Golden Arrow   作:ibura

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憧れ

輝也は今江ノ島の海水浴場に来ていた。

もうすぐ11月なのだから、当然海に入ることが目的なのではない。

そして、今輝也は”憧れの人”の姿を呆然と見ていた。

 

「……鉄さん」

 

 

 

 

 

 

話は一時間前に遡る。

輝也は駆の話した、江ノ島高校を見に行くことにした。

駆の電話後に思い出したことだが、江ノ島高校と言えば輝也にとっての憧れの選手がかつて在籍していた高校だった。

 

 

 

 

まだ小学生だった輝也は、父に連れられて見に行った選手権の会場で俺は、神懸ったプレーを見せる選手を見た。

 

岩城 鉄平――――

 

当時選手権監督としてピッチの中ですべてを支配するその姿を見て、輝也はいつかその人とサッカーがしたいと思った。

ちなみにその時から輝也は高校サッカーのファンになった。

フリーのジャーナリストだった輝也の父もそのプレーぶりを見てからは、他の記事を書きながらも、常にその天才を追い続けた。それは怪我をしてからも続いた。

そのことから父を経由して、輝也は鉄さんと知り合うことができた。

大学に進学してからも鉄さんの出る試合を輝也は何度も見にいった。

鉄さんも初めは戸惑っていたが、しつこく試合を観戦していくうちにいつしか輝也に対して弟のように接してくれるようになった。

 

 

 

 

そんな兄のような存在でもある鉄さんがいた江ノ島高校を駆が選んだことをどこか運命のように感じながら、輝也はサッカー部を見るために江ノ島高校に向かった…………が。

 

 

「サッカー部は今日は休み!?」

土曜日だったら練習しているだろうと思いグラウンドに足を運んだものの、サッカー部の姿はグラウンドにはなかった。

そこへ、とりあえず声をかけたた先ほどサッカー部が今日は休みだということを教えてくれた男子学生が、新たな情報を教えてくれた。

「SCは休みだけど、FCなら砂浜で練習していると思うよ」

SC?FC?砂浜?

引っかかることはあったが、ひとまず教えてくれた男子に感謝し輝也は砂浜に向かった。

そして、そこで練習をしているサッカー部を見つけた。

 

 

…さらには、そこで指示を出す鉄さんも。

 

 

「そっか。鉄さんが監督として江ノ島に戻ってたんだ」

 

とりあえず輝也は少し遠くからその練習風景を見ることにした。

そして分かった。

 

「さすが鉄さんのチーム。なかなか楽しそうじゃん」

 

地面が砂浜なので、かなりキツそうではあるがみんな楽しそうにサッカーをしている。

その中には、昔代表で一緒にやったことのある荒木の姿もあった。

そう思っていると、練習は中断し休憩に入ったようだった。

 

「さてと、鉄さんにあいさつでもしとくかな」

 

 

ちょうど一人になった鉄さんのところに向かい、後ろから声をかけた。

 

 

「鉄さん」

「!!?? 輝也か!」

「お久しぶりです」

「本当に久しぶりだな。今はイギリスじゃなかったのか?」

「ちょっと用事がありまして」

「そうか。今はまだ練習中だから後でゆっくり話そうか。

 向こうの話も聞いてみたいしな」

「それもそうなんですが、……ちょっとばかし大切な話がありまして」

「? 分かった」

 じゃあ俺は練習に戻るよ。よかったら見てってくれ」

「そのつもりですよ。そこらへんで待っておきm…」

「岩城ちゃん!!」

輝也が言い終わる前に、部員らしき金髪の見るからにヤンキーのような人物がやってきた。

 

「どうしました?兵藤君」

兵藤と呼ばれたその部員は、監督であるはずの鉄さんをちゃん付けで呼んだ。

「遠藤が足を痛めたらしくてさ」

「それは本当ですか!?」

「とりあえず今、淳平と紅林が保健室に連れて行ってるけど、今日の練習はもう無理っぽい」

「そうなると人数が奇数になってしまいますね、紅林君にどちらかのチームに入ってもらって私がキーパーをしてもいいんですけど…」

すると鉄さんは輝也のほうを見た。

(まさかとは思うが…)

「輝也」

「はいはい分かってますよ。やればいいんでしょ?」

「悪いな」

「別にいいですよ。さっきから見てるだけで退屈になってきてるところだったし、結構楽しそうだったんで」

「ならよかった」

そこで今まで輝也と鉄さんのやり取りを黙って聞いていた兵藤が口を開いた。

「なぁ岩城ちゃん。そこにいるのって、もしかしなくても…」

「はい、歳條 輝也くんです。U-17日本代表の」

「……その超天才児が今から俺らのビーチサッカーに参加するんですか?」

「そういうことですね」

「き、聞いてないっすよ」

「今決まりましたからね」

「…………」

兵藤はぎこちない動きのまま顔を輝也のほうへと動かしてきた。

「よろしく」

「お、おう。よろしく」

「じゃあ鉄さん、俺着替えてきますね」

「練習着持ってきてるのか?」

「まぁ一応念のためってことで持ってきてました」

「そうか」

 

