月面探査記 第二巻   作:gh0sttimes

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第三十一話 ヴェルタインの悲劇

2000年5月13日。

かぐや星の全土に衝撃的なニュースが齎された。

ゲラール帝国の隣国であったヴェルタイン連邦で軍事クーデターが発生し、カレッド・ジュゼピエール将軍が政権を掌握したのだ。

これに反発したへギア星、グロイト星、セムローク星が連邦からの離脱を宣言し、ヴェルタイン自由共和国の建国を宣言。

内戦状態に発展した。(ヴェルタイン内戦)

以下はかぐや星において発行された新聞である。

 

<ヴェルタイン連邦で内戦 首都でも戦闘>

 

政情不安の続くヴェルタイン連邦の状況は悪化の一途を辿っていたが、それはついに爆発したようだ。5月13日午前5時頃、カレッド・ジュゼピエール将軍率いる地上軍首都防衛部隊がクーデターを起こし、ジュゼップ・フェルドナン大統領を拘束したのだ。

現在、首都ヴェランスクでは戒厳令が敷かれている。

既に数千人が逮捕され、数百人が処刑されている。

また、外国人特派員によるとヴェルタイン連邦を構成していたへギア星、グロイト星、セムローク星が連邦からの離脱を宣言し、新たにヴェルタイン自由共和国の建国を宣言した。

既にヴェルタイン自由共和国の兵士は政府軍との戦闘に突入しており、国際的な専門家はヴェルタイン連邦が破滅的な内戦に突入したと指摘している。

 

「全くだな・・・ 資源の輸入が難しくなるぞ・・・」

ヴェルタインの紛争から遠く離れた太陽系艦隊では、新聞を読んでいるルカがそう呟いていた。

ヴェルタイン連邦はかぐや星にとって重要な資源輸入先であり、これまで彼の国の安定化のために軍隊も派遣してきたというのにだ。

「既にかぐや星ではトイレットペーパーの買い占めが起きてるみたい。特にシリコンは悲惨よ。宇宙船の建造に必要な材料の一つだったんだけど、一夜にして価格が10倍に跳ね上がったらしいわ。」

そうアーリマンもいい、ため息をつく。

アレクサンドルは二人の苦難を知らないように後ろの方で遊んでいた。

 

それからしばらく経ち、太陽系艦隊の主要人物が集まって会議が始まった。

まずはアーリマンが言う。

「艦長。我が国は民主化以降、ヴェルタインの独裁政権による軍事拡大に悩まされてきました。これを機に自由共和国を支援し、ヴェルタインを民主化するべきです。」

艦長は言う。

「うーむ・・・ 太陽系艦隊は十分な戦力を持っているから、一部をヴェルタインに割くこともできるだろうが・・・ ところで、エリナート銀河連邦が人道回廊の設置のために動いているようだが、政府軍と自由共和国軍がそれを守る可能性は低いのか?」

艦長の問いに対してアーリマンが答える。

「おそらくそうでしょう。そもそも戦争において民間人の命が守られた事例はありません。」

艦長は続けて言う。

「そうか。では、大統領府にヴェルタインへの軍事介入を打診しよう。」

アーリマンは答える。

「それがよろしいでしょう。」

 

数日後。

かぐや星のラン・ニシカ大統領はヴェルタイン連邦への軍事介入を承認。

その2時間後には太陽系艦隊の一部が地球から800光年ほど離れたヴェルタイン連邦の宙域に侵入。

政府軍が支配する惑星への攻撃を開始した。

この日、ヴェルタインの空は戦闘機の飛び交う地獄となった。

 

ヴェルタイン連邦ヘンゲーント星ロスクディ村上空。

かぐや星宇宙軍太陽系艦隊ヴェルタイン派遣部隊のヘリ部隊はロスクディ村上空を通過していた。

ロスクディ村はヴェルタインの農村であり、人口は300人程度。

普段なら長閑な農村であるが、この日は政府軍と自由共和国軍の戦闘で彼方此方から火の手が上がっていた。

「司令。南に向かう民間人の列を発見しました。荷物を検査しますか?」

「その暇はない。どうせゲリラが紛れ込んでいるだろうから完全に殲滅しろ。」

「了解。殲滅します。」

ヴェルタイン派遣部隊のヘリ部隊はロスクディ村の村民たちを完全に殲滅した。

後にこの攻撃はロスクディ村虐殺事件と呼ばれ、批判の的となった。

同時刻。

自由共和国の臨時首都ヴォノーリ。

一部が政府軍の砲撃で破壊された学校に臨時的な議会を置き、3年C組の教室を大統領執務室にしていた。

もしも、今のカレッド・ジュゼピエール将軍の姿を見たら多くの人々は笑いを堪えるだろう。

彼は大柄であり、どこかカッザーフィー大佐に似ている。

彼にこの平和な部屋は似合わないのだ。

「普段なら子供たちで賑わっている教室も、今やがらんどうか・・・」

強力で恐ろしい独裁者を思わせる彼の容姿であるが、実際には最も民主化を主張してきた。

そして、彼の威厳を構成している太い胴体の殆どはパフェによって構成されている。

「とりあえず、この戦争をさっさと終わらせよう。かぐや星やエリナート銀河連邦が我々に味方している以上、政府軍の壊滅も時間の問題だろうが、戦後が問題だな・・・」

彼は彼なりに悩んでいた。

ロスクディ村での戦闘以降、政府軍は撤退を続けているが、その撤退の際に焦土作戦を展開しているのである。

戦後復興はかなりの時間を要するだろう。

 

一方その頃。

かぐや星宇宙軍の戦闘機部隊はヴェルタイン連邦の首都上空に接近していた。

目的は自由共和国の派遣した部隊と交戦している政府軍の排除である。

戦闘機部隊は首都近郊の市街地への攻撃を開始した。

市民はパニックになり我先にと逃げ惑い国会議事堂周辺は死体の山となった。

そして、首都の放送局も同様にパニックになっていた。

 

「ウースティザービル駅で群衆雪崩! 死者数不明!」

「ノーク地区で爆発! ガス漏れの可能性あり!」

 

近未来的な報道フロアに「落ち着き」の4文字はもはや存在しない。

人々は書類を持って机と机の間を駆け抜け、キャスターは大声で避難するよう呼びかけていた。

その夜。

自由共和国の臨時首都ヴォノーリではカレッド首相の緊急演説が行われた。

 

「親愛なる銀河の皆さん。友人の皆さん。あらゆる見通しや悲観的なシナリオに反して、自由の政権は陥落しませんでした。我々は健在です。そして、私たちの初めての勝利を分かちあう、十分な理由があります。私たちは、世界の心をつかむ戦いで独裁政権を打ち負かしました。私たちに恐れはありません。そして、銀河の誰も、恐れを抱くべきではありません。」

この演説はヴォノーリ市民や共和国政府の関係者のみならず多くの人々に勇気を与えた。

 

 

 

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