真実の愛に目覚めた伊地知星歌(29)   作:三十路スキー

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前後編 星ぼエピソードゼロ。
美しい思い出と彼女たちの初恋。



星歌お兄さんと乙木(おとぎ)さん①

「お兄さんってホスト?」

「ちげぇよ」

「それともバンドマンとか?」

「ただのバイト。ライブハウスの。あと私は女だ!」

「ふーん。かっこいいのにね、お兄さん」

「だから女だってば! そんなことより、もう二度とこんな早まったマネはするな! 分かったな!」

「はーい、お兄さん」

「……もういいよ、お兄さんで」

 

 アイツはツインテールに黒マスク、いかにも重い前髪の小枝みたいに細身な女。衝動的に家を出てきたらしく、服はどこかの高校の制服。この街じゃいかがわしい店の女にしか見られないだろうな。ウリもクスリもやってないって言ってたけど、いきなりビルから飛び降りようとするなよ。偶然近くに居合わせた私は無我夢中で非常階段を駆け上がって、背中から思い切り抱きしめた。そして安全な方向に張り倒した。

 っていうのが私が新宿のライブハウスでバイトしていたころの一番ヤベー思い出。バンドを解散して、ライブハウスを作ると意気込んでみたはいいけれど、なにも分からなかった私がとりあえず運営の勉強をしようと働き始めた新宿歌舞伎町のライブハウス。今は潰れてもう無い。最低賃金で随分こき使われたけど随分勉強させてもらった。

 

 ――あの女と出会った。後にうちのPAになるアイツ。

 

 

 

 

 

「……えらく懐かしい夢だな」

 

 私としたことが、やってしまったな。寝落ちしていた。未整理の領収書が机周りに散乱している。年度末が迫っているのに事務作業が捗らない。税理士の先生からもいろいろ指摘されてるからなぁ。とりあえずは確定申告からやっつけていかないと……。

 

 

 

 

 

「私さ、ライブハウスを作るのが夢なんだ。具体的な計画は何もないけど、名前だけは考えてある。『スターリー』だ。星空って意味。今日みたいな美しい星空。いつかこの名前を見て、遊びに来いよ。もし仕事に困ってたら働かせてやる。だから」

「だから?」

「その時までに敬語ぐらいできるようになっとけ」

「……はい」

「あと、これやる。そのときはこのチョーカー付けてこいよ。そうすりゃお前って分かるだろ。何年振りでも」

「ありがと、星歌お兄さん。……大事にするね」

「お姉さんだ! いい加減にしろ乙木」

 

 

 

 

 

 アイツの首に使い古しのチョーカーを付けてやる。私のお気に入りだ。でも、アイツの方が似合う気がするんだ。塩のように白い肌と真っ黒なチョーカーとのコントラストが艶めかしい。自殺騒動で駆け付けた警察を雑踏に巻いて、私の部屋に逃げ込んだ。通称ヤクザマンション。下層階は普通のワンルームだけど、上層階はヤクザの事務所があるらしい、歌舞伎町最悪の曰く付き物件。新宿ど真ん中の立地と家賃の安さに釣られて引っ越してきたけど、そんな話は知全然らなかったぞ。今まで特にトラブルはない。

 あいつの名前は乙木――。下の名前が思い出せない。フルネームを聞いたはずなのに。ありきたりな名前だったと思うんだけど。

 

 

 

 

「また夢かよ」

 

 閉店後にうつらうつらと深夜作業。正直経理専門にできるスタッフ雇おうか迷う。うちにそんな余裕ないけど。




②に続く。
次回PAは全裸で書いたラブレターを届ける。

クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?

  • ぽいずんやみ
  • 伊地知星歌
  • ファン2号
  • 結束バンドおばさん
  • PAさん
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