(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第25話 新年会

 1月23日 月曜日

 

「いいのかしら。私まで乗せてもらっちゃって」

「いいんだって。まだ時間あるから、家に寄るくらい大丈夫だし」

「そうですよ。送らせてください。って僕が、運転するわけじゃないですけど」

 

 入院生活は、無事に終わった。

 亜豆と話したり、原稿描いたり、加藤さんとスッキリしたり、シュージンと打合せしたりしていたら、2ヵ月も、あっという間だった。

 

 これを高校に通いながらやっていたとか、かなり無理があったよな。

 今なら、倒れて当たり前だったと思う。

 でも、倒れるまでは、分からなかった。

 

 倒れた経験が無駄にならないように、頑張ろう。

 

 というので、退院手続きを終えて、一度自宅まで向かっていた。

 移動手段は、ハイヤーだ。

 

 僕達は一回目、母親は初めてのハイヤーだった。

 二度目となると、最初ほどの感動や緊張は無かった。贅沢になってしまったのかもしれない。

 

 だからこそ、おっかなびっくりな感じの母親のリアクションが新鮮で、僕達も1年前はこうだったよな、と懐かしい気持ちになれた。

 これで、少しは母親に恩返しできたと思いたい。

 

「それじゃ、母さん。悪いけど、今日は遅くなるから」

「いいから、行きなさい。失礼のないようにしなさいよ」

「はいはい」

 

 母親を自宅前で降ろして、僕達は新年会の会場へと向かった。

 1月23日。僕が退院したその日が、二度目のジャンプの新年会だった。

 

「そういや、シュージンは、スーツじゃないんだな」

「去年の失敗をいじるなよ」

「はは……」

 

 僕もシュージンも、今日は私服だ。

 フォーマルな格好は、していない。

 

「亜城木先生、来ましたね」

「新妻さん。お見舞いありがとうございました」

「連載再開早くお願いします。待ってました」

「詳しいことはこれからですけど、3週後だと思います」

「そうですか……美味しい料理がいっぱいです。食べて元気になるです」

「はい」

 

 会場に入ってすぐに、エイジに捕まった。

 相変わらずくつろいで堪能しているのが、羨ましい。

 

 去年は、挨拶回りであまり料理を食べられなかった。

 

「行くか」

「ああ」

 

 今年こそ食べたかったけど、今年もやらなければならない事がある。

 休載で迷惑をかけたので、挨拶回りだ。

 

「福田さん。ご迷惑をおかけしました」

「体調管理くらいばっちりしとけよ、プロ失格だぜ」

「反省してます」

「けど、病室で描くとは根性あるよな。描いてた原稿どうするんだ?」

「まだ決まってません。お蔵入りになりそうですが……」

「お、お蔵入り。描いた原稿を使わないとか、信じられない」

 

 福田さんと談笑していると横から割り込まれた。

 お酒を手にした平丸さんだ。

 顔色があまりよくない。既に相当飲んでいるみたいだ。

 

「平丸さんにも、ご迷惑をおかけしました。今日から復帰です」

「休むのは人の権利だ。僕も休みたい。休もう。休むべきだ。そう思わないか」

「平丸。お前はまたそうやって絡んで。飲み過ぎだ。去年それで失敗したのを忘れたのか」

「吉田氏。僕が交代で入院しよう。最近、どうも寝つけなくて」

「睡眠時間が減ったのならもっとかけるな。よし、次の話の打ち合わせをしよう」

「鬼、悪魔……」

 

 担当編集の吉田さんに引っ張られて、平丸さんが奥へと消えていった。

 仕事というより、酔い覚ましをさせたいんだろう。

 

「平丸さんは変わらないな」

「ああ」

「連載続けて、来年もここで平丸さんを見れたらいいな」

「サイコー、不吉な事言うなよ」

「悪い」

 

 ジャンプの新年会に参加できるのは、連載中の作家だけだ。

 厳密には、去年の僕達みたいに、連載開始前の連載が決まった作家も含まれるけど、連載が終わった作家は、呼ばれなくなる。

 シビアな世界だ。去年挨拶した先生とか全員揃ってるっけ。

 そもそも、全員の顔と名前覚えてないから分からないけど。

 

「亜城木くん達は、絶対残ってくれよ。福田組が揃うのは、今日が最初で最後とかなりたくねえし」

「え?」

「あれ? 聞いてねえのか。蒼樹嬢と中井さんの連載は、12月の会議で終了が決まったって」

「本当ですか?」

「雄二郎から俺はそう聞いた」

「すみません。担当に確認してきます」

 

 福田さんとの会話を打ち切って、港浦さんを探した。

 

「サイコー、あそこ」

 

 シュージンが先に見つけて、港浦さんの元へと向かう。

 

「真城くん。退院おめでとう」

「ありがとうございます」

「今年も挨拶回り大変だと思うが、しっかりな。ここだけの話、新年会が今日になったのは、真城くん待ちだったらしいぞ」

「え!? そうなんですか」

 

 たしかに、新年会にしてはちょっと遅いと思ってたけど。

 

