(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

14 / 70
電話とスッキリ

 2月22日 火曜日 (第1話速報日)

 

 俺、シュージン、見吉の3人で仕事場に集まっていた。

 1話の速報待ちだ。

 シュージンが緊張しているのが伝わってくる。

 

 俺は、緊張しているけど、それよりも眠気が勝っていた。

 

「ふあーあ……」

 

 思わず、あくびをしてしまう。

 

「サイコー、眠そうだな。昨日は、作業を休むって言ってたのに、あんまり寝れなかったのか?」

「高木、察しがわるーい。あれでしょ。ミホから1話読んだよのメールがきて、やりとりしてたんでしょ」

「まあ……そんなとこ」

 

 実際は、亜豆からのメール待ちで、寝不足気味だった。

 察しが悪いのは、見吉の方だ。

 

「4話のスケジュールってきつめなんだろ。大丈夫か?」

「まあ、下描きまで終わってるからなんとか」

 

 理想を言えば、月曜からペン入れを始められれば、スケジュールが破綻することなく金曜日に原稿をあげられるはずだ。

 今週は、火曜日に連絡をもらってからスタートするので、少しきつい。

 明日にはアシが入るので、それまでに4,5枚はペン入れを終わらせておきたい。

 

「電話まで寝とく」

「わかった」

 

 ソファーで横になるけど、本当に寝るわけじゃない。

 軽く目を閉じて休むだけでも、マシだ。

 

 目を閉じたまま、亜豆に連絡を入れるべきかどうかを考えてみた。

 

「…………」

 

 こちらから感想を催促したくない。

 だから、何も言わずに待っていたけど、いつもの連絡がこないのは、おかしい。

 亜豆に何かあったのかもしれない。連絡を入れよう。

 横になったまま、携帯を取り出して亜豆にメールを送る。

 

『亜豆さん元気ですか?』

 

 シンプルだけど、こんなもんだろう。

 

 僕が送信したタイミングで、シュージンの携帯が鳴った。

 

「来たっ」

 

 緊張が走る。

 

「3位おめでとうだって。ネームは、最初の方で」

 

 3以か。

 結果としては、上々だと思う。

 けど、1位を獲る最大のチャンスは、逃してしまった。

 おじさんが獲れなかった1位は、甘くないか。

 

 先週始まった平丸さんの『ラッコ11号』が1位だったのもあり、僕達はまだまだだ、と読者に言われている気がする。

 

「おめでとー」

「…………あ、ああ」

 

 見吉から祝福されたけど、素直に喜べない。

 

「あれ? いい結果なんだよね?」

「いい結果だけど、人気マンガの初回は大体1位。1話はページ数も多いし、巻頭カラーだから票が入りやすい」

 

 1話は、当たり前の1位。

 そんな言葉があるくらいだ。

 

 おじさんが1度も獲れなかったみたいに、当たり前と言うほど1話で1位を獲るわけでもないらしいけど。

 

「まあ、終わったものは、仕方がない。勝負の2話だ」

「うん、勝負の2話だったな……もう原稿提出済みだから、何もできないけど、大丈夫か」

「言うなよ、シュージン。俺だって怖いんだから」

 

 3話までは、提出済みだ。今からできる事は、ネームが決まった4話の原稿を進める事。ソファーから起きて、作業机へと向かう。

 

「最初のネームだな。俺はペン入れに入る」

「わかった。俺は、やっぱり港浦さんに時間取れないか聞いてみる。取れそうだったら5話以降の相談しに行ってくる」

 

 僕の邪魔にならないように、シュージンはベランダに出ていった。

 

 さっきの電話では、詳しい話は金曜日の本ちゃんが出た後でって事だったけど、3位という結果に、シュージンは焦っているみたいだ。

 ペン入れ作業でシュージンにやってもらう事はないので、特に異論はない。

 

「1時間後に集英社ならって事で取れた。行ってくる」

 

 シュージンが港浦さんの所へ向かった。

 

 ここでの打ち合わせなら見吉が顔を出す事もあるけど、さすがに見吉を打ち合わせに連れて行く事はない。

 自然と、見吉と二人きりになった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ふー……」

 

 とりあえず、1枚目完了。

 人物が少なかったのもあって、30分だ。

 

 1位を獲れなかった事、亜豆の事。

 頭の中は、割り切れていないけど、それでも手は動かせるようになった。

 僕の手が止まって、迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 これもプロ意識の表れなんだろうか。

 

「真城、リクエスト聞いたげる。今日は何食べたい?」

 

 一息ついている事に気づいた見吉が、声をかけてきた。

 

「見吉」

「は? 何言ってんのよ」

「見吉が食べたい」

「あんた、今週はスケジュールきついんでしょ」

「うん。だから、スッキリして原稿に集中したいんだよ」

 

 頭の中のモヤモヤをどうにかしたい。

 そのためには、スッキリするのが一番だ。

 

「真城。高木は、仕事に行ったんだけど」

「うん、だから1時間は帰ってこないと思う」

 

 シュージンが港浦さんと打合せ中に、彼女の見吉に手を出すのはどうかと思うけど、シュージンが仕事中だからこそ安心して手を出せる。

 最低だけど、最高な理屈だ。

 

「終わったら原稿描ける?」

「描く。約束する」

「……ま、いっか。1回で終わりだかんね」

「原稿進めないとまずいし」

 

