迷子になるか、仮面を着けるか   作:なかムー

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 皆さまお待たせしました。

 今日も今日とて、本編の更新をして行こうと思います。今回は前回の続きで、ライブ後のお話となります。

 それでは、本編をどうぞ。


Ave Mujica編 第5話

 「なるほど。僕をライブに招待したのはそれが目的でもあったのか」

 

 僕たちが颯樹さんに素顔を見せて、祥子ちゃんが彼にスカウト話を持ち掛けたのだ。それを受けて颯樹さんは、何故自分がライブに招待されたのか理解したようだ。

 

 「先ずはキミたち……Ave Mujicaの演奏、とても素晴らしかった。この場を借りて今回のライブに招待してくれた事への感謝を伝えさせて貰いたい。本当にありがとう」

 

 まず祥子ちゃんからのスカウト話を聞いた颯樹さんの口から出たのはライブの称賛と招待に対しての感謝の言葉であった。まず話の答えに入る前にそれ相応の評価をしてくれる辺り、人格者である事が窺えるよ。

 

 「だが、この事と今から話す事は別件だと思ってくれて良い。いくらキミたちの演奏が素晴らしかったとは言えど、まだ駆け出しの身。そんな中でスカウトを受け、それを承諾するには些か懸念事項があるのが現状だ」

 

 だけど世の中そう上手く事は運んでくれず、評価はしてくれたとは言えど、僕たちの現状を理解した上でスカウト話に承諾は首を縦には振ってくれなかった。

 

 「……続けて下さい」

 

 しかし祥子ちゃんは颯樹さんの話に意図があると踏んだからか、話を続けるよう促してきた。

 

 「僕がサポートするバンド……Pastel*Palettesとの対バンライブを経て、もしキミたちが勝てたのであれば先の提案を受け入れ、末席に加わろう」

 

 すると颯樹さんも、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべながら対バンライブの提案をしてきた。しかもその対バンでAve Mujica(こちら)が勝てば僕たちのスカウトを受け入れてくれるという破格の物だ。

 

 「だが、期待にそぐわない物であったり、対バンライブで敗北を喫するような事があれば…「愚問ですわ。私たちは、何方が相手であろうと……全力で迎え撃ちます。手加減などハナから考えていませんわ」…期待通りの回答ありがとう。これなら対バンライブは心配無さそうだ」

 

 祥子ちゃん、凄い自信だ……。颯樹さんの忠告を諸共せず、その上途中で話を遮る程とは……。

 

 「それでしたら早速対バンライブの取り決めを行ないたいのですが……構いませんよね?」

 「構わない。むしろ対バンを提案してきた僕の方だからその辺を決めないとな」

 

 しかしそんな事お構いなく対バンライブの取り決めを行なう事となった。まあよくよく考えれば、颯樹さんは(おそらく)大学生に対して僕たちは高校生、そんなに打ち合わせ出来る時間も限られる。だから今持ちかけたのか……。

 

 「それで祥子、取り決めの前に一つ質問いいかな?」

 「何でしょう?」

 

 早速取り決め…と行きたかったけど、まずは確認したい事があるのか、颯樹さんが祥子ちゃんに一つ質問をしてきた。

 

 「もしこの対バンライブでパスパレが勝ったと仮定しよう。そうなったらどうする?」

 「そうなりましたら…この一件は白紙にして貴方の勧誘は潔く諦めますわ」

 

 どうやらAve Mujicaが負けた場合の事をどうするか聞いてきた。それに対して祥子ちゃんは潔く諦めるとハッキリと宣言してきた。まあ祥子ちゃんは淑女として育てられているからね……潔いのも頷けるよ。

 

 「よしそれなら問題無い。話の腰を折ってしまってすまない、早く対バンライブの取り決めを行おう」

 「そうですわね♪」

 

 祥子ちゃんの答えに納得してくれた颯樹さんは、早速本題である対バンライブの取り決めを行なう事となった。

 

 「まずは対バンライブの日程をどうしようか」

 

 最初に行なう話は日にちからであった。まあ対バンライブをする上で、練習とか各々のスケジュールがあるから一番重要だからね。

 

 「日にちはそうですわね……ひと月後の夕刻、午後6時でどうでしょう?それならお互いのスケジュールを調整が可能だと思いますが」

 「1ヶ月後か……分かった。そうしよう」

 

 1ヶ月か。確かに1週間や2週間とか数日単位だったら、事前に入ってたスケジュールと被ったり練習時間の確保が早急に必要になるからね……でも、それだけの時間があればお互いのコンディションやスケジュールも整えられる……そのくらいが妥当だね。

