(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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新しい装備と新しいキャラクター

「あれ? 空気清浄機買ったのか」

 

 新しい装備が稼働した初日から、シュージンが目ざとく見つけた。

 別に、隠していたわけじゃないので、気づいて当たり前だけど。

 

「アシスタントが入るようになって、掃除まで手が回りにくくなったからな」

「ホコリがどうしても溜まるのよねー。定期的に換気するようにしてるんだけど」

 

 ホコリ叩きを手に仕事場を回っていた見吉がぼやく。

 

 元々、本とか雑誌とか原稿用紙とか、大量の紙を取り扱っているため、ホコリが溜まりやすくなっている。

 

 僕が一人で作画をしていた頃は、僕の周辺以外は自由に掃除ができた。

 今はアシスタントが入っているため、邪魔にならない様に控えている。

 

 アシが帰った後や、アシの入らない週末に、見吉がまとめて掃除をしているけど、見吉は見吉で仕事が増えたため、資料棚の整理までは手が回り切れていない。

 ホコリが目立つってほどではないけど、指で棚を触れば指が汚れる程度には溜まるようになっていた。

 

 そこで、ホコリを減らす効果のある空気洗浄機を稼働する事にした。

 安くはなかったけど、1巻の印税が200万円入る予定だ。

 空気清浄機くらいは、問題ないはず。

 

「広い部屋対応だと高かっただろ。俺が半分出そうか」

「いいよ、別に。ここを仕事場にしてるのは俺の事情で、一番使ってるの俺だし」

「けど、部屋の電気代とか全部、サイコーが払ってるんだろ」

「契約金のおかげで、ようやく中学からの分が清算できた」

 

 雑誌に読切が掲載された時の原稿料は、親に渡していた。

 とはいっても、トーン代やインク代、原稿用紙代とかを差し引いた後の残りなので、大した額じゃない。

 

 仕事場にかかった光熱費とかは、全部計算してもらっていたので、足りていなかった分は、ようやく年間契約料から支払う事ができた。

 今は、僕の口座から引き落とされるように手続きを変更済みだ。

 

 支払いができないなんて事にならないように、連載を頑張らないと。

 

「やっぱ、空気清浄機代は払うって、いくらしたんだ?」

「いいって、俺の好みで選んでるし。大体、シュージンには、アシ代半分出してもらってるんだから、どっちかといえば俺の方が甘えすぎだって」

「二人でやってるんだから、アシ代折半なんか当たり前だろ」

「アシ代は、作画のコストだから。原作と作画が別の場合は、作画がもらう原稿料から払うのが普通らしいよ」

 

 通常は、収入を折半し、作画担当が作画に係るコストを負担する。

 もちろん、アシスタント代も作画担当の支払いだ。

 

 その場合は、原稿料だけだと赤字だ。

 そして、単行本が売れないと終わりだ。

 親から借りるしかなくなる。

 

 亜城木夢叶(ぼくたち)の場合は、アシ代を折半する事に決まっていた。

 

「それはおかしいって、サイコーの負担がデカ過ぎる」

「うん、シュージンに半分出してもらって助かってる。だから、空気清浄機くらいは、自分で出すって」

「……ならいいけど、必要な負担なら遠慮とかせず言えよ」

「分かってるって」

 

 話は、これで終わった。

 

 ふー、なんとか誤魔化せた。

 シュージンにばれないように、見吉と目配せして、頷きあう。

 

 空気清浄機の本当の目的は、脱臭機能だ。

 ホコリを減らすのは、おまけでしかない。

 どれを買うかで、脱臭機能重視で選んだくらいだ。

 

 加藤さんにはゴムの減りが見つかってばれてしまったけど、それだけではなかったらしい。もしかしたらバクマンしてるんじゃないか、と意識して嗅がれたら、独特の匂いも消し切れていなかったらしい。

 ファブリーズしたり、定期的に窓を開けて換気していたつもりだけど、それだけじゃ足りていなかった。

 

 完全に消し去るのは無理だと思うけど、少しでも見つからないための努力はするべきだ。その結果が、空気清浄機の導入だった。

 

 こうして、加藤さんに続いて、新しい武器が僕達の仲間になった。

 

 

「あ、空気清浄機買ったんですね。とてもいいと思います」

 

 部屋に入るなり褒めてきた加藤さんは、耳元でこそっと。

 

「これで、気兼ねなくできますね」

 

 と、耳打ちしてくれた。

 部屋が広いだけに、大型で痛い出費だったけど、必要経費だと割り切ろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「巻頭カラー20話の本ちゃん3位だ」

「3位!?」

「くっそー、14話と同じか。せっかくの巻頭カラーだったのに」

 

 14位以降は、上下しながらも5位から9位をキープし、18話からのシリーズ完結編で勝負をかけたのが、20話の巻頭カラーだった。

 が、結果は3位。

 ジャンプで1位を獲るのは、難しい。

 

 って、港浦さんはドヤ顔してる。

 3位で満足してるのかな。担当がそれだと困るんだけど。

 

