(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第10話 アシスタントとの初顔合わせ

 連載は、2月スタート。

 まだ12月だ。1話と2話はページ数が多いとはいえ、ペースとしては比較的余裕があった。間に冬休みがあるのも大きい。

 

 それなら、先を描いておければいいんだけど、4話目以降は1話のアンケートの結果を見つつになるので、あまり先行し過ぎる事もできない。

 量よりも質。時間をかけられる分だけ気合を入れて、原稿と向き合おう。

 ネームで構図は決まっているけど、表情とか、ちょっとしたポーズとか、作画でこだわれるところは多い。

 こだわり過ぎて締切を守れないと本末転倒なので、下描きはできるだけ飛ばし、ペン入れに時間をかけよう。

 目標は、1話の下描きを1週間で終わらせて、来週末からペン入れに入りたい。

 

 人によっては、ページごとに下描き→ペン入れを終わらせていく人もいるみたいだけど、僕は通して下描きを終わらせてから、ペン入れ派だ。

 その方が、前のページとのつながりがよく描ける気がする。

 個人的なこだわりなだけで、本当に差がついているのかは、分からないけど。

 

 

 今までとは違って、打合せ場所が仕事場かその周辺になったのも助かっている。

 集英社まで足を運ぶのは、それだけで負担となっていたので、それがなくなっただけでも、かなり違う。

 

 ただ、仕事場に来てもらうということは、3人目の亜城木夢叶といえる見吉とも顔を合わせることになるわけで、それだけが心配だった。

 

 どうなるかと思ったけど、意外とあっさりと顔合わせは済んだ。

 そういえば、港浦さんにアシスタントを頼むときに、手伝いの人がいるだけでも違うって言われたっけ。手伝ってくれる人が仕事場に出入りする事は、そこまで珍しくないのかもしれない。

 

 港浦さんは、独り身らしく、シュージンが軽く妬まれたくらいだ。

 俺もちょっと妬んでいたので、港浦さんを責めることはできない。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 12月24日 金曜日

 

 今日は、クリスマスイブだ。

 そんなものおかまいなく、僕は原稿と向き合い、シュージンは港浦さんと打合せしていた。

 見吉は、事務所の掃除中だ。

 

 シュージンと見吉。

 仕事場とはいえ、クリスマスも恋人と一緒に過ごせるのは、羨ましい。

 亜豆とはメールで励まし合うだけだ。家族で毎年恒例のクリスマスパーティーをして過ごすらしい。

 豪邸に住んでいた亜豆だ。

 家庭内のパーティーでもすごそうだけど、怖くて詳細は聞けなかった。

 

「入ってもらうのは年明けだけど、アシスタントが決まったから、明日、顔合わせいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 

 クリスマス当日からアシスタントとの顔合わせか。

 週刊連載のマンガ家は、休みがないっていうのをこういうところでも実感する事になった。

 

 なお、港浦さんが帰った後で、見吉とシュージンの簡単なクリスマスパーティーに混ぜてもらった。プレゼント交換とかはしなかったけど、見吉の用意したケーキを3人で食べる。

 

「うーん、買ってきたケーキだけってのは、やっぱりちょっと物足りないかなー。来年は、手作りに挑戦してみよう。おーー」

「大丈夫かよ。買った方がいいんじゃ。美味いし」

「いいでしょ。手作りの方が特別感があるんだから」

 

 去年は、2人でデートに出かけていたはずだ。

 今年は連載が控えているので、仕事場でケーキを食べるだけで終わった。

 寂しいといえば寂しいけど、こういうクリスマスも日々が充実しているからで、悪くはない。

 来年も3人でここで食べられるように、連載が続けばいいな、と思った。

 

 ってこれじゃあ、見吉とシュージンの邪魔がしたいみたいじゃん。

 一緒にケーキを食べたのが楽しかっただけで、他意はない。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。

 

 港浦さんが約束通り、アシスタントを連れてきた。

 見た目は大学生くらいの3人だ。

 

「はじめまして。亜城木夢叶の原作担当の高木です」

 

 こういうとき、いつもシュージンが、先陣を切ってくれるのは助かる。

 のっかって挨拶するだけで済む。

 

「はじめまして。作画担当の真城です」

「えっと、で、僕の同級生でお付き合いをしている」

「はじめまして見吉香耶です。ヨロシクお願いしまーす。掃除とか食事とか買い出しとか、雑用全般をお手伝いしてます」

 

 性欲処理も担当してくれているが、これは亜城木夢叶の秘中の秘だ。

 相方のシュージンにも、言っていない。

 いや、シュージンにこそ知られてはいけない秘密だ。

 亜城木夢叶というか僕と見吉の秘密だな。

 

「あと、ベタも振ってくれればやりますので、お申し付けください」

 

 これは、連載が決まってから、地味に練習していた成果だ。

 本当はトーン貼りまで間に合わせたかったらしいけど、まだ怪しいので保留中。

 どうしても手が回らないとき以外は、頼みにくい。

 ベタ、消しゴム、ホワイト。とりあえずこの辺だけなら任せる事ができる。

 

 それにしても、見吉を除け者にしなくてよかった。

 シュージンは、アシが入って男ばっかになる職場に、彼女を連れて行くことを抵抗していたけど、ベタの練習を頑張っていたのを見て、最終的に折れて認めた。

 

 そして、シュージンの心配は杞憂だった。

 

 なぜなら、アシスタントの1人、加藤さんが女性だったからだ。

 

「はじめまして、加藤です。お手伝いできて光栄です。よろしくお願いします」

 

