迷子になるか、仮面を着けるか   作:なかムー

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 皆さまお待たせしました。

 今日も今日とて、本編の更新をして行こうと思います。今回は前回の続きでございます。

 それでは、本編をどうぞ。


Ave Mujica編 第6話

 「さて、皆さまに集まって貰ったのは他でもありません。1ヶ月後に控えている対バンライブの件でお話があります」

 

 Ave Mujica(僕たちのバンド)の1stライブが無事に大成功で終わった数日後、メンバー全員が僕の家に集まっていた。祥子ちゃんも言ったように、1ヶ月後に行われるAve MujicaとPastel*Palettesの対バンライブの打ち合わせが此処で行われるからだ。

 

 本来なら事務所でもよかったのだけれど……Ave Mujicaとsumimiは同じ事務所な上に、sumimiには颯樹さんがマネージャーとして活動しているため、事務所で鉢合わせして話を聞かれる可能性もあるので、やむなく別の所で行われる事になったのだ。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが…僕の家になったのだ。まあそれも仕方ない。祥子ちゃんと睦さんの家でもよかったけど、家庭が家庭のため多人数で押し掛けては迷惑がかかるからという配慮で却下されたのだ。

 

 続いて初華さんや海鈴さん家もそこまで広くないようで、にゃむさんに至っては『乙女のプライバシーという事で♪』と断られたので、消去法で僕の家になったのだ。

 

 でも幸いなのが、養母さんは今日から泊まり込みで、養父さんも本社出勤の日でしかも取材のため此処数日家にいなかったのだ。これなら誰にも聞かれるリスクが低くなったという事で、僕の家で打ち合わせをする事になったのだ。

 

 「1ヶ月もあるからある程度問題無いんじゃなーい?」

 「しかし逆を言えば1ヶ月しかありません。段取りを決めて行かないと後が大変になりますよ」

 

 ソファで寛ぎながら話し合いに参加してるにゃむさんは余裕の笑みを浮かべながら僕が出したお菓子を食べていたが、その横で海鈴さんは紅茶を飲みながら彼女を窘めていた。

 

 「まずは対バンライブで披露する曲からにしない?初めに曲から決めれば重点的に練習できると思うんだけど」

 

 初華さんが提案したのは曲からであった。確かに早い段階で対バンライブで演奏する曲を決めてしまえば、後は対バンライブまでにその曲の練習をしようって事か。

 

 「なるほど……それなら曲はどうしようか?1stライブでやった【Ave Mujica】でいく?」

 「いえ、今回は新曲で行く事にしますわ」

 

 新曲か。確かにライブで披露して成功すれば、観客達は大いに盛り上がる事間違い無しだね。

 

 「それなら新曲の宛てってもう考えてるの?」

 「そこは大丈夫だよ。私とさきちゃんで新曲を作り上げるよ」

 

 祥子ちゃんと初華さんが新曲を作るのか……確か祥子ちゃんはCRYCHIC(前のバンド)で作曲を担当していたようだし、初華さんも聞いた話ではsumimiの曲も作詞作曲しているそうだから何の問題も無いか。

 

 「今Ave Mujicaに似合いそうな歌詞が結構思いついたんだ。一応候補は5種類あるから、あとでさきちゃんに見せてどれで行くかにもよるけど、1曲くらいなら1週間あればいけるよ」

 

 なんと……もうそこまで進んでいたのか。1stライブまでそんなに日は経ってないはずだけど…おそらく祥子ちゃんに声が掛けられた時からAve Mujicaでの作詞作曲も開始したようだね。

 

 「流石初華ですわね。では今の段階でもいいので、まずは歌詞を拝見してもよろしいでしょうか?」

 「分かったよ。はい、これ」

 

 そういうと、初華さんは自分の鞄からタブレット端末を取り出して操作をすると、そのまま祥子ちゃんに渡した。祥子ちゃんはお礼の言葉を告げてタブレット端末を受け取るとすぐに歌詞に目を通した。祥子ちゃんも真剣に見ているようで、目で追ってはタップの繰り返しを行なっていた。

 

 「……初華、この3番目の歌詞がいいですわね。まずはこれを重点的に作り上げてしまいましょう」

 「うん!分かった」

 

 どうやら次に演奏する歌詞の決まったようだ。初華さんは自分が作った歌詞を祥子ちゃんに褒められたからか、パァッと明るくなった。

 

 「それなら2人とも。新曲はどのくらいで出来ますか?出来るなら早い段階がよろしいかと」

 