 シュージンがいつ帰ってくるのか分からないし、あんまり時間をかけると原稿がやばい。

 一発勝負だ。この一発に全てをかけるしかない。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(バクマン)!!」」

 

 

 こうして、3位に終わったムヤムヤを見吉へのムラムラに変えて、昇華することができた。

 

 スッキリしたところで、携帯が鳴ってメールが届く。

 

「真城、裸の女の子を目の前に、携帯触るのはどうなのよ」

「ん?……うん、まあ」

「聞いてないし」

 

 見吉には申し訳ないけど、今は見吉よりも亜豆だ。

 亜豆からのメールには、ちょっとHなのも撮る写真集をやってもいいか、と尋ねるものだった。

 

 いつもの俺なら、亜豆の仕事には口を出さず、亜豆が決める事だと送ったと思う。

 今の俺は別だ。賢者タイム真っ最中で、冷静に考える事ができる。

 

 ダメだ。返事を出すにもまだ情報が足りない。

 

 見吉の胸を枕にして、仰向けになる。

 

「おもっ」

「見吉、最近の亜豆、変じゃなかったか?」

「えっ」

「何か悩んでるとかあるなら、言えよ」

「メールの相手、ミホね」

「早く!」

「……えっと、このままだと声優の仕事なくなるかもって、元気なかった」

 

 という事は、亜豆が悩んでいるのは、写真集は出したくない。でも、出す事が声優で売れるための条件みたいになっているんだろうか。

 

「見吉、ありがとう。愛してる」

「ミホの事しか考えてない真城に言われても、嬉しくない」

 

 見抜かれてるな。

 見吉のことは、今はいい。

 

 亜豆が写真集を出したいけど、僕に遠慮しているとかだったら、反対はできなかった。でも、写真集を出したくないのなら、僕は堂々と反対する事ができる。

 

『はっきり言うけど、嫌だ。亜豆さんの写真集なら見たいけど、他の人に見せたくない。独り占めしたいです』

 

 話を聞いて感じた気持ちを直接伝えると、メールではなく電話が掛かってきた。

 久しぶりの亜豆との電話だ。

 

「答えてくれてありがとう。写真集はやらない」

「いいの?」

「うん。声優として評価されてから写真集を出すのは分かるけど、売れるために写真集を出すのは違うと思う。もしかしたら遠回りになっちゃうかもしれないけど」

「……僕も同じかも。シュージンとコンビ解消してる時に、別の人と組まないかって声を掛けられた事があった。原作者として賞を取った人で、その人と組んだ方がマンガ家として早く成功できたかもしれない」

 

 蒼樹さんの原作を僕がどこまで表現できるのかは未知数だけど、マンガ家になるだけならその方が近道だったと思う。

 

「でも、亜豆に告白した時の約束、シュージンが原作で僕が絵を描いた作品がアニメ化。そのヒロインを亜豆がやる。この約束が浮かんだら、別の人と組むってのがイメージできなかった。たぶん、その時の気持ちを大事にしてるんだと思う」

 

 シュージンと組むか、一人でやるか。

 選択肢は、このどちらかしかなかった。

 

「今、シュージンと組んでデビューできて、あの時の選択は間違いじゃなかったと思ってる。まだ成功したとは言えないし、これからも壁にぶつかったりするんだろうけど、乗り越えて夢を叶えたい」

「そうだよね。真城くんと話して、気持ちの整理がついた。声優として評価されるために、頑張りたい。今は、無理かもしれないけど、一歩一歩実力をつけていく」

「よかった」

「うん、ありがとう。真城くんに相談してよかった。意地っ張りでごめんね。これからは、何でも話します」

「……うん」

 

 僕は、何でもは話せない。

 見吉の胸を枕にしてるとか、絶対に言えない。

 

 と思っていたら、(みよし)が動き出した。

 僕の下から抜け出すと、入れ替わりで上になる。

 

「真城くん…いつか2人で海行こ」

「うん。必ず。やくそっく」

「真城くん?」

「だ、大丈夫」

 

 音を出さないように、見吉に向かって必死に首を振って拒否する。

 

 おい、見吉、待て。

 亜豆と電話中に、バクマンはまずいって。

 それじゃ、バクマンじゃなくて爆弾だろ。

 

「夢に向かって頑張ろう」

「うん、僕も今、から……げ、原稿を描くぅ」

「頑張って、私も頑張る。それじゃ、寂しいけど切るね」

「う、うぅん」

「またね、真城くん」

「また……な、亜豆さ」

 

 見吉がついに、本格的に襲い掛かってきたので、余韻とか無しで慌てて電話を切る。

 

「真城」

「……見吉」

 

「「バクマン(バクマン)!!!」」

 

 

 もう僕、お嫁にいけない。

 見吉の声が、亜豆に聞こえてたりしないといいけど。

 

 亜豆の問題をスッキリして、2回目のスッキリをした。

 

 亜豆と電話しながらって不謹慎だけど、かなり興奮した。

 見吉が襲い掛かってきたのは、嫉妬したかららしい。

 シュージンの彼女のくせに、悪いヤツだ。

 

「しまった」

 

 30分でスッキリするつもりが、1時間以上経っている。

 見吉が可愛かったからいいけど、思った以上に時間を使ってしまった。

 

 原稿に追われて、この後、メチャクチャペン入れした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。