ロボットに乗りたいとは思ったけどTSしたり転生したりは望んでないよね 作:運動エネルギー坂本
「嘘、だろ……」
父さんが声を漏らした。
出撃したエクイテスが三機全て撃墜された。
……おそらく、そのどれかに兄さんは乗っている。
シェルターへの道は、夏祭りにいた人々で混み合っている。
俺たちはあと少しで入れそうだが、後ろにもたくさんの人がいた。
まだ避難には時間がかかるだろう。
それに、空にいる星外生物も、通常の奴らとは強さのレベルが違いすぎる。
いつもと状況が違いすぎる。
母さんは頭を抱えて座り込んでしまった。父さんは母さんを立たせているが、手が震えている。
そして、俺も。
「兄さん……メイネ……」
何か奇跡が起きて、この二人が生きていることを願うしかない。
しかし、空の赤い鳥は、いまさっきとは比べ物にならないように体を大きく燃え上がらせていた。
どう見てもあれは普通じゃない。今さっきの攻撃で怒ったのだろうか。
シェルターまではあと少し。いや、俺が入れても後ろの人々は。
奴の口が光る。
まだ沈まない太陽より明るいそれは、こちらに向けられていた。
シェルターに入るための列は乱れ、パニックになった人々が押し寄せてくる。
「ケイ!」
母さんが、俺をシェルターに押し込むように背中を押した。
その瞬間。
撃墜されたはずのエクイテスの一機が、その赤い鳥を突き飛ばしていた。
「……大丈夫、大丈夫、教本通りだ」
エンジンにはすでに火がついている。
左レバーが移動で、右レバーが視点変更。ゲームと同じだ。
少し足のペダルとレバーに手が届きづらいが、なんとかなる。
装備は実体剣とライフル。マガジンはあと3つ……90発程度だろうか。
空を飛ぶ朱雀は、口にエネルギーを溜めているように見える。
時間がない。
エクイテスの自動姿勢制御機能をオンにすると、それは立ち上がった。
ふわりとした感覚。自分が乗っているそれが、動いたことを感じる。
俺は気づいた。
この世界に来てからのボルテックスに乗るという夢が、今ここで叶っている。
「……こんな状況じゃ、手放しで喜べないな」
視線が高い。俺はボルテックスに乗って地面に立っている。
今更ながら、そしてこんな状況でありながら、俺は、この世界に転生したということを、少しだけ喜んでいた。
「よし、飛ぶぞ」
すでにシステムが朱雀をロックオンしている。
俺は実体剣を抜き放つと、上昇と移動のレバーを押した。
……瞬間、エクイテスはすごい速度で吹き飛んだ。
「う、わぁああぁあ!!」
体にものすごい力———Gというのだろうか———がかかる。
俺はパニックになりながら剣を構えた。
システムのアシストで朱雀の頭を捉えたそれは、やつの横っ面をぶっ放した。
「うっ、ぐ、う……」
ものすごい衝撃がかかり、思わずコックピットにうずくまる。
そもそも俺はパイロットスーツすら着ていない、ただの普段着だ。
荒い息を整えながら、無理やり体を起こして朱雀を見る。
「や、やった」
倒したわけではない。
しかし、朱雀の顔には確かに切り傷がついている。
そして、溜まっていた熱線のエネルギーは霧散していた。
「……よし」
やるしかない。
飛び上がった以上、もう逃げることもできない。
時間を稼いで、強いパイロットが来るまで生き残る。
「行くぞ……!」
レバーを後ろに倒し、ペダルを踏む。
動作は正直おぼつかないが、動くだけならできそうだ。
逃げ回るだけ逃げ回って、少しずつ攻撃してヘイトをこっちに向ける。
