GWの合併号の休みは、ほとんど、単行本作業で終わった。
単行本が出るのは、だいぶ先。
ただ、勝手が分からないので、1巻分の話が溜まっていたのもあって、港浦さんとも相談して、先行して取り組むことにした。
まずは、コミックスの原稿直しだ。
シュージンと改めて読み返して、気になるところをチェック。
あとは、表紙のデザイン。
港浦さんには、GWに表紙だけチェックしてもらって、OKが出たので、1日かけて色をつけたりしていたら、あっという間にGWは終わっていた。
2巻以降は、日々の原稿と並行してやらないといけないのか。
かなり、厳しいかもしれない。
おまけページは、シュージンに任せた。
頭を悩ませていたけど、頑張って欲しい。
絵が必要なら描く。
GWの休みが終わって、毎週の戦いが再開した。
5月17日 連載会議
最近、好調というのもあって、問題なく突破した。
福田組は、全員連載継続だ。
6月2日 14話目の本ちゃん
この日、ついに『TRAP』が新妻エイジの『CROW』と並ぶ3位までアンケートが伸びた。
仕事場は、大盛り上がりだ。
「朗報だ。3位が効いたぞ。コミックスの発売日、7月11日発売号の20話目でジャンプの巻頭カラーがもらえた」
「えっ!?」
「巻頭カラー! すげーーっ!!」
連載1回目以来の巻頭カラーだ。
連載1回目は、ジャンプの伝統として必ず巻頭カラーなので、ノーカウント。
実質的に『TRAP』が初めて手に入れた巻頭カラーだ。
『TRAP』が人気作になったと、編集部からも評価されている証となる。
「カラーの締切は3週前になるから、そこだけ注意してくれよ」
「19話の締め切りと同時に、20話のカラー部分ですね」
「そういう事だ。あっ、1巻の初版は10万部に決まったぞ!」
10万部。
あ、シュージンが頭の中で印税の計算してる。
エイジの『CROW』よりは少ないけど、新人作家の1冊目としては、多い方らしい。
港浦さんが興奮している。
「目指せ50万部。追い抜け『CROW』だ!」
「おーーー!」
明るいムードのまま打ち合わせは終わり、港浦さんは上機嫌で帰って行った。
やっぱり人気が出て、気持ちに余裕があると違うな。
この勢いで巻頭カラーでエイジの『CROW』を抜いてやる。
「シュージン、単行本の印税は?」
「大雑把で400万。1人あたり200万」
「……大金だな」
「ああ、マンガ家すげえ」
一生食っていくには、全然足りないけど、高校生の僕達からしたら大金だった。
マンガ家として、食べていけるかもしれない。
それどころか、このままいけば、アニメ化もありえる。
この時の僕は、浮かれていたと思う。
この後、あんな事が待ち構えているとは。
◇◇◇
「サイコー、6月15日って予定ある?」
「ここで、原稿描いてると思うけど」
週刊連載に休みなし。少なくとも今は、週7で原稿を描いている。
学校が休みの春休みでもそうだったんだから、学校が始まった今は、週7描いてもギリギリ間に合うかどうかだ。
「そうだよな……」
「どうしたんだ?」
「創立記念日で休みだろ。ちょっと行きたいところがあって」
「別に、ネームさえ間に合うなら、俺に合わせる必要ないよ」
「そうだけど、サイコーが仕事してるのに、悪いじゃん」
「いいって」
やるべき事さえやってくれれば、休んでもいいと思う。
忙しいときに雑用を手伝ってもらってるけど、シュージンの仕事は原作だ。
本来は、そこまでする必要はない。
僕が仕事中でも、好きに時間を作っても問題ない。
僕は僕で、シュージンが港浦さんと打合わせしている最中に、さんざん見吉に手を出してるし、お互い様だと思う。
「で、どこに行くんだ?」
「金沢」
「金沢って石川だっけ。なんで、そんなとこに」
「からくり寺ってのがあって、トリックとかの参考になりそうだから。実物を見に行きたいんだ」
「取材じゃん。それなら仕事でいいだろ。わざわざ相談しなくても、堂々と行ってくればいいのに」
「半分は旅行、遊びみたいなもんだし」
シュージンが仕事中に、僕が見吉に手を出す。
僕が仕事中に、シュージンが取材旅行に行く。
う、うん。平等だな。平等に違いない。
ゴールデンウィークの休みに行くつもりだったけど、予約がいっぱいで諦めたらしい。創立記念日なら平日だという事に気づいて、行きたくなったみたいだ。
「半分旅行なら、見吉も慰労してやったら?」
「見吉か……どうしたらいいと思う?」
「いや、連れていけよ。彼女だろ」
