(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

21 / 70
衝突

 11月3日 木曜日 文化の日(祭日)

 

 平均睡眠時間が3時間を切るようになったまま、11月に入った。

 

 最近の『TRAP』順位

 33話 女忍者リターンズ編2話 11位

 34話 女忍者リターンズ編解決回 9位

 

 34話の解決編でも9位と『TRAP』は、苦戦を強いられている。

 前半の貯金のおかげか、10月末にあった連載会議を問題なく突破した事だけが、朗報って感じだ。

 

「真城ー。あんた、今日は寝なさいよ」

「大丈夫だって。せっかくの祭日だから、遅れを取り戻さないと」

 

 構図にこだわっている結果、3時間睡眠でもペン入れが遅れてきている。

 午後からはアシが入る。それまでに用意しておかないと、手持無沙汰にさせてしまう。

 

「すまん、サイコー。ネームが遅れたせいだよな」

「別に、シュージンのせいじゃないって、今日をあてにして描いてただけだから」

 

 シュージンにはそう言ったけど、実際はシュージンが遅れたから、文化の日をあてにしてずれていた。

 半分本当で、半分嘘って感じか。

 

 ただ、シュージンが悪いとは思っていない。

 粘っただけあって、今描いてる原稿からの新シリーズは、アクションに頼った前回とは違って、正面から推理ものとして話が作られている。

 熱い推理バトルだ。読んでいてワクワクさせられた。

 

 全4回と長めなのからも、シュージンがこのシリーズで勝負をかけてきている事が伝わってくる。

 だからこそ、このネームを完璧な原稿にしたい。

 シュージンの頑張りに応えたい。

 

 1話から伏線を自然な形で入れるには、どうしたらいいのか。

 目立たせすぎても丸わかりでダメだし、隠し過ぎるのも不平等だ。

 

 読者に小さな違和感を抱かせるには、どう描けばいいのか。

 作画としての力の見せどころで、大変だけど充実している。

 

 こういう苦労は、嫌いじゃない。

 

「真城……少し瘦せたんじゃない?」

「食べてるはずなんだけどな……」

 

 見吉がうるさいから、面倒でも食事をしている。

 朝も昼もパンだけって事が多いけど。

 

「明日から、朝も昼も作って学校に持って行くから」

「食べてるって」

「足りてないから、痩せてるんでしょうが」

「……シュージン、見吉を止めてくれ」

 

 見吉が作ってくれるのは嬉しい。

 けど、最近は疲労のせいか、ほとんど味を感じなくなってしまっている。

 わざわざ見吉に作ってもらっても、そんな状況じゃ申し訳ない。

 

 今の僕ならコンビニ飯でいい。

 

「すまん、サイコー。こうなった見吉は止められない。俺もサイコーが心配だし」

「……シュージンだって、最近あんま寝てないんだろ。次のネーム出来てるなら今日くらい寝とけって」

 

 せっかく顔が良いのに、最近は目の下のクマがチャームポイントになりつつある。

 ってチャームポイントだとプラスの評価じゃん。

 くそ、イケメンは寝不足でもイケメンだから困る。

 

「サイコーが頑張ってるのに……って意地張っても邪魔になるだけか。悪いけど、そうさせてもらう」

「高木ー、ご飯もうすぐだから、それだけは食べていって」

「見吉、今日は何?」

「野菜食べられるように鍋にしたから。水炊きー」

「昼から鍋かよ」

 

 シュージンがいるからか、見吉も気合を入れたみたいだ。

 鍋か。あんまり食べるのに時間が掛かるのは、避けたいんだけど、贅沢は言っていられないか。

 コラーゲンたっぷりでお肌つるつるになれば、不健康そうには見えなくなるかも。

 

 そんな事を考えながら、味のしない鍋をつついた。

 

 

 翌日。

 

 35話。アクション要素が強いシリーズの1回目は、本ちゃん16位に終わった。

 

『チーター』以外にもミステリー要素の強いホラー作品の読切が掲載されたのが、大きく響いたみたいだ。

 とはいえ、後ろから数えて片手の指で足りる順位だ。

 追い詰められた感が強い。

 

 ここから、どうにかできるんだろうか。

 いや、やるしかない。

 

 元々このシリーズの1話は、動きが少なかった。

 2話からのアクションに気合を入れたので、伸びてくれるはずだ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 11月13日 日曜日

 

 36話。アクションシリーズの2回目は、本ちゃん12位だった。

 

 前回よりは上げたけど、低い事に変わりはない。

 ほんの数ヵ月前は、エイジに勝ってアニメ化しようって盛り上がってたのに、すっかりどこまで粘れるのかに、なってしまっている。

 港浦さんも、どことなく元気がなくなってしまった。

 

