Golden Arrow   作:ibura

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お久しぶりです。


驚愕

総体(インターハイ)予選の初戦を突破した江ノ高サッカー部は、次の日に行われた3回戦も勝利した。

 

前日の試合でスタメンだった輝也・火野を温存し、駆・高瀬をスタメンで起用したが、前半は得点が奪えずにスコアレスで折り返した。0-0で迎えた後半に駆のボールロストから先制点を奪われたタイミングで温存していた輝也と火野を前線に投入する。すると流れは江ノ校となり、全て荒木のアシストから途中から入った2人がそれぞれ2ゴールをあげ、結果的には4-1の快勝となった。

輝也は、自分のミスから失点に繋がった駆を心配していたが岩城監督がフォローしていたと亜里沙に教えてもらったことで安心することができた。

駆が最近何かを試そうとしていることに輝也は気付いていた。最近は駆と奈々、亜里沙の1年組で行なっている夜間練習で覚えて練習しているらしいフェイントを使えるようにしようとしているが、失敗してボールロスト、そのままチームのピンチとなるケースもちらほら見られた。現に先ほどの試合はそのケースからの失点であった。だが、それでも挑戦し続ける駆の"エゴ"に輝也は嬉しく感じた。

 

「亜里沙は駆のあのフェイントが何なのか知ってるんだよな?」

「うん、そういう輝也もだいたいは予想してるんじゃないの?」

「まぁあれかなーっていうのは思い当たるな。やろうとするタイミングとか考えたら多分あれだろうな」

「……成功してるとこまだ見てないのに分かるのが凄いよね」

「亜里沙だって分かったと思うけどな」

 

(俺もあの動画見て試しにやってみたよなぁ。俺のタイプには合わなかったけど)

 

 

亜里沙と話しながら輝也は、昔亜里沙と一緒に動画で見たフェイントを思い出していた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

3回戦を終えた江ノ高サッカー部の面々は、スタンドへと移動し次に行われる湘南大付属の試合を観ていた。

 

 

 

今大会の優勝候補である湘南大付属――

一言で表せば守りのチームであり、「4本の矢(フォーアローズ)」と呼ばれる4バックの守備陣は、ここ5年間の総体(インターハイ)、選手権を通じて10失点しかしていない。5年前の選手権で湘南大付属が県優勝を果たして以来、伝統の4バックが「4本の矢(フォーアローズ)」と呼ばれるようになった。  

 

「妙だな」

「確かに5年間メンバーが変わり続ける中で守備力に変化がないのはおかしいよね」

「何かからくりがあるんだろうな」

 

 

岩城監督の説明を聞く中で荒木が呟き、それに亜理紗と輝也も同意する。

その後、岩城監督が今大会での4本の矢(フォーアローズ)のメンバーを紹介するの中で、輝也はその中に知っている名前があることに気付いた。  

 

「日比野じゃん、あいつ帰ってきてたんだな」

「俺も最近雑誌で読んで気づいたよ。欧州(向こう)では何度か会ったがまさか帰ってきてたとわな」

 

小学生の時にチームメイトだった日比野が湘南大付属に所属していることに、輝也と隼は気づいた。

 

「あいつ怪我してたんだよな、駆?」

「え…あ、うん」

「…?」

 

輝也は妙にぎこちない返事を返してくる駆に違和感を覚えてが、その理由がすぐに分かった。

 

「駆、"あれ"は事故だったんだろ?」

「……うん」

「なら、お前が気にしても仕方ないだろ」

 

輝也がイギリスに行った後、練習中の駆との交錯で日比野が大怪我を負ったと言う話を当時輝也は傑から聞いたことがある。日比野は親の仕事の都合で欧州に引っ越したらしいが輝也はその後の日比野のことを知らなかった。

 

「隼さんあいつの怪我のこと何か知ってるんですか?」

 

駆に聞こえないように、輝也は日比野と欧州と面識がある隼に尋ねた。

 

「……俺もそこまで詳しくは聞いてないけど、切れた靭帯はそのままみたいだな。手術しても無理だったって話は聞いた」

「え、じゃあもしかして…」

 

輝也と隼は試合中の日比野を見た。

試合はペナルティエリアから少し離れた位置からの湘南大附属ボールのフリーキックの場面だった。そして、日比野はキッカーの位置に立っていた。

 

