駆達が入学してから数日後、輝也と駆、亜理紗、奈々はSCと海浜学院の練習試合を見に来ていた。
海浜学院のアップを見ていて、駆が派手なプレースタイルだということに気づき、奈々がSCがFCを意識していると指摘した。
そう話していると、SCの選手達がやってきた。
「ゼッケンを見る限りでは一応全員レギュラーみたいね」
「うん。あ、公太もいる。荷物持たされてら」
駆の言葉に輝也は思い出した。
「あーそっか。中塚公太ってどっかで聞いたことあると思ったら、駆の中学の時のチームメートか。あの髪形見たら思い出したや」
「あ…輝、公太君のこと忘れてたんだ。それに髪形で思い出すって…。私でも覚えてるよ」
「そりゃ、亜理紗は同じクラスだからだろ。ま、まぁそれはいいとして。さっき奈々がSCは全員レギュラーって言ったけど、それは間違ってるぜ」
「そうなんですか?」
「SCは今、守備の要が怪我で離脱している。駆と奈々もよく知ってる人だぜ。探せばいるはず……」
そう言って輝也はSCが練習をしている周辺を見渡した
「輝兄、それって公太のこと?
でも公太は怪我してないし……他にも知ってる人はいるけどみんな怪我してないし」
「またあの人サボってんのか。さっき試合見に行くって連絡したのに」
「だからわざわざこうして抜け出してきてやったんだろうが」
「「え………?」」
「あれ、隼さんいいんですか?こんなとこにいて」
「「隼さん!?!?」」
声をかけてきたのは、輝也の1つ上の先輩である
隼は小学生の時に輝也や傑、駆、奈々と同じチームに在籍していて、傑の前にキャプテンマークを巻いていた。
ディフェンスとしての実力はもちろん、いざ試合となるとその圧倒的なカリスマ性を発揮して、どれほどピンチになっても、どれほどチームが浮き足立っても、どれほどチームが不安になっても、隼はチームのリーダーとして必ずチームを落ち着かせた。
前線の輝也や傑はその隼の姿によく救われていた。
そうして、誰が言い始めたのか、周りからは”鉄壁の要塞”と言われるようになった。
そんな隼の小学生最後の大会は全日本少年サッカー大会の決勝だった。
勝てば優勝だったが、その試合で輝也と傑を中心とした攻撃陣は1点も奪えず、逆に隼率いるディフェンス陣が最後の最後に隼のクリアミスから失点し0-1で負けて準優勝だった。
得点を奪えなかった輝也達にも責任はあったが、試合が終わった後隼はいつまでも謝り続けた。
誰も、隼を責めなかった。責めることなどできなかった。
チームが初めて全国大会に出れたことも、その大会で決勝にまでこれたことも、全ては隼のおかげだと全員が思っていた。
輝也と傑は必ず次の年に優勝することを隼と約束し隼は進学した。
そうして、隼は鎌倉学館の中等部に入学して輝也と傑はチームの最上級生に、傑はキャプテンとなりスタメンにも駆や奈々、日比野が入るようになった。
そんな時、隼が中学の練習試合で選手生命にもかかわる大怪我を負ったという話を知った。
そして、隼は治療のためドイツに渡った。
「よぉ、駆に奈々、それに亜理紗も。久しぶり」
「「「お、お久しぶりです」」」
「でもまさか、お前らまで江ノ高に入ってくるとはな」
「隼さんこそですよ。輝兄も知ってたの?」
「俺も知ったのは最近だよ。
SCとの試合に向けて偵察に来てたら偶然出会ってな」
「俺は知ってたけどな、輝が江ノ高に編入してたことは。
SCの中でもだいぶ噂になったからな。有名人になりやがって」
「どうもっす。それで、いいんですか?サボってたらまた近藤先生に怒られますよ」
「監督には言ってあるからいいんだよ」
輝也と隼が話している間も、駆と奈々は輝の言った”怪我”という言葉が気になっていた。
「えっと…、隼さん怪我してるんですか?」
「もしかして中学の時の……」
「あー違う違う。この前やった試合で削られた時に軽く捻っただけだ。あの時の怪我はもう完治してるよ。そこの2人のおかげでな」
そう言って、隼は輝也と亜理紗のほうを見た。
「「え?」」
隼はドイツに渡った当初は治療が思うように進まなくて、選手生命も諦めかけていた。
しかし、そのことを偶然再会した輝也に相談したところ、輝也は亜理紗に頼んで亜理紗の治療を行った世界的に有名な医師を紹介し、隼はその医師の治療を受けることになった。
その結果、隼の怪我は劇的に回復し、高校に進級するタイミングで日本に帰国し、リハビリ期間を経て選手として復帰を果たした。
「ほんと、治ってよかったですね」
「まぁな。そういや駆も大怪我したらしいな。大丈夫なのか?」
「もう大丈夫ですよ。怪我も治りましたし、選手としてもしっかりと復帰しました」
「そういやお前、中学入ったころはマネージャーなんかやってやがったんだな。心配かけやがって」
「す、すいません」
「まぁでも復帰したからいいや。今度の試合は俺もギリギリ間に合いそうだし、覚悟しておけよ」
「はい!」
「お、試合始まりそうだな。じゃあ俺戻るわ」
そういって隼はSCのメンバーの元へと戻って行き、海浜学院と江ノ島SCの練習試合が始まった。
試合は前半途中でお互い互角の状況が続いていた。
「海浜のやつら、やべぇな」
「え、どいうこと輝兄?海浜学院のほうがチャンス作ってるように見えるけど」