「せっかくだから色々回りたいから、泊まりたいし」
「泊まればいいじゃん」
「それもう、結婚ルート確定じゃん」
これだけ見吉に世話になっていて、まだ抵抗してたのか。
熊を怒らせると怖そうだから、結婚した方がいいと思う。
「それに、婚前に泊まりの旅行って、印象悪いだろ」
「見吉がここで泊まったり、朝帰りとかしてるんだから、今更じゃね」
「そうだけど、それは真城と三人だから」
ここに泊まるのは、熊公認だから気にする必要はない。
ただ、ここは仕事場だ。
半分仕事とはいえ、旅行で泊まるのとは違うか。
結局、シュージンは前日の14日から
「あたしも行きたかった。いくじない」
とは、見吉談だけど、言われても仕方ないと思う。
◇◇◇
6月15日 水曜日 創立記念日
先週、平丸さんが仕事場までサボりに来て、担当の吉田さんに連れて行かれるというエピソードがあったけど、割愛。
昨日から泊まり込んで、原稿と向き合っていた。
今週は、19話の原稿と20話のカラーを納品しなければならない。
カラーの締切週に、創立記念日があったのは、天からの恵みだ。
巻頭カラーの20話で、エイジの『CROW』を超えてやる。
「あ、真城、起きた?」
「おはよ……何時間寝てた?」
「3時間くらい? 朝・昼兼用になっちゃうけど、いい?」
「うん。軽めでお願い」
「兼用なんだから、しっかり食べなさいよ」
見吉は、朝から元気だな。
シュージンとの旅行に行きそびれた見吉も、昨日から仕事場に泊まりこんでいた。
二人で泊まるのは、初めてだ。
っていっても、原稿で忙しかったから、ほとんど見吉の相手できてなかったけど。
徹夜で原稿を描いていたら、放置されてふて寝した見吉が起きてきて『いい加減に寝なさい』と怒られた。
仕方ないので、一発やってから眠り、今、起きたところだ。
3時間しか寝てない割にスッキリしている。これぞ、見吉式健康法の本領発揮だ。
顔だけ洗って、テーブルに向かう。
「はい、コーヒー」
「ありがとって、おまえ、なんて格好してんだよ」
「あ、やっと気づいた。反応ないから、あたしが滑ったみたいだったじゃん」
「知るか」
さっきは寝ぼけていて気付かなかったけど、見吉は男の夢を具現化していた。
具体的に言えば、裸エプロンだ。
豊満な見吉だからこそ、裸エプロン映えしている。
ここまで誘われたら、やる事は1つだ。
「見吉」
「ダメ、ご飯食べてから」
不発。
出鼻をくじかれたけど、せっかく作ってくれたご飯を、冷ますわけにはいかないか。
ここはおとなしく、食事を済ませよう。
朝・昼兼用の食事は、納豆とご飯と餃子だった。
たぶん、栄養バランスとか気を使ってくれているんだろう。
「……納豆は、あんまり」
「食べなさい」
「はい」
納豆は、好きか嫌いかで言ったら嫌いだ。食べられないほどではないので、我慢して食べる。
匂いがキツイ。
こうなったら、納豆と餃子を食べた後で、見吉にキスしまくってやる。
見吉も同じものを食べてるから、大してダメージはないんだけど、僕はそう決心した。
食後。
「見吉」
「真城」
「「バクマン(手・胸・口)」」
フルコースだ。
いや、フルコースというからには、あと一品足りない。
肝心なメインディッシュだ。
餃子のニンニクパワーか、エネルギーは満ち溢れている。
まだまだいける。
シュージンが居ない日なんて、滅多にないし楽しんでやる。
原稿の事を今は忘れて、見吉と向き合おう。
安心して見吉に集中できる。
全集中だ。やってやる。
最後のメインディッシュを食べようと、見吉を押し倒す。
この時の僕は、シュージンが取材旅行に出ているから、大丈夫だと信じていた。
シュージンは、事前にスケジュールとかを立ててから動く人だ。
谷草に戻って来るのは、夕方だと聞いていた。
今はまだ、昼にすらなっていない。
シュージンに予期せぬトラブルが起きるとは、微塵も考えていなかった。
シュージンは、まだ帰ってこないから問題ない。
それが油断だったと言われれば、そうかもしれない。
油断してなければ、今、この瞬間に玄関のドアが開いたことに気づけたはずだ。
余計な雑音を意識の外へと消し去り、見吉に集中していたことが仇となった。
まさか、こんな落とし穴が待っていようとは。
「見吉」
「真城」
生まれたままの姿で見吉と重なり合おうとしたとき──仕事部屋と資料部屋を仕切っている引き戸が開き、メガネの反射した光が差し込んで。
「「バクマ───」」
時が、止まった。