(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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シュージンは見た?

 突然の第三者の訪れに、僕と見吉の時が止まった。

 

 まさか、シュージンが帰ってきたのか!?

 そんな。まだ、帰ってくるには早いはず。

 

 僕と見吉は、何も着ていない(ゴ〇以外)。

 何をしようとしていたのかは、明らかだ。

 

 見吉は、シュージンの彼女。

 僕は、シュージンの親友。

 

 彼女と親友がそんな事になっていたら、亜城木夢叶は解散だ。

 いや、シュージンが寝取られに目覚める展開も、ワンチャンあるかもしれない。

 

 シュージン、寝取られて興奮しろ。

 

 そんなバカな考えまで浮かんだところで、ようやく時が動き出し、引き戸の方を見た。

 

「なんで……」

 

 そこには、メガネをかけた人物が立っていた。

 ただ、予想していたシュージンではない。アシスタントの加藤さんだ。

 

「真城さん、見吉さん、おはようございます」

「おはようございます……じゃなくて」

 

 反射的に挨拶を返して、加藤さんの様子を見る。

 

 どうやら、手に握る合鍵で入ってきたらしい。

 

 アシスタントは、基本的に16時入りでお願いしている。

 でも、原稿の進み具合によっては、僕達が学校で不在でも入ってもらえるように、アシスタントには合鍵を渡していた。

 

 その事は知っていたけど、このタイミングで仕事場に来るって、どういう事だ。

 

 アシスタントは、毎週水~金でお願いしている。

 つまり、今日、水曜日は、その週のアシ入り初日だ。

 木曜と金曜は、原稿に応じて早めに入ってもらう事もあるけど、水曜日に限って言えば、アシスタントが早く来る理由はない。

 原稿を渡して、指示を出す前なんだから、当たり前だ。

 

「やっぱり、真城さんと見吉さんってそういう関係だったんですね」

「えっ!?」

 

 そういう関係ってどういう関係だ。

 全裸で絡み合う僕と見吉を見て、加藤さんはなぜか、納得の表情を浮かべたのだった。

 

「見吉さんは、高木さんとお付き合いをしていて、真城さんは高木さんの親友。そのお二人が裸のお付き合いをしている。とてもいいと思います。素敵です」

「はい?」

「真城、この子何言ってるの?」

「さあ……」

「一見、草食系の真城さんが、親友の彼女に手を出すような肉食系だったとか、ものすごくギャップ萌えじゃないですか」

 

 そんな目をキラキラして言われても。

 僕と見吉は、戸惑いしかない。

 とりあえず、見吉の上からどいて加藤さんと向き合う。

 

「身体の関係があるんじゃないかって、前から気になってました」

「なんでよ?」

「どうしてですか?」

 

 僕と見吉の声が重なる。

 

「顔合わせの日に、インクをお借りしたの覚えてますか?」

「……そんなことがあった気がする」

 

 アシスタントのための準備で、何が必要か分かっていなかったので、小河さんに色々と手を回してもらった。

 机が足りなかったのは、問題だったと反省している。

 その中で、インクの用意もマンガ家側だと知って、加藤さんに渡したと思う。

 

「インクを取り出すときに、使いかけの箱が見えてましたよ」

「あっ!!」

 

 箱の隠し場所。

 シュージンに見つからないように、シュージンが手出ししない画材用具を入れた引き出しの中を選んでいた。

 インクが入っているのもその引き出しで、そこから取り出した。

 

 見る人が見たら、なんの箱だと丸わかりだったのかもしれない。

 

「気になって、たまに借りるふりをして確認していたんですけど、数が減ってました。最初は、真城さんがお付き合いしている方となさっているのかなって思ったんですけど、真城さんは遠距離恋愛に近いっておっしゃってましたし」

 

 僕と亜豆の関係は、特に隠していない。

 彼女が居るのか聞かれたら、正直に答えていた。

 

