「連載表彰式って、終わってても呼ばれるんだな」
「どういう気持ちで出ていいのか微妙だけど、新年会の中井さんとか蒼樹さんも、こんな感じだったのかな」
知らなかったけど、ジャンプでは6月と12月に連載表彰式が行われる。
50回、100回、150回と簡単に言えば1年連載が続けば、表彰される式だ。
僕達の『TRAP』も、最終回が56話と連載50回を超えていたので対象となっていた。
港浦さんの用意した車に乗せられての会場入りだ。
「それで、読切はどうなりそう?」
「特別編ってアイデアがいい。今、女忍者で話を考えてるところ。設定しっかり考えてたから動かしやすいし、面白くなると思う」
「どれ位かかる?」
「最初の叩き台だけなら、2,3日あれば。そこからネームまでは、港浦さんの許可が出てからだから、ちょっとなんとも」
「分かった。今回はアシ無しだから、早めに頼む」
「分かってるって」
蒼樹さんのアイデアをシュージンに話したら、すごい食いつきだった。
もう一冊出したときの印税を考えたら『TRAP』をやらない手はない。
本編が終わっているので、どうしようかって感じだったけど、番外編なら問題ないみたいだ。
「亜城木くん、やられたぜ。まさか、ああいう終わらせ方をするなんて」
「新妻先生にも同じ事言われましたよ」
今回の福田組の参加者は、福田さんと平丸さんだ。
エイジの『CROW』は、7月スタートなので、12月の式が対象となる。
会えないことが分かった時点で電話したら、宣戦布告されてしまった。
『亜城木先生『TRAP』ファンタスティックでした。ラストの話感動したです。アンケートで負けたのが悔しいです。もう一度勝負したいですケド、さっさと次の連載を決めてください』
打ち切られたこっちは涙目なんだけど、エイジに一泡吹かす事には成功していたみたいだ。
エイジなら連載が終わっても、さらっと次の連載が決まりそうだけど、僕達はそう簡単にはいかない。
とりあえず、赤マルジャンプの読切を終わらせる事に集中したい。
式典は豪華だった。
既に連載が終わっている僕達は、邪魔にならないように大人しく過ごした。
シュージンと二人で記念の写真を撮ったり、豪華な食事を堪能したりと、また呼ばれたいと思える式典だった。
家に帰ったら、集英社から花束が届いていたのには、困ったけど。
母親が喜んでいたから、いいか。
なお、平丸さんからは、終わったことで羨ましがられただけなので省略。
◇◇◇
「真城ー。高木がどこ行ったか知らない?」
「シュージンからは何も聞いてないのか?」
「聞いてたら聞かないし」
「そりゃそうか」
シュージンがどこに行ったのかは、実は知っていたりする。
でも、見吉に黙って行ったのなら、僕が言う事じゃないか。
読切に向かって動き出したタイミングでシュージンが居ないのは、蒼樹さんに呼び出されたからだ。
僕が連絡役になって、待ち合わせ場所と時間を決めた。
動き出せたのは、蒼樹さんのおかげだけに、断ることができなかった。
二人が何をしているのかまでは、知らない。
あんなことやこんなことに、なっていないことを願うばかりだ。
女性に会いに行くなら見吉に言っとけよ、シュージン。
女性に会いに行くからこそ、言いにくいのかもしれないけど。
「真城は今日、動物園に行かないの?」
「そろそろ原稿描くことになりそうだから、感覚を戻しとかないと」
動物ばかり描いていたので、今日は女忍者を中心にキャラを描いている。
あと、背景。
連載中はずっとアシスタントに頼りっぱなしだったので、久しぶりに描くと苦戦したりする。
高浜さんのところの進捗次第だけど、加藤さんに頼むのもいいかもしれない。
さすがに読切のためだけに、中井さんに頼む勇気はない。
「って、なんでパンチラばっかなのよ」
「需要?」
「それに、下着がやけにリアルで繊細だし」
「見吉ので見慣れてるし」
「見覚えがあると思ったら、やっぱり私のじゃん。高木に見られたらどうするのよ」
「いや、連載中のヤツもパンチラは見吉を参考にしてたし」
身近な女性下着は、見吉か加藤さんの二択しかない。
