楽厳寺はお茶を飲んでぼーっとしていた。
「帰ってきたよー!」
「お土産も買ってきたよ、悟」
二人が帰ってくるのを、五条と楽厳寺は出迎えた。
「はい、楽厳寺さんの分のお饅頭。そっちの楽厳寺さんの分はメロンパンね」
「そちらはどうでした? そろそろ情報集まりました?」
「おじいちゃんったら、ほんと茶飲み話しかしないの! ボケてんじゃない?」
「悟。メッ」
傑から嗜められて、五条は口を尖らせた。
「だって傑、本当に……」
「思考停止野郎は放っておいて、どうだった? 楽厳寺さん」
「ワシらには、道が二通りある。
一つは、五条の敵対派閥を誘導してワシらを帰還させる事。奴らは欲しいものをもう手に入れておる。目障りと思えば、早急に送り返す手伝いをするじゃろう。これは何とかなりそうじゃ。簡単で無難でもある。
もう一つは、五条派閥を手助けしてから帰ること。めちゃくちゃ大変じゃが、破滅に向かっておる世界だからこそ得られる情報もあるじゃろうし、それでワシらの世界を救えるかもしれん。めちゃくちゃ大変じゃろうが、傑の安全性はこっちの道の方があがるじゃろう」
「どういう事じゃ」
「何それ。傑の安全性ってどういうこと?」
「「!!」やばいってこと? まじでメロンパン案件?」
楽厳寺はこくりと頷く。
「わざわざ言うって事は、もう決めてるんでしょう?」
「すまんの。返してやるのが大分遅くなってしまうが、向こうには恵もいる。持ち堪えてくれるじゃろう。持ち堪えたらいいのぅ。持ち堪えてくれ……」
「そこは信じましょうよ、楽厳寺さん。俺も、傑が安全な方が嬉しいし、放置して行ったらモヤっとするだろうし。こっちでは、隠れるのやめたかも知れないって事だろ。メロンパン」
「そうじゃ」
3人で話し合うのに、五条と楽厳寺はイラっとする。
「どういうことか教えてくれないかな? 自分たちだけわかり合っちゃってさ。メロンパンって何」
「情報収集を手伝ってやったじゃろう。説明せよ」
「特級呪詛師じゃよ。脳みそを入れ替える事で術式と記憶を奪い取る、恐るべき術師じゃ。呪術界の歴史はメロンパンとの戦いの歴史と言っても良いほど、深く関わっておるのじゃ。当主を奪われた加茂、殺し合いをさせられた禪院と五条、特に五条家は六眼が生まれる度に追っ手を差し向けられておる。こちらの世界では、既に呪術界は過半数が彼奴の手に落ちておるようだ。天元を操るのに必要な夏油傑の肉体も既に手に入れておるようじゃし、ほぼほぼ詰みじゃの。じゃが、逆にここまで来たら、近いうち必ず王手をかけに来る筈じゃ。狙ってくるのは天元、そして宿儺の器。そこで」「楽厳寺さん」
ツンツンと悟は楽厳寺を突く。
「なんじゃ、五条」
「あれ」
悟が指差す先には、五条が夏油(偽)を足蹴にしていた。
「なぁ!?」
「夏油傑!!!」
「ふーん。僕に追っ手を掛けてたの、お前だったんだ? まさか、だけどさ。傑の離反も誘導してたりするわけ? あ、そう。全部吐け。その前に死んでもらわないとね」
「く、並行世界の楽厳寺からの情報か!? やはりさっさと殺すべガァっ」
こうしてメロンパンは滅びた。
「あの、情報……取り逃がしちゃったね」
「困ったのぅ。まあ、仲間がいるわけじゃから、そこから情報収集しようかの」
何とも言えずに戸惑っていると、真希が怒鳴り込んできた。
「真依に妙な事を吹き込みやがったのはどこのどいつだ!!!」
「あ、今頃? 2年生出張から今日帰ったんだっけ。ところでお爺ちゃん、ごめんね。茶飲み話を見誤ってた。……どいつが裏切ってメロンパンについてたか、早速教えてよ」
「そう喧嘩腰では得られる情報も得られんじゃろう。そういうとこじゃぞ、五条。お前の派閥は小さすぎじゃ。呪術界が腐ってるのを差し引いても、いや、呪術界が腐ってるからこそ、お主の派閥が大きくならんのはおかしいのじゃ。まずは人の話の聞き方を教えてやろう。大っぴらに学べるのは若い時だけじゃぞ」
「っ わかったよ」
「でもまあ、後処理だけなら軽いよね。ささっと終わらせてさっさと帰ろうよ」
「かえ、るの?」
「そりゃそうだよ。僕らそれぞれ婚約者だっているし」
「私も早く帰らないと、振られちゃうかも」
「それはないだろ、傑」
きゃっきゃとはしゃぐ最強コンビを、呆然と五条は見た。
ほんと幸せそうだよな、そっちの俺ら。
そんなわけで、仲裁して欲しい上層部と、傑にいて欲しい五条の思惑が一致し、呪霊探しが一向に進まず日々が過ぎたのだった。