剣を納めて、ライフルを装備する。
システムのアシストで照準は勝手に合う。こちらから合わせに行く必要はない。
朱雀はこちらを見据えている。
傷をつけられたことでかなり怒っているようだ。
顔への攻撃だ、不意打ちだったこともあってダメージにはなっているのだろう。
しかし注意はこちらに向いている。
すると、朱雀は口にエネルギーをまた溜め始めた。
そして、翼を広げてこちらを威嚇している。
あのモーションは見たことがある。
大丈夫だ、ゲームを思い出して落ち着いて行動すれば。
「……ここッ!」
朱雀の体が大きく燃えるタイミングを見計らってレバーを一気に前に倒す。
機体は加速して、朱雀の体の下側に入り込んだ。
その瞬間翼から発射された羽根と、口からの炎が元々俺がいたあたりを通って行った。
ゲームと同じモーション、朱雀戦で覚えた行動と全く一緒だ。
通用する。
ゲームではここが攻撃のポイントだ。
ライフルを朱雀のガラ空きになった腹部に向けると、俺はトリガーを引いた。
弾丸が腹部に傷をつけていく。
少なくないダメージのはずだ。
しかし、近づけば朱雀は衝撃波を打ってくる。
レバーを倒して離脱しようとすると、翼をたたんで衝撃波を打つ準備を始めていた。
「それはもう、わかってるんだよ!」
衝撃波の発射されるタイミングで加速し、避ける。
できた隙にライフルをぶっ放す。
体力ゲージがないのでわからないが、朱雀は中盤のボスだ。
最初の不意打ちが効いているとはいえ、まだダメージは体力のは4分の1にも満たないだろう。
でもこれを繰り返せば時間は稼げる。
「は、はは……やれてるぞ、僕!」
連射される羽の攻撃を回避しながら、実体剣で斬りつける。
炎を纏った突進を避けながらライフルで撃つ。
被弾はしていない。
何度も何度もやったボスなんだ、攻撃は全て見切れている。
「このまま、倒せちゃったりしてな」
妙な全能感のようなものを感じていた。
俺は案外ボルテックス乗りの才能があるのかもしれない。
高校はケイと一緒に士官学校に行くのもありかもな、なんてそんなことを考える余裕もできてきた。
「……来た、熱線!」
朱雀が口にエネルギーを溜め始めた
体力が半分になった時から使用する大技、熱線攻撃。
『ボルテック・フレーム』で登場する時は、薙ぎ払うように撃ってくるはずだ。
当たれば痛いが避ければ大きなチャンスになる。
俺は機体を熱線の軌道から離れた場所に移動する。
この場所で少しずつ動けば、避けられるはずだ。
そして、朱雀が口から熱線を放った。
「全然余裕……!」
思わず笑みが溢れる。
熱線は完全にゲームと同じ軌道を通り、機体はそれを面白いように回避していく。
このまま朱雀の熱線から少しずつ離れていけば……!
……朱雀の目が、こちらをまっすぐ見ていた。
「ッ、うわっ!」
瞬間、熱線が急に加速して俺の機体を追いかける。
体が勝手に動いてレバーを横に勢いよく倒す。機体は加速して熱線から離れた。
しかし熱線がこちらを追いかけてくる。
視界の端に熱線が映る。
そして。
ジュッ、と何かが溶けるような音が聞こえた気がした。
コックピットに火花が散る。
「ぅ、ぐ、あぁあああああ!」
機体はギリギリのところで離脱する。
どうやらなんとか生き残ったようだ。
しかし。
「う、腕が……」
エクイテスの右腕が消えていた。
それと同時に装備していたライフルもなくなっている。
……熱線に、溶かされた?
