に聖女なんて呼ばれるようになってしまっただけだ。

 

 そして何を隠そう、わたしの隣を歩く()()()()()()()()()()()()()なのである。

 

 

 パーティーは勇者のみが男性で、ほかは皆女性だ。

 やっかむ声もあったようだが、前世で旅をした頃は正直いっぱいいっぱいで、色っぽいことなど考える余裕もなかったように思う。

 ただの村の子供でありながら、聖剣に選ばれし者として賢者に見い出され、魔王を倒す旅に連れ出された。村を襲い、両親を殺した魔族を、あっさりと魔法で撃退してみせた賢者の言うことでなかったら、ついて行くことさえなかっただろう。

 まあ、ドギマギすることが無かったといえば嘘になる。その中でも最も好意を抱いていた聖女が、今や自分自身というのだから、あまりにも悪い冗談というものだ。

 

 長い旅の末、前世のわたしは魔王と相対した。

 歴史の中で時折現れる魔王は、聖剣でなければ倒せないし、聖剣は選ばれし者にしか使えない。

 お伽噺のような話だが、事実のようだ。厳密に言えば、魔王は聖剣以外の手段で倒してもすぐに蘇生するのだ。灰の中からでさえ、3日も経たずに蘇ったと記録にはある。聖剣が選ばれし者にしか使えないというのもまた、事実だ。旅の途中、聖剣を奪おうとした人間の騎士はその身を焼かれ、瀕死の重傷を負った。

 

 そうして相対した魔王は、想像を超えて強大だった。旅路で倒してきた魔族たちなど、比較にもならないほどに。

 4人がかりでも防戦一方となり、勝ち筋が見い出せないでいた。そんな時、聖女が集中的に狙われた。

 とっさに聖女をかばった、勇者だったわたしは──そのまま魔王の攻撃で、命を落とした。

 

 今にして思えば、あまりに愚かな行いだった。

 考える前に体が動いていたなど、言い訳にもならない。魔王は勇者にしか倒せないのだ。その勇者が真っ先に死んでしまっては、魔王をどうやって倒すというのだ。

 たとえ聖女を──わたしを見捨ててでも、勝ち目がないのなら逃げるのが唯一の選択肢だったはずだ。

 

 死んだはずのわたしは、孤児院に暮らす小さな女の子になっていることに気づいた。性別が変わってしまったことに最初は戸惑ったが、それもいずれ慣れた。

 残念ながら、今世のこの身体はあまり戦いには向いていないようだった。ただし唯一、神聖術にだけは高い適性を持っていた。前世ではあまり得意ではなかったけれど、聖女から簡単な神聖術の手ほどきを受けてはいたので、それをもとに神聖術を鍛えていった。

 自分自身が未来の聖女なのだと気付いたのは、そうして数年も経った後のことだった。間抜けな話だ。好意を寄せていた聖女の名前さえ、ほとんど呼んだことがなかったのだから。

 

 魔物に襲われた人を助けたりしているうちに有名になり、孤児院の母体の教会に取り立てられた。社会的地位が上がるのは、将来に来たるべき魔王軍の侵攻に備えるのには好都合だった。やがてわたしは、前世の自分が知るように、聖女と呼ばれるようになっていた。

 

 魔王軍の侵攻に備え、あらゆる努力を行った。

 人脈を作り、戦力を探し、備蓄を整え、人々が一人でも多く助かるようにした。

 

 そうして努力を重ねた結果、わたしはただ()()()()()()()

 わたしにできる最善は、すでに前世の聖女もやっていたのだということを。

 

 勇者パーティーに加わり、旅に出てからもそれは変わらなかった。前世のわたし達の旅が、針の穴を通すような奇跡の上に成り立っていたのだと、そう思い知らされた。最善に最善を重ねてようやく、すでに知る旅路をなぞることが精一杯だった。

 

 前世で見た聖女は、ときおり沈んだ顔をしていたのを思い出す。勇者だったわたしは、魔族に苦しめられる人々を想い、憂いているのだと思い込んでいた。

 何のことはない、ただ、何一つ変えられない自分の無力に、絶望していたに過ぎなかったのだ。

 