 加藤さんの質問の裏に、ここでヤっていたのかどうかを確かめる意図があったとか、気づけるわけがない。

 

「次の可能性として、見吉さんと高木さん。でも、ここは真城さんの仕事場で、私が知る限り真城さんがずっとここに居るので、真城さんの前でするとかでもなければ、実現しません」

 

 それは正解。

 僕とシュージン。僕と見吉というペアはあっても、ここでシュージンと見吉が二人っきりになる時間は、ほとんどない。

 

 三人でいるときに、シュージンと見吉がするのを見守るなんて趣味もない。

 

「真城さんが一人で遊んでいる。真城さんが高木さんとって可能性もありますけど、それはちょっとアブノーマルですので、最後の真城さんと見吉さんがそういう関係だって思ったら、ピッタリきましたので」

 

 僕とシュージンがそういう関係って勘弁してくれ。

 

 つーか、親友の彼女に手を出すのも、相当アブノーマルだろ。

 僕が自分で言う事じゃないけど。

 

「ですので、なんとなく分かってましたので、気にしないでいいですよ。黙ってた方がいいんですよね?」

「そりゃ、黙っててくれるなら助かるけど」

「箱に気づいたのが去年の12月です。半年間黙っていましたので、任せてください」

 

 確証がなかったってのもあるんだろうけど、6ヵ月間黙ってたのなら、今更ばらしたりはしないか。

 どっちにしてもバラされた終わりだから、信じるしかない。

 とはいえ、弱みを握られた事には変わりはない。

 無条件でってわけにもいかないだろう。

 

「その代わりと言ってはなんですけど……」

 

 ほら来た。

 

「……アシ代を上げろとか?」

 

 お金で解決できる範囲ならそれで終わらせたい。

 出費は痛いけど、身から出た錆だ。

 

「違いますよ。充分いただいてますから、そんな要求しません。私を何だと思ってるんですか」

 

 ぷんぷん、という効果音をつけたくなる感じで、加藤さんは手を振り回した。

 リアクションが思ったより古い。そういえば、若く見えるけど26歳だっけ。

 

「私が真城さんに頼みたいことは1つだけです」

「…………」

 

 鬼が出るか蛇が出るか。加藤さんの申し出次第で、亜城木夢叶の未来が決まる。

 固唾を飲んで、次の言葉を待った。

 

「私も仲間に入れてください」

 

 それは、予想外にも程がある申し出だった。

 

 

「真城さんって絵も上手ですし、可愛いですし、前からいいなーって思ってたんですよ」

「……ありがとう?」

「お礼いうところじゃないでしょ」

 

 見吉に怒られた。

 ほかに、何と言えと。

 

「彼女さんがいるって聞いて、諦めてましたけど。でも、真城さんと見吉さんがそういう関係なら、他に増えても問題ないですよね?」

「そういう関係って?」

「セフレですよね」

 

 はっきり言われると、違うって言いたくなった。

 でも、否定する要素がない。

 元々、性欲を解消したくて始めた関係だ。

 今じゃ、見吉の事が好きだからってのも理由の一つだし、マンガ家として健康のためにスッキリしたいというのもあるけど、それは後付けに過ぎない。

 

「加藤さん、ごめん。アタシはセフレのつもりはない。真城と高木の夢を応援するのが私の夢。そのためになら、なんでもしてあげたいってだけ」

 

 見吉の優しさだ。

 それにつけ込んだおかげで、こうなっている。

 

「……素敵です。私も真城さんのためになら、なんでもしてあげたいです。私も仲間に入れてもらえませんか?」

 

 セフレという関係は否定されたものの、加藤さんは引かなかった。

 

「加藤さんにそこまでしてもらう理由が……」

「頑張っている真城さんって素敵ですよ、応援したくなります。アシスタントとして先生のお世話をさせてください」

 

