「うわ、何これ? 結束バンドおばさん……だと」
SNSで噂の怪人物。最近『結束バンドとかいう謎のバンドを若者相手に推してくる制服姿の中年女性』が都内に出没するという。
『ばんらぼニュース』
結束バンドおばさんについて調べてみましたが、分かりませんでした! いかがでしたか?
「書いた奴の名前、見覚えあるぞ。ああ、あのメルヘン勘違いライター佐藤か」
検索しても、アヤしいキュレーションサイト特有の分かりませんでしたブログしか引っ掛からない。星歌は訝しんだ。まさかストーカーじゃないだろうかと心配になる。
「おねえちゃん、まだ起きてるの?」
日付が変わって少し経つ。星歌はリビングでネットサーフィンに耽る。虹夏は怪訝そうに横から顔を出す。
「虹夏、お前『結束バンドおばさん』って知ってるか?」
「そういや喜多ちゃんが言ってたね。最近イソスタでちょっと話題になってるって。なんか怖いよね」
「ライブハウスに来る客にその手の奴はいないよな?」
「うん。スターリーは治安いいファンばっかりだからね。それに今結束バンドの固定ファンって言えるのはぼっちちゃんの家族に廣井さん、それからぼっちちゃんのファン二人ぐらいだね」
「それじゃあ虹夏たちは?」
「あたしらもノルマあるからお客さんは呼んでるけど、知り合いばっかりだから来るかはまちまちだね。不審な中年女性なんて居ないはずだよ?」
星歌は安堵する。
「そうか。そりゃそうだよな。でも前に来たヤベーライターみたいのもいるだろうから、気を付けるに越したことはない」
「わかったよ。みんなにも伝えとく。宣伝してくれるのはうれしいけどなー。ふあぁー。眠い」
虹夏は大あくびをする。
「おやすみお姉ちゃん。……もうあの『日記』は書いてないよね?」
猫のような目で、ジロリと睨みつける虹夏。
「おやすみ。もう『日記』は止めたよ」
この間の件、どうやら夢じゃないらしい。我が妹ながら恐ろしいな。
「ならいいけど」
虹夏はリビングを出て自室に戻っていった。
「これは調べる必要があるかもな……」
本人たちの前では言えないけれど、結束バンドの一番のファンはこの私だ。
「……もう寝たか。迂闊だな虹夏。さあ、お楽しみの時間だ!」
虹夏がの気配が消えたのを確認すると、星歌はほくそ笑む。
当然のようにマル秘フォルダにアクセスする。パスワードはぼっちちゃんのスリーサイズに変えた。フォルダの中はぼっちちゃんこと後藤ひとりの写真でいっぱいだ。あくまで監視目的の写真。未来の大ギタリスト、後藤ひとりの若かりし頃の写真を大切に保管している。断じて、断じて盗撮などではない!
最近知り合いになったぼっちちゃんのファン二号なる大学生も写真を集めているらしく、同盟関係によってその愛はさらに加速している!
彼女が後に偉大なギタリストになると、星歌の心はより強固に信じている。もはや崇拝だ。
「ますます写真が増えて嬉しいぞ。どの写真もイイ感じだな」
自身無さげで心配性、それでいて誰よりも、自分への拘りと我の強さを秘めている。そんな女の子が星歌の理想だ。きくりだって昔はあんなに可愛かったのに、酒を飲むようになったばかりに。星歌は心底残念だった。そして、最近知って驚いたこともある。
「まさかぼっちちゃんがギターヒーローだったとはな。そう、ぼっちちゃんは虹夏だけじゃない。私にとってもヒーローなんだ」
あのヘンテコ地雷ライターのデリカシーの無さには感謝しなければと星歌は思う。ぼっちちゃんがタダモノではないと気づいてはいたが、まさか人気オーチューバ―だったとは。まあ、そんなことは星歌にとって、もはやどうでもいいことだが。あくまで星歌は気弱な小動物のぼっちちゃんが大好きなのだ。
今日の星歌は本気だ。すかさずもう一つの秘密フォルダを開く。今日の日付でテキストファイルを作る。確かにぼっちちゃんへの愛を綴る日記は止めた。でも今はぼっちちゃんへの『愛の歌』を書き綴っている。ますます睡眠時間を削る結果になっても問題はない。
「そうか! ぼっちちゃんのぱんつを被ることに拘ることはない。むしろぼっちちゃんに私のぱんつをかぶってもらえばいいんじゃないか? そうか、そうだったんだ!」
ぼっちちゃん好きだ! ぼっちちゃん愛してるんだ! 文化祭が終わった後も、ライブでバイトでプライベートで、私はこれからもずっと見てるからな。
本当はこんなこと考えたらいけないのかもしれない。二倍近くの年齢差、そして女同士。でもそんなの関係ねぇ!
最近なぜかぼっちちゃんが私を避けているような気がする。虹夏や喜多の妨害に違いない。私は負けない。
――ぼっちちゃん! もう寂しい思いはさせないぞ! ずっと私のそばに居てほしい! 廣井やPAの妨害にも負けないぞ! 私はレズじゃない! ぼっちちゃんが好きなだけだ! たまたま女子高生だったから辛い恋路になってしまう。たとえ君が男だろうと、人間でなかろうと巨大ロボットだったとしても私は必ず君を愛しただろう!
――ぼっちちゃん、そろそろだよな! ブラボーぼっちちゃん! 勇気爆発だ! ぼっちちゃんにぱんつを被ってほしい! ぼっちちゃんのぱんつを被りたい! 29年間未使用のお腹のライブハウスで二人きりのファーストライブを飾るんだ! 生まれたままの姿でぼっちちゃんのドラゴン魔光剣で刺し貫かれたい!
もう見守るだけじゃ我慢できない! ブラボーぼっちちゃん! ブラボーひとり! もう後藤ひとりしか愛せない! 後藤ひとり以外いらない! 大好きだよひとり!
新しい物語がこれから始まるんだ!
――ひとりとせいかの純愛物語、チャプター・ワン。ぼっちちゃんのぱんつは、私のもの。
評価、お気に入りクレー
クレイジー下北沢2(仮)主人公は誰がいい?
-
ぽいずんやみ
-
伊地知星歌
-
ファン2号
-
結束バンドおばさん
-
PAさん