 このタイミングで先程から黙って見ていた海鈴さんが曲の完成についてどのくらいの時間が必要か尋ねてきた。確かに対バンライブまで1ヶ月しかないから早目に作って練習する時間は取らないと話にならないからね。

 

 「お互いのスケジュールにもよるけど、早めに作り上げる事を約束しますわ」

 「うん。私達で力を合わせれば大体1週間で何とか出来上がりそうだよ」

 

 1週間……凄い早いね……。これも経験者同士の力を合わせてか、あるいは幼馴染同士の絆か……いずれにせよ、どうやら短期間で出来上がるのに変わりは無いか。

 

 「そこは問題無いけど……当日行われる対バンライブの会場はまだ未定なの?」

 「そこはまだ……決まったって連絡はまだ来てないよ」

 

 しかしそこに初華さんからライブ会場は何処になったか僕に尋ねてきた。まあリーダーは祥子ちゃんだけど、僕は副リーダーとマネージャーも兼任しているから、事務的な連絡はまずは僕の方に連絡が回ってくるんだよね。その後に祥子ちゃんに報告してから他のメンバー全員の連絡するものだから真っ先に僕を尋ねるのは自然だね。

 

 でも、会場に使う場所まではまだ聞かされてないな……。一応祥子ちゃんが言うには幾つか候補が上がってるけど、事務所のスタッフが関係者と交渉中との事だから確定するまでは伏せておく事だそうで。

 

 ……と、そんな時僕のスマホから通知音が鳴った。誰からの連絡か確認するためにスマホの画面を見た。

 

 「……どうやら事務所の人から連絡だよ」

 

 僕に連絡を入れてきたのは事務所のスタッフからで、内容は『今お時間大丈夫ですか?』と一言だけ書かれていた。それに対して僕は『大丈夫です』と返信した。するとその直後、スタッフさんからの電話が来た。

 

 「はい。はい…はい……はい、分かりました。他のメンバーには至急伝えておきます」

 

 電話に出た僕は相槌を打ちながらメモを取る。そしてスタッフさんから用件を聞き終えるとスマホの電話を切った。

 

 「それでそれでー。事務所からはなんだって?」

 

 事務所からの連絡が気になったのか、にゃむさんは僕に寄り添ってきた。けど、僕に擦り付くように寄り添うのはやめて貰えませんか……?

 

 「祐天寺さん。貴女にはそろそろ(しか)るべき処置をしないといけない時が来ましたわね?」

 

 そんなにゃむさんの行動を見た祥子ちゃんは黒い笑みを浮かびながら彼女を睨みつけていた。しかも右手にはティーカップが握られているのだが、力が入っているのかミシミシと音が立っていたので、下手すれば今以上に力を入れたら割りそうな勢いであった。

 

 「それで事務所からは何て来たんですか?」

 

 そこに割り込むかのように海鈴さんが尋ねてきた。話の流れを変えてくれるからこればかりはありがたいです。

 

 「対バンライブを行なう会場が決まったって連絡だって言ってたよ」

 

 僕に寄り添ってるにゃむさんを退けながら事務所から来たのは対バンライブの会場が決まった事を全員に告げた。

 

 「ホントに⁉︎」

 「それで場所は何処なんですか?」

 「うん、それ気になるね」

 「早く教えて」

 

 すると祥子ちゃん以外の全員が興味を持ったようで、目を輝かせながら僕に寄り添ってきた。普段から冷静な海鈴さんまで…というより睦さんが一番近いんだけど⁉︎

 

 しかし、祥子ちゃんの鶴の一声で全員が落ち着いて席に戻った。

 

 「場所は……武道館になったそうだよ」

 

 落ち着きを戻すために一度咳払いした後に僕がそう言うと、祥子ちゃん以外の全員が目の色を変えた。まあ祥子ちゃんは会場を提案する会議に実際参加しただろうからそんなに驚きはしないか。

 

 「武道館でやるんだー」

 「凄いね……」

 「まさかバンドを組んで間もなくして武道館デビューするとは思いもしませんでした」

 

 無言で目を輝かせてる睦さん以外の全員が一言そう漏らしながら驚きを隠せていなかった。

 

 それはそうだ、海鈴さんの言う通り、いくら1stライブでトレンド入りしたとはいえ、結成してまだ1ヶ月も経ってないのにバンドが武道館でライブをするなんて前代未聞だからね……。

 