 今からわたし達は、再び魔王に挑む。

 何も変えられなかったわたしでも、これだけは変えてみせると。

 

 そんな決意も、すぐに絶望に沈むことになる。

 

 

 思えば、聖女が集中して狙われたのは偶然ではなかった。

 考えてみれば当たり前のことだ。パーティーの相手をするときの定石。()()()()()()()

 魔王は忠実にそれを実行し、わたしが分断されるように立ち回り、そして確実に仕留められるタイミングで仕掛けてきた。

 分かっていても、避けられなかった。

 ここに来てもまだ、わたし達は魔王を甘く見ていたのかもしれない。この戦いは、すべてが魔王の手のひらの上だったのだ。

 

 そして、わたしが知るように、勇者がわたしの前に立つ。

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 勇者が血に塗れ、倒れる。

 魔王の追撃が来るが、戦意を折られたわたしには、もはやそれを避ける手段はない。

 

 魔王の攻撃が眼前に迫り、そしてわたしは──

 

 


 

 

 アタシには、フィアリンダ・ドルテには前世の記憶がある。

 それも、一人分ではない。忌々しい敗北の記憶だ。

 

 聖女としても魔王に成すすべなく破れたアタシは、今度は騎士の家の女児として生まれ変わっていた。環境の違いが大きく明確ではないものの、前世の記憶にあるより、いくらか前の年代のようだった。

 

 だが、今世の身体には、魔力を自発的に体外に放出することができないという欠陥が存在していた。つまりは、魔法も神聖術も使えないのだ。

 そのことを知ったときは、早くも軽く絶望しそうになったが、唯一、体内に魔力を巡らせて身体を強化することはできた。

 だから、アタシはひたすらに剣を鍛えることにした。

 

 自分が剣聖だと気付いたのも、その時だ。

 こうなると一人残った賢者もなんだか怪しくなってくるが、実年齢さえ定かではないアイツの内心はどうにも見通せない。もしかすると、アタシの知らない未来も知っているのか?

 

 女の身ながら、遊びも、色恋沙汰も、友人付き合いさえも捨てて剣に打ち込むアタシは、頭のおかしいヤツとして扱われていた。

 聖女時代、新しい仲間の候補を探したが、ついぞ実力的に見合う者は見つからなかったのを思い出す。ある意味、当然といえば当然のことだ。魔王の侵攻が激化し人類が追い詰められるまでは、わずか数年。それ以前から、人生のすべてを賭けて個の力を鍛え上げ続けるなど、正気の沙汰ではありえない。

 今代の魔王は出現してからしばらくは大人しかったから、人類との積極的な敵対を望んでいないとか、実は弱いのではないか、などと囁かれていた。今にして思えば、とんでもない間違いだ。

 

 勇者時代、初期の基礎の基礎の部分は賢者が、アタシが合流してからはアタシが剣を教えていた。その経験があったから、アタシの剣の腕は凄まじい勢いで上達した。なにせ基礎がもうできていて、未来のお手本まで知っているのだ。

 そこに異常な努力まで加われば、上達しないほうがおかしい。

 

 魔物が多く現れるようになると、アタシは剣聖などと呼ばれて持ち上げられていた。まったく現金な連中だ。

 

 やがて、アタシも勇者パーティーに加わることとなる。だが、アタシはもう未来を変える気はなかった。聖女時代のような思いは、もうコリゴリだった。

 

 つまり、勇者と聖女にはそのまま死んでもらう。

 死んだって、どうせ、いずれはアタシになるのだ。魔王を倒すための、必要な犠牲だ。

 

 とはいえ、全くの無策というわけではない。

 アタシの知る未来は変えないが、アタシの()()()()()()には、介入の余地があるのではないのか。

 それは、聖女が死んだ後。そのタイミングで、魔王を討つ。

 

 そのために必要な、前提条件がある。

 聖剣を扱う資格というのは、はたして肉体に宿るのか? それとも、魂に宿るのか?

