(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第35話 読者の需要

「最低です」

「ま、待ってください。今のは引っ掛けですよ」

 

 しまった。せっかく上がったと思った好感度が一発で急転直下だ。

 席を立とうとする蒼樹さんをなんとか引き止める。

 

 こういう時どうしたらいいんだ。

 僕のジャンプ知識の何を使えば、窮地を脱出できる。

 

 女性のパンツが見たいで、ジャンプ的なものって何があるんだ。

 無理があるだろ。

 

「い、いちごですよ」

「はい?」

「女性の下着がみたいというのは、恒久的な男のテーマなんです。思わずイチゴ柄の女の子を見てしまっただけで、ヒロインを呼び出して懸垂して告白してしまうくらいに」

 

 真っ先に思いついた作品は、100パーセントしかなかった。

 お尻に定評がある桂先生、ごめんなさい。

 

「それ、告白した相手、勘違いだったじゃないですか。最低ですよ」

 

 蒼樹さんが知らない可能性もあったけど、どうやら通じたらしい。

 でも、好感度は下がった気がする。

 

「勘違いから始まる恋だってあると思います。僕の周りでもシュージンがそんな感じでしたし」

「高木さんが?」

 

 すまん、シュージン。勝手にベラベラ喋らせてもらう。

 ピンチから抜け出すためなら、親友だって売ろう。

 

「見吉って子と付き合ってるんですけど、きっかけはシュージンが見吉の親友について知りたくて話しかけたら、見吉に興味があるって思われたみたいで」

 

 亜豆について説明するとややこしさが増すので、とりあえずは後回しだ。

 

「ダメじゃないですか、高木さん」

「でも、今じゃ結婚を前提に付き合ってるし、仲が良いですよ。親も公認です」

 

 公認って言っても、僕が勝手に見吉の父親の熊に話しただけだけど。

 

 そういえば、結局シュージンって熊に挨拶に行ったんだっけ。

 連載が上手く行ったらって話だったけど、連載中は忙し過ぎてそんな暇なかったような。

『TRAP』の連載の評価って難しんだよな。失敗したとは言えないけど、胸を張って成功したって自慢できる程じゃない。

 結局、打ち切られて終わったし。

 

「結婚を前提……」

「連載が始まると仕事を優先して何もできなくなるしで、振り回される方は大変だと思うんですけど、シュージンと僕の夢を我慢強く応援してくれているんです」

「素敵な方なんですね」

「そうですね。三人目の亜城木夢叶って言っていいくらいです。二人には上手く行って欲しい。でも、マンガ家ってどうしても不安定な職業ですし、だからこそ、次の連載も頑張らなきゃって感じで」

 

 見吉は良い子だ。

 僕と亜豆とは違って、二人の間に障害はないんだから、あとはマンガ家としてどうなるのか次第だ。

 生涯年収にはまだ全然足りていないし、作画担当とは違って原作側はアシで食べていく事もできないので、結婚に踏み切るのはシュージンの方が大変かもしれない。

 

「今も、仲良く大学に通ってるはずです」

 

 シュージンが言うには、監視付きでの大学生活らしいけど。

 シュージンなりの照れ隠しって事でいいと思う。

 別の大学に行こうと思えば行けたんだし。

 

「真城さんは、どうして大学に進まなかったんですか?」

「……今は、もっと絵に時間が欲しいので。それに、入院とかなかったら進んだかもしれませんけど、連載との両立は難しいって身をもって実感してしまったのが大きかったです」

「ダメですよ。体調管理だけはしっかりしないと。真城さん、メ、です」

「すみません」

 

 蒼樹さん手でバッテンを作って『メ』って。

 そんなカワイイ声*1でやられたら、たまらない。

 年上のはずなのに、たまに見せる可愛さってなんなんだろう。

 

 とりあえず、シュージンを売る事で窮地を脱出できたか。

 話を戻すべきかどうかは、悩ましい。

 またピンチになるかもしれない。

 でも、読切の相談に乗ってもらったんだから、蒼樹さんの相談にも乗らないとダメか。

 

「それで、その……さっきの質問は何だったんですか?」

「担当さんに言われたんです。次の恋愛マンガでできれば女の子の下着の絵を入れて欲しいと」

「……蒼樹さんの下着じゃないじゃないですか。騙された」

「当たり前です。ちょっと、言い間違えたんですって、何ガッカリしてるんですか。真城さん、最低です」

 

 さっきとは違って、冗談めいたものなので、もう大丈夫だろう。

 恋愛マンガでパンチラか。

 あんまり露骨にやってそれを売りにされても困るけど、アクセントにはいいかもしれない。

 キャラに穿かせるとしたら、どうだろうか。

 