 

 「曲数を決めようか。何曲にする?」

 

 次に颯樹さんが持ち出してきたのはライブで演奏する曲数。確かにこれもライブをするにあたって数によって時間も1ヶ月しかないから詰め込まなければならないからね……。

 

 「1曲、なんてどうです?」

 

 1曲……?たったそれだけでいいの?何だか少なすぎる気もするけど……。

 

 「……要は余計に長々と演奏するより、1曲だけ弾いて綺麗にスパッと結果を残す一発勝負で白黒ハッキリつけるって事か」

 「その通りです。たった1曲、されど1曲……例え1曲でもそれに対する想いは内に秘めている事と負けず劣らずであるか測るため、1曲の重みがどれだけのものかを改めて思い知らせるためでもありますわ」

 

 なるほど、曲を1つにしたのはそういう経緯だったのか。1曲だけに絞ってライブに臨むわけか。

 

 「交渉成立。次にライブ会場はそうだな……其方に任せるよ」

 「あら、よろしいのでしょうか?」

 「勿論。彩達は相手が選んだ場所くらいで動じる程ヤワじゃないからね……それを証明するよ」

 

 日時と曲数は何とか決まった。次に決める事はライブ会場だけど…何と此方に任されたのだ。しかし凄い自信だな……それだけパスパレメンバーを信頼してるって事なのかな?

 

 「分かりました。それでは…会場の方はライブの1週間前にお伝えするよう此方で手配をしておきますわ」

 「了解。それで手を打とう」

 

 まあ確かにライブ会場はそう簡単に決まらないからね、そこは事務所と相談するしかないか。

 

 ……一応今出来る最低限の取り決めは終わったようだ。あとは周りと話し合いをしないと決められない事ばかりなので、これ以上は決められなさそうだ。そう思ったのか、僕と颯樹さんは踵を返そうとした。

 

 「帰るには少し待って貰えませんか?」

 「まだ何かあるのか?」

 

 しかしそこに祥子ちゃんは待ったをかけた。えっ、まだ何かあるの?

 

 「獅音。ドロリス達も此処に来るよう呼んで貰えませんか?流石に私達は素顔を晒したのに他のメンバーはそうしないのは如何(いかが)なものかと」

 

 ……なるほど、メンバー紹介か。確かに僕たち2人だけ素顔を晒して他はそうしないのは平等じゃないからね……。一方の颯樹さんは「其方が良ければ僕は構わない」と言って納得してくれた。

 

 2人の反応を見た僕はその足で、他のメンバーのいる控室に向かった。そして控室前に到着すると、3回ノックして中にいるメンバーの返事を受けて中に入った。

 

 「あれぇ?れおこ、仮面は?」

 

 部屋に入った僕を見るなり、仮面をしていない僕が気になったのか、スマホを片手に持っていたにゃむさんが尋ねてきた。でもそんな時間無いんだよね……。

 

 「その説明は後ほど。今オブリビオニス…祥子ちゃんからの伝言を預かっているよ。メンバーは至急仮面を着けて通用口に来るようにと言ってたよ」

 「至急という事は私達を尋ねてきた人がいるんですか?」

 「正確には僕たち…祥子ちゃんが呼んだんだけどね」

 「どういうこと?」

 「その説明はまた後で。とりあえず皆んな仮面を着けて僕に着いてきてくれないかな?」

 

 僕はそう言うと、全員は訳が分からないまま首を傾げていたが、ちゃんと仮面を着けて僕と一緒に控室に出た。その後は僕の案内の元、全員は祥子ちゃんと颯樹さんのいる場所まで到着した。

 

 「さきちゃん。どうしたの急に私達を呼び出して?」

 「その件は後ほど。まずは目の前の彼に自己紹介を」

 

 初華さん…厳密にはドロリスが祥子ちゃんに事情を尋ねた。確かに説明も無いからそうなるのも無理はないか……。

 

 「目の前の? ……もしかして颯樹先輩ですか?」

 「そうだけど、そう言う君は…ドロリスか。でも何故僕の名前を知っている」

 

 颯樹さんに自己紹介をするよう催促された事で、ドロリスはその人物…颯樹さんを見ると何故だか知ってる口振りで彼を尋ねた。しかし颯樹さんはドロリスの事は知らないので当然の反応をした。

 

 「…皆さん、素顔を晒して下さい」

 「あー、だからさきことれおこは素顔を晒してたのかー」

 

 祥子ちゃんの一言で全てを察したにゃむさん…アモーリスは自分の仮面に手を合わせる。それを見たドロリス達もアモーリスに合わせて自分の仮面に手を合わせた。

 

