真実の愛に目覚めた伊地知星歌(29)   作:三十路スキー

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これにて最終回です。

さようなら、すべての伊地知星歌。


最終話 すべての伊地知星歌に捧ぐ。

 そして『こころの下北沢』は消え去り、暗闇が広がる。照明器具など無いはずなのに、スポットライトが奴と私を照らし出す。あいつは膝を抱えて体育座りのまま動こうとしない。その表情には虚無を湛えている。

 

「伊地知星歌、魔法少女だ」

 

『なんだこれは! そう、それは少女愛の巨人、伊地知星歌である!』

 

 今、全長510メートルある承認欲求の塊に対抗するには、私も全長510メートルの魔法少女になるしかない。可愛らしいフリルの付いたレオタードドレスのきわどい鼠径部は、世界を救う魔法少女の証。美智代先輩が言っていた。私たちのような熟年の魔法少女はムダ毛の処理が強さに直結するのだという。特に腋毛、スネ毛、陰毛の処理は完璧だ!

 

 

 

 

 ――愛の授業を始めよう。

 

『伊地知星歌は歪んだ承認欲求を許さない!』

 

 

 

 

 

「お前は、いつまでそうしているつもりだ?」

「……」

 

 緑の巨体は動かない。

 

「ぼっちちゃん聞いてくれ。未確認ライオット、優勝できなくて悔しかったんだよな?」

「……」

 

 モンスターは小さく頷く。

 

「佐藤のバカタレを見返してやりたかったんだよな? とても敵わないと言いながら、本当は大槻にも勝ちたかったんだろ?」

「……」

 

 もう一度頷く。

 

「イ、イイネクレー!」

 

 承認欲求のままに襲い掛かるモンスター。

 

「今のお前に『イイネ』はやれないな」

 

 右から左にマジカルパリィで受け流す。

 

「甘ったれんな!!!」

 

 そしてマジカル鉄山靠でモンスターを力一杯押し返す。

 

「イイイ、イデー!」

 

 愛の一撃で倒れ伏す緑の巨体。受けたことがないであろう痛みに悶絶している。それが青春の痛みだよ、ぼっちちゃん。

 

「お前はずっとギターを弾き続けてギターが上手くなった。誰よりも努力してきたんだろうな。ソロだったら、動画のヒーローとしてならきっと大槻よりも上手いだろうよ。廣井にさえ勝てるかもな。でもな、努力はいつでも報われるわけじゃない」

「……」

「私だって何度も壁にぶつかった。こんな店畳んでしまおうって、何度思ったかわからない。もうロックなんて聞きたくもないなんて思ったこともあった。それでも……」

「……」

「諦めたくなかった! 虹夏が、みんなが笑顔で居られる場所を守りたかったから! ましてやお前はヒーローだろ? 立ち上がるんだよ! 挫けてんじゃねぇよ! 何度でも這い上がれ!」

「イイネクレェ……」

 

 倒れていた承認欲求モンスターが再び2本の足で立ち上がる。

 

「イイ……ネ……」

 

 モンスターの頭を優しく撫でてやる。着ぐるみ越しにも、ぬくもりは伝わるはず。

 

「私を信じろ。大丈夫だから。また頑張ろう。虹夏のため、みんなのため、そして何よりお前自身のために」

「イイネクレー!」

「ぼっちちゃん……」

 

 ――ピシッ! ビシビビ……。

 

 怪物の背中が割れ始める音がする。あと一息だ、待っててぼっちちゃん!

 

「お前の、お前たちのこと……ずっと見てるからな!」

 

 モンスターは去った。ここにいるのは『後藤ひとり』だ。

 

「……店長さん!」

「自分自身の存在を否定してはいけない」

 

 ぼっちちゃんの肩をポンと叩いてやる。

 

「人として生きるんだ」

 

 ――ぼっちちゃん。

 

 その時、不思議なことが起こった。承認欲求モンスターの背中が割れ、中から光が溢れ出す。実験室のフラスコから、無限に広がる世界へ飛び出していく。

 

 ――旧い世界が終わり、ネオンジェネシスが始まる。

 

 

 

 

 

「え、いや、ちょっと待って! 私まだ、ぼっちちゃんとセックスしてないよ! ぱんつさえ被ってない! こんなときってさ、精神世界みたいなとこなんだから全裸のぼっちちゃんが飛び出してきたりするもんだろ? 普通はさ! タイトル未回収じゃん! あああああ! だから勝手に終わんなって! 世界!!」

 

 パァン! 誰かに頭をしばかれた! 天の声が聞こえる……。

 

『往生際悪いわよ、星歌ちゃん!』

 

 ――母さん、ごめん。でもサンバの衣装は止めてよ。

 

 

 

 

 

 ――私は伊地知星歌。下北沢でライブハウス『スターリー』の店長をしている。妹の笑顔を見たくて始めた場所。今は音楽を愛するみんなが笑顔で居られる場所にしたいと思っている。

 

「おはようぼっちちゃん」

「お、おはようございます……店長さん」

 

 今日もアルバイト一番乗りか。偉いぞ。

 

「いま穿いてるぱんつちょうだい。すぐ被るから」

「え? イヤです」

 

 ――言えたじゃねぇか。

 




あとがき

くぅ疲()

この物語は全話シラフで書き上げました。
いいですか、酒の力は借りていません。
いつも感想をくれるみなさま、
こんなアレに高い評価をくれたみなさま
本当にありがとうございます。

しかしまだまだ、高評価クレー! 感想クレー! 推薦クレー!
クレイジー下北沢よ、永遠なれ。

……ツッコミどころの作り方、もうちょっと上手くなりてぇな。
シリアスなところとの緩急が必要。ネタ部分ばかり注目されがち。

エピローグや外伝も気が向いたら書きます。
次回作構想中……。
候補が増えてきたらアンケートまた取ろう(予定)

クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?

  • ぽいずんやみ
  • 伊地知星歌
  • ファン2号
  • 結束バンドおばさん
  • PAさん
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