「いちご柄でぜひお願いします」

「あの……私もうそんな年じゃありませんので」

「……蒼樹さん。マンガの登場キャラの話のつもりだったんですが」

「わ、忘れてください。今のはナシです。ナシですよ。いいですね」

「はい」

 

 蒼樹さんがいちご柄の下着か。

 ギャップ萌えとしては、有りだ。

 

 でも、蒼樹さんがギャップ萌えを狙うなら、黒とか紫とか赤とか派手なレースが入ったものとかそっち方面の方がいいと思う。

 完全に個人的な嗜好だけど、清楚そうに見えて意外とってのが似合いそうだ。

 

「真面目に答えますけど、現実だとなかなか下着を見る機会ってないじゃないですか」

「当たり前です。頻繁にあったら困ります」

「ですので、マンガの中でくらい夢が見れたら嬉しいと思いますよ。一種のロマンと言いますか。見せ方にはこだわって欲しいところですけどね。もしかしたらこういう事が起きるかもしれないところに、夢がありますので」

 

 逆に言えば、露骨に見せられても夢がないからダメだ。

 普段見れないからこそ見たくなるわけで、見せてこられてもそこまで見たくない。

 見ないとは言わないけど。

 嬉しくないとも言わないけど。

 

「でも、風でとかだとワンパターンになりませんか?」

「そうですね。例えば、階段とかだと女性の方って警戒して注意しますよね?」

「短いときは意識すると思います」

「渡り廊下とかで、注意してますか?」

「……してないかもしれません」

「渡り廊下で話す女子を下から見上げたら、見えてしまった。こういう不可抗力的なものがいいんです」

「なるほど。メモを取らせてください」

「例えば、ありがちですけどそのメモをテーブルの下に落としてしまった。拾おうとしたら……とかもありますね」

 

 これは、男女どちらのパターンもいける。

 男性が落として、拾おうとしたら目の前に桃源郷が広がっているラッキースケベパターン。

 女性が落として、拾おうとしたらお尻を突き出す形になって、パンツが見えてしまうドジっ子パターン。

 

「あとは、出会いがしらでぶつかって、尻もちをついたら正面からは丸見えになったとかも王道です」

 

 ちょっと古い表現だけど、王道は廃れない。

 

 と、ここまでは登場キャラクターが目にするパターンだ。

 でも、下着を描けの本髄はそこじゃないと思う。

 ここからが本題だ。

 

「大事なのは、普段見えないものが見えるです。入浴シーンとか着替えシーンとかでもありですよ」

「き、着替えとか、入浴なんて、男の人に見せるわけないじゃないですか」

 

 やはり、蒼樹さんは分かっていなかったか。

 

「男性に見せる必要はないんです。()()()見せることができれば、それで成立します」

「……女性だけのシーンでもいいと」

「そういう事です。ちょっとドキってするようなシーンが欲しいって意味であって、何が何でも下着を見せろって事じゃないと思いますよ」

「ありがとうございます。メモします」

 

 やたら着替えシーンが出てくるスポーツマンガとかは、上手く読者をひきつけているんだと思う。

 何度か男キャラがドアを開けて怒られたりとかもあったけど、基本的には着替えながら話してるだけのシーンで、女キャラしか登場しない事が多い。

 男キャラに恩恵がなくても、読者に恩恵があれば、そこに需要がある例だと思う。

 

「下着じゃなくても例えばパジャマとかでも、普段見せない姿って意味だとドキっとしますし。歯磨きシーンとかもいいと思います。あとは……髪の長い女性がゴムでまとめたりするとか」

 

 これは、一般論だと言わせて欲しい。

 僕の萌えポイントを語っているわけではない。

 

「そんなものでいいんですか?」

「そのときに、両手が塞がるのでゴムを口で咥えるのがポイントです」

「そ、そんなことしませんよ」

 

 そうなのか。

 見吉は、普通に口に咥えていた。

 思わず襲い掛かって、バクマンしたから間違いない。

 

 僕の萌えポイントじゃないけど。

 

「……そこは、読者の需要という事で」

 

 しつこくなるけど、僕の需要ではないんだ。

 勘違いしないように。

 

「ありがとうございます。真城さんの話、とても参考になります」

「蒼樹さんの役に立てるのなら、光栄です」

 

 ライバルになるけど、蒼樹さんのマンガがどう化けるのかが楽しみだった。

 僕の需要じゃないけど、ゴムを咥えさせて欲しい。

 

 蒼樹さんの髪がもう少し長ければ……残念だけど、諦めよう。

 

*1
CV:川澄綾子 代表作PIANO 野村美雨

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