それでは、どうぞ。
雨宮 獅音は…生まれた時から常人なら考えられない人生を16年間歩んできた。何故そのような人生を歩んできたか……それは獅音の出生から、そう運命づけられたのかもしれない────。
まず獅音は、とある家の末っ子としてこの世に生を授かった。その家というのは、日本でも弦巻家とも並ぶ名家であり、父親も現役の衆院議員で、獅音の出生時点で30代という若さでありながら各業界との太いパイプも有する大物政治家として有名である。獅音には兄と姉が1人ずつおり、どちらも天才的な頭脳の持ち主にずば抜けた身体能力の持ち主で、将来が期待されているのであった。
しかし、獅音は違った。何故なら彼は、本当の…ではなく、純粋な意味で父親との子供では無かったからである。獅音は、母親とその不倫相手の間に生まれた子供であったからだ。
不倫相手は獅音を産む前に既に蒸発、仕方なく父親は獅音を引き取る事となった。獅音は今も尚、
獅音を引き取っても、父親は彼の事を望まれぬ子と既に認知しているため自分の子供であるとは頑なに認めなかった。『自分の妻が勝手に不倫して作った子供』程度しか見ていなかったのである。
そして父親はまだ幼い獅音を冷遇する。とは言っても顔すら合わせず素通りするだけである。しかし父親に無視される…それだけでも獅音だけに限らず幼い子供にとっては堪えるものである。
だが兄と姉は違った。獅音に一方的な暴力を振るったり暴言を投げかけるのであった。これを知ってる使用人は見て見ぬ振りをして獅音を助けない…そんな毎日を送る日々であった。
だが、自分を産んでくれた母親と教育係の使用人だけは、獅音に対して優しくしたり、勉強を教えてくれる……彼の心の支えはそれだけであった。
しかし約8年前、獅音は冷遇される毎日に耐え切れず、誰にも言わず密かに家出を決行。家を出て暫く歩くと、自分が住んでいる所とは負けず劣らずの一件の屋敷に通りすがったその時であった。
『あなた、今おひとりですか?』
……と、女の子に声をかけられたのだ。その子は灰色がかった青色のセミロングの少女で、ヘアースタイルは黒色のリボンでツーサイドアップに留めている、獅音と同い年くらいの子供であった。あと特徴といえば、女の子の両手には外国で作られたのがはっきりと分かる西洋人形を抱き抱えているくらいであった。
『ひとり、だけど…ぼくは『それならわたくしといっしょに遊びませんか?』えっ……?』
女の子に尋ねられた獅音はこの場から立ち去ろうと言い訳しようとしたが、女の子に一緒に遊ばないか誘われたのだ。勿論、獅音は突然の事なので間の抜けた声を上げるのであった。
『実はわたくし、今日はむつみという子と遊ぶやくそくをしていたのですが両親とおでかけすることになりましてわたくしひとりですの。だから、少しの間だけ遊び相手になってくださいませんか?』
どうやらこの女の子はむつみという子と友達と遊ぶ予定があったが、急遽キャンセルになって遊び相手を欲していたのであった。
しかし獅音は、とてもでは無いが遊ぶ気分になれなかった。何より、外に出たのは家出が目的のため、此処から家までは数十分程歩けば着ける程度の距離なので、もし仮に家出がバレたら此処を通るため、長居は出来ないのである。
『わるいけど、ぼくは……』
獅音は適当に理由を付けて断ろうとした。しかし、女の子が獅音を不思議そうにしながら見ていた。その瞳に覗かれる度に、何故か今抱いている事に対して段々と薄れていく……そんな気持ちであった。
『……分かったよ。一緒に遊ぼう』
『本当ですの⁉︎ありがとうございますわ!』
断りづらくなった獅音は女の子の誘いに乗る事となった。女の子も獅音が誘いに乗ってくれたからか嬉しそうにその場で軽く跳ねていた。しかし女の子は何かを思い出したのか途中で止めた。
「あなたのお名前はなんでしょう? わたくしはとがわ さきこ、漢字はまだ書けませんけどどう書くかだけ教えてもらったのであなたにもお教えしますわ……たしか、『豊』かな『川』に、『祥』って漢字に子どもの『子』って書いて
祥子と呼ばれた女の子は、獅音にもっと自分の事を知ってもらいたいためか、自己紹介をした。
「僕はれおん、みょう字は…あまり好きじゃないし言いたくから名前でいいよ。獅子の『獅』に『音』って書いて『獅音』って読むよ」
「ししの音…とってもいいひびきですわ、れおん!」
「ありがとう。君の方こそいい名前だよ、さきこちゃん」
