ダークエリア探索記   作:A太祐

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デジモンたちは汗を流す

 

 連れて来られた先は神殿の前にある大広間だった。周囲にデジモンたちが集まっており、誰もが人相の悪い顔つきだ。

 

 そして俺の目の前にいるデジモン、骸骨の悪魔の姿を持っている。こいつがスカルサタモン。このテノチティトランの王だ。

 

 彼は不気味な髑髏(どくろ)の造形を持つ玉座に座っており、俺を品定めしている様だ。

 

 俺が黙って跪いていると、スカルサタモンは急に立ち上がる。そして持っている杖をこっちに向けて来た。

 

「貴様は人間か? 」

「私は人間です」

 

 聞かれたことはちゃんと答える。そうしないと俺が殺される。そして質問の意図までちゃんと考えないといけない。

 

 今の質問は俺が人間かどうかを判断する為だ。つまりこいつは俺以外の人間など見たことが無いということになる。

 

「ここはダークエリア。デジタルワールドで死んだデジモンはこの世界に堕とされる。生前に善行を積んだ者はアヌビモンの審判によって現世へと転生するが、我々の様は違う。行動、性根、その他色々な要素が『悪』だと判断されたからこそ、この世界に縛られ続けているのだ」

 

 このダークエリアの存在意義は『大規模な流刑地』だ。そしてアヌビモンはそこの管理者でもある。彼がいなければ善悪が綯い交ぜになった無法地帯と化していただろう。

 

 悪のみに染まった世界だからこそ(しょう)じる秩序が存在する。ダークエリアのデジモンたちは各地に君臨する「王」に従わざる負えない。弱肉強食の(ことわり)があるからだ。

 

「人間、貴様はこの世界にとってはバグでしかない。我々と同じく水分を持ち、身体を輝かせていたとしても、この地のルールに馴染んでいなければ異物でしかないのだ! 」

 

 このダークエリアには暗黙のルールとやらが存在するらしい。つまり俺は身に覚えが無いとはいえ、ルール破りをしでかしたということなのだろう。

 

 だが何故だ? スカルサタモンには怒りの感情が無い様に見える。それが逆に怖い。

 

「労役を科そう。貴様はこの地で働くことを覚えろ。そうでなければパンとサーカス*1は得られないと思え! 」

 

 はいはい、働かざる者は食うべからずってことだろう? この都市のデジモン達が嫌々ながらも仕事していたから解る。怠け者は生きる価値もないってことなんだろう。

 

 変に逆らっても碌なことにならないので、俺は黙って頷いた。

 

 1体のバケモンが何かの書物を持って現れた。スカルサタモンはそれを受け取り、虚空から万年筆みたいなものを取り出す。

 

「それでは、貴様の名前を言え」

 

 俺は自分の名前を口にした。恐らく戸籍の登録だろう。………もしかしたらこの都市は社会主義の思想に染まっているのか? 独裁者にとってはマジで都合が良いんだろうな。

 

 

 

「えっほ、えっほ! 」

 

 現在、俺は畑を耕している。畑には数十体のマッシュモンが(くわ)を持って農作業している。

 

 植物を育てる為には植物型デジモンに頼るのが普通だとオーガモンは言っていたが、絶対違う。こんな仕事、絶対貧乏くじだ。自分たちがやりたくもない仕事を、真面目なマッシュモンたちに押し付けているだけだろう。

 

 さて、農作業をする理由は野菜を育てる為だと思う? 半分正解で、半分間違いだ。

 

 畑の全容を見た時、目を疑ったくらいだ。何だよ、肉畑って。何で漫画肉が育つんだよ!?

