嫌なことがあるときほど、筆が乗るんだよな。
『承モンさいこー!』
『ウエーイ!』
『イイネクレー!』
『ギャハハハハ!』
どこかの映画館でのインタビュー。いけ好かない連中が口々にコメントする。
『おなじみ承認欲求モンスターが借金のカタに改造されたメカヤマダと下北沢でドタバタの大決戦!』
『劇場版承認欲求モンスター! 大ヒット上映中!』
へえ、予約しようかな?
『み て く れ ー!』
コマーシャルが終わって、辺りを見渡すと誰も居ない空間。
「どこだよ……ここ?」
少し歩いてみる。ここの正体は案内板ですぐに判明した。
『JR下北沢駅』
「バカな、誰も居ない……」
あり得ないことだ。いつも人だらけの駅前は、昼間だというのに誰も居ない。終電後の真夜中でも、パンデミックのあの時期でさえ、それなりに人がいたのがシモキタだ。一昔前は石を投げればバンドマンに当たるとまで言われた下北沢が、全くの無人なんて信じられない。
駅舎の外に広場、なぜかステージがある。大きなアンプやスピーカー、スタンドマイクが置かれている。
――肩がズシリと重い。
あのころのギターだ。大学時代に愛用していたギター。バンドへの未練を断ち切るためにネットで売ったあのギター。お気に入りのストラップ、エフェクターボード、売るときに剥がしたステッカーまでそのままだ。
シールドをアンプに差し込み愛機のチューニングをする。覚えてんだな、体が。
――ステージの中央に立つ。
『~~♪』
奏でる、歌う。今思えば陳腐なラブソング。学生時代にやっていた『あのバンド』で私が唯一、ボーカルと作詞を担当した曲だ。バンドにレーベルからオファーが来たときは、みんな浮かれていた。私ひとりだけが、才能の限界を感じていた。CD一枚出してそれっきり鳴かず飛ばずで契約を打ち切られる、そんなギョーカイのセンパイたちの話をいくつも聞いていた。東京には優秀なバンドがいくらでもいる。努力や根性だけでは埋まらない差を感じてしまった。『バンドに飽きた』っていうのも、全くの嘘ってわけじゃない。……やっていける気がしなかった。
バンドメンバーとケンカ別れして、就活もせずに不貞腐れていたあの頃。ふと虹夏を初めてライブハウスに連れて行った時のことを思い出した。あの笑顔が忘れられない。もう一度あの顔が見たい。
『ライブハウスをやりたい!』
我ながら馬鹿みたいだ。ロクに自分自身も食わせられないのに、何考えてるんだ。でもナニカが私を突き動かす。バイトを掛け持ちして死ぬ物狂いで働いた。金を貯めた。時間があれば経営や経理を学んだ。今でも事務作業は苦手だが。正直20代でオーナー店長になれるとは思わなかった。様々な幸運に恵まれた。出会ってきたみんなのお陰だ。
『~~♪』
馴染み深い音。私の後ろにはリナたちバンドメンバーがいる。客席には廣井たちシクハック、銀ちゃんや佐藤もいる。尺の都合で出番が無かった大槻たちシデロスもだ。PAたちスターリーのスタッフ、結束バンドのファン2人もいた。美智代先輩たち結束ママさんズがいる。それにバイトしていた楽器店、通っていた大学の連中、いままでに出会ってきたみんな。永らく単身赴任中の父さんもいる。私の知っている人たち。忘れえぬ人たち。夢だろうか、幻だろうか。わからない。
「店長セックスしましょう!」
「膣道のイニシエーションを信じるのです」
「後藤美智代16歳でーす♪」
――お前らはちょっと黙ってろ。今いいところなんだ。
そして、二階席には喜多、山田、虹夏がいる。結束バンドだ。
――ひとり、足りない。でも。
「居るんだろ? ぼっちちゃん」
「イイネクレー!!!」
山のように巨大な『モンスター』が姿を現す。承認欲求の炎が、下北沢を包み込む。
そして今、目の前にいるのは……。死んだはずの母さんだ。
『行きなさい、星歌ちゃん。あの娘を救えるのは貴方だけよ』
「母さん……私、やるよ」
母さんはなぜ、サンバの衣装なんだろう? かなり際どいビキニにクジャクのような羽根を背負っている。今にも踊りだしそうだ。母親のそういう姿、正直恥ずかしいんだけど。まああの人、生前からそういうところあったよな。仕方ないか。
「母さん、みんな、見ていてくれ! 私の『変☆身』」
眩い光に包まれて、私は全く新しい姿へと変身する。蛹はやがて蝶へと変わる。
これこそが完全変態。つまり私は『変態』だ!
次回、いよいよ最終回!
感想クレー! 高評価クレー!
クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?
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ぽいずんやみ
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伊地知星歌
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ファン2号
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結束バンドおばさん
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PAさん