「ありがとうございます♪」
自己紹介を終えた獅音と祥子は、お互いに握手をした。獅音と祥子…これが2人の出会いであった。
獅音と祥子が出会った翌日以降も、2人はそれから頻繁に遊ぶようになった。祥子に誘われて人形遊びをしたり、大人達に内緒で近くの森に遊びに行ったり、獅音にとってはとても充実した時間を過ごしたのであった。
「そしたらういかがですね……」
「へぇ、それはおもしろい話だね」
ある日は豊川邸にて、祥子がお盆の時に別荘に行った時の事を獅音に話していた。その話を要約すると、その時豊川家が所有してる別荘のある島で、祥子が知り合った『ういか』という女の子の事で話が弾んでいたのであった。
「あなたも今度きかいがあればういかに会ってみますか?ういかも私やあなたと同い年ですので話はあいましてよ?」
「そうなんだ……うん、わかった。今度きかいがあったら会ってみようと思うよ。あとは前に話してた『むつみ』って子にもきょうみがあるよ」
「むつみは……あの子習い事とかでいそがしいようで、なかなか時間が取れませんわ」
祥子は機会があれば『ういか』と会ってみないかと勧めた。獅音も興味があるようでその誘いに乗った。あとは前々から『むつみ』という祥子のもう1人の幼馴染も話題にあがるので、獅音も興味本位で会ってみたいと言い出す。
しかし祥子は申し訳なさそうな表情になった。どうやら『むつみ』の方は『ういか』と違って多忙のようで、会うのが難しいようだ。
「そうなんだ……それならしかたないか。それじゃあ『ういか』って子の事はまた今度にするよ」
「分かりましたわ♪」
そして獅音と祥子は『ういか』に会わせる約束をしたのだった。
また別の日には、豊川邸にて祥子がピアノを弾いていて、獅音は近くの椅子に座りながら彼女のピアノの演奏を聴いていた。
「どうですか、わたくしのピアノのうで前は?」
「うん、とても上手だったよ」
ピアノを弾き終えた祥子が獅音に感想を求めてきた。獅音も拍手しながら祥子の演奏を褒めた。
「本当にですか⁉︎よかったですわ……」
獅音に自分のピアノの褒められた祥子は不安があったのか、彼の評価を聞いた時は胸を撫で下ろして安堵していた。
「ピアノ、上手いね。いつからやってたの?」
「あなたと会う前からたしなんでいましたから…5さいにはピアノをお母さまやピアノの先生なら習っていましたわ」
「だからピアノが上手かったんだ……」
獅音と出会う数年も前からピアノを習っている……だから祥子の腕前はあんなにも上手かったのか。獅音はそう感じるのであった。
「そうですわ! わたくしといっしょにえんそうしませんか?わたくしがピアノをひきますので、れおんは歌ってくださいませんか?」
何とここで祥子が獅音に一緒に演奏をしないか提案してきた。しかも本人もやる気マンマンのようで、その手には歌詞の書かれた冊子を持っており、それを獅音に差し出していた。
「わかったよ。いっしょに歌おう?」
獅音は乗り気では無かったが、同時に断る理由が無いので、祥子の誘いに乗った。祥子もその答えが嬉しかったのか、思わず獅音に抱きついた。しかしすぐに我に返り、抱きしめるのをやめて獅音にどこを歌うのか、冊子を見せながら教えた。
そして軽くレクチャーする事数分後、祥子がピアノの伴奏を始め、獅音がピアノに合わせるように歌い始めた。
最初はぎこちなく歌っていた獅音だが、歌っていくにつれて、歌う事の楽しさを知ったからか、この短時間に徐々にではあるが、上達をしていった。
ちなみに、2人に紅茶を持ってきた使用人は部屋の外からコッソリと演奏を聞いていた。のちに同僚に『素晴らしい演奏でした。将来が楽しみですぞ』と語ったのはまた別の話である。
「……すばらしいえんそうでしたわ♪」
「ぼくも、楽しかったよ」
演奏が終わると、2人は疲れはあったもののお互い楽しそうに微笑んで、素直に感想を述べた。獅音も、当初は乗り気でなかったが、歌う事の楽しさを実感していた。
その後は使用人が持ってきた紅茶やお茶菓子を片手にティータイムとなった。その際、祥子は使用人に何かを耳打ちをしていた。使用人は『かしこまりました』と言って部屋を出た。
ティータイムが始まって数分後、使用人がカメラを持って部屋に入ってきた。
「せっかくですので、写真さつえいに付き合ってもらえませんか?わたくしとあなたの2ショット写真…というものをとりたかったのです」