 

 テノチティトランで農耕事業の責任者であるデジモン、シャンブルモンは肉畑について色々と説明してくれた。

 

 まず現世であるデジタルワールドにも肉畑は存在する。そしてダークエリア産とは違って味は美味しいのだとか。まあ太陽の光を浴びているからな。質が良くなるのは当然だ。

 

 問題のダークエリアだが、この世界には太陽が無い。だから肉と野菜がまともに育つ訳無い。水や肥料があっても関係無い。どんな植物であろうと日光を浴びていなければ枯れてしまうはずだ。

 

 その問題を1体のデジモンが解決した。ダークエリアで研究をし続けている生きた伝説、エンシェントワイズモンのことだ。

 

 まず彼は膨大なエネルギーを吸収し、それを太陽光エネルギーに変換する装置を発明した。この装置が現存する限り、ダークエリア内のデジモンたちが餓死する心配は無いのだとか。

 

 問題のエネルギー源を何処から調達するのかというと、答えは空にあった。

 

 オニスモンという古代鳥型デジモンがダークエリアの空を支配しており、彼の存在に近づいた者は破壊光線を受けて死ぬと言われている。

 

 オニスモンの破壊光線は膨大なエネルギーを放出する形での攻撃だ。完全体以下のデジモンであれば肉体は滅び、究極体であってもタダでは済まない。そんな化け物が常日頃から食べているモノは塵と(かすみ)だという。あまりにもふざけている。

 

 エンシェントワイズモンはオニスモンの破壊光線を利用する形で、農作物を育てることに成功した。

 

 こんな賢者が地球にもいてくれたら大助かりだったに違いない。………いや、戦争の引き金になりそうだから、エンシェントワイズモンはダークエリア内に引き籠って欲しいな。

 

 現在、ダークエリア各地にパイプラインが設置されており、エンシェントワイズモンが得たエネルギーは多方の畑へと供給され続けている。当然、このテノチティトランにもだ。

 

 エンシェントワイズモンが死ねばエネルギー変換装置は作動永久停止に陥る。故障と変わらん。だから手出しができない。彼の賢者が居なくなれば困るのはダークエリア内のデジモンたちだ。彼らは生殺与奪を握られている状態である。

 

 一時期、何処かの領域に君臨していた「王」がエネルギー変換装置の設計図を盗み取ったことがあった。しかし構造が余りにも複雑過ぎて機械の複製は実現できなかったらしい。流石は賢者、自分の立場をよく理解してやがる。

 

 ………色々とツッコミどころがあるが、文句を言ってもしょうがない。俺はエンシェントワイズモンのお陰で食べ物にありつけているんだから。

 

「えっほ、えっほ! 」

 

 だからさ。何で賢者様は農耕用ロボットとか作らなかったのか。手作業は辛いぞ!

 

 

 

「つ、疲れた………」

 

 俺はシャンブルモンから給料として4000BITを受け取った。時給800か。シケてんな、おい。

 

 まあ仕方ないか。第一次産業って儲からない時は本当に儲からないらしいし。ダークエリア内のキノコたちはブラックな職場で色々と苦労してるんだろう。

 

 俺はスカルサタモンが用意してくれた住居で寝泊まりしている。石材で建てられた家だ。三畳一間の広さだ。

 

 ………バケモンが言ってた通り、この家は欠陥住宅だ。地震とかが起こったら倒壊するレベルで酷い。雑に作りました感が半端ねーぞ!

 

「もっと良い家は貯めて購入しろってことだろうな」

 

 社会主義の思想に染まっているのかと思ったが、どうやら資本主義も綯い交ぜになっていたらしい。支配者にとっては随分と都合の良い環境だこと。こんなの地球と変わらん。

 

 それよりも、どうすりゃ転職できるんだ? 農奴の身分で終わりたくねーぞ!

 

 とりあえずは兵士は却下。戦争なんぞに行きたくもねーし、殺されるのは嫌だ。畑で仕事してたマッシュモンを見たが、身体能力がヤバかったぞ。素手でヒグマを殴り殺せるんじゃねーか?

 

 これが成長期の強さだとすれば、その10倍くらい強いって聞く成熟期は何なんだ? 想像できねーんだが。

 

「やべぇな、デジタルワールド。地球が本気で恋しくなってきた」

 

 エンシェントワイズモン様よぉ、地球に帰還できる装置とかつくってくれねーかな? ダークエリアは最悪だぜ畜生。

 

*1
古代ローマの詩人ユウェナリスが社会の世相を批判した時に使った表現。パンは食料、サーカスは娯楽のことを差す

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