 そして、全員が仮面を外して素顔を颯樹さんに晒した。そして僕と祥子ちゃんの隣に並んで颯樹さんの目の前に綺麗に立った。

 

 「ドロリスって…初華だったのか」

 「はいそうです。今まで黙っていてすみません、颯樹先輩」

 

 あれ?ドロリス…いや、初華さんと颯樹さんって知り合いだったの?初耳なんだけど……。

 

 「あのー、2人はどういった関係で……?」

 「颯樹先輩は此処最近なんだけど、sumimiのマネージャーに着任したんだよ。でもAve Mujicaの事は守秘義務で黙っていたんだけどね……」

 

 なるほど……身近(みぢか)の人物なんだね。そういえば颯樹さんに招待状を送る時に気になってたけど、祥子ちゃんは(おそらく)知らない筈だからどこからの情報なんだって思ったけど、彼の住所は初華さんが聞いたのか。聞き出したあとで祥子ちゃんに情報が渡って僕に手紙を出すよう頼んだのか。それなら合点が行くな……。

 

 「それにしてもさっきーもライブに来てくれてたんだねー」

 「えぇ。教えてくださればそれ相応のもてなしをしましたのに」

 

 えっ、にゃむさんと海鈴さんも颯樹さんと面識があるんだ……。てっきり全員今日が初めましてだと思ってたよ……。

 

 「初めまして、颯樹さん。若葉(わかば) (むつみ)です。ステージ上ではモーティスと名乗っていて、ギターを担当してます」

 「初めまして、盛谷(もりや) 颯樹(さつき)だ」

 

 流石に睦さんまでは面識は無かったか。まあそれもそうか、颯樹さんと睦さんに接点らしき所は無いからね……。あと、ステージネームもさりげなく紹介するんだ……いや、もう素顔を晒したから今更か。

 

 「睦ちゃんが自己紹介してるからせっかくだし私達も自己紹介しない?」

 「いいですよ。改めて自己紹介をするのも悪くないですね」

 「いいねー。やろやろ!」

 

 睦さんが颯樹さんと自己紹介した事を機に、初華さんが颯樹さんに改めて自己紹介をしようと言い出した。それに対して海鈴さんとにゃむさんも賛同したようで、やると言いました。

 

 「改めて颯樹先輩……三角(みすみ) 初華(ういか)、Ave Mujicaではドロリスと名乗っていて、ボーカル&ギターを担当しています」

 「八幡(やはた) 海鈴(うみり)。Ave Mujicaではベース担当、ステージネームはティモリスです。よろしくお願いします」

 「祐天寺(ゆうてんじ) にゃむでーす。Ave Mujicaのドラム担当してまーす。本業は動画配信者でにゃむちという名前で活動してまーす。今度動画のいいネタがあったらお願いねー「祐天寺さん?」…ちぇー、さきこのケチー……」

 

 その後は初華さんから(面識があるからか)簡単に自己紹介をした。でもにゃむさん、貴女自己紹介のついで感覚でさりげなく動画のネタを催促しないで下さい。

 

 「ステージネームは悲しみ(ドロリス)恐れ(ティモリス)(アモーリス)ね…ひとまず分かった。対バンライブの時はよろしく」

 

 ステージネームを理解した颯樹さんは、今後相手をするメンバーに敬意を払ってか、僕や祥子ちゃん含む全員と握手をした。この行動を見てると出来た人だと言う事は理解できるよ。

 

 でも、颯樹さんの口から『対バンライブ』と出たので祥子ちゃんと僕、颯樹さん以外の全員は頭を疑問符を浮かべて首を傾げた。まあ説明してないから仕方ないか……そう思い、僕は先程まで何があったかを含めて説明した。

 

 「なるほど、来月にパスパレと対バンライブですか」

 「楽しみ」

 「むーこの口からそんな言葉が出るとはねー。でもやるからには勝つしかないっしょ」

 「そうだね…絶対負けない!」

 

 対バンライブの事を聞かされた全員は、各々の反応をした。特に初華さんが特に張り切っているようで、そのクールな佇まいからは内に秘めた熱いナニカを感じ取った。

 

 「皆さま随分とやる気に……それでは今日はもう遅いから、対バンライブに向けての打ち合わせを行ないますので、翌日以降何処か全員で集合しましょう。それで構いませんよね?」

 

 『もう遅い』…?そんなに時間が経ったんだ……と時間を確認したら、時刻は午後9時30分を指していた。確かに遅いか……。そしてあと少しで会場を閉めなければならないので、明日以降に打ち合わせをする事となった。それに対して全員は無言で首を縦に振って了承した。