 エイジのところでのアシの経験とイメージから、アシスタントは男だと決めつけていたけど、違ったらしい。

 加藤さんは、地味な見た目のメガネ女性だ。

 年齢は聞いてないけど、アシ歴2年らしい。20代前半くらいだろう。

 比較的近場に住んでおり、泊まらずに済むというので、女性でも問題ないみたいだ。

 都会からは少し距離のある谷草近くで、女性アシが見つかるってどんな確率だ。

 港浦さんの言う通り、こんな条件のいい人は見つからないかもしれない。

 交通費はこちら持ちなので、近場というのは、本当に助かる。

 

 加藤さんも女子1人だと、なにかとやりにくかっただろうし、見吉が居てくれてよかった。

 

 次に、ベテランアシの小河さんだ

 見た目は若いが31歳らしい。

 港浦さんが最初に他所から引っ張って確保したベテランだけあって、すぐに仕切ってくれた。

 

「机がひとつ足りません。あとトレース台を人数分。コピー機は問題ありません」

 

 仕事場をアシスタント3人態勢で動けるように、問題点をきびきび指摘していく。

 他にもパソコンやプリンタとかも、背景処理に必要らしい。

 

 おじさんはギャグマンガ家で、絵や背景とかが凝っていなかったので、アシスタント2人で済んでいた。

 仕事場があるってので油断していたけど、描くマンガがおじさんと僕達では、全然違う。おじさんの使っていた頃のままで、対応できるわけがなかった。

 

 つーか、机くらいは気づけよ。アシスタント3人で2台のアシ用机ってどうするつもりだったんだろう。

 

 原稿を簡単にチェックするだけで、僕の絵について、アドバイスまでしてくれた。デッサンの狂いがないか裏返してチェックか。やってなかったけど、確かに反転させると狂いに気づく事がある。

 

「では、1ページずつ仕上げてみてください」

 

 小河さんが他のアシスタントに指示を出す。

 顔合わせ程度だと思っていたけど、実力を知っておかないと、予定は立たないか。

 そりゃそうだ。小河さんが居なかったら、後でドタバタする羽目になったかも。

 

 少しして加藤さんがキョロキョロと何かを探し出した。

 

「どうしました?」

「あの、ホワイトお借りしてもいいですか?」

「ホワイトならここに」

 

 インクやホワイト、消しゴムなどの消耗品は、通常マンガ家側が用意するものらしい。

 加藤さんが取りに来るのを待って、引き出しから予備を取り出して渡した。

 

「……ありがとうございます」

 

 知らない事ばかりだ。まだまだ学ばなければいけない事は多い。

 エイジのところだと、どうだったかな。中井さんの絵を吸収しようと必死だったから覚えてないや。

 

 

「はい、もういいです。次は、先生の絵に合ったその他の人物を描いてみてください」

 

 15分ほどで切り上げて次の指示を出す。

 

 小河さんが、2人が仕上げた人物をチェックして、アシスタントの役割分担が決まった。

 背景は、小河さんが中心に3人で手分けしてペン入れまで。

 人物は、高浜さんが下描きからペン入れまで。

 最後の仕上げは、手が空いた人からだ。

 

 人物描き勝負は、高浜さんに軍配が上がっていた。

 

 正直、アシスタントをどう使えばいいかなんて分かってなかったから、本当に頼りになる。

 月38万円って言われたときは、正直、高いと思ったけど、これなら納得だ。

 

「港浦さん1話目58ページで16時入りなら、明日から入った方がいいと思います。原稿も溜まっていますし、真城さんの絵に合わせた仕上げとなると慣れるまでは時間が掛かりそうです」

 

 てきぱきと小河さんがスケジュールまで修正して、今日はここでお開きとなった。

 

 呆気にとられるくらいの怒涛の仕切りっぷりだ。

 港浦さんも僕達も、ほとんど言われるがままに、提案を受け入れていくだけで終わった。頼りになるってレベルじゃない。

 

 紹介が遅くなったが、アシスタントの最後の1人が、高浜さんだ。

 僕よりも背が低い、少し小柄な男性だ。

 港浦さんが担当しているマンガ家の卵で、少し前の僕達みたいな立場らしい。

 19歳でマンガ家を目指しているだけあって、人物も背景もどっちもこなせる。

 

 結局、この日はほとんど喋らなかったので、絵が描けるという事以外は、分からなかった。ちょっと無愛想な感じだ。

 

 朗らかで真面目そうな加藤さん。

 クールに引っ張ってくれる小河さん。

 無愛想で無口な高浜さん。

 

 うーん、うまくやっていけるんだろうか。

 原稿の仕上げをしっかりやってくれたら、それだけでいいんだけど、職場の空気が悪いのは、やりにくそうだ。

 

 見吉の明るさとシュージンのコミュ力に、期待するしかないか。

 

 アシスタントの中で小河さんだけ他のマンガ家と掛け持ちで、決まった日数しか入れないとの事だ。

 加藤さんと高浜さんは、割と融通が利くらしい。

 これがどう影響してくるのかは分からないけど、僕が原稿を決まった日程で進められれば、問題ないか。

 

 

 翌日からさっそく、アシスタントが入ってきた。

 最初は、息苦しい空気だったけど、小河さんが空気を読んで話を振ってくれた。

 それに見吉ものっかり、多少は空気が緩和されたので、なんとかなりそうだ。

 

 なお、高浜さんは、振られても一言二言返すだけで、話に乗ってこなかった。

 どんな人か分からない。

 

 まだ届いてないけど、パソコンが届いたら合成音声でしゃべりだすとか、相方に小金井くんが居たりするんだろうか。

 高浜さんの謎は、深まるばかりだ。

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