「それで『CROW』は、何位だったんですか?」

「2位だ」

「……前回は、同じ票だったのに。上をいかれちゃったか」

「おいおい、3位で落ち込むなよ。それに、票自体は前よりも伸びてる。今週は1位から3位までが15票以内だ。惜しかったな」

「ほんとですか!?」

「嘘を言ってどうする。これが結果だ」

 

 港浦さんが、アンケート票を見せてくれた。

 4位以降とは突き抜けて1位から3位のグラフが固まっている。

 3位『TRAP』312票

 2位『CROW』316票

 1位の作品が325票

 

「300票超えなら、1位でもおかしくない票数だ。それが3作品も出て、編集部でちょっとした騒ぎになったくらいなんだから、自信を持っていい」

 

 そう言われると、すごい結果に思えてきた。

 14話でエイジと同票だったときは、たしか267票だ。

 

 巻頭カラーで、45票伸びた事になる。

 ダメだったわけじゃない。

 

 それでも、さらにその上を獲ってくるエイジ。

 最近の『CROW』は、読んでいて筆が乗っているように感じられる。

 自惚れじゃなければ、僕達に刺激されているのかもしれない。

 

 強すぎるライバル。高い壁だけど、どうにかそのエイジの上に立ちたい。

 エイジのアシスタントをしたのは、2年前くらいだっけ。

 ようやく、ここまで来れたんだ。

 くらいついてやる。

 

「この調子でいけば、エイジを越せる」

「その先にはアニメ化!?」

 

 亜豆との結婚。

 その夢が初めて、現実的なものになった気がする。

 いける。このまま頑張れば、きっと。

 

「それなんだが……『CROW』のアニメ化が決まったらしい。もうすぐ発表されるからそれまで黙っておいてくれよ」

「『CROW』がアニメ化ですか……」

「ああ。アニメが放送されるとアンケートも伸びがちだ。また上をいかれると思う」

 

『CROW』がアニメ化。

 2年以上も、ずっと上位をキープし続けているんだから、当たり前か。

 

 近づいた、と思ったらまた突き放された気分だ。

 それでも、僕の心は燃えていた。

 

「エイジは、ずっと前にいる。望むところです。追いかけて、抜いてみせますよ」

「サイコー……そうだよな。絶対に抜いてやろうぜ」

「おう」

「真城くんの言うとおりだ。その意気でさっそく、次の話の打合せに入ろう。24話からだが……」

 

 下位で、もたついていた頃とは違って、余裕ができていた。

 余裕があれば、冒険も出来る。

『TRAP』に新キャラ、ライバルの女怪盗を出してたらどうだという話になり、キャラ設定が固まり次第、女怪盗編を始めることが決まった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「女怪盗って、悪役にしないとダメか?」

「……どういう意味?」

 

 夏休みに入って、少しはゆとりができていた。

 原稿に追われるだけではなく、投入予定の新キャラについて、シュージンと話し合う時間を捻り出せた。

 

 女性キャラは苦手意識があるので、キャラデザはじっくり取り組みたい。

『TRAP』のメインヒロイン。探偵の助手兼守られ役のヒロインは、亜豆がモデルだ。となると、女怪盗は見吉か?

 見吉が女怪盗。パッとしねえ。

 

「完全な悪役にしたら、捕まえないと変じゃね?」

「それはまあ……」

「何度か引っ張るんだったら、主人公と方法が違うだけで目的は同じで、立場は敵だけど、見方によっては味方でもある、くらいの方がいいと思うんだけど」

「義賊って事か?」

「そんな感じ」

 

 なんとなくシュージンがやりたい事は分かる。

 具体的に言えば、コナン君の怪盗キッドみたいな立場のキャラだ。

 ライバルキャラとしては、申し分ない。

 

「ジャンプでそれやると『キャッツアイ』みたいにならね?」

「それなんだよなー。そこでどうしたらいいんだってので止まってる」

 

 キャラデザで見吉を参考にするなら、グラマーキャラになるし、余計にキャッツアイだ。見吉に大人の色気なんか、ないけど。

 いっそのことキッド方向に引っ張るか。

 

「変装できるってのは?」

「主人公と被らね?」

「だからこそライバルっぽくできそうじゃね?」

 

 思いついたままに、スケッチブックにラフを描く。

 今の僕は、見吉と亜豆だけじゃない。

 

 メガネをかけた地味な見た目のキャラとメガネを外した派手なセクシーキャラ。

 モデルは加藤さんだ。加藤さんが着やせするタイプで、バクマン時はメガネを外すと知っているからこそ、描けたキャラクターだ。

 

「普段は、こっち。で、女怪盗になるときだけ、こっちとか」

「サイコー……これだと『シャドーレディ』じゃね?」

「言われてみれば」

 

 丸被りじゃん。ダメだー。

 僕が思いつくようなキャラだと、こんなのが限界だ。

 シュージンには、勝てない。

 

 結局、迷走の末に普段は男装している同級生の女怪盗(巨乳でメガネでハイレグレオタード)という案で、僕とシュージンの話し合いは終わった。

 

 が、港浦さんに『属性を詰め込み過ぎだ』と、却下されて終わった。

 却下されて良かったと思う。絶対に持て余した。

 

 港浦さんが担当で良かったと、思う事もある。

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