 ……もし魂に宿るのなら、勇者の生まれ変わりである()()()()()()()()()()()のではないか?

 

 もしそうであるなら、賢者がアタシではなく勇者の方を選んだ理由がよくわからないが、簡単に試す方法はある。

 夜間、野営の見張りを買って出たアタシは、他のメンバーが寝静まったタイミングを見計らい、聖剣を手に取った。そして、慎重に鞘から引き抜く。

 

 抜けた。

 身体にも異常はないし、痛みもない。微かな光を帯びた剣身が月明かりに照らされ、さらに輝く。

 やはり、聖剣はアタシにも扱えるのだ。

 

 このことは、誰にも気取られてはならない。

 それだけではない。旅の最中、アタシは未来を変えない程度に、ほどほどに手を抜いていた。

 そして魔王の戦いに当たってさえ、聖女が殺されるまでそれを続ける。

 アタシの本当の実力も、聖剣を扱えることも、誰も知らない。その状況が重要だった。

 

 魔王を殺せるのは、聖剣を持つ勇者のみ。そのことは、魔王も知っているはずだ。

 であれば、勇者を殺せたその時には、魔王といえど気の緩みが生じる。油断する。

 その一瞬を狙い、刈り取る。

 

 

 実際に魔王と相対する今、アタシの知るとおりに事態は推移していた。

 聖女が狙われる。勇者が庇う。

 そして、勇者が倒れる。

 

 ここだ。

 

 勇者を助けるように見せかけながら駆け寄って、聖剣を拾い上げる。

 誰にも見せてこなかった全力を開放し、魔王に斬り掛かる。

 全身の筋繊維の千切れる音がするが、構ってはいられない。

 

 聖女を殺した魔王が、こちらに振り返ろうとする。

 もう回避はできない。

 

 ()った。

 

 苦し紛れにか、聖剣を受けようとする魔王の掌に聖剣が触れる。

 次の瞬間。

 

 聖剣の剣身は、粉々に砕け散った。

 

「──馬鹿な」

「聖剣といえど、こんなものか?」

 

 魔王の攻撃が、全身に直撃する。

 受け身も取れずに無様に転がり、床を這う。もう何の感覚もない。

 

 柄だけが残された聖剣を視界に、アタシの意識は薄れていった──

 

 


 

 

 私、マストーナ・スーには前世の記憶がある。

 もはや、合わせて何年分になるか。どうしようもない、繰り返す挫折の記憶だ。

 

 今度の肉体は魔法の適性が高かったから、徹底的に魔法を鍛えた。自分が賢者だということは、さすがに最初から気付いていた。

 年代はどうやらこれまでよりもかなり前のようだった。

 

 成人を迎える頃に、突然目の前に聖剣が出現した。

 驚いた。そういう仕組みだったのか。

 

 なるほど、聖剣の資格者の中で最年長は私になる。本来の選ばれし者は、私だったのだ。賢者がなぜ聖剣を持っていたのかという謎も解消する。

 だが私は、自分で聖剣を使うつもりはない。

 

 聖剣でさえも今の魔王には通じないことは、前回でもう分かっている。なにか他に、魔王を滅ぼし得る手段が必要だ。

 聖剣は武器としてではなく、分析の対象として用いる。

 

 他にも、研鑽の傍ら、古代の文献を集め、読み漁る。遺跡の探索なども行った。口に出せないような非人道的な実験も。

 そうして、概ね魔王の真実と呼べそうなものを掴むことができた。

 

 

 事の起こりは、神代に遡る。

 神々がまだ地上に残っていた、最後の時代。神々が天界に去りつつあった神代の終わりに、『原初の魔王』は現れた。

 

 魔族は、原初の魔王が闇の神の加護を悪用し生み出したとされる。

 だがその役割は、魔王の臣下としてではない。魔王を不滅の存在とするための装置として、魔族は創られたのだ。

 すべての魔族は、無自覚のうちに、相互に魔力的な繋がりを持ち、ネットワークを構築している。そしてこのネットワークは魔王の魂のバックアップを行い、たとえ死んだとしても直ちに蘇生を自動的に行うようになっている。

