(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第30話 連載終了

「館だけど、こんな感じでどうかな?」

「……すごいです。この背景を前にキャラクターが動く姿がイメージできました」

「俺も、ぼやけていたのがハッキリ見えた。ネーム、あと少し待ってくれればできると思う」

「私はプレッシャーですよ。この絵に合わせて仕上げとか無理です」

「ははは、僕がしっかり指導するから大丈夫だよ」

 

 中井さん、シュージン、加藤さんとバランスを見て参加した見吉の四人で行われた弾丸取材は、上手くいったらしい。

 

 週明けに早速、中井さんが館のイメージ図と大まかな見取り図を仕上げてきた。

 まだまだこれかららしいけど、今の時点で段違いの迫力だ。

 

「それじゃ、今日はこれで帰るよ。変更点とかあれば連絡してくれ」

「お疲れ様です」

 

 普段は、水から金でアシに入ってもらっているため、月曜日の今日はまだ原稿が溜まっていない。

 今日のところは打合せだけで、帰ってもらった。

 

「やっぱり凄いな」

「ああ……早く追いつきたい」

 

 技術がすごい。

 そして、匂いがちょっときつい。

 

 行為の匂いを消したくて、脱臭力の強い空気清浄機を買った事が、ここで活きてくるとは思わなかった。

 見吉や、加藤さんに手を出したのは、このときのためだったのかもしれない。

 ないか。

 

「そういえば、シュージン。今日は入学式だったんだろ。どうだった?」

「別にたいしたことねえよって言いたいところだけど、これ」

「キュラキラコミック? どうしたんだ」

 

 シュージンから月刊のマンガ雑誌を渡された。

 よく知らないけど、萌え系をメインにしたものみたいだ。

 

「これだよ」

「このマンガがどうかしたのか?」

「これ、石沢のマンガ」

「え!? 石沢ってシュージンが殴ったあの石沢?」

「その石沢」

 

 中学の頃の話だ。

 僕達が初めてジャンプに評価が載ったとき、絵の評価が低かったことをバカにしてきて、怒ったシュージンが殴って停学になるという事件があった。

 

「へー、すごいじゃん。本当にプロになったんだな」

「見吉が言うには「見返してやるー」ってあの時泣いてたらしい」

「シュージンがきっかけじゃん。負けられないな」

 

 って言っても、僕達の連載は終わりそうだけど。

 中3の頃は、決まった角度の決まった表情のイラストしか描けてなかったのに、いろんな角度で描いている。

 ちょっと右向きが弱いみたいだけど、許容範囲だろう。

 

「で、なんで石沢の連載を知ったんだ?」

「同じ大学だった」

「うわぁ……」

「あの、石沢さんってどなたなんですか?」

 

 と、ここで加藤さんから質問が入る。

 

「中学の時の同級生」

「見吉がマン研を見つけて、ためしに見にいったら見つけたらしい。相変わらずマンガの批評を()()()()()やってた。しかも、亜城木夢叶の友人で、俺達は石沢に教わったらしい」

「何も教わってねー」

「……個性的な方なんですね」

 

 石沢は、相変わらず石沢らしい。

 断片的な話だけで、石沢がどんな人物か伝わったらしく加藤さんが苦笑いしていた。

 どうやら、加藤さんの好みではないみたいだ。

 

「最初から入る気なかったけど、マン研には近づかないようにする」

「それがいいと思う」

 

 なんだかめんどくさそうだ。

 やっぱり、大学に行かなくてよかったのかもしれない。

 

「で、見吉は?」

 

 今さらだけど、顔を見せない見吉について尋ねた。

 

「色々回ってくるって」

「シュージンだけ早く抜けさせて悪い」

「いや、連載中だし仕方ないって。どうせサークルとか入らねーし」

「とかいいつつ、かわいい子はいた?」

「チアとかいたけど、見吉がいたからあんま見れなかった」

「真城さん達、見吉さんに言いつけますよ」

「ごめんなさい」

「それだけは勘弁を」

 

 取材旅行を通じて、加藤さんと見吉の仲は深まったのか。

 見吉の協力者が増えるとは、厄介な。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 4月17日 火曜日

 

 連載会議当日。

 

「来た」

 

 シュージンが電話を取る。

 

「残念だが、あと4話で終了だ」

「今描いてる分含めて4話ですね」

「……冷静だな。もっとショックを受けるのかと」

「覚悟はできてましたから」

 

