観客の歓声が凄い。
それもそのはず、ジュニアユースチャンピオンのブラジルを相手に同点に追いついたのだから。
傑がくれたパスを俺がシュートしたけどキーパーに弾かれた。
だがそのクリアーボールがもう一度傑の足元にいってくれて助かった。
「サンキュー傑、助かったわ」
「お前があそこで止められるのは珍しいが、
まぁあれはキーパーが上手かったな」
チームメートも観客もこのまま終われば勝つかのような勢いだ。
誰もが満足していた。
俺と傑以外は------
「あとワンプレーは最低でも残されてる。しかも
「ボールを奪えれば絶好のカウンターチャンスか」
「前で待っとくよ、頼むぜ王様!!」
「今度は決めてくれよ、騎士様……フフッ」
「おい、笑いながら騎士に様つけんなよ」
俺と傑だけは勝つことしか考えてなかった。
――――――――――――――――
「あの時はまさか本当に負けてしまうとはね。本当に驚いたよ、スグルとテルには」
オープンテラスの向かいの席で輝也と話している相手はレオナルド・シルバ。
「そりゃどーも、つかそこは日本って言ってくれよ。
まーでもあの時はレオ以外のブラジルの選手が攻撃の意識ばっかでよかった」
「君の
輝也はフォワードだが、よくエリア外からもミドルシュートをうつことがある。
一度、ゴールまでの距離が35メートル辺りからのミドルシュートを弾丸でゴールマウスに突き刺したことがあった。
それを見ていた
「あの時は、キーパーが少し前に出てたからな」
あの試合はその後、ブラジルのリスタートで始まったボールを傑が奪って、すぐさま前線へパス。
そのパスを受けた輝也がペナルティーエリアの少し外からシュートを決めた。
試合はそのまま終わり、日本がジュニアユースチャンピオンから勝利を収めることができた。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「一緒に日本に行ってくれないか」
目の前に座っているブラジルの至宝はまた突然こういうことを言ってくる。
「なんで?」
「見たいものがあってね、リトルウィッチに誘われたんだ」
「へー、お前ら連絡とってたんだ。何を誘われたんだよ」
「スグルが思い描いていた“エリアの騎士”の中学最後の大会の試合。
負けたら中学でのサッカーは終わりになる試合だね」
「駆かー。でもあいつベンチ入ってんの?
怪我治ってからサッカー辞める続けるで結構もめたって聞いたぜ」
「ベンチ入りはしてないけど、なんでもウィッチが勝手に選手登録するらしいよ」
「ブフッ」
飲んでいたカフェオレを盛大に吹き出してしまった。
「ハハハハッ…何それ最高じゃん……クククッ」
「それに弟君も弟君なりに練習はしてきたみたいだし、左も使えるようになったらしいよ」
それを聞いて輝也は笑うのをやめる。
「へー、それは楽しみだな。傑の求めていた騎士……か。それは見に行かないとな」
「そう言ってくれると思ったよ。正直、”あの”オファーのこともあるしね」
レオが何のことを言っているのかはすぐに分かった。
「レオにも届いたのか?」
「正式にオファーを出したのは僕とテルだけみたいだよ」
「”世界に通用する若手を養成する”……か」
東京蹴球学園、日本の若手を世界に通用するレベルまで育てることを目的として西東京に新しく設立される高校。そんな高校から先日オファーが届いていた。
「面白いアイデアだとは思うけどね」
「俺はともかくレオはロビィが許さないんじゃないのか?」
「当然反対されてるよ。だけど、関係ないさ。
僕が行きたいと思ったらオファーは受けるさ」
今の発言をロビィが聞いたら発狂して暴れだしそうだと思う……。
「まあそれも日本に行って考えるか」
「私も一緒に行こうかなー♪」
突然後ろから聞きなれた声が聞こえてきた驚きで輝也は椅子から落ちそうになった。
「うわっ、びっくりした。
なんだよ亜理紗来てたのかよ」
後ろを振り向くとそこには
「やぁアリサ、久しぶりだね」
「レオ久しぶりー、こっち来てたんだ」
「昨日着いてね。でもすぐに日本に行くんだけど」
「亜理紗も行くって、孝明さん許してくれるのか?」
「輝と一緒だって言えば大丈夫でしょ。
それに私だって逢沢傑の弟君は気になるし」
「そういう時だけ俺の名前使いやがって」
「じゃあ決まりだね、弟君の試合は1週間後だから」
「りょーかい」「はーい」
レオはそう言うと立ち上がり、帰ろうとした。