どうやら祥子が獅音との2ショットの写真を希望しているようで、使用人にも無理を言ってもらったようだ。
「……分かったよ。じつは写真をとられるのは初めてだから勝手が分からないけどだいじょうぶかな?」
生まれてこの方、写真を撮られた事が無い獅音は写真慣れをしてないので問題ないかと尋ねた。
「もんだいありませんわ。それなら、はじめての写真はわたくしとの2ショットをとったきねんの1枚になりますわ♪」
しかし祥子の方は問題無いようで、寧ろ獅音にとっての初めて写真が自分との2ショットである事に喜びを感じていた。
そして2人は部屋にあった2人掛けの椅子に座って、使用人に写真を撮ってもらえた。しかし写真はすぐに現像出来ないので、受け取るのはまた後日、という事になった。ちなみに後日獅音と祥子の手元に、2人の2ショットの写真はちゃんと届いたのは言うまでもない。
……この2年間、獅音と祥子は遊んだりしながら楽しい日々を過ごしていった。しかし、そんな日は長くは続かなかった……。
時は流れ、獅音が10歳になった頃に母親がこの世を去った。死因は病死であるとしか伝えられなった。
父親も、母親が亡くなれば獅音も不要となるので、即座に孤児院を探し始めた。
実は獅音は、自宅で出産されたため病院の出生記録はなく、父親曰く『不貞の子がいる時点で一族の汚点になる』との事で、出生の届出すらしていなかったのだ。
その為、母親が余命宣告をされた時に、亡くなった事を想定していたようで、孤児院に無理矢理引き取らせようと画策していたのであった。ちなみに孤児院を選んだのは、足がつきにくいという身勝手な理由から来るものである。
しかし、偶然その話を聞いていた獅音の教育係は、密かに以前働いていた職場の後輩…後に獅音の養父となる男性に頼み込んで養子として引き取ってくれないか交渉の末、見事に承諾してくれた。
その後は父親を助言と称して言葉巧みに誘導、孤児院に入るための書類作成を任させる事になった。その際、書類を密かに処分し、後輩に無戸籍である事などを伝えて必要書類を送るなどの工作をするのであった。
そして母の死から数日後、獅音が祥子に別れを告げる日が来るのであった……
「実は僕、ここを離れないといけないんだ……」
「それ、本当ですの……?」
その後は獅音は事情を説明をして、それを聞いた祥子は獅音と再会を約束を誓うのであった。そして獅音の養父が来た事で2人が離ればなれになる事がより実感が沸いて出てきた。
養父は獅音を車に乗せるとそのまま発進して行った。発進前に、獅音は窓越しから祥子に向けて手を振る。すると祥子も手を振って見送るのであった。そして獅音は祥子が、祥子もまた獅音が見えなくなるまで手を振っていたのであった。
「……今日から俺が君の父親になるけど、大丈夫かい?」
「はい、問題ありません」
祥子との別れを邪魔しないためか、先程まで黙って車を運転している養父は確認の意味を込めて獅音に語りかけてきた。獅音もあの家に(祥子の事を除けば)未練も残ってないようで問題無いと返す。それを聞いた養父は『よかった……』と安堵していた。
家に到着したその後は、獅音が家の者と打ち解けたり、獅音の戸籍の取得だったり……とやる事は山積みであった。しかし、時間はそれなりにかかったが、獅音は両親になる人物達の事を親のように思ったり、戸籍も役所が事情を考慮してくれたため無事に取得する事が出来たのであった。
そこからはちゃんと学校に通ったり、医療機関にも行けるようになったり、(戸籍上の)両親からちゃんと愛されたりと、普通の人間と同じように過ごす日々を送るのであった。
しかし半年前、獅音はこの日から祥子の夢を見た。最初は偶然かと思ったが、数週間に渡って続いたため、こればかりは流石に不安に感じたようで両親に相談してカウンセラーに頼った。しかしカウンセラーも『昔のガールフレンドが忘れられないから見てるだけでしょ』と適当な反応しかしなかったため頼るのをやめた。無論今でも解決に至るまではなかった。
これに悩まされた獅音は考えに考えた末、1つの結論に至った。
『父さん、母さん。僕は高校を卒業したらこの家を出て1人暮らしをするよ』
中学3年の冬…進路も決まって暫くして、獅音は両親に近い未来に自立を宣言した。両親も最初は戸惑ったが、『獅音が決めたならそれでいいだろう』と否定せず息子の考えを受け入れた。
