翌日。
ルカとアーリマンは射撃場にいた。
「やあ。ルカ。」
そう話したのはエルーニー・ヘルマン・ヴェアブルク。
かぐや星宇宙軍太陽系第一艦隊所属のスライム型エイリアンだ。
種族の中では小柄な方であるが、自由に身体の特徴を変え、様々なものに偽装できるという性質を使って様々な戦闘や偵察を得意としている。
ルカは言う。
「ああ。昨年の大演習以来か。」
ここで言う大演習は竹取作戦の二号計画。つまりはアメリカによる日本侵攻を想定した演習である。作戦内容としては海上自衛隊との協力により米太平洋艦隊を撃滅。その後、かぐや星地上軍と航空自衛隊がウェーク島やハワイ諸島などアメリカ領太平洋地域への攻撃を行い、これを制圧。
制圧後、東海岸一帯へ宇宙軍による艦砲射撃を実施し、ニューヨークやワシントンD.C.などの大都市を完全に破壊するというものだ。
エルーニーは言う。
「ああ。あの演習は中々大規模だったな。」
ルカは尋ねる。
「ああ。特殊作戦軍もあの演習に参加していたという噂があるからな。確か、来週あたりに日本の特殊部隊に破壊兵器実験の失敗以前に開発されたブラスターを何丁か供与するんだろ? 上層部は日本をゴミ箱だとでも思ってるのかね・・・」
エルーニーは言う。
「いや。あれでもまだ地球の技術を遥かに超えているぜ。ブラスターを改良すれば対空砲にだってなる。」
ルカは言う。
「そうなのか」
三時間後。
ルカは自室に戻り、端末で何やら作業をしていた。
「とりあえず、EOSEにkali linuxをインストールして、MinGWやらgitやらをインストールするか・・・ あとはcmakeもインストールしないとか・・・」
EOSEはEarh Opereting System Emulatorの略称であり、その名の通り、地球でリリースされているOSをかぐや星製の端末で動かすためのツールである。地球で何か作戦を実施する際にマルウェアなどが必要になった場合、EOSE上にOSをインストールして開発を進める。
しばらくして、インストール作業が終わった。
「開発言語はC++。使用ライブラリは・・・ Qtでいいや・・・」
ルカがキーボードを叩いている間、長大なコードが短い時間で処理されていき、ログが流れていく。
「この部分はファイル操作だから・・・ クラス名はRemoteFileControlにするか・・・」
やたらと独り言の多い彼であったが、画面ではログが流れていく。
二時間ほど経っただろうか?
「これで完成したかな・・・」
完成したソースコードをビルドし、メモリースティックに保存すると端末の電源を切った。
しばらくして、ルカとアーリマンは艦長室にいた。
「自衛隊の特殊部隊との合同演習ですか?」
艦長は言う。
「そうだ。二号暗号通信を受け取った際の作戦手順の確認を行ってもらう。」
二号暗号通信は有事の際に市原送信所よりかぐや星特殊作戦軍向けに送信される通信であり、地球ではJapaneseSlotMachineと呼ばれている。
この通信方法は非常に古いものであるが、アメリカ含め他の国に知られたくない通信を流すにはうってつけの方法だ。
この通信を傍受した場合、かぐや星宇宙軍はただちに竹取作戦実行の準備を行う。
ルカは言う。
「演習は机上ですか?」
艦長は言う。
「そうだ。演習は来週行われる予定だ。なお、演習の際、アレクサンドル君はこちらで預かっておく。」
次の週。
ルカとアーリマンは青森県の下北試験場の地下施設にて机上演習を行っていた。
ルカは地図の上のブロックを動かしながら言った。
「市原より発信された通信を受け、かぐや星宇宙軍が軌道上に展開。同時に地上軍も地球降下準備を行う。となると、予想される米太平洋艦隊の針路は・・・ 硫黄島か。」
地図の上のブロックを硫黄島の上にとめる。
「となると、ここで戦闘が発生するわけか。この際、陸自とかぐや星地上軍が硫黄島に上陸した米軍部隊を撃滅。同時にフィリピンを制圧するため、地上軍空挺部隊でフィリピンを迅速に制圧。韓国軍がどう動くか・・・」
地図の上のブロックはせわしなく動いていく。
「かぐや星宇宙軍による艦砲射撃でソウル、釜山、仁川などの都市を破壊し、韓国海軍を対馬沖で撃滅。その後、海上自衛隊とかぐや星宇宙軍で米太平洋艦隊を撃滅。」
目出し帽を着けた自衛隊員によって地図の上に新たなブロックが置かれ、彼は話し始める。
「そして、我々がウェーク島やハワイへの攻撃を行い、同地を制圧。」
ルカはそのブロックをハワイの上に動かし、続ける。
「この際、かぐや星地上軍もハワイやウェーク島、アッツ島へ降下。制圧後、ハワイに飛行場を建設し、太平洋の制海権を握る。」
その後、飛行機を示す3つのブロックが設置され、それはアメリカ本土へ動いていく。
「同時にかぐや星宇宙軍太陽系艦隊は西海岸一帯への艦砲射撃を実施。この時、日本政府側はアメリカに講和を打診。応じなかった場合は東海岸一帯への軌道爆撃を実施。アメリカ政府を完全に破壊する。」
しばらくして、演習が終わりルカとアーリマンは帰りの船にいた。
「艦隊まで10時間程度。とりあえず、ゆっくり休もう。」
「そうね。とりあえず、帰ったらアレクサンドルの記憶を見ましょう。」
「そうだな。」
10時間後。地球では1つの夜を終え、人々が渋谷のスクランブル交差点をせわしなく歩いている中、宇宙ではルカとアーリマンは母船に到着していた。
二人が格納庫を歩いていると、戦闘機が近くに着陸した。
別の演習に行っていた戦闘機のようだ。
そこから出てきたのは黒い対Gスーツをパイロットであった。
ヘルメットを脱ぐと彼は笑顔で語りかけてきた。
その表情は爽やかな好青年であることが分かるようなものであった。
「やあ。アーリマン。」
名はファジル・スクァークと言うクラースナン星出身の戦闘機パイロットで、3年ぐらい前までアーリマンに思いを寄せていた人物だ。
ルカとアーリマンの関係を知ってからは半ば諦めているようで、ルカとも友好的である。
「あら。貴方も演習だったのね。」
ファジルは言う。
「ああ。火星の演習場で行われた地上軍大演習だ。」
そこでアーリマンが言い出す。
「そうだ。この後、私とルカで艦長室に行くんだけど、用事が終わったら食堂で軽めの昼食でも食べる?」
ファジルは言う。
「そうだな。」
数分後。
ルカとアーリマンはアレクサンドルを連れ、食堂でファジルと一緒に昼食を食べていた。
アレクサンドルは食べたものを水で流し込むとファジルに話し始めた。
「そういえば、面白い本を見つけたよ。」
と言って持ってきた本を机に広げた。
題名は「一九八四年」
一九四九年に社会民主主義者であるエリック・アーサー・ブレアによって執筆されたディストピアSF小説だ。
3つの全体主義国家<ユーラシア><イースタシア><オセアニア>によって分断された世界を描いている。
「地球の本か・・・ どこで見つけたんだ?」
「艦長が勉強に使ってって貸してくれたの。」
そこでルカが言う。
「ほほう・・・これは俺も読んだことがあるけど、最後の論文が全く以て理解できなかったんだよな・・・」
そして一通り話したあとで食事をとりながら会話をするのであった。