 結局、前シリーズの平均が13位とイマイチな順位だった。

 最終シリーズの1話目、15位。

 今日が速報だった2話目、14位だ。

 

 上がらなかったら打ち切りと宣言されて、上げられなかったんだから仕方ない。

 悔しいけど、覚悟は完全にできていたことだ。

 

「落ち着いてから話そうとか思っていたが、残りの話数をどう使うのか」

 

 港浦さんが言うには、パターンは2つだ。

 今まで通りやるのか、次回作に向けて毎回傾向を変えて人気を探るのに使うのか。

 僕達は既に、最終回までの構想が決まっているので前者だ。

 

「次の打ち合わせは、金曜日ですね。はい、ありがとうございます」

 

 電話での簡単な打ち合わせは、あっさりと終わった。

 シュージンが電話を切る。

 

「あと4話。よし、これで理想的な終わり方ができる」

 

 当初の予定通りだ。

 何話になるのか分からないので、1話増やしたり減らしたりできるようにしていたけど、過不足なく描くには、ベストな話数だった。

 

「あーあ。これで『TRAP』も終わっちゃうのね。二人ともお疲れー。でも、1年以上連載続いたんだから、成功でしょ」

「いや、まだだって。しっかり最高の終わらせ方しようぜ」

「おう」

「あたしも最後まで手伝う」

 

 残り4話。最高の原稿を描いて読者に届けよう。

 それが、僕達が読者のためにできる事だと信じて。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「すみません、大事な時期に離れることになりました」

「いえ。『BBケンイチ』連載決定おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「高浜さんは、新規連載に集中してください」

「ありがとうございます」

 

『TRAP』の連載終了が決まる一方で、高浜さんの連載開始が決まった。

 これも、想定していたので、驚きはない。

 来週からは中井さんも、他のアシと同じ時間に入ってもらうことになる。

 加藤さんには、通常のアシに加えて、中井さんの時間にも入ってもらっていたので、負担が減って一安心だ。

 

「『TRAP』は、終わってしまうんですよね」

「ええ。僕達の分まで高浜さんは、頑張ってください」

「最後まで参加したかったんですが……真城さんの筆が乗っているのが分かりますし、中井さんの背景もすごい。この作品を終わらせるなんて間違ってますよ」

 

 高浜さんもアシをしていて、手ごたえを感じてくれていたみたいだ。

 高浜さんのマンガを見る目は確かなので、嬉しい。

 

「終わるからこそな面がありますから」

「それなんです。真城さんも高木さんも、最後まで計画的に連載を終わらせようとしてます。なかなかできることじゃありませんよ。僕は亜城木先生のことを尊敬しています。僕もそういう終わり方ができるように頑張ります」

「ありがとうございます」

 

 と、ここで終われば、綺麗な別れだったけど。

 

「あの、真城さん……」

「どうしました?」

「加藤さん達に、アシ依頼の声かけてもいいですか?」

「……『TRAP』の連載に支障が出ない範囲なら、ご自由にどうぞ。小河さんとか、次の先生を探すみたいですし」

 

 終了が決まったとはいえ、まだ連載中なので、今引っ張られるのは困る。

 入らない日に参加する分まで、止める権限はないけど。

 

「助かります。港浦さんはちょっと、あてにならないみたいで……」

「……高浜さんがアシに入ってくれて助かりました」

 

 それ以上は、ノーコメントで。

 こうして、高浜さんは去っていった。

 

 後日聞いた話によれば、加藤さんに声をかけて、セットで中井さんが参加するみたいだ。

 中井さん、原作が決まったらどうするんだろうか。

 僕が考えることじゃないか。

 

 

 アシスタントと入れ替わりで、港浦さんが打ち合わせに来た。

 

 これまで、連載が続いたときのために話せなかったが、終了が決まってしまった。

 初めて、最終回までの構想を港浦さんに伝えることができる。

 

 シュージンから、事件の構想を受け取った港浦さんが、驚いた顔をする。

 次のネームとこれまでに描いた原稿まで読み返して、ようやく声を出した。

 

「驚いた。中井さんまでアシに呼んだのは、連載を終了させないためにだと思っていたが、終わらせるためだったのか」

「僕達にできる、最高の終わらせ方です」

「面白い。今までで最高の話だ。これで行こう」

「はい」

「ここまで来たら、口出ししない。最高の原稿を描いてくれ」

「はい」

 

 もっともらしい事言ってるけど、仕事放棄じゃねえか。

 まあ、いいか。

 

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