翌朝。
アーリマンは自室にて目が覚めると時計を見た。
「もう朝ね・・・」
アーリマンはベッドから出るとすぐに装甲服に着替えた。
「とりあえず、アレクサンドルの様子を見に行かないと・・・」
そう呟くとルカの部屋の前へと歩いていった。
部屋をノックすると、既に装甲服姿のルカが出てきた。
その後ろからはアレクサンドルも出てきた。
「おはよう。お姉ちゃん。」
アレクサンドルは目をこすりながらそう言った。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
アーリマンは問いかけるとアレクサンドルは答える。
「うん。ぐっすり眠れたよ。」
アーリマンは続けて言った。
「そう。それは良かったわね・・・」
アレクサンドルの頭を撫でながら言う。
ルカはアレクサンドルに言う。
「とりあえず、朝食を食べに行こう」
アレクサンドルは言う。
「うん!」
3人は朝食をとるために食堂へと移動したのだった。
食事は簡単なオートミールやスープである。
しばらくして、三人は食事を食べ終わり雑談を始めた。
ルカは言う。
「そういえば、エディナ星系派遣艦隊の宇宙海賊対処作戦の話は聞いたか?」
アーリマンは答える。
「ええ。確か、セミュル連邦の崩壊後に発生した大規模な内戦のせいで貧困層が宇宙海賊になったってやつでしょ? あれのせいであの宙域は恐ろしいのよね・・・」
「そうだ。その件について何だが、どうやらあのブラックホールが密集しているセミュル密集地帯に海賊たちのアジトがあるらしい。今度、派遣艦隊がそこに突入するらしい。」
「あそこってセミュルステーションがある場所でしょ?あの宇宙ステーションって未だに正体が分からないみたいだけど何なのかしら・・・」
「噂によると、あの宇宙ステーションはセミョリアという悪魔を閉じ込めるために作られたってのもあるぜ。」
ここでアレクサンドルはルカに問う。
「セミョリアって何?」
ルカは言う。
「セミュル連邦のおとぎ話に出てくる悪魔だよ。」
アレクサンドルは首をかしげながら言う。
「ふーん・・・」
そんな会話があり朝食の時間は終わったのである。
数分後。
特に今日は任務などもないため、ルカとアーリマンは自室にいた。
ルカは端末で無線通信を受信していた。
アーリマンはベッドの上に寝そべりながら雑誌を読んでいた。
1時間ほど経っただろうか? アーリマンが起き上がり言う。
「ちょっとトイレに行って来るわね・・・」
そんなことを言って部屋を出て行き、部屋にはルカとアレクサンドルだけとなったのであった。
アレクサンドルは艦長から借りたギリシャ語の教科書を使って勉強している。
近くにはノートが散らばっている。
ルカは言う。
「勉強するのはいいんだけどちょっと片付けてくれないかな?」
そんなことを言ったせいかアレクサンドルは言う。
「あ、うん・・・」
と言った後に机の上にあった使っていないノートをまとめ棚にしまったのだった。
しばらくすると、アーリマンが戻ってきた。
戻ってくるなりルカに尋ねる。
「ねえ。貴方まさか女子トイレにいた?」
ルカは吹き出しそうになった。
「おいおい。いくら我慢してても女子トイレと男子トイレを間違えるわけがないだろ。それに俺はずっとここにいたぞ。」
これは完全に本当である。ルカは一歩も自室から動いていないどころか、机からも動いていない。
アーリマンはさらに尋ねる。
「だとすると、あの影ってなんなのかしら・・・ 貴方にすごい似ていたけど・・・」
ルカは答える。
「・・・宇宙ドッペルゲンガーか?」
宇宙ドッペルゲンガー。
1993年にかぐや星宇宙航行保安庁によって発見された一種の精神病である。
症状としては幻覚が主であるが、この幻覚については一般的にその患者に最も近い人物の幻覚を見る。
発症のメカニズムや治療法、原因はわかっていないが、普段の生活に大きな支障はないため、放置されることが殆どである。
「恐らく・・・ ちょっと医務室に行ってくるわ・・・」
そう言うとアーリマンは立ち上がり医務室へと向かったのであった。
ルカはアーリマンが戻ってくるまでの間、過去の映像を見ることにした。
「1973年・・・ エリナート戦争時代の映像か・・・」
映像ではエリナート銀河連邦の都市を占領したかぐや星地上軍の兵士が現地の女性に問い詰められる様子を示していた。
兵士は女性の度重なる質問に対し、かなり動揺した様子で「話してもどうにもならない。」「我々もこれ以上に状況が悪くならないよう努力している。」と繰り返している。
かぐや星の歴史の負の遺産だ。
恐らくこの兵士も後のディアボロ政権崩壊の時に無名の戦士となったのであろう。
「これは・・・」
次の映像はエリナート戦争とは全く関係のないものであった。
ファイル名は<Kawata.mp4>
映像は恐らく四月頃の日本のどこかを示しているのだろう。
空は晴れ渡り、桜並木が続いている。
奥にはゆったりとした流れの川が見える。
映像は数分の間、舗装されていない道路を持ち主と共に川の方向に進んでいく。
時々、白いノイズが入る。
しばらくすると、様々な石の転がる河原に着いた。
河原では子供たちが石を積んでいるが、他に何もいない。ただ河原と川の流れが広がっているだけだ。
数分後、酷いノイズが入り、映像は民家の一室に移り変わる。
部屋は和室であるがとても高価なものに見受けられる。
カメラを向けた先には、横になっている10歳ぐらいの女子が見えるが、顔色は非常に悪く、両目が潰れているように見える。
しばらくして、映像にひどいノイズが走り、途中で切れた。
画面には<ファイルが破損しています>と書かれたダイアログが表示されているだけであった。
ルカは呟く。
「いったい・・・こいつは一体なんだったのだろうか・・・」
ルカの周りには日本の民俗学に詳しい人は殆どいないのだ。
「まあいいや・・・」
翌朝。
ルカとアーリマンは食堂で朝食を食べていた。
その時、アーリマンがとんでもないことを言い出した。
「ねえ。もし、アレクサンドルが将来かぐや星宇宙軍太陽系艦隊で働くなら、遺伝子改造手術を施してみるのはどう? 軍隊だとやっぱり体力が必要だし。」
ルカは思わず飲んでいた水を噴き出してしまった。
「おいおい。流石にそれは倫理観の問題が出てくるって・・・ 国家に忠実なのはいいが、倫理観は持ってくれ・・・」
アーリマンは答える。
「それもそうね・・・ ごめんなさい・・・」
ルカは続ける。
「そういえば、あの子の勉強についてはどうする?」
アーリマンは答える。
「今まで通りでいいと思うわ。あの子もそれで色々なことを学べているし、それに子供は本を読むのが好きだからね。」
「そうか。」
しばらくの間の後、アーリマンは何かを思い出したように答える。
「そういえば、今度確か日本への派遣任務があったからその時に犬鳴村に行ってみましょ。」
「あー。かぐや星特殊作戦軍亥之鳴山送信所がある村か。あそこは確か、日本でもかなり地位の低い人達が集まって作った村らしいな。今は歴史的な建造物だけ残して後は送信所の施設が建ち並んでいるだけになってたはず・・・」
アーリマンは付け足すようにいう。
「そして、変な都市伝説が出回って、侵入者が絶えない場所でもあるわ。」
ルカは答える。
「とりあえず、アレクサンドルにも伝えておこう。」
「そうね。」
その後ルカとアーリマンは自室に戻るのであった。