目蓋を開けてみれば、自分の目がおかしくなったのだろうかと思ってしまう。それくらい、酷い景色だ。
―――俺は何でこんな場所にいるんだろうか?
自分の周囲には色がある。というより、それ以外に色が無い。
ハッキリ言ってしまえば、真っ暗だ。自分の周囲の地形にしか、色が無い。
「………なんてこったい」
あの世、つまりは地獄ってやつだろうか? なら何で誰も居ないのだろうか? 案内人とか現れてくれりゃいいのに。自分の現状とか把握できないのは辛過ぎる。
今居る場所は、砂漠だろうか? しゃがみ、指でつまめば砂だと解る。
死の大地だ。周りに雑草や木々は無く、砂があるのみ。生き物が生きていけるような場所ではない。
それに、気温は最悪だ。日本の真冬並みに寒い。ここに留まっていれば凍死する。スーツ姿で本当に良かった。もし半袖のシャツとかだったら俺は間違いなく死んでいた。
「とりあえず歩いてみるか? 」
もし俺以外に誰かが居るのだとしたら、きっとそいつはこう言うだろう。「考え無しの馬鹿」だと。
闇を踏めば奈落へと落ちる。大半はそう考える筈だ。底なしの沼にハマってしまえば誰も助からない。きっとそう思ってしまう。
しかし俺は無事だった。自分の周囲が明るい理由、それは俺という存在が光源になっていたからだ。どういう原理化は解らないが、この世界ではそういう理屈がまかり通るのだろう。
「方角はわっかんねぇけど、どっかに行き着くだろ。崖っぷちでなきゃいいんだが………」
太陽の無い世界ってこんなにも不気味でおっかねぇ場所だったとは思わんかった。ああ、元居た地球が恋しい。
道なき場所を歩き、一時間経とうとした時だった。暗闇の向こうで光り輝く何かを見た。
もしかしたら誰かがいるのかもしれない。そう思って俺は全速力で走った。疲れなんて知るか、俺は助かりたいんだ。
やがて俺は光る何かの正体を知った。広大な湖だ。水が闇を照らす光源になっているんだ。
俺が光源になっていたのは人体の中に水分あったたから。この闇の世界では水が命の輝きを発している。
水無き場所は光らない。それが闇の世界の摂理だ。あの湖は俺を助けてくれるに違いない。
走り走って、俺は湖にたどり着く。
「………おいおい、ありえないだろ。何でだ? 」
俺はとんでもないものを見た。湖の上に数多の建物。つまり、水の上にある都市だ。
書物で読んだことがある。海の向こうから来た白人たちの侵略によって滅び、大地の底に埋められた都市の姿を。
「何で、テノチティトランがあるんだ? 」
見間違えるはずが無い。あの建物の造形は、間違いなくアステカの神を祀る為の神殿だ。
テノチティトランはアステカ人が築いた水上都市だ。だが現在は破壊され、その上に
俺はなんてものを見ちまったんだ? 闇の世界で輝く湖の上にある都市は、あってはならないものだった。
俺は腰を抜かしてしまい、その場でへたり込む。夢でも見てんじゃねぇかって思って、自分の頬をつまむ。痛てぇ、これは現実だ。
少し時間が経ち、俺は次の行動方針を考え始める。
あの都市が地球と同じ地形に存在しているとしたら、湖に囲まれている筈だ。
今の俺に湖の上を移動する手段は無い。だからテノチティトランに行く手段が解らない。
「………確か、アステカの民って生贄の文化だったよな? 」
強い戦士の心臓を抜き取って、それを供物にするというものだった筈だ。糞過ぎる文化だが、彼らにとってはそれが正しい事だった。
俺は、どうしようもない臆病者だ。戦士には到底成り得ない。だから命だけは見逃して貰えるかもしれない。………都合が良過ぎる考えか?