 そんな目をキラキラして言われても困る。

 応援してくれるのは嬉しいけど、それを受け入れていいんだろうか。

 

 見吉とは、シュージンへの嫉妬への対応って言う事情が事情だったから、頼んだけど、加藤さんは違う。

 

 それに、誰でも彼でも手を出したら、見吉がどう思うか。

 見吉に嫌われたくない。

 自分勝手だけど、それくらい見吉は僕の中で大きい存在になっている。

 

「真城、あんた何迷ってるの?」

「え?」

「加藤さんの事が嫌いってわけじゃないんでしょ」

「……それはまあ……」

 

 積極的に好きになる理由もなければ、嫌いになる理由もない。

 どちらかといえば、仕事はしっかりしてくれているし、控えめで朗らかな人柄は好感が持てた。

 

 だからこそ、急に見せてきた積極性に戸惑っているだけで、手を出したいかどうかでいえば、出したい。

 

「それなら答えは1つでしょ。男らしくしなさいよ」

「それでいいのか?」

「別に、あたしが許可するようなもんでもないでしょ。シャワー浴びてくる」

 

 見吉は、突き放すように言って、浴室へと消えていった。

 僕と加藤さんだけがこの場に残される。

 

「真城さん、お願いします」

 

 見吉の許可を受けて、加藤さんが改めて頭を下げてきた。

 これで断ると僕が悪役みたいだ。

 

 見吉から許可を得るような関係じゃない。

 そうだけど、事実を突きつけられるのは、ちょっと辛い。

 

 見吉を理由にするのは、甘えか。

 見吉は優しいけど、そういう逃げは許してくれない。

 だったら、自分自身の気持ちで加藤さんと向き合う。

 

 抱きたいかどうかだ。それなら答えは決まっている。

 

「あんまり自信ないけど……僕でよければ、お願いします」

「大丈夫ですよ。私、こう見えても経験豊富ですから、私がリードします」

 

 言うや否や、裸の僕に合わせて加藤さんが衣服を脱ぎだした。

 

 え、加藤さんってそんなに胸あったの。

 着やせするタイプらしい。見吉ほどではないけど、ボリュームがある。

 

 あと、行為時はメガネを外すんだな。

 だいぶ印象が変わって、ギャップ萌えしそうだ。

 

「加藤さん」

「真城さん」

 

「「バクマン(バクマン)!!」」

 

 経験豊富という言葉通りに、加藤さんに蹂躙されてしまうのだった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 シャワーを浴びて、身だしなみを整える。

 

 加藤さんが昼から仕事場に来た理由は、単純だった。

 先週、休憩時間に読んでいた『もんもんもん』の続きが気になったらしい。

 

 加藤さんは泊まりじゃないので、マンガを読める時間は短い。

 かといって、家主が居ない隙にマンガを読むために、早めに入るのも躊躇われた。

 

 今日が創立記念だと知っていたので、今日なら僕がいると思って、早めに入ってマンガを読むつもりだったみたいだ。

 

『もんもんもん』って続きが気になるようなマンガかよ。面白いけど。

 あと、(もんもん)の全裸を見にきて、性欲猿(ぼく)の全裸を見るとかどんな確率だよ。

 そんなのやまだたいち並の奇蹟じゃん。

 

「私、大学時代にマンガ系サークルに入っていたんですけど」

「へー漫研とかあるんだ。面白そう」

 

 見吉と加藤さんが雑談している。

 僕はペン入れに集中だ。作業が予定よりも遅れている。

 昨日から泊まりこんで作った余裕は、全部吐き出してしまった。20話のカラーが終わっているのが救いだけど、このままだと19話が危ない。

 

「みたいな感じです」

「みたいって?」

「なんか複数乱立してまして、私が入ってたのは描くのがメインだったんです」

「あ、分かった。アシスタントの技術は、そこで手に入れたんじゃない?」

「正解です。勉強させてもらいました」

 