獅音は、今は学生という身分な上に未成年、更に実家暮らし。ならそれが1つでも無くなれば自分の時間が出来る。昔生き別れた幼馴染…祥子を探すために。それだけのために、獅音は人生の全てを賭ける……そう誓ったのであった────。
【現在】
「……此処か」
ピアノの音だけを頼りに歩く事数分後、僕は音楽室の前に着いた。すると中から先程と同じピアノの演奏が聞こえてくる。一応念のために中から気づかれないようにコッソリと音楽室の扉の窓から音楽室の内部を見た。
内部は生徒が座る椅子の他に譜面が書かれている黒板、グランドピアノがあった。しかもピアノには1人の女子生徒がピアノを弾いていたのを確認できた。
「!(あれは……祥子ちゃん!)」
女子生徒を見た僕は思わず思考が止まりかけた。何故なら、身長も座っているからハッキリとまでは分からないけど伸びている事、髪の色やヘアスタイルは変わらずとも、髪は腰近くまで伸びていた。そしてピアノを弾くその姿は年月が経ったから多少変わるのは無理も無いけど、弾いている曲が昔一緒に演奏したものだからすぐに分かったよ。
そして曲が終わると、僕は確信した事が絶対と判断したので音楽室の扉を開けた。
「……誰ですか?確か今日は合唱部や吹奏楽部はお休みのはずですが?」
「いや、違うよ。ピアノの演奏が聞こえたから立ち寄っただけだよ」
僕が入ってきた事を察知した女子生徒は、僕の事を自主練に来た部員と勘違いしたようで淡々と尋ねてきた。えぇ……もしかして祥子ちゃん、僕って気づいてないの?でも仕方ないか、6年も会ってない上に背も大きくなったし声変わりしてるから僕だって気づいてないんだろ。それなら……
「……昔、その曲で歌った事があるよ。懐かしいなぁ……確か6、7年も前だったかな」
僕は昔に目の前の祥子ちゃんと演奏した記憶を年数と一緒に呟く。これでどうだ……?
「そうなのですね。私も貴方の言っていた時期に、貴方が言った事をしてまし……⁉︎」
すると祥子ちゃんも思う事があるので、昔の事を言いながら僕の方に目を向ける。しかし、祥子ちゃんはその時驚きを隠さなかったが目を見開いた。
「……貴方はもしかして獅音、獅音なのですか⁉︎」
祥子ちゃんは僕の方を見ながら大声を上げて尋ねてきた。
「そうだよ。獅音だよ」
僕は祥子ちゃんに自分が獅音だと答える。すると僕の答えを聞いたからか、祥子ちゃんの目から涙が溢れていた。そして祥子ちゃんは何も言わずにそのまま僕に飛びつくような抱きついてきた。
「……ただいま、祥子ちゃん」
「お帰りなさい、獅音」
僕はそう言うと、祥子ちゃんの事を優しく抱きしめた。祥子ちゃんもそれに応えるように更に抱きしめる力が強くなっているのが分かる。
この音楽室は僕ら以外今は誰もいない。でも誰かが入ってきてもそれは関係ない。今は再会した僕らは、会えなかった6年という時間を埋めるため、この時間だけは誰にも邪魔をされたくない。そう感じながら抱きしめ合っているのだった────。
まずは読んでくださった方、お気に入り登録をしてくれた方、こんな拙作を応援いただきありがとうございます!こんな拙作読んでくれるだけでもありがたいです。
今回は獅音の過去編を冒頭に持ってきました。こんな重い設定にした理由は、MyGO!!!!!メンバーや(これからアニメで紐解いていくだろう)Ave Mujicaのメンバーも、過去に何かしらの事情を抱えているので、獅音もそれに劣らないくらい重くしました。それと……無事、Ave Mujica側のヒロインである
次回はこの話の続き…といきたいところですが、先程も仰った通り、Ave Mujica熱が最新話の執筆が終わった今でも治らなかったため、次回は予定を前倒し…というより本編を先行して獅音がAve Mujicaに入る話をお送りしようと思います。そのため次回以降は章替えをします事をお詫び申し上げます。
それでは、また次回。
※最後に今回取りましたMyGO!!!!!sideのヒロインは高松 燈ちゃんに決定致しました。ちなみにヒロインは祥子と燈のダブルヒロインとなりますのでお楽しみに♪それと、アンケートに付き合って下さいました読者の皆さま、誠にありがとうございました!
獅音の女装回を……
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書いて下さい!
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書かなくていいです