 「とりあえず場所も決まったようですし、あとは新曲作りをしないといけませんわね」

 

 確かに……此処まで来ればあとは対バンライブで披露する新曲だけだね……といきたいけど、やる事はもう一つあるんだよね。

 

 「それならパスパレ側と打ち合わせしたらどうかな?此方はある程度話は纏まったわけだし、それに彼方(あちら)は対バンライブの事情すら知らないかもしれないから、途中経過の報告も兼ねて今一度話をする必要もあるよ」

 

 そうだ。おそらく伝えられてない所があるかもだからね。だから対バンライブの相手であるパスパレとは今一度話をする必要がある。

 

 「……それもそうですわね、分かりました。では獅音、事務所にはパスパレの事務所に面会のアポイントメントを取っていただくよう連絡を入れて貰えますか?」

 「分かった。ちゃんと伝えておくよ」

 

 僕は祥子ちゃんにそう言われて、事務所に面会のアポを取るよう連絡を入れた。

 

 それを確認した祥子ちゃんは、『大体の事は決められたので後は面会の日が決まるまで私と初華ひ新曲の作詞作曲に専念します。ですので皆さまは新曲が完成するまでの間は各自自主練習に励んで下さい』と言われたので、此処でAve Mujicaの会議はお開きとなった。かく言う僕も、2人の作詞作曲に付き合う事になるんだけどね────。

 


 

 10日後、僕と祥子ちゃんは某芸能事務所に来ていた。で、祥子ちゃんは事務所内にある応接室でとある人物と対面になるように座っていて、僕は祥子ちゃんの後ろで行儀良く立っていた。

 

 今僕たちの目の前にいるとある人物…赤みがかった灰色の髪を後ろで一つに束ねたウェーブのロングヘアが特徴の女性はソファに座りながら僕たちを真剣な表情で僕たちを見ていた。

 

 確かこの人は東中野(ひがしなかの) ナオさん…【Marmalade(マーマレード)】というアイドルユニットの元メンバーであるというのは、以前観た歌番組やバラエティで出演していたから知ってた。

 

 そんなナオさんは、後から知った事だけど…パスパレのプロデューサーに就任したそうで、それを証拠に、彼女の座っているソファの後ろには、パスパレメンバーと颯樹さんが控えている。

 

 「まずは貴重なお時間を取らせていただきありがとうございます」

 「御託はいいよ。それで?今回来た目的を教えてもらおうか」

 

 最初に祥子ちゃんは立ち上がってナオさんやパスパレメンバーに頭を下げてお礼を言った。僕もそれに続くように、無言で頭を下げた。その時、ナオさんに目的を話すよう促される。

 

 それもそうだ。今回は事務所見学…という名目で来たのだ。見学の合間に話し合いする場所と時間を態々(わざわざ)作って貰ったので文句を言えない立場にあるのだ。

 

 「えぇ、それは熟知してます。それではお話します」

 

 そう言うと祥子ちゃんは、先日颯樹さんにも話した対バンライブの件を話したのだった────。

 


 

『え、え"え"え"え"え"え"え"!?』

「わ、私たちパスパレが……」

「対バンライブ、ですかぁ!?」

 

 ……言うと思った。

 

 

 Ave Mujicaのライブを見に行ったその翌日、僕はその時に話し合った内容を彩たちに知らせていた。彼女たちにとってみれば、自分の知らない所でそんな話が決まっていたとは夢にも思わないだろうし、こうなるとも想像すらしないよね。

 

 まあ、パスパレの今挑んでいる物がそれ相応の事など当たり前にあったりするので、これくらい乗り越えて貰わないと話にならないのだが……。

 

 

「なるほど。話の要点を纏めると……その相手は私たちの実力を全てわかった上で、勝負を申し込みたいって事だな?」

「ええ、その通りです。今回私たちが訪れた目的は、その事を伝える為の伝言役でしかありませんわ」

「彩さん達にとっては、大会の前の良い肩慣らしになると思いますよ。しかし、油断は禁物ですが」

 

 

 そう言って祥子と獅音は、プロデューサーからの問い掛けに答えて行った。その瞳は淀みのない真っ直ぐな物で、対面している存在は自分たちよりも遥かに格上だと言うのに……その気後れすら感じさせない物だった。

 

 

 ……改めて思うけど、この二人は大きな逸材だよ。

 

 もし仮に何処の事務所にも所属して居なくて、こんな才能の原石を手付かずで放置されていたのなら、真っ先にスカウトしたいくらいだ。

 

