(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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仲直りと約束

 見吉の顔を見るのは、2ヵ月ぶりだ。

 いや、それ以上前から、しっかりと見れていなかったと思う。

 

 見吉の表情が死んでる。

 意識して、消しているのかもしれない。

 

 こうして、正面から向き合うのは、亜豆とは違った恥ずかしさがあった。

 見吉には、強い負い目がある。

 僕が無茶を押し進めて、見吉が殴ってまで止めようとしたけど無視した。

 結果として、入院してるんだから、見吉が正しかったと言うしかない。

 

「…………」

「…………」

 

 久しぶり、と挨拶したのはいいものの、次の言葉が出てこなかった。

 なんて言えばいいんだ。

 

 今の気持ちを率直に言うなら、会えて嬉しいだ。

 いや、ほっとしたっていう方が正しいか。

 このタイミングで見吉に会えなかったら、どうしようかと思っていた。

 

 見吉とは、ケンカしてそのままだ。

 そのせいで、高浜さんも、小河さんも来てくれたのに、見吉は一度も顔を出さなかった。

 

 入院中、唯一気がかりだったのは、見吉の事だと言えるくらいだ。

 でも、退院したこのタイミングで、見吉と会えた。

 

 これは、見吉からの歩み寄りのサインだと思う。

 意地を張るところじゃない。

 

 ワンピースのウソップ並みの謝罪だ。

 めに濁点をつけるのは無理だけど。

 

「ごめん……」

「ん……」

 

 んって、それだけかよ。

 見吉の表情は読めない。無表情のままだ。

 

 普段の感情豊かな表情はどこにいった。

 

「俺が悪かった」

「悪かったって何」

「見吉を無視して、無茶を押し進めたこと」

 

 止めようとしてくれていたのに。

 頑張る人が好きって言っていた見吉が嫌いになるっていうくらいだ。

 どれだけ無茶だったかが分かる。

 

「でも、真城は次もまた無茶するんでしょ」

「…………」

「やっぱり。それなら、あたしがいてもいなくても同じじゃない」

 

 無茶をしないという約束はできない。

 マンガ家だから原稿を落とせないし、原稿の質は上げたい。

 僕の無茶でそれが実現できるんだったら、また無茶すると思う。

 

 今までとは違って、高校に通わなくていい分、楽になったから大丈夫だと思うけど、どうなるかは分からない。

 

「結局、真城はあたしよりマンガが大事なんでしょ」

「それはそうだけど……でも、僕には見吉が必要だ」

「必要って、邪険にしたじゃない」

「見吉がいてくれないと困る」

「言葉だけでしょ」

「違う。本当だって。見吉には助けられたから」

「どういう意味?」

 

 見吉にようやく表情が出てきた。

 意味が分からないといった感じで、ジト目で見ている。

 どちらかといえば、マイナスの顔だけど、無表情よりはマシだ。 

 

「入院が2ヵ月で済んだのは、見吉のおかげなんだ」

「え?」

「本当なら、3ヵ月。下手したらそれ以上掛かってもおかしくはなかったって先生に言われた。過労で倒れて、菌が入り込むような状況まで追い込まれる人は、食事すらまともにとれてないことが多いらしい。君の場合は、食事だけはしっかりとっていたから、この程度で済んだ。親に感謝しなさいって」

 

 医者の先生に言われたことをそのまま見吉に伝える。

 体力が多少は維持できていたのは、食事のおかげらしい。

 

 実際に、家ではほとんど食事をしていない。

 見吉が用意してくれたものを毎日食べていた。

 

 見吉が居なかったらどうなっていたのか。考えるだけでもぞっとする話だ。

 

「あたしのやってたことって、無駄じゃなかったの?」

「無駄じゃなかったどころか、僕を助けてくれたし」

「真城の役にたった?」

「たったって。見吉が居なかったら死んでたかも」

 