兵藤はその場でたっぷり10秒間固まっていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ということで、怪我の遠藤君に代わって残りの練習には歳條 輝也君に参加してもらうことになりました」

「よろしく」

「「「………」」」

全員が唖然としていた。

バカ騒ぎした駆のチームメートと比べると少しは大人だなあと思う。一学年しか違うのにこの違いは何なのだろうか…

が、一人だけ中学生と同じようなやつがいた。

「輝也じゃねーか?久しぶりだな。一年ぶりぐらいか?お前今イギリスじゃなかったのか??なんでこんなとこにいるんだよ???」

荒木だけは中学生のような反応だった。

「おぉ、久しぶりだな竜一。まぁちょっと鉄s、監督さんに用があってな」

「へぇー」

 

「てか監督、何で歳條のこと知ってるの?」

「それは、まぁ昔いろいろとあってね」

「いろいろ?」

「そ、そんなことはいいので練習を再開しましょう」

((あ、誤魔化した))

 

そんなこんなで練習に加わることになった。

この練習、”ビーチサッカー”の大体のルールはさっき鉄さんに教えてもらった。

ルールじたいは単純だが、なにせ地面が砂浜だ。さらにはゴールに向かって少し上り坂になっている。ボールは転がりにくいし、足にも相当負担が来るだろうな。

そんなことを考えながら、輝也はビブスを渡されビブスチームに入った。

荒木とは違うチームになったが、まぁそれはそうか。

 

「えっと、とりあえずみんな名前教えてくれるかな?あと学年と」

「1年の火野 淳平だ」

「1年の桜井 学」

「同じく1年の浜 雪蔵」

「2年の三上 信二だ」

同じチームになった他の部員の名前を聞き終わった俺は1つ思った。

「1年が多いんですね」

「FCにいる2年は俺も含めて二人だけなんだ」

そう答えたのは三上さん。

「1年ばっかって言っても俺らはレベル高いぜ。気を付けろよ天才君」

「はい」

 

「では後半、開始します」

鉄さんの言葉と笛の音とともにビーチサッカーが始まった。

 

そして始まって早々、輝也は思った。

(これは……思ったよりキツい)

砂浜のピッチがこれほどキツイとは思わなかった。

「火野!ボールくれ」

ボールを持った火野からパスを受ける。

「死ね死ね死ね死ね」

「っつ!?」

受けた瞬間おかっぱ頭の奴が物騒なことを連呼しながらスライディングで突っ込んできた。

それをギリギリ交わした輝也はドリブルを開始する。

するとそこに、

「勝負だぜ、輝!!」

目の前に荒木がきた。

が、輝也はあることに気付いた。

「竜一、お前ちょっと太ったか?」

「なっ!?」

俺の言葉に荒木は分かりやすく動揺した。後ろでは兵藤が爆笑してる。どうやら本当に太ったようだ。

「う、うるせぇ~」

キレた荒木がボールを奪おうとしてきた。

言葉では動揺しているが、ボールを奪おうとする動きは鋭い。

が、太ったせいかはどうかは分からないが、イギリスでやってきた輝也の相手ではなかった。

「太ったとはいえ、あの荒木があっさり抜かれた!?」

「いくら太ったとはいえ、あっさりすぎるだろ」

「太った太ったうるせぇー!!」

後ろにいた、兵藤も抜きゴール前まで到達しシュートを放つ。

が、シュートはキーパーに弾かれてしまった。

「チッ(砂浜のせいでコントロールが甘くなったか。キーパー正面だった)」

 

 

輝也の一連のプレーに周りは呆然としていた。

「な、なんだあのシュート」

「正面じゃなかったら、絶対入ってたぜ」

「す、すげー」

 

しかし輝也が驚いたのは、相手の守備だった。

(荒木はさすがに上手いけど動きが鈍くなってたな。けど、あのおかっぱ君のスライディングは予想以上だったな。さすが鉄さんのチームってところか)

練習前の雰囲気で少し舐めてたけど、いざゲームが始まるとみんな予想以上の動きを見せていた。

今も守備に回った味方の選手たちがボールを持った相手に詰めている。

 

「…結構楽しめそうじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ

ピッ

ピー

「後半終了です」

鉄さんの笛の音と声により、ゲームが終わった。

結局あの後、輝也は3点を決めてハットトリックを達成した。

「さすが世代別代表の常連。レベルが違うぜ。おかげで今日のドリンク代払わずに済んだ」

「おー。俺も楽しめたわ」

ゲームの途中に火野から、負ければドリンク代全もちということを聞いて本気になったのは誰にも言わない。

 