いやいや、そんなことより。もっと重大なことがある。
「水はある。しかし、食い物が無い」
俺と湖以外、光源は無かった。植物や動物にだって水分はある。当然、肉や野菜、穀物にも水分は含まれている。
本来なら空気にも水分はあっていい筈だが、この世界の空気は水分を含んでいないのだろう。よく分からん。
あの都市の住民がもし友好的に接してくれるのだとしたら、もしかしたら食料を分けてくれるのかもしれない。都合が良過ぎる考えだが、俺はそれにすがりたい。
俺は湖の周りを歩いてみた。もしかしたら地下通路みたいなものがあるのかもしれない。あの都市が俺の知っているテノチティトランではないことを祈りながら。
湖のほとりに港があった。船もある。それに乗れば都市に行くことができる。
俺は港へと向かって、途中で立ち止まった。………そして、奇妙な生物を見た。
外見は正に悪魔。身長は軽く3メートルは超えていて、背中から黒い翼を生やしている。炭の如く真っ黒な肌を持っている。どう考えても人間ではない。
(どーすんだよ? 俺は喰い殺されたくねーぞ! )
悪魔に近寄れば、俺は某世紀末ゲーの様にマルカジリされるかもしれない。そんな恐怖が心を凍らせる。
俺は回れ右して走ろうとした。………走ろうとしたんだ。
「我々を見て逃げるとは、良い度胸しているじゃないか」
「う、うわああああああ!!!? 」
俺は絶叫した。そして気絶した。振り返れば悪魔が居たとか、何のホラー映画なんだよ?
眼を覚ました。身体は鎖で拘束されている。腕や足がすげー痛い。
周りを見回せば、化け物だらけだった。鬼、幽霊、悪魔………。とにかく色んな奴がいる。
床があって、壁がある。俺は部屋の中にいるのか?
どうやら悪夢は未だ続いているらしい。俺は恐怖でガタガタ震える。
「目が覚めた様だな」
悪魔が声を発した。港に居た奴か? 顔を見ればやれやれと呆れた表情をしている。
「早速だが、質問だ。人間が何故ここにいる? 」
「………そんなの、俺が知りたいです」
マジで何なんだよ畜生! 俺が何をしたというんだ!? 平凡に生きていただけで、別に何も悪いことしてねーぞ!
俺の返答が気に食わなかったのか、悪魔は眉間をしかめる。悪いな、望んていた答えだせなくて。俺も理解できてねーんだよ!
「………まあいい。どうせ事故で迷い込んだだけの人間だ。期待などできるはずが無かったか」
その悪態に俺はイラっとしたが、命の危機があるから何も言わない。下手に愚痴を零そうものなら殺されて死ぬ。
「バケモン。この人間を牢に放り込んでおけ」
「あいあいさー! 」
悪魔は幽霊に命令をする。俺は牢屋行きかよ。まともな待遇なんて受けられねーってことか? まあ飢えて死ぬよりはマシなんだろうけどよ。
幽霊は俺を背負い、牢屋へと連れていく。部屋から出て廊下を移動中。つまりここは建物の中だ。
「オメーも災難だな。よりにもよってダークエリアに迷い込むなんてよ」
「ダーク、エリア? 」
闇の地、ダークエリア。そのまんまだな。水分が光源の様だから、何も見えないってことはねーけど。
「ダークエリアを知らねーのか? じゃあ『はじまりの町』とかは? 」
「すみません。知らないです」
知らん名前ばっかだ。『はじまりの町』ってこの都市のことか?
「ったく、何だったら知ってるんだ? オメーはリアルワールドから来たんだろ? 」
「リアルワールドって、人間の世界ですか? 」
その途端、幽霊は止まってしまった。
「オレをおちょくってるのか!? ダークエリアに迷い込んだのなら、デジタルワールドから来たはずだろ! 」
「いやいや、何も知らないです! デジタルワールドって何ですか!? そんなポンポン専門用語出されても解んないのは解んないです! 」
俺の発言を聞いて幽霊は仰天した。俺の身体は床に落とされた。すげぇ痛い。