 ちょっと、大げさだけど、実際に過労で死んでしまったおじさんの事を思えば、僕は運が良かったんだと思う。

 おじさんとは、若さが違うけど。

 

「迷惑がられたのに」

「悪かったって。見吉には感謝してる」

「ほんとに?」

「本当だって、だから見吉と仲直りしたい」

 

 これが僕の正直な気持ちだ。

 見吉とケンカしたままは嫌だ。仲直りしたい。

 

 亜城木夢叶は、僕とシュージンだけじゃなくて、見吉も仲間だからだ。

 ギクシャクは終わりにしたい。

 

「わかった。1発殴らせてくれたら許す」

「はい!?」

「それで貸し借りなしって事で」

 

 見吉はそういうと、腕をぶんぶんと回し始めた。

 

「顔面?」

「歯を食いしばって」

 

 それって顔面って事だよね。

 ああもう、仕方ない。

 右手が無事ならそれでいいや。

 

「来い」

 

 覚悟を決めて、目をつぶって衝撃を待つ。

 

「え?」

 

 見吉の拳は、顔にあたる寸前で止まり、風圧だけが僕の頬を撫でた。

 驚いて目を開けると、人差し指が目に入り、思わず寄り目になってしまう。

 

「1個だけ約束して」

「約束?」

 

 どうやら、この人差し指は1個を指しているみたいだ。

 

「将来、1個だけあたしの言うことを何でも聞く」

「何でもって……マンガ家をやめろとか言われても無理だし」

「言わないわよ。あたしをなんだと思ってるわけ」

「聞けない願いもあるって言う例え」

 

 何でもという言質を取らせるわけにはいかない。

 

「真城の夢を応援してるし、亜城木夢叶の成功を祈ってるからしないって」

「でも、休めって言うためだろ」

「必要なら言うかも」

「休まない」

「いや、そこは休みなさいよ。また、倒れたらどうするわけ」

「倒れないし」

「限界だと思ったら止める。だったら、限界だと思わせないようにしなさい」

「……そういうことなら、まあ」

「よっし。真城が1個なんでも言うことを聞く権利ゲットね」

「それは……」

「なによ? 文句あるわけ?」

 

 言いたいことはあるけど、無茶なお願いをする気がないのならいっか。

 見吉の言う事を聞かずに倒れてしまったのは、僕の落ち度だ。

 汚名返上のためにも、ストッパーとしての役割を見吉に持たせるのも意味がある。

 

 それを使わせなければ、いいだけだ。体調管理だけは、しっかりしよう。

 

 何でも言うことを聞く権利。ひどい権利だ。

 

「それじゃあ、仲直りってことで」

「うん、よろしく。用は済んだし、あたし帰るね」

「え?」

 

 ちょっと待て。

 仲直りが済んでそれで終わりって事はない。

 

「何よ? なんか他に用があるわけ?」

「あるっていうか……」

 

 見吉とは、ケンカしていた。

 だから、見吉とはできなかった。

 

 見吉と仲直りした今、二人の仲を妨げるのはシュージンしかいない。

 この場に、シュージンがいない以上、何も問題ないはずだ。

 

「見吉としたい」

「したいって、退院したばっかでしょ。今日は大人しく──」

「もう体調ばっちりだから、問題ないって」

 

 見吉の言葉を遮って、体調が万全である事をアピールした。

 2ヵ月以上、見吉としていないんだ。

 見吉のわがままボディを堪能したい。

 

「そんなにしたいの?」

「したい」

「……わかった。じゃ、しよっか」

 

 おっしゃーーー。心の中でだけ、ガッツポーズして飛び跳ねた。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(バクマン)!!!」」

 

 

 これで、病院から帰ってこれたっていう実感があった。

 ただいま。

 

 

「なあ……少し痩せたか?」

「誰のせいよ」

「え?」

「心配で、あんまり食べられなかったんじゃん」

「あー……ごめん」

「お見舞いにも行けないし、高木は大丈夫だっていうだけだし、ミホからは惚気られるし」

「色々大変だったんだな」

「誰のせいよ」

 