 

 「話は纏まったようだな。それじゃあ僕はもう帰るよ…あとコレは僕の名刺。色々決まったら此処に連絡してくれ」

 

 その後は颯樹さんの名刺を僕に渡してくれた。どうやら決まったら連絡を入れてくれって事か。名刺を渡した颯樹さんはその場を立ち去った。

 

 そして僕たちも会場を出て早く帰る事になったんだけど、祥子ちゃんは『少し火照(ほて)りを冷ましたいから電車で帰る』そうで、僕も用意していた車で送ってもらう予定だったんだけど、『人数は2人ずつにした方がいい』と僕は指摘した。

 

 しかし、それは良かったけど……初華さんも電車で帰ろうとしたので祥子ちゃんは芸能人の自覚が足りないと窘められた。

 

 そして、僕は祥子ちゃんと一緒に電車で帰る事となった────。

 


 

 ライブ後の帰り道、僕たちは終始無言で電車に乗っていた。此処には時間が時間とはいえ、人もある程度いるので中々話すタイミングが見つからないのだ。

 

 そんな僕たちは、座席に座りながら電車に揺られていた。

 

 「……獅音」

 

 しかしその時、祥子ちゃんの方から声を掛けてきた。そりゃ無言だけになったらどちらかが動かないと仕方ないからね。

 

 「()()()()()で用があるのでしょ?」

 「……そうだよ」

 

 やはり先日言ってた事か……。そうだね、僕はそのために君と2人っきりになりたかったわけだしね。

 

 「延長してもよろしいしょうか?来月の対バンライブが終わったらお話しますので、それまで待って貰えませんか?」

 

 しかし祥子ちゃんから告げられたのはその話の先延ばしであった。

 

 「……分かったよ。対バンライブなんて誰もが想像してなかったから無理もないよ。それだと話は1ヶ月後ってわけか」

 「そうですわ。終わりましたら必ずお話します」

 

 それなら仕方ない……それを受け入れるよ。まあ対バンまで1ヶ月しかないから、そっちに集中せざるを得ないか。

 

 「了解。それに、君には6年を待たせてしまったから1ヶ月なんて短いから大丈夫だよ」

 「……それもそうですわね」

 

 僕の答えを聞いた祥子ちゃんは呆れながらため息をついた。まあ6年も待たせたというのは事実だからね。

 

 ちょうどその時……

 

\次は赤羽ー。赤羽ー/

 

 …と、電車内にはアナウンスが鳴り響いたのだった。

 

 「……此処で乗り換えますわ」

 

 此処で祥子ちゃんは乗り換えのために降りるようで、座席から立ち上がった。

 

 「……それでは、おやすみなさい獅音」

 「おやすみ、祥子ちゃ「……チュ♪」…⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 僕が最後まで言い切ろうしたその時、僕は祥子ちゃんに突然キスをされた。その時、言おうとした事を最後まで言えなかった。

 

 もちろん僕は戸惑いを隠せずに何も出来なかった…というより何故キスをされたのか理解出来なかった。そして祥子ちゃんにキスをされて暫くすると、漸く僕の唇を離した。そしてちょうどその時、電車は赤羽駅に到着したのだ。

 

 「……それでは」

 「う、うん……また明日」

 

 そう言うと、祥子ちゃんは電車を出て改札があるであろう方向に歩いていったのだった。しかしその時の祥子ちゃんは僕とキスをしたからか、ほんの少し頬が赤くなっていたのだった。

 

 「……あれは流石にずるいよ」

 

 僕は電車に乗ってる終始、顔を赤くしながら先程のキスされた口を押さえていた。しかしキスを目撃した乗客からは『若いのに結構やるねー』『最近の子は色々と進歩してるんですね……』とヒソヒソ話をしているのは、また別の話であった────。




 まずは最新話の読了とお気に入り登録をしてくれた皆様、ありがとうございます。こんな拙作にお付き合いいただいた事に感謝感激です。

 次回は対バンライブに向けての各々の視点の内容となりますので、楽しみにお待ち下さい。

 それでは、また次回。

 ※ このお話の投稿日である3月20日は……本編とは関係ありませんが、『Pastel*Palettes』のギター担当の氷川(ひかわ) 日菜(ひな)ちゃんと『Roselia』の氷川(ひかわ) 紗夜(さよ)さんの誕生日です。この場を借りて、改めてお祝いをさせてください! おめでとう、日菜&紗夜!

獅音の女装回を……

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