 

「私たちが、対バンライブ……」

「今まで一緒にライブをしようと誘われた事は、確かに何度かあったけれど、対決するのは初めてね」

「えー、そんなのよゆーじゃなーい?」

「ひ、日菜さんそれは少し楽観的が……」

「相手が誰かわかんなくても、あたし達はいつも通りに演奏をするだけだよ! その方がお客さんもるんっ♪てするし、余計なプレッシャーを感じずに済むよ!」

 

 

 おいおい、すごい余裕そうだな……。

 

 まあ、駆け出しのバンドに遅れを取る様な練習メニューを組んだりはしていないので、日菜の言葉にも納得が行くのが事実としてある。

 

 

 でも、麻弥の懸念も一理あるのが悔しい所か。

 

 

「氷川、大和の言う通りだよ。何事もそう上手く事は運ばないし、油断は(かえ)って相手の思うツボになりかねない」

「それに……常日頃から言ってるよね、日菜。己の敵は己自身って。自分が何でも出来るからって油断はしたらダメ。その油断が思わぬ結果を招く事だってあるんだから」

「……ちぇーっ。ごめんなさーい」

 

 

 僕とプロデューサーがそう反論すると、日菜は頬っぺを少しだけ膨らませて不服そうに下がった。……まあ、彼女自身はちょっと練習をしただけでなんでも出来るから、そう言う天狗状態になるのも理解はできるんだけどね……。

 

 

 とは言えど、対バンライブ本番まで何も出来る策が無いかと言われればそうでは無い。一ヶ月間みっちりと練習させて、各々の弱点の克服やその他諸々を、補強及び向上に繋げる事は出来る。

 

 それに、エアライブする状態になりかけた所から決死の努力でここまで昇って来たんだ……彼女たちはこんな窮地など簡単に乗り越えてくれる物と思っているが。

 

 

「……やろう! その対バンライブ……やろうよ!」

「彩ちゃん……っ!」

「彩ちゃん、本当に良いのね? もしその裏に相手の思惑が潜んでいたとしても、私たちは貴女を信じて進むだけよ。その点はわかっているのかしら?」

「もちろんっ! 確かに大会前で予定がギリギリな所に、さらにそこへ対バンライブなんて……傍から見れば正気の沙汰を疑う所だよ。でも」

 

 

 ちーちゃんから齎された問い掛けに、彩は迷う事無く承諾の返事を返した。それを聞いた日菜は今にも飛び出しかねない雰囲気だったが、それは麻弥と僕の二人がかりで取り押さえる事に成功した。

 

 

「始めから負けるなんて思って挑む人なんて居ないし……最後の最後まで諦めなければ、私たちは絶対に勝てる! それは相手だって同じ事だと思うから!」

「……そうね、その通りだわ」

「その意気です! 私たちの力を合わせて、勝利を掴みに行きましょう!」

「確かに、彩さんの言う通りですね! これは益々頑張らないと行けませんよ〜!」

 

 

 ……普段は頼りなさが目立つのに、どうしてこう言う時はすっごく頼もしく思えてしまうのか。研究生上がりで幼い頃からアイドルになる事を夢見て努力して来た彩だからこそ、この手の事は人一倍やる気が出て来るのかもしれないな。

 

 

「……聞いての通りだよ、祥子に獅音。その挑戦……引き受けた」

「交渉成立ですわね。では、颯樹さんには事前にお話しておりましたが……当日に使用するライブ会場は本番一週間前に告知させて頂きます。その際、詳細的な情報も併せてお伝えしますので、その時を楽しみにしていて下さい」

「私たちは誰が相手だろうと負けない……挑まれたからには本気でぶつかるよ!」

「その自信に満ちた言葉が飾りでない事を、心より楽しみにしていますわ。行きますわよ、獅音」

 

 

 そう言って祥子たちは、僕たちに頭を下げてお礼を伝えた後に事務所を後にした(帰りに関しては僕の方から車を出して、自宅まで送った)。その後レッスンスタジオからは、より一層練習に精を出しているメンバーの姿があったのだが……それはまた別のお話。




 まずは最新話の読了とお気に入り登録をしてくれた皆様、ありがとうございます。こんな拙作にお付き合いいただいた事に感謝感激です。

 次回も本編を投稿予定ではございますが、海鈴の誕生日も近いので、執筆状況では海鈴メインの幕間も考えてます。

 それでは、また次回。

獅音の女装回を……

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