Golden Arrow   作:ibura

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親友

駆の試合の翌日、輝也はイギリスに帰った。

亜理紗はもっと日本にいたいと言っていたが、輝也が帰るのでしぶしぶ帰ってきた。

日本の高校でやることは決めたが、駆が高校に上がるまでにまだ半年以上ある。

夏の総体は出場したいので、編入生は半年間公式戦に出場できないことを考えると、年内には編入したい。

駆にもそのことは伝え、決まり次第連絡をもらうことになっている。

輝也自身でも調べてみるつもりだが、自宅のある神奈川県内にはしようと思っている。

(とりあえずは、駆が決めた高校を見に行ってみるか。そういえば、神奈川の高校って言ったらあの人が監督やってるところがあったな。最悪、そこにするかな)

飛行機の中で懐かしい顔を思い出しているうちに、イギリスに到着した。

現在所属しているチェルシーFCユースのスタッフやお世話になっている十倉夫妻にも、日本の高校でサッカーをやるということを話さなければいけない。

 

「久しぶりのイギリス!!」

「久しぶりって言っても、1週間も経ってないよ」

「日本でいろいろあったからなんか凄く久しぶりに帰ってきた気がするんだよ」

「そういえば、レオは?」

「レオは東京に行った。蹴球学園のオファーを受けるみたいだな」

「よくロビィが納得したね」

「意外だよなー」

(ロビィめ、大金積まれて折れたか。まぁ俺としてはラッキーだけど)

「ふ~ん、とりあえず家に帰ろ」

「そうだな」

 

 

そしてその日の夜

 

「どうしたの輝也君、私たちに大切な話って」

輝也は昼に帰った時に、今晩大切な話があるということを祐子さんに伝えた。

また、仕事から帰ってきた孝明さんにも同じように伝えて今に至る。

 

「まあそんなに急かさなくてもいいじゃないか。それより輝也君、久しぶりの日本はどうだった?」

「いろいろなことがありましたね。すごく充実した時間でした」

「それは、よかった。それに何か吹っ切れたという顔をしているね」

「そうなのよ。帰ってきた時から輝也君、何か悩みが無くなったみたいでいきいきとしているわ」

「そ、そうですかね?」

「答えは出たようだな。悩んでいたんだろ?イギリスでサッカーを続けるのか日本でサッカーをやるのかを」

「え?」

蹴球学園からのオファーを見て日本でやるかどうかを悩んできたが、そのことを相談したのはレオだけだ。

「だって輝也君、東京の高校からオファーがきてからよく黙り込んで考えてたのだもの」

「そんな時に日本に一度帰るなどと言われたらな。そのうえ理由があの傑君の弟の試合を見に行くときたら。悩んでいることは想像できたさ」

本当にこの人達には驚かされる。

「それで、どんな答えを出したんだい?」

そう聞いてくる孝明さんは”まぁ答えは分かっているんだが”と言いたげな顔だった。

 

「俺……日本で、日本の高校でサッカーをやります!!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

十倉夫妻に日本でサッカーを続けることを告げてから3日がたった。

幸い十倉夫妻は俺の決断を支持し、応援してくれると言ってくれた。あの人達には1日に一度は感謝している気がする。

 

そうして輝也は、今在籍しているチェルシーFCユースの練習に久しぶりに参加するため、チームの練習場に来ていた。

「ここでボール蹴るのも久しぶりだな」

練習が始まる2時間早く来た俺は、1人で体を解していた。最近あまり練習をできていなかったため、念のため早めに来て自主練をしているのだ。

すると、練習場に1人のチームメイトが入ってきた。

「やっぱり来てたか、テル」

声を駆けてきたのは、アダム・デイヴィスだ。

アダムとはこのチームの中でも一番仲が良く、プレイ面でも相棒である。

長年やった傑との連携は俺の中では一番だが、アダムとの連携も日を重ねるごとにレベルを上げている。

傑亡き今、輝也にとっての相棒はアダムであることは間違いない。

「早いな、アダム。まだ練習まで1時間以上あるぜ」

「どうぜテルのことだから早く来て自主練してるかなと思ってさ」

「ということは付き合ってくれるのか?」

「そのつもりできたんだよ」

こうして輝也とアダムは練習が始まるまで2人でボールを蹴ることにした。

 

 

 

「久しぶりの母国はどうだったんだ?」

「なかなか面白かったよ」

「お目当ての選手はどうだったんだよ。あのスグル アイザワの弟は」

「見事に途中出場したよ」

「おぉぉ!!」

アダムには日本に帰る前に、駆のことを話してあった。ベンチには入れていないことも、監督に内緒で勝手に選手登録したことも。

「そして2点決めて見せたよ。試合には負けたけどな」

「そいつがスタメンで出てたら勝ってたかもな」

話をしながらも2人とも寸分の狂いもなく相手の足元に向けてボールを蹴り続ける。

「あのレオナルド・シルバとテルが注目する選手っていう時点で凄いよな。でもまだそいつ世代別の代表にもまだ呼ばれたことないんだろ?期待しすぎなんじゃないか?」

「俺の見立てだと高校で化けるかもよ。それに…」

傑の心臓もあるしな、何てことを言うわけにはいかない。

あのドリブルは凄いが、あれは本当の駆のプレイではないのだ。

輝也も傑も駆に期待しているのは、ドリブルではなくエリア内での仕事なのだから。

「いや、面白いやつだからよ。からかったら本当に面白いんだ」

「へぇー、また紹介してくれよ」

「機会があればな」

 