 苦しい。次の解決編は、どうなるんだろう。

 ジャンプの掲載2週前に納品するってシステムが、もどかしかった。

 

 不安だけど、既に納品済みで、動かす事ができないからだ。

 

「真城。そろそろ寝ないと」

「まだ大丈夫だから」

「あんた、金曜から寝てないんでしょ」

「原稿を描かないと……」

 

 言われてみたら、金曜日の朝方に、3時間寝たのが最後か。

 50時間以上起きているせいか、眠いという感情もどこかに飛んでいる。

 疲労が溜まっているのに、調子は悪くない。

 

 今のテンションを保ちたかった。

 一気に下描きを終わらせて、ペン入れに入りたい。

 

「昨日もそういって、明日は寝るからって言ってたじゃない」

「うるさいな……」

 

 見吉の相手をするのすら、煩わしく思う。

 

「うるさいって……あたしは真城を心配して」

「それが余計だって。これくらい寝てない事、前にもあっただろ」

「その頃は、授業中寝てたじゃない。最近、授業中もずっと絵を描いてて寝てないし、いつ寝てるのよ」

 

 2学期になっても席替えが実施されなかったため、ずっと見吉が後ろの席のままだ。後ろから見れば、僕が起きているのか寝ているのかは、丸わかりだと思う。

 

 見吉が後ろだと便利だと思っていたけど、不便な事もあったみたいだ。

 最近は、授業中にずっとネームを見直して構図を磨いている。

 

「どっかで工夫できないか探さないと」

「でも、それで真城が身体壊したら……」

「人間そう簡単に壊れないって。ちゃんと三食食べてるし」

 

 苦しくても食べ続けている。

 見吉が居なかったら、食べるのもやめていたはずだ。

 

 こうして、今も描けているのは、見吉のおかげ。

 だからこそ、見吉に邪魔されたくなかった。

 

「あたしは、お父さんに真城の体調管理しろって言われてるんだけど」

「だから食べてるって」

「食べるだけじゃだめでしょ。休まないと真城のおじさんみたいに──」

「──ここでおじさんを出すなよ!!」

 

 机を叩いた音が響く。掌が痛い。

 自分でも驚くような大声を出してしまった。

 見吉が息を飲んだ。

 

 僕を止める理由に、死んだおじさんの事を使われたくない。

 

「『TRAP』は、今が大事なんだ。ここで手を抜いたら終わってしまう」

「それで真城が倒れたら元も子もないじゃん」

「倒れないし、仮に倒れたとしても、納得いかない原稿を出すよりマシだ」

「それで死んでも?」

 

 見吉が強く睨みつけてきた。

 でも、引けない。

 プロのマンガ家としてもそうだし、亜豆との夢のためにもそうだ。

 

「それで死んでもだ」

「ばっかじゃないの」

「いたっ」

 

 見吉にぶたれた。

 熊には殴ってでも止めるって言ってたけど、実践するなよ。

 暴力ヒロインは、いまどき流行らない。

 

 たぶん、僕が悪いんだけど。

 

「あたしが何を言っても、休むつもりがないのね」

「見吉には悪いけど、今、こうしてる時間すらもったいないと思ってる」

「……休まないっていうなら、真城のこと嫌いになるから」

「好きにしたらいいだろ」

「……わかった。今日はもう帰る」

 

 見吉がバタバタと音を立てて部屋を出ていった。

 バタン、と大きな音を立ててドアが閉まる。

 

「……原稿やらないと」

 

 心が痛まなかったといったら嘘になる。

 それでも、僕がやらないといけないのは、見吉を追いかけることじゃない。

 亜城木夢叶として、読者に『TRAP』を届ける事だ。

 

 ダメだ。

 雑音を消して集中しないと。

 無理やりにでも気合を入れると、ペンを手にして、原稿と向き合った。

 

 

「あれ? シュージンから着信が入ってる」

 

 コーヒーを取りに立ち上がったところで、携帯が点滅している事に気づいた。

 着信は、30分前か。夜11時を回ってるけど、まだ起きてるよな。

 

「……シュージン、どうしたんだ?」

「サイコー、見吉となんかあったのか?」

「あったといえばあったけど、こっちは忙しいから見吉に聞けよ。用件がそれだけなら切るぞ」

「待った。港浦さんから、伝言」

「なんだよ」

「コミックス3巻の表紙デザイン案はまだかって」

「あ……」

 

 しまった。

 1巻と2巻の単行本作業は、合併号の休みで終わらせてたから、完全に忘れてた。

 

 まだ先だと思って後回しにしてたんだっけ。

 カレンダーを慌ててチェックすると、締切は来週の水曜日だった。

 

 原稿も終わってないのに、どうしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。