しかし、今回のオファーを受けて輝也は傑のある言葉を思い出した。
そのことについてレオと話したいと思っていた。
「なぁレオ、今日はまだ時間あるか?」
「? 大丈夫だけど」
「なら、晩飯食べに来ないか?」
傑から託された、ある言葉を――――
――――――――――――――――
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい輝也君。それにレオ君もいらっしゃい」
「おじゃまします。すいません
「別に大丈夫よ。夕食を誘うことを言い出したのは私だから」
「ではお言葉に甘えてご馳走になります」
輝也は小学校の時にもっと高いレベルの環境でサッカーがしたくて、ヨーロッパに行きたいと考えていた。スペインを考えていたが、たまたまその時に日本でイングランドのプレミアリーグのチェルシーFCのトレーニングキャンプがあり、それに参加して最優秀選手に選ばれたのがきっかけで、下部組織の入団テストを受けることができ、見事合格することができた。
そうして、輝也は単身イギリスに乗り込んだわけだが、そんな時に助けてくれたのが、十倉夫妻だった。英語もろくに離せなかった輝也だが、イングランドに渡る前に当時所属していたチームのコーチに紹介してもらったのが十倉夫妻だったのだが、輝也を居候として快く迎えてくれた。
夫の十倉
妻の祐子さんには、生活での多くの面でサポートしてもらった。輝也が海外で大好きなサッカーをすることができたのはこの二人のサポートのおかげだった。
「ユウコさんの作る料理はやっぱりどれも美味しいです」
「あら、レオ君は相変わらず褒めるのが上手ね」
夕食後のそんな会話を輝也は何気なく聞いていた。
輝也とレオはイングランドに渡って、あまり日が経たない時に知り合った。
初めて一緒にプレーしたとき、輝也は傑と同じかそれ以上のセンスを持っていると感じ、すぐに仲良くなった。
それからレオがイギリスのほうに来るときは毎回会っている。
ジュニアの大会で傑とレオが知り合ってからは三人で会うことも多くなった。
「レオ君、今日は泊まっていくの?」
「そうしたいんですけど大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
「ありがとうござます」
次々と話が決まっていくのはいつものことである。
「じゃあレオが泊まる部屋の準備してくるね」
そう言うと亜理紗は走って行ってしまった。
「アリサはいつも元気だね」
「輝也君のおかげよ。あの子が今、ああして笑っていられるのわ」
「俺はなにもしてないですよ。亜理紗が強かったんです」
亜理紗は元々はプレイヤーとしてサッカーをやっていた。ポジションはトップ下だったと輝也は聞いている。
しかし、中学入学前の試合中に大怪我をしてしまった。
日本の医療では選手としての復帰は難しかったためヨーロッパに来て治療をしていたが、選手としての復帰は不可能と言われたそうだ。
海外の最先端の医療技術だったため、亜理紗にはその現実は余計に重くのしかかっただろう。
輝也は孝明さんからこの話を教えてもらい、また亜理紗を支えてあげてほしいと言われた。支えるといっても何をしたらと思ったのだが、祐子さんは輝也に「そばにいてあげるだけでいいわ」と言った。そのためできる限りそばにいて、できるだけ話を聞けるようにつとめた。
そのおかげかどうかは分からないが、亜理紗は現実を受け入れることができ、元の明るい性格に戻った。
選手を諦めた亜理紗は、それでもサッカーには関わっていたいということで、父のように選手をサポートする立場になることを決めたそうだ。
亜理紗の明るい性格には輝也も助けられたことが多かった。
スタメン落ちしたり怪我をしてテンションが下がっていたときにはいつもそばにいてくれた。
(いつからだろうなー、…そばにいるはずが、そばにいてもらっていたのは)
「それじゃあ俺の部屋行こうぜ、レオ」
「ロビィに電話だけしてくるよ」
泊まってもいいかということをロビィに確認することもいつのまにかなくなっていた。
そのころ、ロビィがレオを探して回っていることを二人は知らない。
ようやく、新しく書き始めることができました。
初めは書きかけていた前作を基にします。
基本設定は同じつもりですが、変更箇所も少しあると思います。
前作を読んでくださっていた人にはお待たせしました。
相変わらず更新は遅いと思いますが、よろしくお願いします。