(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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ピンチ

 夏休みは、あっという間に終わった。

 

 お盆休みは、2巻の単行本作業に追われて、休みが取れたのは1日だけだった。

 三世帯同居で、里帰りとかがないので、助かった感じだ。

 

 ジャンプの合併号休みって、単行本作業のためにあるのかな。

 夏休みなんだから、もう少し上手くスケジュール組めよって話なんだけど。

 

『TRAP』は、5位~9位をキープしていたけど、エイジは常に5位以内をキープしていて、高い壁として立ちはだかっている。

 

 どうやったら抜けるのか。

 切磋琢磨したり、バクマンしたりしているうちに、気づけば高3の2学期に突入していた。

 

 なお、割合的には加藤さんの方が、圧倒的に多い。

 シュージンと見吉が一緒に行動しているときに、できるというのが大きかった。

 

「加藤さんに手を出してよかったのかな」

「真城、あんたまだ悩んでるの」

「そりゃまあ……加藤さんとは……」

 

 見吉とのバクマンは、夢のためだ。

 加藤さんは違う。

 

「それは、加藤さんの事、誤解してるんじゃない?」

「誤解?」

「あたしだって、加藤さんが半端な気持ちで真城としたいっていうのなら、却下したけど」

「却下したのかよ」

 

 見吉に、どんな権限が。

 それに、背中を押してきたのは、見吉だったような。

 

「真城の頑張ってる姿が素敵だって言われたら、認めるしかないし。真城が原稿に真摯に向き合っているのを見たら、応援したいって思うもん」

「そんなもんか?」

「そうよ。だから、真城は堂々と応援を受け取ればいいの。分かった?」

「分かったような……分からないような」

「それに、あんた最近性欲が増してるでしょ。あたしだけじゃ相手しきれなくなってるから、加藤さんが入ってくれたのは、あたしも助かってるし」

「とんだご迷惑をおかけしました」

「それは言わないお約束じゃん」

 

 なるほど。見吉は見吉で限界を感じつつあったのか。

 シュージンと一緒にいる限り手を出せない分、見吉に手を出すときは燃えて、激しいものとなる。

 その解消に、加藤さんか。

 

 というので、割り切る事に決めた結果。比較的自由になる加藤さんとは頻繁にスッキリするようになったのだった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 9月16日 金曜日

 

 今日が納品日の原稿も無事上がり、アシスタントは解散となった。

 描いていた原稿は、箸休め回だ。おかしいところはないか、読み返す。

 

『TRAP』は、主人公とヒロインが同じ高校に通っている設定だ。

 でも、これまでは、学校の外で起きる事件を解決していく話が中心だった。

 高校内で犯罪が置きまくるのは、金田一少年の世界だけでいい。

 

 とはいえ、あまり高校生という設定が活かせているとは言えない状況だ。

 そこで、箸休め的に高校を舞台にした話を作ることになった。

 

 文化祭編と称した前後編だ。

 簡単に言えば、文化祭でヒロインが売上金を盗んだという疑惑をかけられる前編。

 それを主人公が解決に導く後編という構成。

 

 事件としては物足りず、キャラの掘り下げを重視した話で、これも『TRAP』が人気のうちに、やっておきたかった話だ。

 

 ちょっと不安だけど、現役高校生という利点を最大限に使い、文化祭の描写は、リアリティーがあるものに仕上げることができたので、中高生には受けるかもしれない。

 

 っていっても、僕もシュージンも積極的に参加するタイプじゃないので、本当に文化祭に参加して楽しんでいたのは、見吉だけだったりするけど。

 僕は、適当にPOPを描いて提供するだけで、高3の文化祭は終わった。

 

「あれ? 帰らないんですか?」

 

 暗黒だった文化祭を思い出しつつ、納品予定の原稿を読み終わる。

 原稿から顔を上げると、高浜さんがまだ残っていた。

 

 原稿をあげた金曜日に、アシスタントが残る理由はない。

 港浦さんが後で、原稿の受け取りと打ち合わせに来るので、残られても困る。

 

「お2人に原稿のコピー見てもらいたいんですけど」

「僕達に?」

 

 マンガ家としてまだまだ未熟なので、他人のマンガを評価をするような立場じゃないと思っている。気恥ずかしさがあったけど、僕達を慕って意見を求めてくれたのは嬉しかった。

 

 高浜さんからコピーを受け取り、原稿を読む。

 読切としては、よくできてきて面白かった。

 

 作風もどこか、僕達に似ている気がする。

 何かを教えたつもりはないけど、影響を与えていたのかもしれない。

 

 僕からは絵についての感想を、シュージンから話についての感想を聞いて、高浜さんは帰っていった。

 

「高浜さんも頑張ってるんだな。面白かった」

「ああ。将来ライバルになるかも」

「やる気もらえた」

「だな」

 

 周囲に頑張っている人がいると、自分達も負けていられないと燃えてくる。

 ただでさえ、次の原稿からは勝負だ。

 