 

そうこうしていると他のチームメート達も集まり、その日の練習が始まった。

練習の中でのパートナーももちろんアダムである。

 

「そういえばテル、聞いてるか?」

「何を?」

「俺たち二人のトップ昇格の話が出ているらしいぜ」

「……まじで!?」

「あぁ。前線に怪我人が多くて、昇格は間近じゃないかって言われてる。

 特にフォワードはレギュラークラスが軒並み離脱してるから、こっちで実績残してるテルは可能 性が高いんじゃないかってのが最近の話だな。もしかしたら、今日にも監督から話が…」

「テル、アダム。練習終わったら監督のところに行ってくれ」

「ほらな」

「……お前の予想はよく当たるな」

 

 

 

 

そして輝也とアダムは今練習が終わり、監督室に向かっている。

「そういえばさアダム、言うの忘れてたけど」

「ん?」

ドリンクを飲みながら耳だけを傾けてくる親友。

「昇格の話があっても、俺断るから」

「ブフッ」

親友は変な音とともに飲んでいたドリンクを吹き出した。傾けてるのが耳だけでよかったと思う。

「は、お前何言ってんだよ。こんなチャンス滅多にないぞ」

「というか、一度日本に帰ることにしたんだ。日本の高校でサッカーを続けるために」

「はぁぁぁ!?」

まぁ驚くのが普通なんだろう。ヨーロッパでもトップレベルの実力のリーグであるイングランドのプレミアリーグの中でもこれまたトップレベルの実力を誇るチームのトップチームにこの歳で昇格できるのだ。

そんなビックチャンスを前にして、俺は世界でもそこまで発展しているわけではない日本の、しかも高校でのサッカーを選ぼうとしている。

そんなことを言われたら、誰だって目の前の親友のように飲んでいるドリンクを吹き出すこともあるだろう。

しかし、輝也は決めていた。

「悪いな、アダム。もう決めたことなんだ」

「……まぁそんな気はしてたんだけどな。スグル アイザワの弟の試合を見に日本に行くって聞いた時から。今回は嫌な予想が当たってしまったよ」

「ずっと迷っていたことなんだ。一度日本でプレイするかどうかを。でもまぁ今回の一時帰国で決断できたよ」

「後悔はしないんだな?」

「あぁ」

輝也の言葉に、アダムはどこか安心したような顔になった。

「そうか。さて、続きは後にしてとりあえずボスの話を聞こうぜ」

2人は監督室の前に到着していた。

 

 

予想していた通り、監督の話とはトップ昇格の件だった。なので俺は丁重にお断りした。

監督から「…なぜだ?」と睨まれながら聞かれた時は殴られるかとも思ったが、俺が話した理由を聞き終えた監督は一言、「成長して帰ってこい」と言ってもらえたので本当に安堵した。その場にいた他のコーチ陣も残念そうにしていたが、同じように「日本にお前の名前を刻んで来い」「強くなって来いよ」といったように背中を押してもらえた。その後、アダムとのトップ昇格の話に移るので、俺は監督室を出ていくことになった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

監督やコーチ達といったスタッフにチームを退団することを伝えてから数週間後、駆から電話がかかってきた。

「輝兄、受ける高校決まったよ!!」

「どこだ?」

「江ノ島高校にしようと思うんだ」

「そうか、じゃあ俺もそこにするかな」

「そんなに簡単に決めちゃっていいの?」

「まぁ一応見に行ってみるけど、よっぽどのことがなかったらそこで大丈夫だろ。というか駆、俺がその江ノ島高校に編入するんだから落ちるなよ」

「分かってるよ。ちゃんと勉強するから」

「ならいいけど」

「ところでさ輝兄、荒木 竜一さんって知ってる?」

「竜一?知ってるけど。なんで?」

「いや、兄ちゃんの日記にその荒木って人の名前があってさ。“俺よりもパスセンスは上”って書いてあったから、どういう人なのか気になって」

「確かにそうかもな」

荒木 竜一とは一時期代表でともにプレイしたことがあるが、傑の言う通りパスセンスはいいものを持っていた。一緒にやって楽しい選手だったことを覚えている。

「っていうか駆、お前傑の日記勝手に見たのか?」

「あ…まぁ、うん」

「傑が生きてたら絶対に怒られるぞ」

「き、気を付けるよ」

「ったく。まぁいいや、俺今から練習だから切るぞ。またなんかあったら連絡くれ」

「分かった」

「ちゃんと勉強しとけよ」

「……分かった」

 

 

このとき俺は気が付いてなかった。

江ノ島高校とは、あの人が監督がしているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の練習で

「そういえばさテル」

「どうしたアダム」

「前にどっちが先にトップに昇格するかで勝負するってことになってなかったか?」

「………」

「負けたほうが昼飯一回奢るんだったよな?」

「………」

 

決断してから初めて日本の高校でやることを後悔した瞬間だった。

 




予定変更、5月のインハイ予選から主人公は試合に出します。

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