 これによって、魔族が完全に絶滅しない限り、魔王は不滅の存在となるのである。魔族が様々な姿を持ち、高い生命力を持つのも、簡単に絶滅しないための工夫であった。

 

 だが神々は、この存在を許さなかった。闇の神も、これを認めなかった。

 

 とはいえ、すでに数を増やしていた魔族を根絶するのは忍びない。それに自分たちが去った後、同じような存在が現れたときに人間たちが対処できなければ困る。

 

 そこで神々は、魔王をこのネットワークから切り離すことのできる権能を封じた剣を生み出し、人間に与えた。

 これが聖剣の成り立ちである。

 

 そうして原初の魔王は滅びたが、ネットワークは残っている。

 そして、魔王が空位の際に一定数以上の魔族から承認を受けたものは、魔王としての権限を手に入れることができる。それが、歴史上たびたび魔王が現れていた理由だ。

 我の強い魔族で構成された魔王軍の統率が取れているのも、このネットワークを経由して直接指示を出すことができるためだ。

 

 

 魔王を滅ぼすには、聖剣と同じようにネットワークから切り離すか、あるいはネットワークそのものを破壊する必要がある。

 はたして神々が与えた聖剣の権能を再現できるのか。だがそれは、魔法の起源と同じことだ。神々の権能を人の手で再現するための試みこそが、魔法の始まり。魔力を使って発生する現象ならば、必ず再現する方法はある。

 

 多くの年月をかけ、そして私は間に合った。

 ネットワークそのものの魔王を蘇生する機能を破壊し、そして魔王を死に至らしめる魔法。それを完成させることができたのだ。これなら、今後不死身の魔王が生まれることもないので、聖剣が失われることになっても問題ない。

 今代の魔王が異常に強すぎる理由をつかめなかったのだけが、心残りだ。

 

 そして私は、勇者の故郷の村の近くの森で潜伏していた。

 勇者が殺される寸前で偶然助けに入るなど、そんな都合のいいことはそうそう起こらない。単に出待ちの結果だ。

 ……私がもっと早くに介入すれば、勇者の両親も助かるかもしれない。前々前世の、私の両親。

 

 だがもう、魔王を倒すためならすべてを犠牲にしてもよいとしか考えられなくなっていた。

 これで終わりにできるのならば、もう何もかもがどうでもいい。

 

 焼ける村に踏み入り、幼い勇者を助けた。

 適当にもっともらしいことを言って、聖剣を授ける。

 長い旅の始まりだ。そして今度こそ、終わりにする。

 

 

 剣と魔法を勇者に教えながら、旅を続ける。

 死なせるために育てることに強烈な違和感を覚えるが、押し殺して態度には出さない。思えば前回もそうだった。

 勇者がどのように感じているかも、すべて知っている。

 

 やがて聖女と剣聖を仲間に加え、旅はさらに続く。

 多くの魔族と戦い、多くの人を救い、悲劇と、喜劇と、醜いものを見る。

 何もかも、私にとってはもう4度目だ。

 

 その終着点、私達は再び魔王と相対した。

 戦いの流れはまた、私の知るものと同じだ。

 聖女が狙われ、勇者が庇う。

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 聖女の絶叫の中、勇者が死ぬ。

 そして追撃で聖女が死ぬと同時に、剣聖が聖剣による不意打ちを仕掛ける。

 しかし通用せず、聖剣は砕かれる。

 

「──馬鹿な」

「聖剣といえど、こんなものか?」

 

 だが、腐っても聖剣だ。魔王が対処を強いられる、この瞬間を待っていた。

 ずっと構築し続けてきた魔法を、開放する。

 

 バギン。

 

 剣聖が吹き飛ばされると同時に、虚空を割るような音がして、私の魔法が効力を発揮した。派手な目に見える効果は、何も起こらない。だが、魔王を起点にネットワークの一部を破壊した、確かな手応えがあった。