必然的に、どちらかの下着を描くことになる。
見吉は気づいてなかったみたいだけど、加藤さんにはすぐに気づかれた。
オマケで、作中と同じポーズを実写でみせてくれるっていうサービスまでしてくれたので、その日は盛り上がってしまった。
なお、シュージンも見吉の下着が参考になっていたことに、気づいてなかったようだ。特に何かを言われたことはない。
「って、下着に何描き足してるのよ」
「うーん……リアリティ?」
「別にまだ……って何言わせんのよ」
「痛い」
久しぶりに殴られた。
僕の描いた絵が正しいのかどうか、実際に実物を見てみるしかないか。
「見吉」
「真城」
「「バクマン(バクマン)!!!」」
結論、僕の描いた絵は正しくなかったけど、
何があったのかは、察して欲しい。
◇◇◇
数日後
無事、番外編の許可が下りたので、シュージンの描いたネームを清書中だ。
っていっても、まだ前半しかできてないけど。
仕事場で仕事をする。
連載終了からようやく再スタートがきれた気がする。
「見吉、ご機嫌だな」
「やっぱさ、真城がそこに座って仕事してないと、なんか落ち着かないのよね」
見吉は鼻歌を歌いながら掃除をしていた。
あとは、シュージンが居れば亜城木夢叶って感じだけど、残念ながらシュージンは不在だった。後半の展開で忍者についての調べるため、図書館に籠っている。
大学の図書館は、色んな資料があって面白いらしい。
最初は、シュージンに付き合っていた見吉だけど、図書館との相性が悪いので、シュージンをおいて仕事場に来るようになっていた。
となると、バクマンチャンスだけど、さすがに仕事よりも優先する気はない。仕事が終わった後のお楽しみにとっておこう。
見吉も機嫌がいいし、今日も燃えそうだ。
「……ん?」
と、思っていたら資料スペースから聞こえていた鼻歌が止まった。
「真城」
見吉が駆け寄ってくる。
手には、見覚えのある本が。
中学の同級生、岩瀬が描いた本だ。
っておい、シュージン。なんで地雷を置いて帰った。片付けとけよ。
「高木に、高木に浮気された」
「……とりあえず、落ち着いて」
見吉に暴れられたら、僕じゃ止められない。
「落ち着いてなんかいられないわよ」
「何があったんだ」
「これ」
見吉が例の本を差し出してきた。
本の存在は知っている。
シュージンが直接本人から受け取った本だ。
けど、ペンネームを使ってるし、岩瀬と結びつけるようなものは、ないはず。
「中に手紙が」
「え?」
見吉に言われたとおりに本を開くと、便箋が挟まっていた。
慌てて目を通す。
簡単にまとめれば、こんな感じだ。
『素直に言えそうにないから手紙にします。
会えて嬉しい。
お互いをずっと励みにしていたい
動物園で素敵なデートになるといいな。
岩瀬愛子』
岩瀬愛子というか、岩瀬アウトじゃねえか。
と、事情を知らなかったら叫びたくなるけど、一応事情は知っている。
この前、蒼樹さんに呼び出された件だ。
シュージンが呼び出された先には、蒼樹さんだけでなく岩瀬も居たらしい。
どうやら、蒼樹さんと岩瀬が知り合いだったようで、橋渡しをしたみたいだ。
それで、小説とマンガのどっちが素晴らしいかを言い合いしたり、私と付き合いなさいって命令されたりしたけど、見吉の方が好きだとはっきり伝えたそうだ。
岩瀬は怒って帰ったけど、押しつけられた小説を返すタイミングもなく持ち帰り、仕事場に置いて帰った。それを見吉が見つけて、今に至ると。
手紙で危惧していた通り、シュージンを前にして素直になれなかった岩瀬か。
可愛いところもあるじゃんって思うけど、こうなると迷惑でしかない。
クールキャラを貫き通せよ、どうした岩瀬。
「これ、真城とミホみたいな関係じゃん。4年間ずっと、思い合っていたわけでしょ」
「見吉、落ち着けって。そんなわけないじゃん。シュージンがずっとマンガ家になるって頑張ってたの、見てきただろ。そんな暇ないって」
「それ言い出すなら真城だってそうじゃん。でも、ミホと付き合ってるし励まし合ってるじゃない」
「……それはそうだけど」