着ていた服がコックピットで散った火花で焦げ、穴が空いている。
忘れていた恐怖が一気に戻ってくる。
奴は、生きている。
生きているから、状況次第でもちろん違う動きもする。
プログラムのゲームじゃない。
これは現実だということを今更自覚した。
「く、そ……!」
これじゃ遠距離攻撃手段がない。
左腕に実体剣を握る。
……まだ援軍は来そうもない。
自分の命を大事にするなら、逃げるべきだ。
熱線を放った隙がまだ残っている。
今最大加速でここから離脱すれば、もしかしたら逃げ切れるかもしれない。
……でも、俺はその選択だけはするつもりがなかった。
奴に背中を向けるのが怖かった。
そして……。
機体の後ろ側を映すモニターには、いくはずだった夏祭りの会場が映っている。
人は誰もいないが、屋台などはそのままだ。
「守るって決めたんだろ、
ゲームの知識に頼らなければいいだけだ。
奴の攻撃をこの目で見て、避ければいい。
レバーを握り直す。
「
レバーを倒す。
機体は、まるで自分の手足のように動き始めた。
「す、すごい……」
両親とシェルターに逃れることができた俺は、シェルターに備え付けられた外の様子がわかるモニターで、一機のボルテックス、エクイテスの戦いを見ていた。
右腕を欠損してもなお同じように、いや、むしろ洗練された動きで星外生物を追い詰める。
テレビで見る華のある美しい戦いではないけど、機体がボロボロになっても退避せず戦う姿を俺は息を呑んで真剣に見つめていた。
あれに乗っているのは、兄なのだろうか?いや、たとえそうじゃなくても。
心に淡く持っていた、ボルテックスのパイロットへの憧れが、どんどん大きくなっていくのを感じる。
俺も、あんなパイロットになりたい。
「きっと、メイネもこれ見て大興奮だろうな……!」
今はここにいない彼女の、そして兄の生存を願いながら。
俺は、憧れを胸にモニター越しに行われる戦いをじっと見つめていた。
今さっきまでとまるで違う。
頭の中で何かスイッチが切り替わったみたいに、敵の攻撃を全て見切ることができる。
朱雀の放つ羽根を全て回避し、できた隙に剣を叩き込み、退避してまた避けてを繰り返す。
ゲームの知識にはない動きも増えてきたが、それでも全てが見える。
「
レバーを倒してペダルを踏めば、エクイテスは私の思うがままに動く。
システムアシストは、何度か攻撃しているうちに邪魔になったので切った。
実際には初めて乗るはずのボルテックスが、何故か妙に体に馴染む。
「っと、危ない」
発射された熱線を踊るように避ける。
そんな淡白な攻撃で落とされるほど、私は遅くない。
「あと少し、あと少し耐えれば……!」
とはいえ長時間の戦闘で燃料も尽きかけているし、失った右腕のせいで機体のバランスが悪い。
ミスして当たれば即死のオワタ式だ、そんなに悠長でいられる暇もない。
そう冷静に思考しながら突進してきた朱雀をいなし、私は実体剣を背中に突き立てた。
頭が今までにないくらいに回っている。奇妙なくらいに落ち着けている。
間一髪で攻撃を避ける。そろそろ機体側が持たなくなってきた。
「そろそろ来てくれないと困るんだけど!」
叫んだ私に応えるように、繋がっていたらしい無線機が声を放った。
『エクイテスのパイロット、退避しろ!』
少女の声。
そうか、士官学校の学生パイロット、やっと来てくれたのか!
残った燃料を使って戦闘エリアから一気に脱出する。
朱雀は学生パイロットの一団に一斉射を受けていた。この様子じゃすぐにくたばるだろう。
戦場から離れながら、そのまま機体を地上に下ろした。
大地にエクイテスが立つ。
燃料は空っぽだ。
深呼吸。どれくらい戦っていたのだろうかと時計を見る。
大体戦闘していたのは15分くらいだったようだ。
「あ〜、疲れた……」
初戦にしてはハードすぎる。
頭がぼーっとする。
どうやら、小学五年生の脳みそには少し負荷が強すぎたようだ。
コックピットに身を預けて目を瞑る。
朱雀は彼らに任せていいだろう。しばらく休みたい。
起きたらケイに会いに行こう、きっと無事だとは思うが、顔を見たい。
そんなことを考えていると、どんどん眠気がやってくる。
そして、俺の意識が闇へと落ちていくのに、そう時間はかからなかった。
しかし、俺が次にケイの姿を見るのは、それから約四年半後のこと。
俺が、ケイを士官学校の入学式で見つけたあの日まで、俺は彼に会うことはできなかった。
ようやくロボットに乗せれた。
次からやっと士官学校編というか本編です多分