 

 そして──

 

 

 

 

「ふむ、見事なものだ。確かに我は、もう不滅の存在ではなくなった」

 

「…………どうして」

 

 魔王は、健在だった。

 ごぽりと、私の口と鼻から血液が溢れ出る。この魔法の代償は、私の命だ。

 

「何も難しいことではない。ネットワークを破壊できても、我自身を殺すには、出力不足だった。それだけだ」

 

 身を起こしていられなくなり、床に崩れ落ちる。

 私の脳裏は、ある疑問で占められていた。

 

「なぜ、この魔法を知っている?」

 

 魔王は私の魔法に対応する防御魔法で、身を守っていた。事前に知らなければ、できることではない。

 

「じきに、分かるさ」

 

 魔王のその言葉を最後に、私の意識は闇に沈んでいった──

 

 


 

 

 我、エンデスト・ドゥ・ホワイルには前世の記憶がある。

 前世において、我は人間であった。

 

 そう、この場に倒れ伏す賢者こそが、我の前世の姿だった。

 

 ()があるなどと、思ってもみなかった。

 そして、自分が何になってしまったのか理解して、半狂乱に陥った。

 周囲からはたいして気にもとめられなかった。白痴に近いような魔族の子供などありふれていたから。

 

 どのぐらい時間が経ったのか、ようやく落ち着きを取り戻した我は、まずは状況の把握に努めることにした。

 今の自分なら、ひょっとして未来を変える余地があるのではないかという、淡い希望にすがって。

 

 

 魔王が現れる以前の魔族の暮らしなど、大して気にしたこともなかった。

 そうして目にした魔族の現状は、ただ悲惨の一語に尽きた。

 

 魔族のほとんどは、貧民街の浮浪者よりも貧しく、野生の獣と大差ない暮らしをしている者も少なくなかった。

 魔族同士でも、力ないものは力あるものに暴力で何もかも奪われていく。

 それ以上に、人間に追い立てられ、迫害される魔族の姿があった。

 

 殺されるなら、まだいい。

 知能があるのをいいことに、捕らわれ、使い捨ての奴隷とされる者たちがいた。

 使い潰しても心は痛まない。人間ではないから。

 

 前世で実験材料として()()した魔族たちの姿を思い出して、吐き気がこみ上げる。

 

 そんな境遇の中でも、優しく接してくれる者はいた。

 そういった者から、先に死んでいった。

 

 このままでは、いけない。

 

 

 まずは、生活レベルの改善から取り組んだ。

 聖女として活動した記憶が、これには役立った。

 

 各地の氏族を巡り、団結と協力を訴えかけた。

 魔族に認められるには、結局は力を見せることが早道だった。

 

 個の力に優れる魔族の身体に、前世での様々な知識と技術が合わされば、魔族の中で最強の存在に上り詰めるのにさほど時間はかからなかった。

 

 ある時ふと、自分が魔王の権限を得ていることに気が付いた。

 条件は、一定数の魔族に承認されることだ。それを得るのは、自然な流れだったのかもしれない。

 

 まとまりのない魔族たちをまとめ上げ、一つの国のようにする。

 そして人類と対等な立場まで押し上げ、共存か、悪くとも相互不可侵にまで漕ぎ付ける。

 それが我の狙いだった。

 

 今世の体験は人類への愛想を尽きさせるには十分だったが、それでもまだ人間たちを虐殺したいわけではない。

 互いに争いあうことのない未来を、夢見ていた。この時は、まだ。

 

 

 魔族の暮らしは少しずつ上向いていったが、いまだ人間に(おびや)かされることは少なくない。

 

 我は幾度も人類側と交渉を試みた。

 脅し、すかし、宥め、譲歩も繰り返した。魔族の中には不満が溜まっているのも感じていたが、どうにか抑えた。考えなしの過激派を、手にかけたこともあった。

 

 

 そのすべてが、人類の裏切りで潰えた。

 

