転生したら禪院直哉だったので日ノ元軍司を目指したい。 作:遊び人の旅行記
【伏黒甚爾 視点】
「あぁ?流石に…面倒くせぇな。」
結界を抜けた先には既に大群の呪霊が周囲を取り囲んでいた、どうやら結界の中と外で時間がズラされていたみてぇだな。
珍しいが、結界術では無くはねぇ現象だ。
領域の使用後に呪霊操術の術式が焼き切れたことで使役されていた呪霊が一時的に解放されたのか?
結界内に目掛けて飛び込んできやがる、だが所詮は烏合だ、この程度の呪霊の密度なら俺に抜け出せないことはないだろう…!
「 天軍ノ剣 」
突如として呪霊の影から飛び出した直哉が俺に刀印を向ける、これは…あの時に参道で撃った極ノ番!
高出力の呪力による斬撃、この呪霊に囲まれた状況では容易には避けられない、咄嗟に逆鉾での防御を試みる…?
クソッ…この状況でブラフかよ!!
動きの止まった俺を呪霊の波が結界内に押し込んだが、それでもまだ問題は無い。
ならば、敢えてその渦の中心に呑み込まれよう…天逆鉾で夏油の術式効果を解かせれば、結界に閉じ込められていることにより発生する呪霊の圧力は少し弱まるだろうからな、幾ら大量の呪霊が密集しようとも俺の膂力ならば強引に脱出できる、問題はその後だ。
毒の特定除去を完了させた直哉を続けて相手にしなければならなくなっちまったからなぁ、これから高専の術師が続々と集結するだろうことを考慮すればこれ以上の時間は掛けられない、星漿体の居場所もまだ見当がついていないってのに…いや、…見つかった、こちらに向かって走ってきている。
理由は知らんが、こちらとしては探す手間が省けて助かる、直哉の奴は……ハッ、碌に呪力も残ってねぇみてぇだな、殺すのは後でもいいだろ、精々そこで自分の弱さを噛みしめてろよ、呪術師。
◆
【天内理子 視点】
「理子ちゃんの安全を考慮して、これから私の呪霊で天元様が居る大樹の根元まで送る、痕跡を残さずに移動させる為に結界術で移動させることになるけど、呪霊が使う結界だから残穢は周囲にばら撒いた低級呪霊の大群によって目立たない筈だよ、私達が侵入者を撃退するまでは天元様の結界に入らず、その場で待機していてくれ。」
「撃退できたら迎えに行くから、その時にまた改めて、黒井さんとちゃんとしたお別れの時間を設けるか、もしくは引き返して黒井さんと一緒に家に帰ろう」
「大丈夫だよ、理子ちゃんが生きる事を望んでいるのは黒井さんや学校の友人達だけじゃない、私や悟は勿論、高専の後輩達や、現に直哉だって態々同化を防ぐために待っていてくれただろう?君が思っているよりも沢山いるんだ。」
「私達は最強なんだ、理子ちゃんがどんな選択をしようと君の未来は私達が保証する。」
そう言ってくれた優しい術師が、私の目の前に血塗れで倒れている。
激しく響いていた戦闘の音が途絶えた後に、本殿の周囲に展開されていた呪霊が一斉に参道の方向へ群がっていくのが見えた、それは同時に私が薨星宮の外へ脱出する合図でもあった。
このまま、夏油の指定した場所で待機していれば発生した結界でこの場所から逃がしてもらうことができたが、私は居ても立っても居られなくなった…もし、私が逃げたせいで黒井達の身に危害が及んだら…その予想は残念ながら当たっていた、相手は盤星教に雇われた呪詛師だろうか…何にせよ急いで此処に戻って良かった、まだ前髪の術師…夏油の息がある、傷ついた身体で必死に侵入者の動きを阻んでくれている、相手の狙いが私なら態々残った他の術師にとどめを刺す必要は無いだろう…星漿体としての役目は果たせなかった…まだ黒井にちゃんとお別れも言えてないけど、最後に誰かの、私を救おうとしてくれた優しい人達を救う為に、この命を捧げることができたんだ…意味のある終わり方ができて良かった……。
銃声が聴こえた、まだ、私の意識は途絶えていなかった、五条と夏油が親しげに話していた直哉という術師が私を庇って撃たれてしまった。
なんで、彼等は会って間もない私のためにそこまで必死になって護ってくれるのだろうか?