「やっぱり。高木に浮気されてた、うわーーん」
どう説明したらいいんだろうか。
号泣する見吉にガッシリと抱き着かれてしまった。
背骨が軋んでるけど、我慢するしかないか。
今、話しても伝わらないと思い、見吉が泣き止むまで待った。
30分後、ようやく力強すぎる抱擁から解放された。
見吉には絶対に、スケートボードをさせないようにしよう。
ラブハッグとかマスターしそうだ。
「落ち着いた?」
「…………」
返事はなかったけど、俯いたまま軽く首が縦に揺れた。
「判断するのは、シュージンに話を聞いてからでいいんじゃないか」
「…………」
岩瀬と会った事情は説明できるけど、詳細は本人にしか分からない。
それに、僕の口から説明しても、見吉は納得できないと思う。
「真城は何も言わないんだ」
「僕が言うとしたら、シュージンは、そんな奴じゃない」
「そうやって庇うんだ」
僕にどうしろって言うんだ。
シュージンは浮気してる最低野郎だって言えばいいのかよ。
浮気してるのは俺達じゃねえか。最低野郎は、僕であって、シュージンじゃない。
浮気してる
どうしてこうなった。
「どうせ、あたしの事をお掃除おばさんだとか思ってるんでしょ」
「そんなわけないって」
すぐに否定の言葉が出た。
「じゃあ、性欲解消に都合のいい相手」
ごめん、それは正直ちょっと思ってる。
「見吉のことは、大事。三人目の亜城木夢叶だと思ってるよ」
でも、こう返すしかないし、これであってるはずだ。
うん、やっぱり僕は最低野郎かもしれない。
「じゃあ、なんで抱き返してくれなかったのよ、キスしてよ」
「見吉……」
「やっぱり、真城もあたしのことなんでどうでもいいんでしょ」
「どうでもよくない」
「だったら、キスしなさいよ」
「……見吉、落ち着けって」
手を伸ばせば届く距離。
抱きしめてキスするのは、簡単だ。
でも、それをしてしまうとギリギリ成立していた僕達の関係が崩壊してしまう。
涙目で、震えている見吉に手を差し伸べるのは僕じゃない。シュージンじゃないとダメだ。
「真城の嘘つき」
「嘘じゃないよ。見吉のことは好きだし、大事だと思ってる」
「じゃあ、なんで」
「見吉が高木を好きなことを知ってるし、二人には上手く行って欲しいって思ってるから」
「高木のことなんて、もう──」
「──香耶ちゃん、それ以上はダメ。口にしたら戻れなくなる」
人差し指を見吉の口に当てて、言葉を制した。
見吉の事は好きだ。好きだから、最後の理性を失うわけにはいかない。
「…………」
「シュージンから話を聞いてみよう」
「……真城」
「もし、それでシュージンに振られたら、そのときは、僕が香耶ちゃんの事を幸せにするから」
「……幸せにするって?」
「結婚する」
「結婚ってミホのことはどうするのよ」
「土下座でもなんでもして謝るしかない」
「ダメじゃん」
ようやく少し笑ってくれた。
見吉も、ちょっと元気が出てきたみたいだ。
「うん。でも、大丈夫。シュージンも見吉が好きだから上手くいくって」
「……分かった。高木から話聞いてみる」
「シュージンの言うことを信じてあげて欲しい」
「分かってるって。でも、浮気してたら真城と結婚だから」
「熊に殺されなかったらな」
「お父さん、真城のこと気に入ってるから大丈夫だし」
おじさんの親友が義理の親とか、心境としては複雑だ。
見吉がなんとか持ち直したので、大人しくネーム作業の続きをしてシュージンを待った。
順調に進んで、手持無沙汰になったけど、さすがにこの日は見吉に手を出す度胸はなく、顔を出したシュージンに見吉を引き渡してこの日は終わった。
◇◇◇
翌日。
「サイコー、ちょっといいか」
「どうしたんだ。改まって」
「その、見吉と結婚することになった」
「……おめでとう。よかったじゃん」
どういう話し合いが行われたのかは分からないけど、見吉とシュージンの結婚が決まっていた。
二人の仲を応援していたので、嬉しかった。
でも、少しだけ悲しかったのは内緒にしておこう。
僕が見吉と結婚していたら、それはそれで楽しかっただろうなって思ってしまった。