ここは承認欲求の肚の中。性と痴が入り混じった世界。
――ぼっちちゃん、愛について教えてよ。
「愛してるよ。ひとり」
「……私もです。星歌」
森の小さな教会でふたりだけの結婚式。日本で同性婚が認められるとはな。いい時代になったもんだ。
「よし、いくぞ……ぼっちちゃん」
「はい……」
ぼっちちゃんは準備万端。世界一美しいキス顔で私を待ち受ける。私も唇を尖らせ、ゆっくりと顔を近づけてゆく。いよいよその時と思った刹那。
――夢だった。
「そりゃそうだろうな」
独りごつ。目覚めるとそこは大きな映画館の中だった。客席中央、観客は私だけ。前方には巨大なスクリーン。四方を囲む、果てしなく続く空席の列。そういえば、私は得体の知れない怪物に食べられたはずだ。なのに、なぜ私はここに? わからない。……考えると頭痛がする。
――次の映画が始まる。
「ンアぁー!!! ぼっちちゃんへの想いと枕がデカすぎる!!!」
関係ないけど、ラブホテルの枕ってなんであんなにデカイんだろうね?
「やめてください! 未成年のアルバイトに劣情を向けるのは店長として最も恥ずべき行為です!」
「一般PAは黙っていろ! ここは下北沢スターリーの店舗だぞ! 新宿フォルトとはやりかたが違う!」
じゃあ店長に劣情を向ける変態PAはなんなんだよ!
「お姉ちゃん! 下北沢でガチ百合ごっこは恥ずかしいことなんだよ!」
「お、大丈夫か? 大丈夫か? 私が一番ぼっちちゃんのことを大好きってはっきりわかんだね。佐藤や2号とは愛情の濃さが違う!」
――う!!! カラダが言うことをきかない。
「きゃあああ!! 店長! しっかりしてください!」
「うそでしょ! お姉ちゃん! 救急車! 早く!」
――声が遠のいていく。
「……」
死ーん……。
「お姉ちゃん死んじゃった!」
「新しい店長探さなくちゃですねぇ……」
「んは! よかった、私死んでない!」
目覚めた瞬間思わず叫ぶ。気を失っていたらしい。同じ映画館で目を覚ます。……じゃあさっきのは夢か? わからない。目の前のテーブルに置かれたジュースとポップコーンが少し減っている。前売りチケットの特典、ランダムミニフィギュアは『めんだこぼっち』だった。かわいい。
――次の映画が始まる。
――下北沢 ライブハウス経営者 逮捕
本日未明、世田谷区下北沢のライブハウス『スターリー』にてアルバイトの高校生(16)に対し下着を要求する、キスを迫るなどの行為に及んだ疑いにより自営業 伊地知星歌容疑者(30)が強制わいせつなどの罪で逮捕されました。調べに対し伊地知容疑者は『私はぼっちちゃんを心から愛している』などと供述し無罪を主張――
――3人の女子高生らしき女たちが会話している。前髪が長くて目元が見えない。
「そういやさ『例の人』ストーカーで警察に捕まったって。接近禁止命令? だって」
「えーマジザマぁじゃん! ファン2号だかなんだか知らないけどあいつマジ調子乗ってたかんねー?」
「そーそー。キモい厄介ファン消えてくれてチョー嬉しいんですけどー」
――バンドレーベル殺人事件 初公判
司馬被告は被告人質問に対して『間違いありません。佐藤さんが他の女と性的な関係を持つことが許せなかったので刺した。殺すつもりは無かった』と容疑を一部認め――
「私はやってない! 潔白だ!」
こんな未来認められるか! 他の2人はともかく、私は未遂だ! 人を愛することのなにがいけない! 世間体ばかり気にして生きていくのはとても窮屈なことだ。たとえ『おばアタック』と言われようとも、私の愛を止めること権利なんて誰にも無い! 『ぼっちちゃんの専属便器』という理想のセカンドキャリアを諦めることなんてできるものか!
「……愛の全てが知りたい」
――そう呟き立ち上がると、世界は表情を変えた。
次回『伊地知星歌の愛について』に続く。
クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?
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ぽいずんやみ
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伊地知星歌
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ファン2号
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結束バンドおばさん
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PAさん