星漿体としての役目から逃げようとした、もう自分でもどうしたいのか分からないのに…なんで私なんかのために……不意に、その武人に問われた
「……………如何する。(カスの脳内に流れる、トレセン音頭♪の歌詞)」
私は、もっと皆と…一緒にいたい、…もっと!!
「…………大袈裟。(カスの脳内に流れる、あちらをタてれば♪の歌詞)」
こいつ!私の情緒を返せ!!
「驚いたぜ…存外にしぶといな、だが先刻の領域に加え、あれだけ反転術式を使いまくってたんだ、どうせ呪力も碌に残ってねぇんだろ、あとどれだけ持ち堪えられるかな」
「最後まで。(カスの脳内に流れる、あちらをタてれば♪の歌詞)」
それからの戦いはまさに死闘だった、凡そ闘争と呼ばれるものとは無縁だった私にはとても理解できない攻防、吐き気すら催す程の凄惨な光景を前にその場から動くことすらかなわなかった。
二人の動きはまるで目で追えないけど、押されているのは直哉だ、打ち合いを重ねる程に直哉の血と肉が飛び散り地面を朱に染める、少し遅れて夏油の呪霊が私を引き摺って避難させてくれているけど…あの敵は、この程度の距離なら一瞬で詰めてくるだろう…直哉との拮抗を破ったのはその男が握っている呪具だった、袈裟斬りにされた直哉を抜けてこちらに向かってきた、直哉の伸ばした手は雑に振るわれた刃で切断された…世界の時間が、とても緩やかに流れている、私はもうすぐ死ぬんだろうな…夏油の叫ぶ声が聞こえる、直哉の身体がゆっくりと倒れていく、そのまま倒れて、動かないでほしかった…。
私を此処まで護衛してくれた黒井や高専の呪術師達には、散々迷惑をかけてしまった…盤星教が私の命だけで満足してくれるなら、それで良い…
私も目蓋を閉じる…脳裏に映るのは、黒井と沖縄の海や水族館での景色…綺麗だったなぁ…また、いつか皆と一緒に………。
薨星宮に轟音が響いたのは…この少し後の出来事だった。
◆
【五条悟 視点】
目が覚める、死の淵を彷徨った後に、確かに掴んだ呪力の核心。
交流会での直哉もこんな気分だったのかな…心地好い全能感が俺の全身を包み込んだ。
ああ、…そうだった…天内の無事を確認しないと…まぁ傑と直哉がついてる…大丈夫だろ…多分。
それにしても、随分と長い間眠っちまったな。
自分が倒れていた場所から呪力を探る、薨星宮に続く道にある結界は殆ど破壊されたみたいだな、残穢から直哉が戦闘したことが分かる。
多分、天軍ノ剣を使ったんだろうが…彼奴を倒すことはできなかったようだ、毒の除去ができていなかったんだ無理もないか…参道までの道も潰れているし、あのメイドさんも倒れてる。
急いだほうが良さそうだな、『蒼』で薨星宮に続くまでの障害物を結界の張り巡らされた部屋ごと握り潰すようにして退けた。
本当に、随分と長い間眠っちまってたらしい。
天内は既に殺されていた、傑と直哉も虫の息だ…任務は失敗、あいつをあの時に殺せなかった俺のミスだな。
背後から迫る刃を躱す、やっぱりまだ居たんだ。
「よぉ、久しぶり」
自分でも驚くほど軽い挨拶が溢れた…護衛対象の天内を殺されて、親友と好敵手を破った相手をまえにしてもなんの感情も湧いてこない。
「流石にもう驚かねぇよ!」
こいつも二人に苦戦させられたみたいだな、右目が潰れて、片足にも裂傷がある。
直哉はまだ意識が残っている、天内の治療に向かったみたいだが、あまり期待はできないな。
「余所見かよ、随分と余裕だな。」
あの呪具は俺の術式を打ち消せるみたいだが、奴はそれ以外に俺への有効打を持たない、無下限呪術を調べて対策を色々と練ってきたみたいだが、アンタでも“コレ”は知らねぇだろ。
虚式 『茈』
五条家の秘奥が、天与の暴君の半身を消し飛ばした。
「最期に、言い残すことはあるか?」
呪いを捨て去った男が、その最期にどんな“呪い”を溢すのか、少しだけ興味があった。