「で、シュージン。『チーター』にぶつける話は、決まった?」

「今週の本ちゃんが4位だし、ネームのまま女忍者回でいこう」

「ちょっと早くないか?」

「鉄は熱いうちに打てっていうし、ゲストキャラなのか準レギュラーキャラなのかは、はっきりさせた方がよくね?」

「うーん……」

 

 新キャラの女怪盗は、忍者の末裔の女の子、女忍者という設定に落ち着いた。

 主人公が持つ変装能力は、門外不出の忍者一族の秘伝の技術が使われているため、それをどうにかするべく、主人公に絡んでくるキャラだ。

 主人公と比べたら甘いけど、変装もできる。

 

 先週号から始まった女忍者編は、初回が5位で今週の2話目が驚きの4位だ。

 解決編以外は、6位から9位が定位置の『TRAP』で、シリーズの初回から5位以内に入っているのは、今までにない反響だ。

 新キャラを出して成功だったといえる。

 

 でも、文化祭編の2話を挟んで、すぐにまた女忍者を出しても、いいんだろうか。

 あんまり早く出すと、読者に飽きられないか。

 

「それに、学校行きながらだと、今からネーム変えたらサイコーがきついだろ」

 

 それはその通りだ。できれば土日で下描きまでは、終わらせておきたい。

 ネームがずれ込むと、それも厳しくなる。

 

「こけてたら変えるけど、人気あるんだからこのままいこうぜ」

「……分かった」

 

 話作りはシュージンの担当だ。意見は出すけど、シュージンがそう決めたんだったら、そのままでいくしかないか。

 

 

「うん。いいぞ。反響良かったキャラは、すぐに出す。間違いない」

「ですよね。これで『チーター』を迎え撃ちます」

「高木くん。その意気だ」

「でも、ひどいですよね。『TRAP』連載中なのに、怪盗ものの連載が始まるって……読者を取り合うに決まってます」

「それは、僕も思うが、上の決定だ。仕方ない。切磋琢磨して相乗効果で人気が上がるようにやるしかない」

 

『怪盗チーター』は、ジャンプの中堅作家の響先生の新連載だ。

 元々『TRAP』より先に連載会議に回っていて、練り直し、増刊号読切を経由して、いよいよ本誌で連載が決まった。

 

 読切を読む限り、不正に奪われたお宝を取り返す、アクションミステリーだ。

『TRAP』とは、読者層が被ってくると思う。

 

 だからこそ、チーター初回に人気のあった女忍者を再登場させる。

 それが、シュージンと港浦さんの作戦だけど、ただでさえジャンルが被っているのに、怪盗に忍者をぶつけて大丈夫だろうか。

 

 港浦さんがいけるって言うけど、逆に不安が大きくなった。

 

「それじゃあ、女忍者再びで3話。1話のネームはそのまま。その後の話は、来週までに考えます」

「それで大丈夫だ。自信を持って行こう」

「はい」

「って言いたいところなんだが」

 

 打合せが終わりかと思ったら、港浦さんが溜息をついた。

 どうしたんだろう。

 

「君達にとっては、悪い話がある」

「悪い話……」

「なんですか?」

 

 悪い話。連載会議は突破してるし、思い当たる節はない。

 

「黙っていても、どうせすぐに分かることだから言うが、少年ウィークで原作、紫今日市の推理マンガ『推理屋明智五助』が始まるらしい」

「ええーーー、紫今日市!?」

 

 それほど本を読まない僕ですら、読んだことがある人気推理作家だ。

 ドラマや映画になった作品を何本も抱えている。

 

「作画は?」

「少年ウィークの花咲俊。絵は上手いし、探偵ものに合ってる」

 

 最強の原作に、絵の上手い作画か。

 これってかなりやばいんじゃ。

 

「『TRAP』の人気が、ライバル誌に影響を与えたのかもしれない。直接紙面で争うわけじゃないが、意識しておいてほしい」

 

 意識してどうにかなるんだろうか。

『怪盗チーター』に『推理屋明智五助』

『TRAP』の未来は、前途多難かもしれない。

 

 重版が3度かかって、1巻が25万部。今月発売の2巻は初版で20万部だ。    

 売れてきている自覚はあったけど、それがライバル誌にまで影響を与えるとは、思いもよらなかった。

 

「あ。いい話もあったぞ。1巻と2巻。それぞれ3万部重版が決まった」

 

 28万部と23万部。

 売上は順調なのに、その前に聞いた話が衝撃過ぎて、素直に喜ぶことができずに終わった。

 

 

「シュージン」

「6万部追加で2人で240万。1人なら120万」

「累計は?」

「1巻2巻で51万部だから2人で2040万。1人あたり1020万だ。1000万超えたってすげえな」

「いい話だけ聞けたらな……」

 

 港浦さんが帰った後で、さっそく印税の確認をする。

 税金が引かれる前で1000万か。

 ほんの1年前まで、月のお小遣いが5000円だった僕からしたら、途方もない数字になってしまったように思う。

 

 思えば、遠くにきたものだ。

  

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