「よく見ておけよ駆。海浜のチャンスはSCのDFとMFのフィジカルで全部潰されてる。そんでもって、SCの攻撃だよ。あの14番ののっぽにロングボール供給してるだけの単調な攻撃に見えるが、あの身長があれば読んでも対策をすることは難しい。身長やらフィジカルやらを全面に使てくるSCのサッカーは中々手ごわいぜ」
輝也が説明している間にSCのFWがサイドからのクロスをヘディングで合わせて先制点を決めた。
「これで前半終了。こうなれば、もうSCのペースね」
「後半が怖いと思うな、私は」
後半の途中から荒木も加わり、五人で観戦を続けた。
亜理紗と奈々の言う通り、後半は海浜学院が攻撃に気を回したすきにカウンターを何度も受けてSCが追加点を決めていき、終わってみれば5-0よいうSCの圧勝で試合は終了した。
試合後、荒木は駆達に話しかけた。
「な?言っただろ。今年のSCは去年以上にまとまってる。あいつらは本気で全国狙おうとしてるチームだよ。俺は去年の試合でそれを思い知ったよ」
「どんな試合だったんですか?」
荒木の言葉に、奈々が疑問に思い問いかけた。
「前半は俺達FCのペースだったよ。だけど、後半に入って先制された後はさっきの海浜学院のように悪循環にはハマっちまって結果は1対4。海浜の連中を笑えねーよ」
荒木の言葉に何も言えず、四人とも黙っていた。
が、そこで駆が口を開いた。
「でも、1点取ったんですよね」
「あ?」
駆の言葉に荒木も反応した。
「1対4だったんでしょう?その1点は誰がどうやって取ったんですか?」
「…俺のミドルだよ。試合終了直前に俺が決めた」
「諦めなかったんじゃないですか、その時は」
「!?」
駆の予想外の言葉に、荒木だけじゃなく亜理紗や奈々も驚く。
「試合終了間際までゴール狙ってたんじゃないですか」
「……」
「なのにどうして今はあきらめようとしちゃうんで「分かったようなクチ聞いてんじゃねぇ」え?」
「今の試合みたいに引いてスペースを消されると何も出来ねぇ。探し続けても俺にはあいつらの守りを突き抜けるパスルートがどうしても見つけられなかったんだ…」
「見つからないなら創ればいい」
「なに?」
「あのチームの鉄壁を一瞬で崩す、幻のパスルートを!」
この駆の言葉にはさすがの輝也も驚かせた。
『2人で創るパスさ』
その駆の言葉は昔、傑から聞いた言葉を思い出すものだった。
そしてそれは荒木にも言えることであった。
「あ、ちょっと荒木さん、聞いてくださいよ」
「まぁ待て駆」
無言で立ち去る荒木を追いかけようとする駆を、輝也は呼び止めた。
「お前の気持ちは伝わったはずだ。あとはあいつ次第だな」
「……うん」
手に持っていたハンバーガーをゴミ箱に捨てる荒木の姿を、輝也は見逃さなかった。
――――――――――――――――
江ノ島FCの面々は、SCとの試合会場である市民競技場で練習をしている頃、輝也は江ノ島近くのとある飲食店にある男から呼び出されていた。
「よぉレオ、久しぶりだな。それにリッキーも。パティは初めましてかな」
「やぁテル」
「久びりだな、サイジョウ」
「会えてうれしいよ、サイジョウ」
輝也は、東京蹴球学園に入学したレオとリカルド・ベルナルディ、パトリック・ジェンパの3人に呼び出されていた。
「で?試合が目前に迫ってて練習に参加したいところを無理やり呼び出した要件は何だ?」
「そう言うなよテル。今回正式にオファーを受けて入学したから挨拶しておこうと思っただけさ。他の2人も紹介しときたかったし。わざわざ俺たちが東京から神奈川まで来たんじゃないか」
「…まぁいいけどさ」
いかにも機嫌が悪そうな輝也を何とかレオは宥める。
横にいたパティは輝也に話しかけた。
「レオから話は聞いたぜ、サイジョウ。何でもお前らの学校は公式戦の出場チームを決める試合をやるらしいな。日本のハイスクールは面白いことをするぜ」
「まぁこんなことするのは俺らだけだろうがな」
「それで、その試合は勝てそうなのかい?」
「まぁ大丈夫だろう。駆も無事に入学してくれたし」
「負けてくれるなよ。俺はお前にリベンジしたくて日本に来たんだから」
リッキーは以前、輝也と傑が率いるU-15日本代表の前に煮え湯を飲まされた経験があるため、輝也にリベンジをしたいと考えている。蹴球学園のオファーを受けたのも、輝也と再戦ができると思ったからである。
「分かってるさリッキー。俺もお前との勝負がついたとは思ってないからな。今度こそお前との個人的な勝負にも勝ってやるさ」
「何だと!?いいぜ、やれるもんならやってみろよ。今度は俺らから点を奪えると思うなよ」
「リッキーはアイザワとサイジョウの話になったら熱くなるよな」
「まぁそういってやるなパティ、こいつは試合になったらこういう感情を力に変える男だからな」
熱くなって宣言するリッキーを見てやれやれと呆れるパティと、それをフォローするレオ。
そんな会話をその後10分程度続けた後、レオ達は東京に帰っていき、輝也も帰宅することにした。
その帰り道、岩城監督から連絡が入り遠藤が以前痛めた箇所を今日の練習で再び痛め、今度の試合には出場できないということが分かった。その結果FCは控え選手が1人もいない状況で試合に臨むことになった。
本当に、本当にお待たせしました。
隼さんは岩城先生の学生時代のチームメイトでプロになってる金森拓馬の弟です。
あまりにも隼のイメージが金森さんに似ていたので、家族にしてみました。