「嫌な位置ですね」

「日比野が蹴るのか」

 

DFである日比野がフリーキックを蹴ることに疑問を抱いていると、マコがあることに気づいた。

 

「なぁ、壁作ってるやつらなんかビビってね?」

「確かに、泣きそうな顔してるな」

 

荒木の表現はどうかと思いながらも隼も疑問を感じた。

しかし、輝也はあることに気づいた。

 

「たかがフリーキックであんなビビるか?」

「いや、ビビりますよ隼さん」

「なに?」

 

次の瞬間、日比野が雄叫びをあげ何かを叫びながらフリーキックを蹴った。

 

「なっ!?」

 

そして、とんでもない威力のシュートがゴールに突き刺さった。

 

「キッカーのキック力が化け物だったら壁もビビりますよ。俺もよくあんな顔されます」

「……なるほどな」

 

隼同様、江ノ高の面々も日比野のフリーキックに驚愕していた。

 

「おいおい、輝也といい勝負なんじゃねーか?」

「…冗談じゃないぜ」

 

岩城監督の話では、日比野のあのフリーキックが攻撃力不足だった湘南大附属を一気に優勝候補にしたらしい。

 

「面白いじゃん、俺も対抗して長距離フリーキック狙ってみようかな」

「…お前なら本当に決めれそうで怖いよ」

 

輝也が試合でフリーキックで無理矢理ゴールにねじ込むす姿を想像して、隼は苦笑した。

 

「まぁこれではっきりしましたね。あいつの膝の靭帯は切れたままで…」

「筋肉でカバーしてプレーしてるんだろうな。元日本代表の城さんみたいに」

 

日比野を見ながら複雑そうな顔をしている駆を見て、輝也は不安を感じた。

 

試合は日比野のあげた1点を守り抜いた湘南大附属の勝利となった。その後、荒木の一言から次の試合は見ずに帰って練習をするということに決まり、近藤先生と奈々、亜里沙が残って試合を録画しておくことになった。

 

輝也は岩城監督が次の試合を気にかけていることに疑問を感じたが、試合前のアップを行なっている辻堂学園のベンチを見てその理由が分かった。

 

「鉄さん、あれって…」

「あぁ、瓜生だ」

「なるほど、鉄さんが次の試合気にする理由が分かりましたよ」

「考え過ぎかもしれないがな、さぁ帰るぞ」

 

岩城監督の声で帰る準備を始める部員の中で輝也は用事を思い出し、ビデオカメラを設定している奈々に声をかけた。

 

「奈々、お前今夜何か予定あるか?」

「今夜ですか?特にはないですけど」

「お前に話があるって人がいるから今夜その人連れてお前の家行くわ」

「…?分かりました」

「じゃあまた時間とか連絡するから」

 

そう言って輝也は他の部員と共に学校に戻っていった。

 

「……亜里沙ちゃん、何か聞いてる?」

「うん、一応ね」

「私に話があるのって誰なの?」

「うーん……あんまり大きい声で言えないから、後で言うね」

「ふーん」

 

亜里沙の言葉に疑問を感じつつも、奈々は目の前の試合の録画に集中することにした。その試合が終わる頃にはその疑問など忘れるほどに驚いているとは、この時の奈々は考えてもみなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

その夜、輝也は自宅で父とある人物達を待っていた。

 

「帰ったぞぉ」

「お邪魔します」

 

程なくして父が帰宅し、輝也が用のある、というよりも輝也に用がある人物が自宅にやってきた。

 

「やぁ、輝也くん。久しぶりだね」

「お久しぶりです、五島さん」

「いやぁあの時の子供が今や、世界が注目する逸材になるとは夢にも思わなかったよ、活躍は聞いているよ」

「ありがとうございます。まぁあの頃はまだボール蹴ってたぐらいですからね」

 

輝也を訪ねてきて、これから奈々に紹介する人物は現女子サッカー日本代表監督の五島監督だった。そしてもう1人――

 

「一色さんは初めましてですね」

「あら、私のことも知ってるのね」

「父の影響で色々と詳しいんですよ。なでしこジャパンの現エースだって当然知ってます」

「なるほどね」

 