 加藤さんのルーツは、漫研か。

 サークルによってレベルはピンキリだっておじさんが言ってた気がするけど、基礎がしっかりしているので、良い環境だったんだろう。

 

 ちなみに、小河さんは、専門学校で学んだけど、話が作れなくてプロアシに。

 高浜さんは、ずっと好きでマンガを描いてきた人だ。途中で挫折してた僕よりも、歴は長いと思う。

 

「サークルの男女比がひどかったんですよ。私以外にも女子はいたんですけど、毎日顔を出す女子は、私一人だけで」

 

 あれ? なんか話の雲行きがあやしくなったような。

 

「へー、そういう環境じゃ、モテたんじゃない?」

「モテたというか、ちやほやされてたってのはあると思います」

「いいなー。高木も真城もアタシを女子だと思ってない節あるし」

 

 僕達なりに、見吉の事は気を使ってるつもりだ。

 気を使って、女子だと気を使わないようにしている。

 

 三人目の亜城木夢叶として、男子だから女子だからとか野暮なことはしたくない。

 それだけ、仲間だと受け入れている証だと思う。

 

 そして、見吉は羨ましがってるけど、加藤さんのそれっていわゆるオタサーの姫って奴なんじゃ。

 

「女の子だと思われ過ぎるのも大変ですよ。卒業までサークルに居たんですけど、結構内部で関係は、ぐちゃぐちゃしちゃってましたから」

「えっ?」

「特定の彼氏とかは居なかったんですけどね……」

 

 笑い話かのように語ってるけど、笑えねえよ。

 完全なオタサーの姫じゃん。

 

 加藤さんは、色々と経験が豊富。そのルーツも漫研かよ。

 一人の女性を巡ってぐちゃぐちゃになるって、全然いい環境じゃねえよ、どんな魔境だ。

 

 加藤さん曰く、ギスギスして大変だったから、今は特定の気に入った人とだけしたいなって探してたんです。真城さんは、彼女がいる事を除けば理想です。

 という事で、僕が選ばれたみたいだけど、早まったかもしれない。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「やっぱ、まだここにいたか。はい、これ。お土産」

「高木、おかえりー」

「わざわざ悪いな……旅行、どうだったんだ?」

 

 アシが帰った後も、夜遅くまで残って原稿を描いていると、シュージンが顔を出した。

 シュージンからのお土産は奇をてらったものではなく、地方の銘菓だった。

 明日、アシの人達と一緒に食べよう。

 

「からくり寺もよかったけど、午後から福井まで足を伸ばしてミステリーの定番スポットまで行ったきた。やっぱ、実物を見るのは、全然違うわ」

「福井って石川から近いんだっけ?」

「電車で二時間くらい? わざわざ足を伸ばすだけの価値はあった」

「へー……」

 

 シュージンがここまで興奮してるって珍しい。

 

「何見てきたんだ」

「定番中の定番、東尋坊」

 

 聞いたことがある。なんだっけ。

 

「って崖だっけ?」

「そ。ミステリー・サスペンスドラマの超定番地。マジでやべえよ。サイコーにも実物見せたかった」

「怖そうなのは、俺、無理だから」

 

 シュージンに言われて、ピンときた。

 犯人を追い詰める時によく使われる岸だ。ドラマとかで見るだけでも、ぞっとしてしまう。

 シュージンみたいに怖いもの知らずなところがあれば、平気だろうけど、僕はたぶん近づけないと思う。

 

「と、とにかく、収穫があったって事でいいんだな」

「おう。作品に活かせられるかは分からないけど、参考にはなったし、インスピレーションをもらった」

「高木先生。ネーム期待してまーす」

「任せとけ」

 

 見吉に背中を叩かれて、シュージンが自信満々に答えた。

 今度のネームは、期待できそうだ。

 

 こうして、加藤さんは僕の仲間になり、シュージンは東尋坊を見たのだった。

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