鏡写しの愛の物語。……向こうはマジメにやるから許して。
いや、こちらも真剣ではある!
ここの星歌さんはぼっちちゃんが絡まなければ常識人。
つまり、ぼっちちゃんが悪いんだよ? わかってよ。
ドリアスピス様 カミカゼ太郎様 L田深愚様 しやぶ様
高評価ありがとうございます!
「ふあぁ……よく寝た」
久々に取れた丸一日のオフ。ライブハウスは定休日で他に用事もない。昼まで寝ていた伊地知星歌は遅い昼食を食べることにした。朝学校に行った妹が作り置きしてくれたおかずをレンジに入れて、茶碗にご飯をよそう。小鍋に入った味噌汁も温めておく。特に味噌汁は星歌のお気に入り。
(こうも上手く再現できるんだから虹夏はすごいな。母さんからレシピを教えてもらう間もなく死に別れたのに)
そんなことを考えている間に用意ができた。メインは肉野菜炒め。汁ものは豆腐とわかめの味噌汁。そしてご飯。質素だけどバランスの取れた食事。
「……いただきます」
野菜炒め、ご飯、味噌汁を綺麗に食べ進める。
「ズズッ……。腕を上げたな虹夏」
作り置きを温め直したものだから、作りたてよりは味が落ちる。でも十分に美味い。すこし口は悪いが、料理上手で気立てが良くてしっかり者。虹夏は私にはもったいない妹だ。彼女と結婚する男はさぞや幸せ者だろうな。星歌は食事を味わいながらしみじみと思う。
「美味いか? ぼっちちゃん」
『あ、はい。おいしいです』
イマジナリーぼっちちゃんがエア味噌汁を少し飲んでから答える。小さなお口で空想ご飯を頬張る姿もかわいらしい。星歌は最近、イマジナリーぼっちちゃんを見る機会が増えた。これもぼっちちゃんへの愛ゆえにである。星歌はお茶を飲んでから綺麗な幻想に微笑みかける。
「ふふ。そうか」
星歌は小食なのでこれだけ食べれば夜まで食べなくていられる。食事の間は『ぼっちちゃん』との楽しい時間が続く。
ピンポーン♪
ちょうど食事を終えたタイミングでインターホンが鳴る。
「……今いいところなのに。はーい、今開けます」
星歌は妄想を切り上げ、来客に対応する。ドアを開く。チェーンはロックしたままだ。
「……」
玄関を開けると、思いつめた顔をした見慣れたピンクジャージが立っていた。ほのかに香る防虫剤の匂い。
「え? ど、どうしたんだ? ぼっちちゃん」
「……」
「学校は?」
「……」
彼女はフルフルと首を横に振る。今日は平日。ひとりも学校があるはずだ。
「いや、黙ってたら分からないだろ? 随分汗かいてるな……」
「……」
「とりあえず、上がってよ。お茶ぐらいは出すから」
ドアチェーンを外して後藤ひとりらしき女性を迎え入れる。センスの欠片もないピンクジャージ、ボサボサの長い髪、不健康な青白い肌。下北沢にこんな娘は一人しかいないはず。
「ここ座って。お茶取ってくるわ」
「あ、あの……」
後藤ひとりらしき女には、どこか違和感があった。近づくと鼻につくアル中独特の体臭。ぼっちちゃんの体臭は芳醇な香りだ。星歌にとっては。
「って! お前廣井じゃねぇか!」
「や、やめてください!」
星歌はむんずと彼女の髪を掴む。カツラだった! 上着を脱がせるとシンプルなキャミソール。貧相な体つきが露になる。その正体は廣井きくりだ。
「うう、先輩………」
「なんか、すまんな。つーかお前酒飲んでないのか?」
あの廣井がシラフとは!