「編集長がハッキリ言ったわけじゃないが、編集部ではもっぱらそうだって言われてる。1月下旬開催は、初めてらしい」

「それは、申し訳ないですね」

「まー、あまり気にするな。退院がもっと遅ければ無視されただろうし」

 

 そういうもんなんだろうか。

 って違う、港浦さんとしたかったのは、僕を待ってたかどうかじゃない。

 

「港浦さん。12月の連載会議ですが」

「『TRAP』は問題なかったって言っただろ」

「いえ、終わる方です。『ハイドア』が終わるって本当ですか?」

「本当だ。『ハイドア』と『チーター』が終わる。10月の時点で、危ないって予告されていたが、順位を上げられなかったから仕方ない」

「……そうですか」

 

 福田さんに聞いた話は、本当だった。

 中井さん達の連載が終わる。次は、僕達かもしれない。

 倒れる前に『チーター』より上にいけていたから助かったのかも。

 無理した事に、意味はあった。

 

 あまり、入院中の僕を刺激したくなくて、黙っていたみたいだ。

 知ったら、焦ったかもしれないので、港浦さんの判断は正しいと思う。

 

「サイコー。響先生あっちにいるけど、挨拶どうする?」

「やめとこうぜ。向こうから話しかけてきたら別だけど、こっちからはちょっと」

「だよな」

 

 シュージンとコソコソとやりとりする。

 響先生は『チーター』と『TRAP』で票を食い合った仲だ。

 僕達からは、挨拶されたくないだろう。

 

「中井さんは……やけ食いしてるな」

「行こう」

「大丈夫か?」

「中井さんには、お世話になったし……俺一人で行ってくる」

「分かった」

 

 シュージンと中井さんは、これまでほとんど関わっていない。

 終了が決まった中井さんとは、話しにくいと思う。

 

 料理が並ぶテーブルの中央に陣取った中井さんの方に、一人で向かった。

 

「中井さん」

「真城くんか。退院おめでとう」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

「本当さ。君が入院してなければ、終わるのは『TRAP』だったかもしれないのに」

「そんな……」

「冗談だよ。僕達の実力不足さ。あぁあああああって叫びたいけど」

「中井さん」

 

 順位を上げたところで、休載に入ったから助かったけど、あのまま続いていたらどうなったかは分からない。

 笑えない。

 

「今日、こうして初めて新年会にこれたんだ。僕は、縁がないんだって思っていた。でも、来ることができたんだ。これが最初で最後なんて事にならないように、また頑張ればいいだけだ」

「中井さんの絵なら、絶対また連載できますよ」

「ありがとう。同じ作画担当の真城くんが言ってくれたら自信になるよ」

 

 作画担当には、作画担当にしか分からない事があるのかもしれない。

 僕なんて、まだ中井さんに届いていないと思う。

 中井さんは、目標の一人だ。

 また争っていきたい。

 

「真城くん。連載、僕の分まで頑張ってくれよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 最後に、背中を叩かれて、中井さんとの会話は終わった。

 叩かれたところが痛い。

 その痛みが、重いものを託された気がする。

 

 中井さんと別れて、原作の蒼樹先生を探してみたら、編集の人と話し中だった。

 中井さんとは違って、そこまで親しいわけでもないので、結局、話しかけずに新年会は終わった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「疲れた」

「結局、今年もあんま食えなかったな」

 

 新年会が終わって、二人でハイヤーに乗り込んだ。

 

「悪い。俺のせいで」

「いや、連載が続いてるのは、サイコーが無茶してくれたからだろ。『TRAP』が終わってたら、どっちにしろ楽しめないって」

「シュージンが頑張ってたから、俺も頑張っただけだし」

「入院は、やりすぎだけどな」

「悪い」

「もう、なしにしようぜ」

「努力します」

 

 入院して誰よりも迷惑をかけたのは、シュージンだ。

 僕の入院で、シュージンは僕よりも追いつめた自分の事を責めていたけど、それはシュージンの優しさだ。悪いのは僕だ。

 

 ただ、同じ状況になったら、たぶん同じ無茶をすると思う。

 だから、約束はできないけど、努力はしたい。

 

「言ってるそばから悪いけど、今から仕事場行くわ」

「さっそくかよ」

「画材とかの整理しときたいだけだって。明日から仕事できるように、何が減ってるのか確認しときたい」

「手伝おうか?」

「いいって。俺は明日学校に顔出さないといけないから、仕事再開は夕方からな」

「分かった。じゃあ、明日。仕事場で」

「お疲れ」

 

 仕事場まで送ってもらって、シュージンと別れた。

 去年の新年会と同じパターンだ。

 

「…………」

 

 シュージンには悪いけど、去年とは違って仕事をしたいからじゃなかった。

 常識的に考えたら喧嘩中の相手だ。仕事場に来ているわけがない。

 

 でも、不思議とこのタイミングで、仕事場にいる事を確信していた。

 想像通り、()()()()()()()()()仕事場のドアを開ける。

 

「見吉……久しぶり」

「……真城」

 

 それが、見吉との2ヵ月ぶりの再会だった。

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