「くっそー、また輝也に負けた」

そう言いながら荒木が近づいてきた。

そして近づけば近づくほど、太ったことがよくわかる。

「……竜一。お前なんでんなに太ってんだよ」

「そ、それを言うなー!!」

一応は本人は気にしているみたいだ。

「お前がそんなんじゃ、10番は俺がもらうぜ」

「うっせー!誰がお前なんかにとられるか!!大体お前はいつも9番だろうが!!!」

「というかまず歳條はうちのチームじゃないじゃん」

なるほど、確かにそれは正論だ。

鉄さんと話してからと思ってたけど、仕方ない。

 

 

「俺、江ノ島高校に編入するから」

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

全員沈黙

 

 

「「「えぇぇぇ!!!」」」

 

 

そして全員絶叫。

その場にいたすべての部員が、さらには鉄さんもそろっていた。

 

「輝也、それは本当か?」

「本当も何も今日はその話をしようと思ってここまで来たんですよ、鉄さん」

輝也の言葉に全員が驚いている。もちろん鉄さんもだ。

「分かった、その話は後でしよう。輝也はどこかで待っておいてくれ。とりあえず、今日の練習はもう終わりだから、連絡事項だけ話しておく――」

鉄さんが部の連絡をし始めたので、輝也は少し離れた場所から待っておくことにした。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「待たせたな」

「いえ」

待つこと10分、部員たちを解散させたあとに鉄さんはゆっくりとこちらに近づいてきた。

「それで、どこから話そうか」

「そうですね…」

イギリスでやってた輝也が、いきなり日本の高校のサッカーでやらせてくれと言ってきたのだ。何から話せばいいのか困るのは当然のことになる。

「まずは、輝也は日本に帰っくるということで良いんだな?」

「はい。向こうのチームにももう言ってあります」

「しかし、勿体ないな。お前も向こうではフロント側からも大分期待されてきてたんだろ。

 いいのか?このままいけばトップチームへの昇格も夢じゃないだろ」

「そこはいいんです。上でやるのが少し遅くなるだけですから。それに俺だって高校サッカーで国立目指してみたいと思いますし。鉄さんなら知ってるでしょ、俺が高校サッカーの大ファンだってことを」

「そういえば…そうだったな。だが、なんでまたうちに来ようと思ったんだ?他にも有名どころがあっただろ」

たしかに神奈川だけでも、鷹さんがいる鎌倉学館であったり、亨さんのいる葉蔭学院など全国でも有名な高校がある。

「まぁそうなんですが……知り合いが来年江ノ島に入るみたいなんで。それに合わせようかと」

「ほぉ、天才・歳條輝也を連れてきてくれた新入生か。誰なんだ?」

「それは来年までの楽しみ、と言いたいところなんですけど。まぁ鉄さんには言っておきます。…逢沢駆です」

「逢沢?まさかあの逢沢傑の弟か?」

「その通りです」

「だが、逢沢傑は有名でも弟の駆君は世代別の代表にも呼ばれたことがなんじゃないか?そんな弟君のために輝也はうちに来るのか?」

「俺はあいつには期待しているんですよ。高校で化けたら、もしかしたら代表にも呼ばれだすかもしれないですね。まぁそれに駆だけが理由じゃないですよ」

「そうなのか?」

「俺が高校サッカーに魅了されたのは鉄さんのプレーを生で見たのが理由ですからね。俺をここまで高校サッカーの大ファンにした鉄さんにはきっちりと責任を取ってもらわないと」

輝也の言葉に鉄さんは嬉しさ半分、呆れ半分といった感じだった。

「分かったよ。お前の編入については手続しておくよ。半年は公式戦に出れないが今編入すれば、来年の総体の県予選には間に合うだろう」

「だから急いで帰ってきたんですよ」

「そうか」

「鉄さんが俺に高校サッカーの素晴らしさを教えてくれたんです。だから俺が鉄さんを全国優勝チームの監督にしてやりますよ」

「楽しみにしているよ」

 

 

 

 

”いつか俺も国立(ここ)でサッカーをしたい”

そして

岩城鉄平(あの人)と同じチームで、全国の頂点を目指したい”

 

 

 

10年前に鉄さんのプレーを見て抱いて2つの夢に向けて輝也はまず一歩、踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで鉄さん。俺の編入の件もなんですけど、駆が入学できなきゃ元も子もないので…」

「入学試験をなんとかしろと言いたいのか?」

「はい!!」

「……俺にはそんな権限なんてないから無理だな」

「そうですか……」

当然と言えば当然の答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大学の授業とバイトで忙しくてあまり投稿できてないです………すみません。

感想などあればまってます。
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