「丸2日抜いてきました」
「珍しいな」
「それで……お話したいことがあります」
覚悟を決めた表情で廣井が言う。
「その前に、どういうつもりだその恰好は!」
「あ、このジャージはしまくらで買いました。防虫剤は無理言ってぼっちちゃんの家のモノを貰いました」
「いや、そうじゃなくて、なんでそんな格好してるんだって聞いてるんだよ!」
なんでよりにもよって廣井がぼっちちゃんの恰好を? 星歌は訝しんだ。
「だって先輩最近私が来ても邪険にするじゃないですか。だからぼっちちゃんに変装しました」
「邪険にするのはお前が泥酔してるのが悪いんだろ? シラフなら何も思わないよ」
「き、今日来たのは、先輩にどうしても確かめたいことがあるからです」
「あ?」
星歌は怪訝な顔をする。廣井はいたって真剣だ。
「私だけには正直に言ってください! もしかしてヘンな物キメてませんか?」
「は? そんなわけないだろ」
後輩からの突拍子のない質問に面食らう星歌。
「……だって先輩、最近おかしいです。この前飲みに行った時も、虚ろな目でぼっちちゃんぼっちちゃんってつぶやいてました。それからぼっちちゃんのパンツ被りたいとか言ってましたよね?」
「あ、あれは酔った勢いでだな……」
「ハーブですか? キノコですか? それとも……。先輩、お酒もタバコもいいですけど、そういうのだけはダメです」
「だからやってねぇって!」
「私の……下着です。さっき脱いだところです。被りたければどうぞ。こ、これで気が済むのなら! 私のならいくらでもあげますから、それでガマンしてほしいです……」
ズボンのポケットから廣井が取り出したもの、それはしまくらで売ってそうな3枚1000円ぐらいのショーツだ。かなり使い込まれている。変な臭いがする。星歌は思わず鼻をつまんだ。
「くっせぇ! こんなの渡されても困るんだけど!」
「わ、私じゃ代わりになりませんか?」
「は? 廣井何言って……」
「ぼっちちゃんは未成年でしょう? ロリコンは犯罪なんですよ! 私は憧れの人が破滅するところなんて見たくありません……。私、先輩のためなら何でもします! お酒だって止めます!」
「え、いや、だから! まあ、酒は止めてほしいけど」
星歌はシラフの廣井が好きだ。ネクラで心配性なところがかわいらしいから。最近はいつもより酒の量が増えているから健康面も心配だ。
「でもぼっちちゃんのはダメです! どうしてもって言うなら、私のパンツ被ってください!」
「いや、それはできない」
「や……やっぱり先輩は私のこと……嫌いなんですか?」
「違うんだ。私はお前の思っているようなことはしていない。ただ、生まれて初めて愛する人が出来たんだ。家族や兄弟、友達とははっきりと違う。恋人として愛したいという気持ち。不器用だからさ、正直言ってどうすればいいのかわからないんだ。確かに私はおかしくなってしまったのかもしれない。恋の病ってヤツかもな」
「……」
「お前いつか言ってたよな? フツーの人生が嫌だからロックを始めたんだって。なら私の気持ちも分かってほしい。ぼっちちゃんが未成年なら大人になるまで待つことができる。もちろんぼっちちゃんの気持ちを一番に尊重する。そのうえで彼女のぱんつを被りたいんだ。ロックだろう?」
ロックは免罪符ではない。
「え? で、でもぼっちちゃんとは倍近い年の差がありますよね! それなら……」
「確かに! 確かにそうかもしれん! でもな……」
星歌は廣井の言葉をさえぎって続ける。
「最も憎むべきことは、あるがままの人生にただ折り合いをつけて、あるべき姿のために戦わないことだ! 私は戦うぞ!」
「……先輩、とても綺麗……」
いま伊地知星歌は憑きモノが取れたような清々しい面持ちだ。いや、むしろもっとタチの悪いモノに憑かれたかもしれない。
「心配かけたな、きくり。私は大丈夫だから」
「ああ、伊地知先輩! せ、先輩のおっしゃる意味は全く解りませんが、私、今幸せです!」
星歌ときくりは熱い抱擁を交わす。
「……先輩、おにころ飲んでいいっすか?」
「ダメ」
――私は諦めない。ぼっちちゃんのぱんつを。
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クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?
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