五島監督と一緒に来ていた女性、現なでしこジャパンのキャプテンである一色 (いっしき)妙子(たえこ)は輝也の言葉に納得した。

 

「それじゃああまり遅くなってもあれなんで、行きましょうか」

 

輝也は奈々に連絡を入れ、今から向かうことを伝えた。

 

 

 

 

五島監督と一色を奈々の家まで送り届けた輝也は、家の外で話が終わるのを亜理紗と一緒に待っていた。

 

「奈々ちゃんもついになでしこジャパンの一員か」

「まぁ実力的には全然やっていけるだろうけどな」

 

アメリカでの奈々のプレーを見たことがある輝也と亜理紗は、何も不安に感じていなかった。

 

「そういえば輝、あの後の試合どうなったか知ってる?」

「知らないけど、もしかして辻堂が勝った?」

「正解!!何で分かったの!?」

 

輝也の答えが予想外なもので亜里沙は驚く。実際に試合を見ていた奈々と亜里沙は、終始驚きの連続の試合だったのだ。

 

「辻堂の監督がさ、鉄さんの高校の時のチームメイトなんだよ」

「へー、そうなんだ」

「それで鉄さんは、念のため録画を頼んだんだろうな。ちなみにスコアは?」

「4ー0」

「はぁ!?」

 

今度は輝也が驚愕した。辻堂の番狂わせはある程度予想していた輝也だったが、そこまでスコアに差が出るとは思っていなかった。

 

「あ、スコアは予想外だった?」

「当たり前だろ、せいぜい2点差だと思ってた」

「まぁ明日の放課後ビデオ見せるから。正直あれは見てもらった方が早い」

「………そんなにか?」

「うん、あれはある意味画期的だったよ。出来る人がいればの話だけど」

「気になるなぁ……」

 

そう話していると、奈々と話していた五島監督と一色が家の外に出てきた。

 

「あれ、もういいんですか?」

「えぇ、発破かけたから。あとはあの子しだいよ」

「ほんと、これで来てくれなかったら、なでしこジャパンにとっては痛手だぞ」

 

不敵に笑う一色と、胃のあたりを抑えながらそう言う五島監督。輝也と亜里沙は五島監督が心配になった。

 

「では我々は失礼するよ」

「あ、送っていきますよ」

「大丈夫よ。道は覚えてるから帰れるわ」

「そうですか、分かりました。明日の試合頑張ってください」

「ありがとう」

 

2人が去って、しばらくして奈々が出て来た。

 

「あれ、奈々ちゃん公園行くの?」

「うん、この時間からまだ駆やってるかなと思って」

「なら、俺も行こうかな」

「「輝(輝也さん)は駄目!!」」

「……えぇ」

 

最近、輝也は夜の練習に行こうとしても、このように2人に止められていた。

 

「駆が試合であのフェイント成功させるまではだめです」

「何でだよ…」

「輝を驚かせたいから」

「………」

 

亜里沙の返答に輝也は言葉を失う。

 

「大体、それはいつ成功するんだよ」

「あとはタイミングだけなんですよね」

「練習では成功率あがってきてるしね」

 

そう言われて輝也は考える。確かに輝也の予想通りならそのフェイントはタイミングが重要だった。

 

「まぁ分かったよ」

「じゃあ私達は行こうか」

「うん」

「奈々」

 

公園に向かおうとする奈々を、輝也は呼び止めた

 

「明日の試合、頑張れよ」

「………はい」

 

返答に少し迷いが感じられたが、そこは亜里沙が上手くやるだろうと輝也はさほど心配しなった。

 

「俺は、お前がなでしこのユニフォーム着てる姿も見てみたかったけどな………」

 

歩いて行く亜里沙を見ながら輝也が呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

思い出すのは小学5年の全国大会決勝、輝也のサッカーを変えたのは自分より一学年下の選手のプレーだった。

隼が1人の選手のパスだけで翻弄されるのを、輝也は初めて見た。

 

 

輝也がサッカーをやってきて最もパスを受けてみたいと思えた選手は、選手としてピッチに戻ることを許されなかった。

 

 

 

 




感想、評価等お願いします。

イブラ、チェルシー来ないかなぁ……。
……無いか。
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