 前世の旅の中でも、同じ人間だからという理由で何度も人の醜さに目をつむってきた。

 今の我はもう、人間ではない。

 

 人間によって焼き滅ぼされた魔族の村の中で、我の心は折れた。

 前世で諦め癖がついてしまったのかもしれない。

 

 いいだろう。共存が不可能というのなら。

 どちらかしか選べないというのなら、我は魔族を選ぶ。

 

 

 ネットワークを用いて、すべての魔族に決起と力による人類への抵抗を呼びかける。

 原初の魔王を除けば、我ほどこのネットワークを知り尽くし、活用できるものはいない。

 

 一度火がついてしまえば、長い歴史の中で虐げられ続けた恨みは燃え上がり、制御不能なものとなっていった。

 それでも最低限の節度が守られるよう指揮を執り、拷問と強姦だけは禁じた。

 人間はすぐに死ぬので、そう機会はなかっただろうが。

 

 長年かけて魔族の力の底上げを行っていたこと、距離を無視して直接指揮を行えたこと、我の魔法による支援があったこと。

 有利な条件はそろっていたので、苦戦することもなく、人間の国を次々と攻め滅ぼしていった。

 結局こうなったのかという、我の自嘲だけを残して。

 

 

 だが、対処しなければならないことがある。

 いずれ勇者パーティーが──前世の我らが攻め入ってくるのだ。

 

 何度転生しても旅の展開が変わらないことを、疑問に思ったことはある。偶然の余地さえも、全くなかったのだろうか、と。

 何のことはない、パーティーの半数と、魔族側で指示を出す我が、同じ展開に誘導していたのだから、そうそう変わるはずもない。

 

 同じ展開であることが、魔族側にとっても犠牲を最小化できる策だった。

 

 聖剣は、その原理も構造も知り尽くしている。対処は難しくないだろう。

 問題は、賢者の魔法だ。

 

 前世の時点で、思いつくような弱点はあらかた潰してある。

 今考えても、完璧な対策は困難だ。

 

 結局、魔法障壁の出力差の力技で乗り切ることにした。

 我自身が構築したわけではないネットワークまでは守れないだろうが、そこは割とどうでもよかった。

 

 不滅などに、興味はない。

 すべてを終わらせるのに、我自身の寿命があれば十分だ。

 

 

 そして今、戦いは終わった。

 

「ああ、永い、永い旅だった…」

 

 倒れ伏す、4人の勇者パーティーのメンバーたち。

 そのすべてが、前世の我。

 

 ようやく知らない未来へ踏み出せるのだ。

 

 

 だがその時、強烈な既視感が我を襲った。

 

 ……我は。

 我は、この光景を以前にも見たことがないか?

 

 だがそれはおかしい。

 既視感の元となるべき、前世の我はみな息絶えている。

 誰がこの光景を見るというのだ。

 

 我の前世たる、賢者。

 その前世たる、剣聖。

 その前世たる、聖女。

 その前世たる、勇者。

 

 ……。

 

 ()()()()()()()()

 

 

 そんな疑問が思い浮かんだ瞬間、封が破れたように記憶の奔流が流れ込んでくる。

 

 魔王。

 

 賢者。

 

 剣聖。

 

 聖女。

 

 勇者。

 

 魔王。

 

 賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王、賢者、剣聖、聖女、勇者、魔王──

 

 これは。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「う、あ、あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 自分のものかもわからない絶叫が、喉から迸る。

 

 頭を抱え、地べたにうずくまる。

 

 その記憶の奔流に耐えられず。

 

 我は。

 ()()()()()()()()()()()()──

 

 


 

 

 おれ、ロッド・プライマリはどこにでもいる村人だ。

 

 両親の畑仕事を手伝うだけの、平穏な日々。近頃、魔物が増えてきたりして少し不穏だけれども、こんな日がずっと続くと思っていた。

 

 でも。

 最近、大きな何かが起こりそうな。

 そんな予感がするのだ──

 

 

 

 




終わりがないのが終わり。
ご愛読ありがとうございました。


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