 お見舞いに来れなかったのは、僕のせいだろうか。

 怒らせたのは、僕だけど。

 

「加藤さんは、頻繁に通って楽しそうだし」

「お世話になりまし──痛い」

「断りなさいよ」

「理不尽過ぎる」

「煽られたあたしの気持ち考えた事あるわけ?」

「煽ってたんだ……」

「加藤さんと二人っきりになったら、今日の真城さん積極的で、とか言われたわよ」

「言われたんだ……」

 

 加藤さんは、やっぱり悪魔だ。

 

「見吉さんも来ればいいのにって言われても、行けるわけないでしょ」

「僕は、来て欲しかったけど」

「ああん?」

 

 テニプリの跡部様じゃないんだから。

 

「見吉さんの分まで私が頑張りますから、任せてくださいとか言ってくるし」

「それはまあ……」

「見吉に悪いって断りなさいよ」

「性欲の溜まったまま、亜豆に会えるわけないだろ」

「逆ギレするわけ?」

「ごめんなさい……」

 

 見吉には悪いけど、見吉に悪いなんて感情は、欠片もわかなかった。

 加藤さんが抜いてくれて、ラッキーくらいの感覚だった。

 加藤さんに、変なことされないか怖かったくらいだ。

 初日の尿瓶が、トラウマになりつつある。

 

「それで、ミホとはどこまでいったのよ。チューくらいした?」

「してねーよ」

「しなさいよ。あんたたち付き合ってるんでしょ」

「うるせ。ちょっと手を支えてもらって、嬉しかったからいいんだって」

「子供か」

 

 亜豆よの触れ合いは、それだけで幸せを感じられたからいいんだ。

 ペンを握れなくてよかったって思ったのは、初めてだ。

 

「……じゃあ、チューはあたしとだけ?」

「いや、加藤さんとした」

「さいてー」

「こっちは病人だぞ。動けないんだから、上に乗られて奪われたらどうしようもないだろ」

「抵抗しようとしたわけ?」

「してないけど」

「さいてー」

「いいだろ。キス好きなんだから」

 

 気持ちいいものは、気持ちいいし。

 

「もう、真城とはチューしない。加藤さんと間接になるし」

「それ言い出したら、俺はシュージンと間接チューじゃん」

「いいでしょ。二人で亜城木夢叶なんだから」

「よくねーよ。できるだけ意識しないようにしてる」

 

 いくらコンビだからと言って、勘弁して欲しい。

 そもそも、コンビの相方の彼女に手を出すなって話になるんだろうけど。

 

「俺は、見吉とチューしたい」

「加藤さんとは、しない?」

「……すると思う」

「さいてー」

「うるさい。するぞ」

 

 話を強引に打ち切ると、見吉を抱き寄せて唇を奪った。

 最初は、抵抗されたものの、何度か繰り返すうちに大人しくなったので、キスを深いものへと変える。

 

 本気で抵抗されたら勝てるわけないので、形だけだ。

 見吉も望んでいたって事でいいだろう。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(バクマン)!!!」」

 

 

 これからもよろしくお願いします。

 

 2ヵ月にわたって行われた僕と見吉のケンカは、これで無事終わっ……

 

「で、加藤さんとは病室で何回したのよ」

「20回くらい?」

「多っ! じゃ、その分だけあたしに頑張りなさいよ」

「今から!?」

「加藤さんにはできて、あたしにはできないっていうわけ!?」

 

 加藤さんとは2ヵ月かけて20回くらいだったんだけど。

 

「退院明けだから」

「さっき、体調は万全だから問題ないって言ってなかった?」

「言いました」

「じゃあ、問題ないよね」

「……えっと、それは」

「ないよね?」

「ありません」

 

 今日中に20回とかは、冗談だよな。

 何回できるか分からないけど、頑張ろう。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(バクマン)!」」

 

 真っ白に燃え尽きたよ。真城だけに。

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